第26話二度目の対面
「景色の筆者よ。我が身をその筆と腕を以て、風景画の一部とし塗り潰せ」
ルアザがそう詠唱すると、ルアザの体が鮮やかな緑や青などの色がルアザの輪郭を描がき、次に中身が塗り潰されていく。
影の黒も同様に枠から極めて薄くなる。
ルアザが動いても色は変わらず、周りの景色とルアザは完全に同化した。
「成功だ。【筆者】よ感謝する」
ルアザはガッツポーズしながら、見えざる者達に感謝する。
ルアザは周りから、村の様子を確認してそして集めた情報から姿を表す時の対応の仕方を分析する予定だ。
ルアザの本心としては、元気な声で、こんにちはー、から始めたいが、何の行動が相手の足を踏みしめることになるか、わからないから不安である。
早速、ルアザは村を一周する。
中に入って直接調べたいところだが、ルアザの魂感に村を覆う結界らしき物が展開されていたため、不用意に結界内に足を入れられない。
自分がいるということを知らせる証拠を残さぬように地面に足跡も付けて地面を歩くのではなく、板状の結界を足裏に広げ、ほんの僅かだが、空中をルアザは歩いているのだ。
(……これが、話に聞いた不審者……!?)
ルアザは自分自身が母親とクラウに聞いた不審者の特徴とあまりにも似ているため、悲しい衝撃を受けていた。
体の特徴がわかりずらい服装に、理解が困難な動きであるため怪しく見える行動をしている人物。
それが今のルアザであった。
ルアザは足を止めて、もう堂々と挑戦した方が良いのではないかと、考え始める。
(当たって砕けるのは、容易に想像できるな。無謀ではなく有謀でなくては)
すでに初対面で砕かれているのを思い出し、間違いを犯す前に再び足を前に運ぶ。
(農地が意外と広いな)
ルアザは農地の広さに少し疑問に思った。
この辺りはまだ、川の氾濫領域のため、川が氾濫したら農地は全滅必須だと予測していた。
農地は自分達で守れる範囲でしか作れないはずだと。
なのに、植えられた物は真っ直ぐと縦に伸びれていることに、僅かに目を見開く。
「お前、忌み子に会ったんだろ?」
ルアザは子供の小さな声が耳に届くと、思考に耽っていた意識を呼び起こし、声の方向に顔を向けると、切り株に座る二人の少年がそこにいた。
一人は昨日助けた子供もそこにおり、ルアザは何を話しているか知るため、耳を澄ませ、傾ける。
「そうだよ。〈肉食大牛〉に襲われていたときに助けてもらったんだ」
「ふーん。……忌み子って、何で忌み子って呼ばれているんだ?」
「さぁ? 大人達が勝手に呼んでいるだけだろ」
(……うーむ。子供は忌み子に関して恐れているわけではないのか)
ルアザから見て、子供は忌み子に深い関心があるわけでもなく、ただ知識として知っている程度の物だと見える。
「忌み子は大人の勘違いかも」
「でもよ、忌み子って災いを連れてくるんだろ? お前が襲わたのも忌み子の仕業じゃないのか?」
(それも一理あるな。自分が知らずのうちに何かやらかした場合もあるかもしれない)
ルアザはもう一人の子供の発言を否定せずに、納得したような様子でその案を抵抗なく認め考えた。
「いや、寝てる〈肉食大牛〉に石投げて起きちゃって追いかけられただけだから、自分が全部悪い」
「……ここにバカがいる」
もう一人の子供は目を細めて助けた子供に呆れ、率直な意見を言う。
助けた子供はバツが悪そうな表情をする。
「こらっ! 頼んだ仕事がやりかけじゃないか! ちゃんとやるべきことを、やってから遊びなさい」
その時に一人の女性の声が子供の間を通り、子供達はその声を聞いた瞬間振り向く。
振り向いた瞬間か顔を少し赤くさせた女性が立っていた。
「げっ! 母ちゃん……!」
「はーい……」
(……母さんは若いのか……)
ルアザは子供の言動から女性が母親だと察して驚く。
今の女性と自分の母親と比べると亡くなる前の自分の母親の方が若く見えていた。
「ねえ、お母さん。忌み子って何が悪いの?」
(……!)
ルアザは僅かに体を前に傾け、子供の質問の返答について聴覚に神経を集中させる。
子供の質問は自分が時間を多少かけてでも知りたいと思っていたものだからだ。
子供は己の好奇心に従った軽い形の質問だった。
「さぁ? そういえば母さんもそんなに多くのことは知らないねぇ。でも、先祖代々から言われ続けた物だから、何か悪い部分あるかもしれないね」
「へー」
「今はそんな事より。頼んだ事を速く終わらせなさい」
女性は子供の背を押し、速く行くよう促す。
ルアザは離れて行く三人から、すでに視線を外し、首を上下左右に動かし、何かを警戒しているように顔を若干、険しくさせていた。
ルアザは何か自分に近づく気配を肌に感じ、気配を感じると同時に視線が向かれていることも気づき、気配と視線の主を探っていた。
そして、ルアザは目の向きを子供達と女性の方へと戻すと、すでに姿は捉えられないことに気づく。
気配と視線が消え、ルアザも警戒網を狭める。
(気のせいか?)
ルアザは村を覆う青い空を見て、無言で仮面を取り、目を細める。
ルアザの目には碧空の青色が僅かに異なる部位を写していた。
魔術的な力がそこにあるのを見つけ、そこから確かな違和感を持ち、観察している。
(結界の中心部に近いな。この広さを維持するためには儀式級の大規模な方法でしか展開できないだろう)
ルアザは確かにに感じる、結界の巨大な力の気配から大まかな術式を読み取る。
(だが、雑な面も見られる。規模が大きくなれば必然的に質は落ちるのはわかるが、それとは違う物があるな)
ルアザの冴え渡る魂感が大規模結界の術式を見破って行くときに、誤差とも言うべき魔術の荒らさに不自然な部分が多々あり、疑問に思う。
(人為的な処置がある。詳しい術式はわからないから自分の思い違いかもしれないけど)
そしてルアザは一つの仮説を導き出す。
(これ、精霊か妖精が関わっているな。【龍】と【巨身】は見たことはないが、習性的に関わりはないだろう)
結界は莫大な力が込められており、その力の供給源は人では無理なため、力を供給できる高位存在の力で最も身近な存在を当てはめる。
精霊が力と多少の術式を提供して、村が残りの術式を担当しているとルアザは予想した。
自分の疑問が一段落して、一瞬気を抜く時にルアザにざわつく方向のある気が向かう。
ルアザはそれを直前に気づき、仮面を被り直しながら、結界を張る。
無音だが、結界に強い衝撃が走りこむ。
ルアザは即座に感知の魔術を発動し、相手の居場所に探る。
「離れたか……」
魔術に相手の高速で動いている端の影を探知しルアザは動いた方向に感知の魔術を集中させ、相手の居場所を完全に捉える。
ルアザは危険性が極めて高い不確定要素を対処するために村の観察を終え、不確定要素を追う。
風音しかない、不気味であまりにも静かな駆け引きがまだ続く。
相手は村の外側へと風のように軽く、高速で移動しており、ルアザは不可視の敵だと思われるものに対して、魔術を併用しながら同じ速度で地を駆ける。
そして、村が砂粒のように見える距離となったら、相手は動きを止めて正体を表す。
正体とは言っても、ただの力の塊だった。
その塊はすぐに霧散し空気中に溶けて無くなる。
「ということはっ!」
ルアザは己を誘い込むフェイクだと理解をし、誘い込むならば近くに何かあることは異変がなくともすぐさまに察し、大きくジャンプをする。
「筆者よ。まだ描かれていないぞ。完成させろ」
ルアザは雑だが、跳んでいる時に詠唱を唄い、魔術を行使する。
ルアザの姿隠しの魔術も剥がれることとなるが、筆者は詠唱通り真実の景色を絵描き、完成させる。
地上には三人の槍を持つ男達と一人の女性がルアザを睨み構えていた。
「何者だ?」
ルアザはあの村の者だろうと、予想をしながらも荘厳で山道に立ち塞がる大岩のような迫力で言い放つ。
ルアザの内心では、なるべく穏便に持って行きたい話ではあるが、すでに穏便とは真逆の雷音が鳴り響く積乱雲の中のような状況になっているため、半分諦めている。
明らかに命を狩り取られる状況に対し、楽観的にはなれず、ルアザは元々薄い希望を相手が吹く荒い風で拐われてしまったからだ。
すでにルアザは戦闘モードに意識が切り替わっている。
「貴様こそ何者だ! 我らの村を汚いネズミのように歩き回って。賊の類いか!」
女性が代表でルアザとは違い、殺気を際限なしで解放しルアザへと向けていた。
ルアザは女性のきつい言い分に事実なため反論はせずに、穏便な方法へと導く。
「……少なくとも貴方達とは傷つけたくない、敵対したくない。それは貴方達も共通なのでは?」
ルアザは吐く言葉とは真逆の行動である剣に手を添えて言う。
ここで何も抵抗せずに言えば、『じゃあ、お前が譲れ。そうすればどちらも傷つかない』となるため、小さな行動で大きな効果を生み出す行動をしなくてはならない。
「ならばせめて、仮面を取りなさい」
「この戦いが終わるのであれば」
「……」
(ここが落とし所か)
ルアザ少なくともマイナスの状況から脱し、最初の状況へと戻ったことを理解する。
これ以上何かを要求すれば、何が起こるか予想ができないため、当初通り慎重に行く。
(はぁ、反応が予想できてしまう)
ルアザは仮面に伸ばす手が重く感じてしまう。
仮面の裏で憂いる感情が表情に出てしまっていた。
(あぁ、来るぞ。理不尽が)
あの時の冷たく険しい視線と対応にルアザは心を身構えていた。
ルアザはあの時は不意打ちだから、精神がぐらついたが、今回は予想ができるからダメージは少ないと思い、心臓の心拍を普段通りであった。
だが、胸の中で呟く声は重々しく滞留している。
ルアザは仮面とフードを取り、己の姿を白昼の下、晒す。
女性は息を飲む。
男達も同様に僅かに目を見開く。
始めて説明するが、ルアザはかなり美しい見た目をしている。
存在感を放つ男らしい美よりは女らしいどこか、細く儚い美をルアザは持っていた。
しかし、ルアザの容姿は刻みつけ、恐れを抱く容姿をしており、幽玄と神聖が組合わさった美貌を放っていた。
そんな美人がどこか憂いを持った瞳で目を向ける。
老若男女漏れなく様々なドキッとした心の躍動を感じるであろう。
美貌の持ち主であるルアザ本人は環境のせいで一切気づいていないが。
たった二人に綺麗と言われても、信憑性が薄いからだ。
「ゴホンッ! 貴様は昨日の忌み子か!」
一瞬、女性達は意識を別の方向へと飛んでいたが、すぐに意識を取り直しルアザが忌み子だとわかった瞬間、臨戦態勢に入る。
「はぁ」
ルアザはその対応を見て、思わず低空なため息が口から漏れ出る。
ため息の重さがルアザの今の感情を示していた。
「ん? リャムラ様? はい、はい。…………えっ!? しかし…………はい、わかりました」
女性が突如、臨戦態勢を解き虚空に向かい何か話し始める。
「どうされました? 何かリャムラ様から連絡が?」
男性達は怪訝な表情で、女性に何があったか問う。
「リャムラ様がそこの忌み子を連れて来いとのことだ」
女性は不本意という表情をしながら返答する。
「なぜ!?」
「わからん。しかし、長く生きて務めてきたリャムラ様が言うのであれば、意味があるのだろう」
不本意な表情でもどこか納得しているようであり、顔にあまり力が入っていない。
(なんか都合の良い方向に行ってるな)
ルアザも聞き耳をたてて話の内容から、望んでいた方向へと向かっていることを理解する。
「貴様、ついて来い」
ルアザは憂いが籠った表情を解き、爽やかな微笑を出す。
男性達はルアザを警戒するよう囲む。
ルアザは心臓に大きな負担がかかる強烈な不安もあるが、胸を軽やかに踊らせてもいた。
追い風と向かい風がルアザ達に吹く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます