第13話 出発

予定より早く馬車の前に着いた。

キリはまだ居ないようだ。キリは時間に厳しいので、こういうことには時間より5分きっちり着いて遅れない。

確かに早く着きすぎたけど、本当に大変なのかもしれない。


きっと国を渡る理由が原因なのだろうな。

処刑なんて扱いづらいし、しかも春の国の王族なんて前例は無いだろう。

もしかしたらとんだ阿呆だと笑われているかもしれない。


「月雫様、私が外で待っているので中にお入りください。」

と風月さんはキリの目印になるように残ると言った。

今まで春の国にいた者として少し寒い。

それが原因で風月さんも体調を心配するのだろう。


「お言葉に甘いさせて頂くはね。」


そう言い馬車の中に入った。

こんなこと本当ならしないのだけど。

お貴族様のような傲慢な、しかもそれを当たり前のように振る舞う。


「どうぞ。」

ドアを開き、風月さんが中へ誘導してくれた。

「あとこれブランケットです。是非使ってくださいね。」


その気遣いの仕方。

身分の差なんて無いように、友達のように接する感じ。

風月さんは風月に本当によく似ている。


もし風月さんがあの風月だとしよう。ならどうして教えてくれないだろう。隠している訳でもなさそうだし。


春の国で産まれ、春の国を追い出された。

私とよく似ている日陰者の風月。


春の国は最も人々から人気がある。何処にいても賑わっていて、その土地は余すことなく人々が生活している。


季節の領土は正しく4分割されていて、春の国に続いて秋の国、夏の国と人々が集まっている。

でも処刑人が場所を特定を基本されない。

風月は絶対冬の国なんて選ぶとは思えない。


うーん。

トントンと窓を叩く音がした。

カーテンを開けるとキリの姿があった。

窓を開けると

「月雫様お待たせいたしました。遅れてすみません。手続きは滞りなく出来ました。馬車は私が動かします。」

と事務的に伝えてくれた。


「いいえ、そのくらい問題ありません。それより大丈夫でしたか?」

嫌なことを私のせいで言われてないといいのだけど。

「そんな顔をする必要はありませんよ。」

キリが続けて言う。

「春の国には私もしばらく来ることは出来ないでしょうから、所用がありました。そのため遅れたんです。月雫様の気にするようなことはございませんよ。」

「それは良かった。」


そんな顔とはどんな顔であったのだろうか。

まあいいか。


風月さんが馬車に乗り込み、キリが運転席に座ると、馬車はカタコトと道を進み出した。

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