第19話絶望の先へ

 ルアザが白い体を黒い体へと変え、意識を落とすと起こすを繰り返し、今意識があるのかないのか、意識の境界線が曖昧になった時だった。


 周りの銀光が意志を持ったように集い始め、無数の白銀色の玉が出現する。


 玉は燃え広がる森の中を光芒を連なり向かっていく。


 光芒が炎に近づくと炎は先程の勢いが嘘のように衰え、僅かな煙を残し、まだ着火している炎の先へと進む。


 そして、残ったのはルアザに纏う業火だけだ。


 重態を通り越して瀕死であり動かぬ屍になることは決定している身体の状態だった。

 血は蒸発し、残ったドロリとした異臭を放つ何かがルアザの表面を濡らしており、黒く変色している。


 黒く固まった血が、原油のように火を持続させる燃料となり、ルアザを苦しめる。


 その地獄の業火を受けた体に白銀の玉が内側に入り込み、外側に付着していく。


 ルアザの赤黒かった体が燃える前の元の体と類似している白へと包まれる。


 白銀の玉の正体は妖精。

 ルアザの友達である妖精。

 妖精は基本的に生死が曖昧であり、時間をかければ殺されても、復活をすること可能。

 今回は様々な要因が複雑に組合わさり、早く復活をした。


 彼、彼女らはエウレアとの約束を守った。

 ルアザが危険な目にあったら助けてあげることを。


「△」


 そして彼、彼女らの願いはルアザと共にすごすことだ。

 己の血肉をルアザの血肉と混ぜ合わせて、治癒と再生に努める。


 だが、これでもルアザが起き上がるかわからない。

 あとは運に頼るのみ。


 彼、彼女らは神として崇められることもあるが、それは自然の化身としての神であるため、絶対ではない。




 ◆◆◆




「ん? んぅ? い、生きている!? 体が元に戻っている!? なぜか服も着ている!?」


 息を吹き、横になった目蓋を開き、ルアザは自分が死んでいないことに驚き、険しい瞳で疑いを持つ。


「ここは、あの世…………ではない……。じゃあ現実か」


 体を起こし、体に積もった灰が空中に舞うことにより、あの世ではないと認識する。


「アハハ、悪い夢を見たな。親を救えなかった夢を見るとは。全く、困ったものだ」


 先程の言葉と今の言葉が合わず、ちぐはぐな形となってしまっている事にルアザは気づいているのか気づいていないのか、わからない様子を示していた。


 周りには緑色をしたものがなく、一面が白からも何かを取り去った灰色と漆黒の棒が地面に刺さっていた。


 ルアザはその少ない色で描かれた景色を見て、瞳に輝きが失せ、口角を吊り上げていた口元も横一線を描く。


「…………」


 ルアザは一度、周りの景色から目を離し、己の体に目を向ける。


 そして、虚空に目をやると、その空間から青い空へと向かう雷が発生する。

 雷は枝を伸ばさず、竹のように真っ直ぐと上へと駆け登った。


「体が元に戻っていない」


 雷の魔術は強いが弱点がある。

 発動までの溜めがあるため、時間がかかるということだ。

 それが、ほんの数秒のみで発動した事にルアザは不思議に思うが、すぐに答えが導き出される。


「属性の操作に関係するもの全般が大きく強化されている。悪いことではない。むしろ良い事だ」


 己の力を確かめるように手のひらを握りこむ。


「……。(理由は……やめよう。余計な事は考えるな)」


 ルアザは導き出された原因について、言語化する前の曖昧な回答で脳内に留めておいた。


 ルアザは体に付着した灰を払いながら立ち上がる。

 自分以外何も存在しなさそうな景色を瞳に写す。


「家に帰ろう」


 焼け野原となった黒い大地の真ん中で佇む我が家へと向かう。

 信じているものが崩れ去るようか嫌な予感がルアザの思考にまとわりつく物を引き離すに、何も目をくれずに家へと一直線で向かう。


「ただいま」


 息を荒くしながら、ルアザは家のドアを開ける。

 ルアザの言葉に返ってくる言葉はない。

 周りの環境のように無風、無音、無臭、無色、無味の虚無の属性が多く含まれていた。


(こんなに家は広かっただろうか?)


 何かがない、大切な何かがない、ルアザはそう感じた。


「いや、な、何も無くなっていないはずだ」


「母さん! クラウ! どこ!?」


 ルアザは困った時の定番の言葉を叫ぶ。

 親はこんな時、いつも助けてくれた。

 だから、今回も呼び事情を話せば何か対処案を教えてくれるはずだから。


「こっちいるのか!」


 ルアザは何か聞こえた様子で、家の外へと出て野原の地を駆ける。

 ルアザは何を見ているのか判断できなく、瞳孔を広く、狭くを繰り返す。


「あぁあ、あ、あ、ぁっあ。ち、違う、違う、こんなはずでは……」


 ルアザの瞳孔は焦点を合わさり始めた。

 だが、すぐに眼球を右往左往と忙しく動かし、始め、呼吸を忘れたり、苦しくなったら息をすると、ルアザは明らかに様子が変だった。


「嫌だ、頼む。これは、何か、嘘だと言っ、てくれ」


 ルアザが無理矢理作り感じて、作っていた虚構の世界が皹が急激に走り、伸びながら均衡を崩し、景色が壊れていく。


 二つの物をなおすために時よ戻れと何度も思う。


 ルアザは立つのも難しくなり、倒れたら足を出し体を支える、を繰り返し必然的にルアザが見ていた物に近づく。


 ルアザの意志がどんなに拒絶しても、親と子はどんなに引き離されても引き寄せられるように強力な運命の繋がりが確かにあると確信できるかのように、ルアザはその目の前で膝を折る。


「こ、これは。母さんの手とクラウの手だ……」


 ルアザが引き寄せられていたのは、エウレアとクラウの腕手、肩から先はなく血肉骨を剥き出しになっていた。


「アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァア!!」


 ルアザの深淵のように深い絶望の穴が広さを確保するように奥が真っ暗な口から叫び声をあげる。

 声は青空を貫き、地面を揺らし、空気を支配し、虚構の世界を破壊する。


「いや! 違う! 自分のせいじゃない! 奴が! 奴が! 全ての原因なんだ! じゃなければ! おかしいだろう! こんな結果などないはずだ!!」


『違う? 勘づいていただろう。親がおかしくなり狂い始めたのはとうの昔だ。お前はそれほっといた』


「情報が足りなさすぎるから仕方ないだろ!」


『じゃあ、夜のあれはなんだ? 確実に元に戻っていたじゃないか』


「奴が! 何もかも全ての原因だ! その話はやめろ!」


『それはこちらのセリフだ。今の話は親を救えなかったことに対してだ。お前はわかっていただろう。親を救うには死しかないと。だが、お前は救わなかった』


「違う……」


『……自分はお前だ。全てわかるぞ。僕達は認めたくないのだ。己の弱さを』


「……」


 もう一人の自分が己の反省点を全てを語る。

 一つ一つの語る事が心に刺さり、涙が目蓋から溢れてくる。


「……もっと勇気があれば、もっと力があれば……」


 ルアザは求める、どんな絶壁にも立ち向かい、決して逃げない勇気とその壁の向こうへと行け、屈しない力を求める。


 流れ落ちる後悔の涙が黒かった地面に落ち、当たる日光を吸収するようにさらに黒くなった。


 ルアザは二人の冷たい手を持つ。


 この手で優しく手つきで撫でられる、握られる、抱き締められることはない。


「……埋葬しよう」


 そう言い、立ち上がりまだ周りに親の欠片がないか、探す。

 埋葬という言葉を親に使うとは思わかった。


 眼球を見つける。

 視線を引くことは二度とない瞳。

 失った今だからこそわかる、形はどうあれ、いつも、愛情ある視線を向けてくれた。


 背中の一部を見つける。

 手のひらの上に乗ってしまう程小さくなった背中を。

 常に前を歩き、信じられるものであり、導いてくれた背に手を伸ばすが届かない。


 口、頬を見つける。

 もうどんな表情も作れなくなっている状態だった。

 口元には常に笑みを浮かべ、太陽のような眩しさはないが、太陽そのものだったこの世で最も安心できた笑みを思い出す。


 足を見つける。

 地面に足底をつけても決して立たない足を。

 常に自分の歩幅に合わせてくれた、自分の人生ずっと思っていた足はもう一緒になっていた。


「これは、心臓?」


 心臓を見つける。

 ルアザは胸に手当てる。


 トクントクンと一定のリズムで生命の曲を奏でていた。


(これも、安心するけど、やっぱり母さんの音が一番安心する)


 憶えていない児童の頃は安心の根源的な物がある。

 ルアザはそれを感じ取った。


 二人の欠片を血一滴、肉一粒逃さす集める。

 全てを思い出す、全てが希望だ。

 何もかもが良い物だ。


「あぁ、本当に何もかも無くなったな」


 ルアザは周りを見渡す。


 育った環境である自然が燃やし尽くされ、なんの飾りもない虚無的な灰と黒によって染め上げられた。


 持つ親の欠片もどんなに繋げても決して魂を取り戻さない。


 ルアザはこの日、人生を構成してきた物事のほとんどを無くしてしまった。


 ルアザは二人の遺体を別々に分け、一瞬で灰へと変える。

 もしかしたら、まだ魂があるのかもしれないから、長い間じっくりと燃やすなどしたくなかった。


 炎は自身の罪の象徴。

 親はもうこの世にはいなくとも、ルアザは親に許しと救いを求める。

 罪の業火を浄化して欲しいのだ。


「母、クラウ、いや父よ。許してください。必ず成長しますから」


 ルアザは絶望して塞ぎ籠ろうとしたが、それは親が決して望まない未来だと予測した。

 もしかしたら、無意識に考えた都合の良い妄想なのかもしれない。

 でも、しっかりと自分は後悔をしている。

 確実に絶対に心が傷ついたはずだ。

 この感覚が起きた当初のように信じたくない現実を拒絶するために作った虚構と同じような嘘の感覚なのかもしれない。


 確かに、一生ここで籠るの幸せなのかもしれない。

 外はきっと、自分が予想する異常に辛い出来事が沢山あるだろう。


 だから、ルアザは悩む。

 外に出て失った物事から離れ、何か新しい物を得るか、それとも罪を贖罪するために罪が隣にある生活をするか。


 今決めることではないのかもしれない。


 あと、一ヶ月で自分は成人の年齢である十五歳となる。

 それまで、じっくりと考えることにする。


 今は感情的な面が強い状態だ。


 今の感情が正しいのかもしれない。

 この感情が薄れることはないだろうからじっくりと記憶の底にしまわずに表層に締め付けるためだ。


 今は正しい行動が欲しい。

 親という正解はもういない。


 全て自分で考え、実行しなくてはいけない。



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