第7話 変わった同車人

「月雫様、使用人との待ち合わせ場所に着きました。どうやら入れ違ったようで向かいに行きますね。」


キリがカチカチと音をさせながら、馬車から降りていく。


「夜道に1人貴方を残して置くのは避けたいです。そのため月雫様も着いてきていただけると嬉しいのですが、いかが致しましょうか?」


そんな敬語なんか使わないで誘ってくれたら私はついて行くのだけど、もうそうとはしないらしい。


「心配しなくても大丈夫よ。今日はそれにいろいろあって疲れているわ。このまま休めせて。」


嘘と本当は半分混ぜるのがこの世界の鉄則。

私も捻くれ者になってしまったな。

きっと彼が見たら呆れてしまうのでしょう。


「そうですか。なら絶対に外に出ないで下さい。例えノックが聞こえても、私の声がするまで決してドアを開いてはなりません。」


湊音兄さんのようなことを言うようになったな。


「わかりました。キリの声が聞こえるまで決して開けないわ。」


すると5分程で戻りますと言い、トコトコと歩き出した。


ぼーと空を眺めていると時間は驚く間に流れて行った。

予告より早くキリが帰ってきたようで、道を歩く音ともにコンコンとドアを叩く音が聞こえた。


私は昔から盗賊をするような人と関わったことが多くある。大抵ならそのような人達はノックをしない。まして足音を立てて近づくような真似は絶対しない。

人通りの少ない夜道は黙って襲った方が向こう側も都合がいいだろう。

この感じ確実にキリで間違えないだろう。

鍵に手をかけると声がした。


「夜遅くにすみません。この馬車への乗車を約束した者です。開けていただけますでしょうか?」


おかしい。

この声はキリの声では無い。キリの声がするまで開けるなと約束したのだから、キリの声が聞こえないはずはない。

例え約束の相手だとしても。


この声は若めの男性で落ち着いたような声の持ち主である。

こうなると使用人の声か、盗人の声かどちらかになるだろう。

今このまま無視をしてもいいけど、キリと鉢合わせなんとか避けたい。


「あのすみません?」

男が不思議そうに尋ねる。

きっと怒られるだろうけど仕方がない。


「お待ちください。」


一応窓にするか。

窓の鍵をカチャリと開き、窓を開ける。


風が少し冷たくなっている。

そんなに冬の国に近づいたか。


やはり声のとおり若めの男であった。深めに帽子を被っているため、よくわからない人が、髪の毛の色は銀色だ。

元々冬の国の者なのだろうか。


「月雫様!ダメですよ!不用心に開けてしまったら。」

その男は顔を見るなり怒りだした。

「えっと、、キリは?」


拍子抜けというか、様付けということはやはり使用人か。


「あこれは失礼致しました。今回はキリさんにお願いを受けて参りました。」

キリからのお願い?

キリは今回異様に準備が早い。

1日どころか1時間くらいでこの準備は整い過ぎている。

確かに1週間前からほぼ確定で私の刑の執行は決定していた。

準備はその間に出来るだろうけど、そもそも使用人は誰が準備していたのか?

私はあの期間ほぼ監禁されていたから分からないな。


しばらくの沈黙が流れていると、キリが走って来ながら言った。

風月かづきさん先に着いていましたか。」

「すみません。」

とペコペコと頭を下げている。


「あなた風月という名なの?」

「これは名前をつけずにすみません。私の名前は風月と申します。以後お見知りおきを。」

と丁寧に頭を下げた。


風月…古く大切な友人の名前。

もう何処で何をしているのかすらわからないけど。


いつも服に忍ばせている鈴をチリンと鳴らす。


キリがピクリと動き、こちらに鋭い視線を向けた。

「というか月雫様はどうして開けているのですか!」

「ごめんなさいキリ。」


キリは主従関係を結ぶと言っていたが、よく私に対して怒る。何だか嬉しい気もする。


「それでは風月さん入ってください。」

「いいえ!私は荷物のある所に座りますよ!」

風月さんは慌てながらキリを否定する。


さすがに2人が外で1人中に座るのは気まずい。

「護衛のためにわざわざいらしたのですね?」

「はい!あとキリさんと交換で馬車の運転を少々しようかと。」

「なら必要な時まで中にいた方がいいわ。」


そこからキリの強い押しで、結局風月さんは馬車の中に座ることになった。


馬車の中は程々に広い。向き合う形で席に座る。

帽子をうずうずと脱ぎ、戸締りをしっかりした。


「準備完了です。」

「はい、では出発しますね。」


するとまたカタカタと道を動き出した。

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