第16話

馬車から降りるともう先程までの場所とは全く異なっている。


異様に寒い。冬の国へ向かうのに軽装で行き過ぎてしまった。

でもなんとなく懐かしいと感じる。

降りた時の感覚なんかも初めてではなく、何度も何度もそう感じ、反省していた気がする。


まあ初めてでもないからきっと本当にあったと思うのだけど。

「大変!そのような格好では寒いでしょう。馬車にお戻り下さい。羽織るものをご購入致します。」


風月さんが慌てながら買い出しに行った。置いてけぼりにされてしまった。

キリの方を向くと、いつ来たのだろうかモコモコの物を羽織って、手袋や帽子を被り、その町に即した格好をしていた。


「キリは着替えていたのですね。」

「月雫様と同様の格好で運転したら、事故を起こす危険性がありましたので。」

「どこで仕入れたのかしら?」

「私は馬車士です。どんな場所でも対応出来るよう最低限の荷物は持ち歩いております。」

キリは馬車士だ。

馬車士になったため、上辺の主従関係を結び、関係が反対に変わった。

亡き父の跡取り。

それほど大切な仕事だ。それなのに私は彼女の邪魔をしている。

「そうね。」


しかし冬の国に来ればわかる。私はこの地でキリ無しでは生きていけない。


「馬車の中に入られないで良いのですか?きっとあの人は大変お怒りになると思います。」


確かに今の状況を見たら驚き、説教をするところは想像に出来る。


「1度降りた馬車にまた戻るなんてそんな面倒なことはしないわ。それに私がすることは全て私が決めること。」

キリも同じだ。

みんな自分ですることは自分が決めていかなければならない。

キリと2人きりだといつもの様な自分に戻るけど、風月さんといるとそれは難しい。

子どもの頃に戻ったような気持ちになってしまう。


「月雫様、待たせてしまい申し訳ありません。冷えたでしょう。どうぞ袖をお通し下さい。」


意外にも怒らなかった風月さんは全体を覆えるくらいの大きなコートを私に被せてくれた。

この国ではそれが普通なのかもしれない。

白色がベースで銀色の雪の刺繍がはいっている。中はボアでとても暖かい。


「ありがとう。」


「勿体無いお言葉です。私が冬の国の国王様がいらっしゃる城へご案内致します。」


少し暗い様子で風月さんは話してくれた。

斜め前をトコトコと歩くと、私とキリはその後へ着いて行った。

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