第8話弓矢の使い方

 しばらく竪琴をやっていたルアザは時折、耳を壊せる轟音を鳴らしている。 


 竪琴をやり続けて集中力が切れて飽きてきたのか、長い時間刺激のある音を聞き続けていた耳と脳が疲れてきていた。

 そんな思考力は停止し考えるのを止めそうな状態と心には虚ろな穴が開きそうなため音を楽しめなさそうな状態だった。

 そんな冷めた気分のせいか体が反応に鈍くなった倦怠感を感じ取ったルアザは気分を変えるためにクラウに誘われた弓を使うためにクラウを呼びに行く。


「ねぇ、クラウ。弓やろう、弓」


「ん? じゃあ、やりますか」


 クラウは呼ばれた方に向き、ルアザが弓の練習をすることを望んでいることに気づき、早速外

 へと行き練習をし始める。


「まず見本を見せるので見ててください」


 クラウとルアザは比較的に木々の密度がない林と言える場所に向かい、そこにある一つの木を的にする。


「まず見てわかるとおり弓は矢とセットで使います。そしてその二つを合わせたら背筋をしっかりと伸ばします。なるべく姿勢をしっかりしてください。下手な体勢だと危ないですし、狙った方向にいきません」


 クラウは横で見るルアザに向かい手に持つ弓と矢を見せる。

 そして弓矢を使う場合での姿勢を説明する。

 安定し力の入りやすい姿勢は基本的に背筋を伸ばした時である。

 座りながら打つとなると腕と手だけの力でそこそこ重い弓と矢を持つことになる。

 それに加えて、かなり強く張りに張られた強力な弦をまた腕と手だけで引っ張らなければならない。

 このことから、かなり辛くてキツイためそれなりに鍛えられた弓の弦と同じように強靭で強い筋力が必要になる。

 座る場合はせめてでも上半身は背筋を伸ばすことを推奨する。


 それでも立った方が全身の筋力を使うため、労力が分散されるからなるべく立つ方が良い。


「背筋を伸ばしましたら。次に矢を弦に重ねて、体全体の力を使い矢と弦を引っ張ります。矢がだいたい耳の横くらいまで引っ張ります」


「クラウ、そもそもだけど、僕じゃそこまで引っ張るのは無理だと思う」


 ルアザはクラウが矢を引っ張る時の腕を見ていた。

 そこを見ているとクラウのそれなりにある腕についている筋肉が血管の筋をたてて膨らんでいることに気づいた。

 そこからルアザはこう推測した。

 弓矢使うのは大人でも筋力が必要のではないか、と。

 腕に力を入れる時筋肉が膨らむのは当たり前だが、大人と子供じゃ天と地程の力の差がある。

 子供の自分がそんな大人でも苦労している物を使えるわけがない。

 そう推測してルアザは淡々と教えているクラウに冷静に考えたことを突っ込む。


「大丈夫ですよ。初心者にも使いやすく調整できる物なので」


 弓の端には弦を巻き付けて結びつける場所があり、その巻き付ける量で弦の緩みを変えられる。


「あ、そうなの。それは便利で良いね。良かったよ」


 ルアザは弓の仕組みに感心して、また一つ知識をつける。


「じゃあ続けますよ。で、最後に射る場所をよく狙い掴んでいる矢をそっと離す」


 そう言い、クラウは的の木を見定めてよく狙い、矢を離し、強く張られた弦の弾性力が張られたぶん働き矢は弦に勢い良く押し出され射られる。

 矢は風を切るような音を出しながら真っ直ぐと高速で進み、的の木へと吸い込まれるように深く突き刺さる。


「おー」


 ルアザも矢を目で追い、見事、的に当たる矢に口を軽く開き感心する。

 そしてルアザはクラウの聞いた通りだと、自分でも簡単そうだ、と思う。

 クラウの説明をまとめると、まず最初に引いて、次に溜めて、最後に打つ、という感じになる。


 それと同時に先程まで微かに虚ろげな赤い目はすでに光が透き通り輝きを含ませる目へと変化させていた。


「じゃあ次はルー、早速やってみましょう」


 調整された弓と先程木から抜いてきた矢を手渡される。


「一発で決めてあげるよ」


 ルアザを不適な笑みを浮かべ胸を反らしながらそう言い、的の木へと両目の瞳孔を傾け眉をひそめ真剣な表情へと移る。


(弦に矢を重ねてと、………結構狭い)


 ルアザは矢の端の弦に当てる部分が思った以上に狭いことに気づく。

 もともと狭さそうだな、と思っていたが、実際やってみるとかなり狭い。

 自分の爪より小さく、そんな少面積のため、その部分の真ん中へとちょうど良く弦を当てなくてはならない。

 早速引いてみるが、少しずれるだけですぐに弦が流れ落ちはずれてしまう。


(…………震えている)


 なんとか引くことはできたが、それを維持するのに力をずっと込めてなければならないため、若干腕が震えて狙いが定まらない。

 遠くの場所を正確に狙えば狙う程その僅かな震えは大きく変化する。

 それを現在、実体験で理解したルアザはその震えを抑えるために大きく息を吐き、深呼吸をする。

 深呼吸することにより、空気が脳へと届き吸収する。

 そのおかげで頭は冴えて、集中力も増す。

 体の司令塔が良くなれば筋肉も細かく精密にコントロールが可能になる。


 視界の中央に捉えている的を見定め、矢を優しく離して、射る。


「うーん残念っ!」


 結果は外れた。


 ルアザはその結果に納得はしているが、不満そうに口を三角に曲げる。


「まぁ、最初は誰だってそんな物ですよ」


 クラウもルアザを励ますように言い、ルアザの肩を優しく叩く。


「射った時は『よしっ!当たった!』って思ったわけだよ」


「私はルーが射る時『あ、外れた』と思いましたね」


「なんか修正するところない?」


「筋力を増やしましょう。力がないせいか、少し弓矢が地面へと傾いていました」


 クラウは横からルアザの姿勢を見ていたが、ルアザは筋力不足で前提問題として弓矢を持ちきれなかったのだ。


「この細い腕じゃ、正直きついからね」


 ルアザは自分の雪と同等な白さを持つ細腕を見て、ため息が出てくる。

 氷柱のように軽く叩けばいとも簡単に折れそうだった。

 腕に力を込めるが、筋と小さな柔らかい筋肉が浮かんでくる程度だった。


「ねぇ、これなら石投げた方が早いと思う」


 ルアザは深呼吸している時に気づいたことだが、石を投げる方が楽なのではないか、と。

 石ならそこらじゅうに転がっているから、弓矢とは違い限りなく足りなくなるときはなく、いつでも補充可能。

 数があるということは的をいちいち狙わずに大まかに狙い、多く投げて一つでも当たれば良いという方法もとれる。


 それに弓矢のように引いて、溜めて、打つという手間作業がなく、投げる場合は、持つ、投げるという少ない手間で作業が可能。


 実際にルアザが側に転がっている手の平より少し小さい石を拾い、先程使った弓矢と同じ的を狙い腕を振りかぶり投げつける。

 石は放物線を描きながら的へと向かいそのまま放物線通りに進み的へと当たる。


「ほら」


 ルアザはクラウに実際例をその場に出して、自分の意見と考えは正しいと主張する。


「最もな話ですが、投擲と弓矢では目的が違いますよ。どちらも長距離武器ですけど、弓矢は確実性を高めた一撃必殺のための狩猟武器です。投擲も弓矢と同じ役割はありますが、弓矢程、攻撃性は高くありませんし何かを殺すことに特化していません」


 それに対してクラウは前提条件が違うと言う。

 弓矢も投擲も狩猟武器だが、弓矢に関してはさらに狩猟に優れた武器である。

 狙っている獲物を一撃で極めて深手な傷をおわすことを目的としている。

 そのぶん手間がある欠点はあるが、木にも投石よりは目に見える形で深く刺さるため一撃の威力はかなり高い。


 投擲は人類最初の遠距離武器という面があり、今でも有効な物として活用されている。

 大昔から使われているため万能性はかなり高く、その点に関しては信頼性も高い。

 ただ、投擲というものは基本的に打撃性であり弓矢の刺突性と比べて破壊力はない。

 攻撃力という点から見るとどちらも高い。

 叩き壊す投擲と突き刺す矢どちらも一長一短であるため使い分けが必要だ。


「あー、そっか。そこは盲点だった」


 ルアザは自分の間違えているい部分を言われ、それを否定せずに納得する。

 自分には自分の想像力を狭くさせ阻める固定概念があることに気付き、表には出さないが、驚愕する。

 ルアザは自分の限界という物を知った。


「でも、投擲にもスリングという道具があります。これは布や紐さえあればその場ですぐに作れる便利な物です」


 クラウは腰に付けている布を取り、側に転がっている石を拾いその布の中に入れる。


「布の端と端を持って振り回してタイミングよく離すという形で使います」


 そう言い石の入った布を頭の上で速めの速度で振り回し的の木へと向かい片方の布の端を離すと、石は振り回していた勢いに比例して吹き飛ぶ。

 そして狙いはずれたが、ルアザの腕以上な太さの木の枝にぶつかると、その枝はいとも簡単に折れて石と共に吹き飛ぶ。


「強っ!! なんという威力だ!」


 ルアザは自分こ目を疑うかのように、クラウと折れて砕けた枝を交互に何度も見て、その威力を理解してくるとスリングの威力に驚く。

 木の枝も自分の腕よりは太かったのにほんの少しの工夫と手間をつけるだけで、あれほどの破壊力を生み出すことにも驚く。


「人類の知恵というやつですね。ですから発想力はなるべく無限に柔軟にした方が自分のためになりますよ」


「なんということだ。たったあれだけで……」


 ルアザは世界を無限だと感じる。

 今までのルアザの常識は大きく物をやるためには大きな何かを必要とする、等価交換の常識だった。

 それが少ない手間と工夫であれほど大きな効果を生み出したため、自分の考えを司っていた常識は正面から粉砕され、己が間違いだと自覚される。

 自分の限界を壊されまた新たな世界を知ってしまい、またその世界は無限に広がる物だと認識する。



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