第17話日常の崩壊

「起きろ!」


 とある日の月浮かぶ深夜ルアザは夢を見ているとき、ルアザ自身に似た白髪、赤眼の人物が叫んだ。


 ルアザはその声に起こされ、目を開ける。


「!!?」


 目の前にはナイフがあった。

 艶のある、質の良いナイフが、ルアザの眼中を支配していた。

 支配者はルアザの顔へと力を向ける。


 刺されて無くなった。

 ルアザの頭の中を漂う眠気が。

 意識は自由となり覚醒する。


 ルアザはナイフを弾き飛ばし、持ち主を確認する。


「母さん!?」


 殺意あるナイフの持ち主はルアザの母親エウレアだった。

 ルアザは驚愕する、数ヶ月前は仲が悪かったが、今はある程度良い関係を作れているはずなのに、母親は自分を殺そうとしてくることに。


「……」


 エウレアはどこか虚ろな瞳でルアザの姿を捉える。


 ルアザはその瞳に攻撃性を感じ、窓から身を乗りだし家の外へと移動をする。

 だが、飛び降りた先にはエウレアと同じように虚ろな瞳を持つクラウがルアザへと向かい剣を振り下ろした。

 ルアザはそれを体勢を崩しながら間一髪で避けるが、開いた窓から熱を感じ、隣にある剣を叩き、自分を倒れこませる。

 上を見れば炎の柱がクラウを照らし影を作り、剣が首元へと迫っていた。

 その時、クラウとルアザが目が合う、ルアザは悲しそうに目を背ける。


 そこら辺で拾った石を拾い首へと当て、激しい音を響かせながら、石が割れ、鋭い断面を見せる。

 石で剣を防いだ間にルアザは体勢を持ち直し、二人から離れ、走る。


(どういうことだ! なにが起きている!?)


 二重の意味でルアザは驚いていた。

 第一に親達が自分を殺そうと襲いかかってくること、次に周りに属性が溢れかえっていたことだ。


 ルアザの視界内に広がっているのは淡い銀光を漂わせる地面や空気だった。

 黄金の月光と虫の鈴音が合わさり、幻想的な美しさを放つ幻想曲を奏でている。


 だが、これは異常事態であった。


 これは属性の飽和現象である。

 銀光が漂う場所の属性許容量が超えてしまい、飽和した濃厚な属性が属性が薄い空気中へと分散してしまい、さらに空気の属性も飽和してしまう霧に似た現象だった。

 自然界の中でも秘境の中の秘境とも言える奥深くの場所でしか見れない光景であり、自然界でも珍しい現象の一つである。


 しかし、そんな特定条件下でしか起きない現象がなぜ起きているのか。

 ルアザはこの状況と相まって不気味で仕方ない。


 そうこう、考えているうちに後ろから赤い光が足元に伸び、影をそこに作らせないようにその場から離れる。

 ルアザがいた場所の草花は灰へと変わり地面を抉られ、土砂石を撒き散らす。


 ルアザは振り返ると、エウレアとクラウが佇んでいた。

 ルアザは二人の親の目と合わせる。


「母さん、クラウ、僕が悪いなら謝るし、行動も変える。だから説──」


 ルアザは確かに最近自分が悪い面が多かったことは認める。

 それが原因ならば、謝罪する、頭を下げるだけで無惨で悲劇な殺し合いが止まるなら何度でも下げる。


「……」


 二人の返答は人を砕く衝撃波と物を黒く変える業火だった。


「──話が通じないか……」


 ルアザは数秒遅れて二つの凶悪か返答を衝撃波と水で相殺し防ぐ。

 返答を返すと同時にクラウは剣を向けて駆けてくる、エウレアも魔術を行使して、ルアザの行動を妨害してくる。


(術式が乱れる)


 術式の代入が雑になっていることに気づく。

 属性が溢れているせいか、属性代入量が普段使用するより増えており、思った通りの魔術を行使できない、状況だった。


 だが、属性が多いということは、少しの力で大きな結果を生み出すことが可能であり、多い事を前提の魔術を使用すれば良い。


 ルアザはクラウとエウレアから一定の距離を保ちつつ、魔術の準備をし、行使する。

 だが、相手も魔術の準備をして行使したため、三つの大魔術がその場に出現する。


 ルアザからは渦を巻く、水の激流が、クラウからは全てを吹き飛ばす、風の竜巻が、エウレアからは風の竜巻を吸収し巨大になる火柱を作り出される。


 水は一瞬にして沸騰し、蒸気へと姿を変える。

 炎は大量の水に押し流され消滅した。


 ルアザはぶつかり合い視界が塞がれる時、草原から脱し、森の中へと向かう。

 森の中ならば、隠れて奇襲や様々な作戦を考えられるためだった。


 ルアザは森の奥へと光が届かない森の闇へと向かい走る。

 空を飛びたいところだが、十中八九二人も飛んで追いかけてくるのは予想でき、飛ばなくとも目立ちすぎる。

 今は隠れて二人を拘束する手段を考えなければならない。


(今の自分は圧倒的に不利だ。取れる手段の数が違う。あっちは殺すためなら、何でもありだろうが、こちらは殺せないため、殺傷力の高い手段は使用不可だ)


「ぐ!」


 ルアザは作戦を考えながら、走っていると、突如見えざる壁へとぶつかる。

 ルアザはその壁を破壊しよう、結界の槍を作り力一杯込めて突き壊そうとするが、結界は傷一つつかず、何度もあらゆる手段を使かっても破壊はできなかった。

 ルアザが唖然とし、悩んでいるとき、空気に熱が含み暑さを感じるようになる。


 ルアザはまさか、と思い後ろを振り向く。

 森が燃えていた。

 地面の枯れ葉、乾いた枝に薄い葉っぱはすでに火をさらに立ち上らせ、横へ広げる燃料へと変わっていた。


「ごほっ! ごほっ!」


 ルアザは結界を破壊しようとしている間に煙がすでに周りに充満しており、その煙を吸い込み、咳をする。

 口を抑えながら、不壊の結界にどこか出口がないかと結界を沿いながら出口となりえる物を探すが、なに一つなかった。


 ルアザは恐ろしくてたまらなかった。

 自分が育ってきた環境の全てが、燃え滅び、その原因も愛すべき親の手自らであるため、何を信じればいいのかわからない。

 何に頼ればいいのかわかならない。

 涙腺の熱と森の中の熱がわからなくなってきた。

 どんどんと光が届かない深い穴の中へと落ちている自分がいることに気づいていた。


「目を覚まさせよう」


 だが、穴の出口は見える小さな光だが、確かにある。

 その光へ目指そうとルアザは落ちる自分を止め、光へ向かいよじ登る。


 ルアザは少しでも消火するため水をばらまきながら、二人が待つ草原へと向かう。


 草原に出た瞬間、ルアザはまゆばいばかりの光と全てを壊す音がルアザを襲う。


「〈雷撃砲トルトニウム〉か! (まずいぞ! 結界を張り直してここから速く離れないと)」


 ルアザが襲われたのは雷の魔術の一つ〈雷撃砲トルトニス〉である。

 雷に指向性を付けただけであるため、自然界の落雷に等しいものがルアザへと向かったのだ。

 雷の魔術は基本的にあらゆる攻撃系魔術の中でも最も攻撃力を持つ魔術である。

 狙いさえ間違わなければ、確実に命中する程、速い魔術でもある。

 ルアザが草原に出る前に入念に張り直し、重ね増やした結界の大部分が〈雷撃砲トルトニス〉に持っていかれた。


 当然薄くなった、守りにくるのは更なる強力な攻撃がやってくる。

 守りが薄ければ、多少威力は下がって良いから確実に当たるような広範囲攻撃をしかけてくるはずだ。


 ルアザはそう予想していた。

 視力と聴力が機能しない今は、回復するまで、逃げ続けなくてはならない。


 ルアザの予測は間違えた。


 視力と聴力が戻ってきた頃に頭が捕まれ、地面に叩きつけられる。

 そして、地面には大きな穴が出現し、ルアザが体勢を立て直そうとすれば、次々に崩そうとしてくる。


 そして、クラウの剣が背中へと突き刺さるが、ルアザの生命の源である赤い血液は出ずにいる。

 クラウの剣が刺さっているのは結界だった。

 ルアザはこの事を予想しておき、背中方面だけ結界を強力にし集中させ、その他は最低限だけの結界を身に纏っていた。


 その結界は厚く硬く作ったため、一度何が刺さったら抜けずらくなっているため、クラウが剣を抜こうとする、そのワンテンポの隙でルアザは体勢を立て直し、距離を取る。


 それと、同時にクラウの下に深い穴を開け、クラウも抜け出そうとするが、土が崩れ砂地獄状態となる。


 ルアザは残ったエウレアへと向かい全力で走る。

 エウレアも魔術を行使し、近づけないようにするが、ルアザは当たりそうな魔術だけ対処し、母親の元へと迫る。


 そして、エウレアを掴み、地面へと倒れこむ。

 ルアザの紅の目とエウレアの蒼の目が合わさり、漂う光が互いの目の色を反射しルアザの目にムスカリの花が咲く。


 ルアザは見つめあいながら、拘束の魔術の術式を組み、エウレアの手足に強力な結界が出現し暴れようとするエウレアを抑え込む。


 後ろのクラウも拘束しようとする前にクラウは完全に無効化するために、穴の中に水を流し込み激流の池へと変えて、行動不能にさせる。

 それに加え、結界で蓋をし完全に閉じ込める。


「──眠りから覚め、現の景色を取り戻し、化粧を剥ぎ取り、真なる感情と理性こそが正しき物だと知らしめよ」


 二人を正気に戻すため、意識に関わりの深い高位存在の力を貸してもらうため、長い詠唱と何個もある印を結び終わる。

 ルアザは限界が来ていた。

 強力な自力魔術、他力魔術を使い、二つとも高いこの状況での切羽詰まった緊張感でもこなした。

 集中力が切れそうだった。


「? なぜ? 失敗したか?」


 いつまで、たっても高位存在の気配が感じられないため、もう一度魔術を使用するが、魔術かま発動しない。

 ルアザは不安をさらにかきたてる焦燥感が胸の内からこみあげる。


「意識を落とそう」


 そうルアザは決意すると、周りの草木に付く夜露が急激に冷え、霧が発生する。

 そして霧は凍り、気温が下がって行く。


 ルアザがやっていることは、気温低下の魔術。

 特に指向性は術式の組み込んでいないため、草木など、生きている全ての物に無差別に気温を下げて行く。

 気温を下げることにより、二人の意識を落とす作戦だ。


 首を絞めたり、空気を薄くしたりと様々な意識を落とす方法があるが、最も無傷で動きを止めるには圧倒的な寒さで眠らせることにした。

 それに加え、まだ森の木々を木炭に変えている火の進行を抑えるためでもある。

 ルアザの周りには火の玉を浮かして、寒波の難から逃れている。


 エウレアもクラウも結界を纏って防ごうとするが、ルアザが結界の術式を乱し、少しでも防御力を減らそうとする。


 二人の肌が鳥肌を通り越して、肌が赤くなり始める。


 ここにいる三人が吐く息も白くなり、完全に環境がこの場所にはない気候へと変わっている。


 ルアザも暗闇の深い穴から外の光景が確認できるようになる。

 だが、外の景色に誰か人がいた。


「ご機嫌よう」


 突如挨拶の声が聞こえ、ルアザの魔術の術式に介入して冬の環境は元に戻り、エウレアとクラウを封じ込める結界が破壊される。

 そして、更に森の炎の勢いは上がり、ルアザの

 影をさらに伸ばす。


 ルアザは即座に攻撃を仕掛けてくる二人の攻撃を避け、驚愕する。

 ルアザは穴に蹴り落とされた。


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