第12話 昼飯

「私は食事を用意しますので、月雫様はこちらに座っていてくださいね。」

風月さんは広場まで私を運び、ベンチに座らせて、ルンルンと買いに行った。

スープとは言ったけど、何を買ってくるつもりなんだろう。

結構私の意見聞かないからな。


というか屋台でこうするなら、キリもいて良かったからな。


「お貴族様。」

小さな女の子がこちらに向かい話しかけてきた。十分と貧乏そうな子どもである。

茉依と同い年くらい。小さな子どもであった。


「何かしら?」

私がそう答えると、嬉しそうに目を見開いた。

「お優しい貴族様、オレンジかリンゴはいかがですか?美味しいですよ。オレンジ1個200円、リンゴは250円です。」


両手にリンゴの籠とオレンジの籠を持ち、私に見せてきた。


このやり方は昔のやり方を模倣して、興味を持たせ購買意欲を奮い立たせる方法だ。

こういう街では結構流行っている。


この子どもは父親や母親は居るのだろうか。この時間に売りに出ているということは、相当ギリギリな生活をしているのだろうけど。

それにしてもこのままではいけない。


「このリンゴとオレンジ少し見てもいいかしら?」

「ええ、是非ご覧下さい。」


ここから少し先は農家が有名な村である。きっとそこの物であろう。

通常ならずっと高価で取引されている。

それの販売出来ない物の売り渡しを安価で行っている。おそらくだけど。


「このリンゴとオレンジ十分と傷があって、形が変形されているようだけど、どういうことかしら?」

私が少し強めに聞くと、その女の子は眉を八の字にさせ、下を向いて言う。

「すみません。」

「別に怒っている訳では無いわ。ただ何か理由があるんじゃないかって思っただけよ。」

「はい!このリンゴとオレンジはお父さんとお母さんが凛洋樹という村で育てた結構有名なものなんです。」

優しくいうと子ども嬉しそうに答える。やはり身分は違っても子どもは子どもね。


「これからはそう言いながら交渉するとか、定位置を借りて紙に書くなりした方がいいわ。あとリンゴとオレンジを1つずつちょうだい。」

「はい。お貴族様の旅にいいことがありますように。」

「あなたもね。」


とりあえずこれでいいかな。

だからといってこの商売が上手くいくとは限りないけど、せっかく声を聞いてくれた人に買われないのは悲しいだろう。


「月雫様。」

風月さんが耳元に近づき、急に声をかけてきた。

「えっ!?なに?」

「スープとパンを買って参りました。どうぞスープは暖かいですよ。」


確かに指先が少し冷える。冬の国はもう間近だからな。

パンは頼んでいないけど。

鮭のシチューのスープに、小さく切られたバゲットだ。少し重いな。

でも自分の分はさらに大量に買ってきた。


「十分と多いわね。」

「はい、私のような仕事をしているものはいつ食べれるか分からないので、食べるうちに沢山食べておくんです。」

風月さんはそう言いながら、自分の分を早速食べ始める。


「使用人ってそんなに食べられないのかしら?」

私の城はたくさん仕事があったけど、3食しっかり食べていた。

それどころか主人のいない城の管理で食べられないなんて、正直信じられない。

労働環境について見直す必要があるのかもしれない。


「いいえ!白露の城ではそのような事は決してございません。」

咄嗟に否定すると風月さんは飲み物をゴクリと呑む。

「私は国から追い出された者です。貴族でしたら居場所提供をして頂ける場合もありますが、私はそのような身分ではありませんでした。白露の城で働けるまでは明日も分からない身だったのでその癖です。使用人らしく貴方の前では食事をしたくはないのですが、申し訳ありません。」


確かに私たちの前で食事をする使用人はいなかった。蒼人兄さんは気にするなとよく申していましたが、使用人達はプライドを理由に断っていたな。


それに身分のないものにとって街を抜けることは相当なリスクなのだな。

本当に私は甘い環境にいる。


「買ってきてくれてありがとう。それでは頂くはね。」

シチューを1口すする。

うーん、これは濃厚で美味しい。細かくされたチーズが入っていて、コクがしっかりある。

美味しいな。


これなら食べれそう。とパクパク食べると一瞬でシチューとバゲットは無くなっていた。

そして沢山あったのに関わらず、風月さんも食べ終わっていた。


「ふう。食べましたね。」

「ええ。とてもおいしかったです。」

するとニコニコして風月さんは「それは良かったです。」と返した。


こういうのしっかり伝えていかないと駄目だな。


「それにしても綺麗な場所ね。」

その場所は王都に負けず劣らず、景観のいい町であった。

もう来ることは無いだけども。少し悲しいな。

「はい。それにしてもそのリンゴとオレンジはなんですか?」

私は幼い女の子から買い取ったリンゴとオレンジを指さした。


「そこで購入したの。傷はあるけど凛洋樹で育ったものらしいわよ。」

「それはいいですね。早速剥きましょうか?」

「いいえ、これはキリに差し上げるつもりです。時間もいい頃なので行きましょうか。」

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