第6話 月

「今日は月が綺麗ですよ。カーテンを開けて見てください。」


キリがこちらに言う。

キリは外で運転しているから、大きな月が道を照らしてくれているだろう。

月明かりがカーテンから漏れる。

きっとキリが言うのだから綺麗なのだろうけど、今は綺麗を見たいような気分にはなれない。



「きっと美しいでしょうね。でも湊音兄さんと約束しているの。しっかり戸締りをしなさいって。」

「カーテンを開けるだけなら問題ないのでは?」

「そうね。でもカーテンを開けて月を見たら、窓を開けてしまいたくなってしまうわ。」

月とはそういうものだ。

「そうですね。」

それを理解したのかキリはもう何も言わなかった。


私は小さな頃から月を見るのが好きであった。

キリはそれを知ってくれているのだろう。

空気を見て、声を聞いて、空想をして。

各々が自分の世界で色んな方法で楽しめる。


何より月を見ている間は誰も私を見ない。

月に夢中で誰かを悪く言わない。

どんなに人が生きている中で、いろんな世界に行き来しようが、1つの世界いわゆる自分の世界戻ることが出来る。


キリと出会うずっと前から月をよく見る習慣があった。

両親と兄と妹達と眺めていた。

そういえばこの名をつけてくれたのは母と言っていたな。どうしてだろう。


ガタガタと音だけが聞こえる。キリが馬車を運転するときはよく話す。

しかし時より沈黙することもある。


この馬車の時間が大好きであった。

特にキリが馬車士になってから、少ない安らぎな時間となる。


今思えばそれも贅沢な問題だけども。

城があったから、私は嫌ということ、思うことが許されていたらしい。


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