第4話 馬車士キリ

音ない道がしばらく続いたが、カタカタと音のなる道に変わったのかも。


「そういえば新しい使用人が乗るって言っていたけどいつ頃かしら?」

「えっとあと1時間後くらいですかね。」

「そう。それにしてもその方も可哀想ね。まさかこんな干された城の私の使用人だなんて。」

心底思ってしまう。

今の私には王族という肩書きはあるが、価値はない。こんな微妙な立ち位置の人の世話なんて、きっと相手も望まないに決まっている。


私の住んでいる国は遥か昔、4つの季節が存在していた国であった。春・夏・秋・冬が1年でめぐり回っていたらしい。

しかしそれを不便に感じた科学者、政治家などの偉い方々が四季を分割して、春の町、夏の町、秋の町、冬の町を作ってしまったらしい。

1年の間で多少温度や気温、場所によって違いこそはあるが、昔ほどでは無い。


元いた国はとても暖かい春の町の最も華やか場所にあった。桜が年中咲き乱れ、春の花が町の景観を彩る。散歩日和という言葉がよくあった場所であり、最も栄えている国である。


そして私がこれから移り住む白露の城は冬の町にある。中心部の方は多少豊かではあるが、1年の内の半分くらいは雪が降っている。

白露の城は中心部から離れた村の中にある城であり、たまに観光する分には大層素敵な場所であるが、住むのには大変であろう。


「そんな風に言わないで下さい。」

「キリにも申し訳ないわ。やっと多くの人に認められてきたのに。」

「そんな事を私に言ってくださる月雫様だから私が着いていこうて決めたのです。それに月雫様が居なければ、私は馬車士として働くことも出来なかったでしょう。」

「そうかしら。」



◇ ◇ ◇ ◇


キリがまだキリではなかった頃だ。

女は家庭に入ることが幸せとされている春の町では、移動の多い馬車士は女性の仕事とされていなかった。

キリは私が産まれる前から雇っていた馬車士の家系の大切な一人娘であった。

とても可愛がられていて、私自身も同世代のお友達が出来たとよろこんでいた。そして私とキリが遊ぶところを見て、心底幸せそうな顔をしていたキリの両親の顔を見て、何だか私も幸せに感じていた。


幸せはガラス細工のように美しい。しかしとても簡単に壊れる脆さ。簡単につついてしまえば土台がしっかりしていたとしても崩れ落ちてしまう。


そうキリの親は死んでしまったのだ。

春の町は今から10年前に未曾有の大火事が起きた。王都から少し離れた穏やかな町で、彗星の欠片によるものだったらしい。


キリはその日は学校に行っていて、命までは奪われなかった。

しかし両親を失い、家も何もかも失った。

私のお願いで国王様により御加護を受けたが、それでもキリは絶望していた。

私は毎日キリの元へ行き、ドア越しから色んなことを話した。

そしてある日突然キリは言い出した。

「私パパの跡を継ぐ!馬車士になる!」

私はその時、キリの両親が亡くなってしまっても、両親がいた記憶は無くならないことがわかって嬉しくて

「私はキリの夢を応援する。」

と答えたのを覚えている。


しかしそれは簡単なことではなかった。

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