第10話 寝起き前

◇ ◇ ◇ ◇

「風月さんは十分と変わられたわね。あの様子だと月雫もまだ気づいていない。」

キリは深い溜息を零しながら、運転席の風月に言った。

するとニコニコと笑った様子で風月は

「キリさんは相変わらず。月雫の後ろを追いかけているようで。」

と夜道に呟いた。


温度はもう寒く、しばらくすれば白い息も出るだろう。

ちなみに原罪の運転はガソリンや電気などを使用する古代的なものでは無い。

そんな危険物を使っていれば、身体に害を与えてしまう。

古代的な車は健康問題や環境的な問題、混雑する道などを理由に、廃止されてしまった。

蒸気機関車と似たようなものだ。


私達の資源は今自ら生み出し、制御出来る大変便利なものに変わった。


「ほんとあんたは私の事を嫌いね。どうでもいいけど。それより3年ぶりの月雫はどう?美人に磨きがかかったわよね。」

キリが自分の肩くらいに揃えられた髪をクルクルと弄っていた。


「はは。キリさんも寝てはいかがですか?そうでないと悪夢で目覚めた月雫に気づくことも出来ないですよ。」


「あんたは大丈夫なの?」

「はい。私はこの日に備えてしっかり寝ましたので。ましてやワクワクで寝れないなんてことありえません。」

と風月は皮肉げに返した。

それにムカつきを隠しながら、小さなため息を吐きキリは瞳を閉じた。


◇ ◇ ◇ ◇

私は呪われているのかもしれない。

あの桜の公園の後は結局家族の夢に変わっていた。


何か音がする。身体が一定なリズムで揺れている。

「――る、っな、月雫!」

キリが大きな声で私の身体を揺さぶりながら呼んでいた。

馬車の動きは止まっていて、心配そうなキリな顔、そしてそれ以上に心配そうな顔をしている風月さんがこちらを見ていた。


「2人ともどうしたの?」

そう聞くと2人とも少し安心そうに肩を下ろした。

「月雫様は先程までうなされていたのですよ。大丈夫でしょうか?加えて前後は居ないと約束したのにも関わらず上がりこんでしまい申し訳ございせん。」と風月が説明した。

「そうだったの。」


うなされていたなんて、まるで悪夢のようだわ。家族の幸せな夢なのに。


「心配をかけてごめんなさい。もう平気よ。」

風月さんは悩ましげな表情を浮かべ、キリはまだ心配そうな顔立ちをしていた。


キリはよく私の傍で私を理解してくれているから、共感され過ぎてしまっているのだろう。

普段そんなことを嫌とも思わないタイプだ。


「それより私はどのくらい寝てたかしら?白露の城まではどのくらい?」

空気はもう冬の空気だ。鼻先がヒリヒリしていて、手先や足先が冷えている。

太陽はもう登っている。結構寝れたのかもしれない。


「大体8時間くらい寝ていらっしゃいました。距離的に言えば冬の国の目の前です。」


キリは何も確認せずはっきりと言った。

キリは3年のキャリアで感知能力が凄まじく伸びたようだ。

私はあまり遠くへ赴くないから、おそらく他の客の時に身につけたのだろう。


それにしてもよく寝られた。いつもなら5時間も寝られた日はなかったのに。


「何か欲しいものはございませんか?今から10分当たり先に国境があり、そこには街があります。旅に出てから何も召し上がってないようなので、いかがでしょうか?」


正直お腹は空いていない。

でも要らないと言ったら、また『冬の国は身体が資本です。スープでもいいので買ってきますね。』とか言いそうだな。

睡眠の時と同じ流れになるだろう。

この人はかなり強引なタイプだ。


「なんでもいい。でも軽い物を食べたいわ。」

そう答えると風月さんはさらに

「そうだ。月雫様も街を一緒に散策しませんか?きっと食べたい物も思いつきますよ。」

と図々しく答えた。


今は外にでたくない。というかあまり人に会いたくない。

キリはいいけど、風月さん自体も少し嫌だったけど、湊音兄さんが心配したから了承したのだ。

それを街に行くなんて、想像も付かない。


「月雫様、ずっと座り続けているのはお体に触ります。行きましょう。」


なんでも思いつくな。

私がいいよと答えると、キリは嬉しそうな顔でそれじゃあ5分に着くようにしますと、馬車を降りた。

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