第7話竪琴の使い方
太陽が登っている白昼の中、家の横に出来た日陰で壁に寄りかかり座っているエウレアとその息子のルアザが隣に座っていた。
エウレアは麻袋のような布袋の中に手を入れガサゴソと探し物を探していた。
そしてゆっくりと太陽がやって来る早朝の日の出のように全容がその形姿が少しずつわかるように取り出された。
エウレアはゆっくりと芋虫が移動しているかのように遅く取り出していた物を、先程の芋虫と同等のスピードが嘘のように思い切りよく取り出される。
「じゃじゃーん。
エウレアが元気良く手に掲げて取り出していた物の全容が露になる。
ルアザへと無駄に壮大な出し方で見せてきたのは材料は主に木材でできており何本かの白い弦を張られている竪琴だった。
マギアライアー。
これを、そのまま翻訳すれば魔術の竪琴。
魔術と付いているため、この竪琴は一般の竪琴ことよりも特殊である。
その証拠に只の楽器には使われない物が使われており、目立っていた。。
弦の付け根当たりに透明感はないが、しっかりと磨いてある鈍く艶のある鉱石が埋め込まれていた。
「それが何の魔術の練習と関係あるの?」
ルアザは
「属性操作の精度を上げることが目的だよ。術式組むときさ、術公式通りの属性を代入するの結構大変じゃない」
「そうだね。下手すれば術式を間違えた魔術が自分へ向かってくるから、本当に大事だよね。いや本当に」
術公式とは特定の魔術の術式のこと。
過去の学者達が、発見した魔術の術式の物である。
そして今現在もさらに良い術式を改良したり開発したりしている。
公式というのだからこれを憶えれば万人平等に使える物だ。
例えば、竜巻を起こしたい場合は竜巻を起こす術公式通りに使えば竜巻の魔術が発生する。
一部の魔術師は自分が使いやすいように改造したりしているが、そんな例外的な状況を除き一般的には皆、何年ものの年を重ね洗練されにされ今現在も洗練され続けている使いやすい術公式を使っている。
術式は基本的に繊細な物である。
代入にする属性の量、方向、力など、これらを少しでも間違えた場合、術式通りにいかず魔術も思い通りに正しく発動はしない。
最悪、その場で爆発して自分の魔術に殺されてしまう。
端から見れば不相応な魔術に手を出して、不相応通りに失敗してしまい死ぬ。
自殺と同義と言えるだろう。
ルアザも自分の魔術に殺されるとまではいかないが、軽い攻撃をされた経験を持っている。
その経験から、属性操作力を上げることは魔術を使う上で必須であり絶対だと頭に刻みつけていた。
だから今回の母親の出した申し出は非常にありがたい物だった。
自分も色々と属性操作力を高める方法は考えていたが、良い案はおもいつかなかった。
実際それをやってもイマイチであり、気が乗らなくすぐに止めていた。
「何で竪琴で鍛えるかというと、一石二鳥だから。他の方法ももちろんあるけど、音楽って結構楽しいからルーもやってみてほしい」
エウレアは魔術と同時に音楽などの娯楽を経験して、せっかくなら楽しんで強くなってほしいのだ。
三人が暮らす場所は緑豊か、自然豊か、と聞こえは良いが、緑しかなく、自然しかないというのが現実だった。
それに自然というものは環境をめったに変えない。
正確に言えば、動物達の縄張りや、植物の生息域は変わるが、それは大規模ではなく中小規模のため変化は小さく、感知しにくく環境の変化はとにかく実感しにくい。
変化の実感をしないということは、刺激となりえるものは少なくなる。
ルアザはそんな何の変哲もない退屈な毎日を過ごしているため、暇潰しとなりえる物は大歓迎だった。
「楽しいなら別にいいけど、どうやって属性操作力を鍛えるの?」
「この竪琴はね、普通の竪琴として使えるけど、魔術を併用すれば機能性が増える特別な竪琴なんだよ」
「じゃあ、ちょっとやってみてよ」
「これやるの久しぶりだから、下手でも我慢してね。まずは魔術を使わずにやるから見てて」
そう言い、白い弦を適度に切り揃えられた爪で優しく弾き始める。
軽やかな音が弦から弾き出て、中央から左右の端の弦へと指が運ばれると甲高い音を弾き出される。
ゆっくりとした穏やかなテンポで
ルアザにとっては始めて聞く音だった。
ルアザを含めて三人で住んでいるのは鳥の甲高い鳴き声、虫の鳥とは違う別種類の甲高さの鳴き声、木々の枝葉が風に揺らされてできる音のさざ波で支配された自然の中の自然というべき場所に暮らしいてる。
特にルアザは記憶の最初から今に至るまでの記憶はこの自然の光景と音響により構成されている。
今聞いている音は自然界には見当たらないし、聞いたこともない音、波長が新たな記憶が刻まれる。
ルアザは明確に記憶に刻まれる、心に染みるという感覚の経験はあるが、まさに今この瞬間だとおもわなかった。
突然で、全く予想できなかったからこそ、新しい記憶が植え付けられる。
それと同時に頭の中に眠る記憶に似たような音を連想させる。
それは鳥や虫の鳴き声だった。
一定のリズムがあり、不思議興味が引かれ、無言で聞き耳をたてたくなる軽やかな音とリズムに似ていた。
ルアザは『聞く』ではなく『聴く』を実感していた。
「どうだった?」
エウレアは奏でるのをやめてルアザに感想を聞く。
内心ちょっとゆっくり過ぎたテンポで、ルアザにとっては退屈なのかもしれないと思っていた。
「……こうなんだろうね。心にくるという感じがするよ」
ルアザはしっかりと思いが込められた厚いが短い言葉を感想とする。
エウレアはルアザの思いが込められた声を演奏者として感じとり内心驚く。
ルアザが予想以上に心に響いていることを。
エウレアにとっては軽く演奏したつもりだったのに、聞いている側はどこか感慨深い顔をしているため戸惑ってしまう
「そう、それが音楽の良さ。心に訴えるこの感覚がクセになるのよ。自分もやってみたいと思うようになるの。ルーもそう思った?」
「かなり」
ルアザは今でも先程の曲を頭の中でながしている。
今の言葉も母親の質問通り実際に心を訴えられており、否定はせず肯定するように力が籠った一言だった。
「でしょ。これが音楽、音の楽しさ。人類が生み出した素晴らしい物の一つ」
今この瞬間自分と同じ音を楽しんでいる心境だというのが理解し合い、共感し合う。
そのことにより、さらに音楽が広く大きく感じ、二人は笑い合う。
「じゃあ、次は魔術を使いながら、やって見せるわ。まぁ、答えを先に言うと、出せる音が増えるくらいだけどね」
そう言い、さっきの演奏と比べるれられるように同じ曲を奏で始める。
それを弾いているところを見ているルアザはあることに気づく。
それは全体的に音の質が違っていることだった。
先程の弦を弾いた音とは違っており、高い音はさらに高くなり低い音はさらに低い音だった。
確かに母親が言った通り音が増えていた。
そのことにより、ルアザは曲の印象が先程とは違って新たな感性を得る。
そしてさらに
弦を弾く時に特定の術式が流され、その術式は留め具辺りに付いている煌めく鉱石へと到達していた。
鉱石へと流れたついた術式は光が水面を反射するかのように一瞬にして弦へと返されていた。
これを刹那を越える時間で変換前の音が弦を弾いて鳴るスピードと比べ誤差などない。
その結果、テンポの一瞬の遅れなどの違和感などなくルアザはその機能性の高さに正確性に目を見張る。
「確かに精度上がりそうだ。たぶんだけど、術式によって音が変わるのかな?」
ルアザは顎に手を当て頷く。
退屈たが時に厳しい環境のせいか年に見合わない聡明なルアザ直ぐ様に魔術の
出したい音を出すためには正確でありスピーディーに術式を一瞬で組み立て楽器に発動させる必要があることだった。
曲のテンポやリズムが速ければ速く、音程も急激に変われば変わる程、難易度は指数関数的に急激に上昇していく。
そのためエウレアがゆっくりな曲を選んだのはそっちの方が魔術の
「そうそう。よくわかったね。
道具の種類が音を奏でる楽器という点だ。
「オッケー。僕も使いたいから貸して」
ルアザは
エウレアから見れば上目遣いとなり、エウレアは元々使わさせるつもりだったから快く渡す。
「わかった、わかった。はい、乱暴に使わないようにね」
エウレアはルアザに
ルアザもおしえた通りにやりながらも色々な事を試してみると何事もおもしろく楽しいため一つ一つの行動と発見で何度も微笑を喉と口から溢れる。
「おー、鳴った。これ面白いね」
だが、音一つ鳴らすのにかなりの時間をかけてしまう。
次の音を鳴らし探すため、視線を白い弦や他の特徴となりえる物に視線を向け何度も往復して必死になり探す。
たどたどしく、拙いが、つまらないとすぐに飽きず一生懸命に竪琴の使い方を知ろうと憶えようとしていた。
それも苦しいとは思わずにおり、迷いながらも目的は変わらずに心をを陽気に竪琴を奏でているように弾ませる。
「……♪~ん~」
ルアザも全てを理解したわけではないが、場所によってのだいたいの仕組みは憶えた。
曲も前半の数割程は憶えてきて、頭の中にある曲を順調に流せた達成感があり気分が良くなっていた。
そして教えられた術式を使い、普通の竪琴から
早速、弦に指をかけ、術式を竪琴に流し込むが、ルアザは途中で間違えた事に気付き、その術式を組むのを止めるのではなく新しく適当な術式を流し込んでしまった。
そうすると、金属と金属がぶつかり合い、その金属達が破裂するような耳をつんざき、鼓膜を突き破るような音を弾き出してしまった。
「ぅ、う"ぁあ"」
さらにルアザの耳の中に存在している鼓膜という薄い壁を貫いてきたつんざく音は脳内にも突き刺さる。
頭に空気の固まりを叩きつけられる音をルアザは喰らい、頭の中はめちゃくちゃにかき混ぜられ、思考能力にひびが入り、衝撃に耐えられなかったのか倒壊して一時的に機能不全となってしまった。
「………………間違えると楽器は武器に変わるから気を付けて」
エウレアもルアザと同じように頭が痺れて麻痺になってしまった。
それでも子供のルアザと比べて大人のエウレアの方が回復は速い。
そしてルアザに
「…………うん、ごめん」
ルアザも回復をしてきてなんとか返事をして返す。
思考が回らなくても、母親の言うことには深層意識に刻み込まれる。
あれほどの衝撃は始めてだった。
感動などの心に来る衝撃ではなく驚愕などの頭に来る衝撃を始めて受けたルアザであった。
「とりあえず、普通の竪琴として使ってみようか」
エウレアはまずそもそも、ルアザは竪琴の使いに慣れていないことが原因だと考えた。
だから、まずは普通の竪琴として使い、わからないところをほとんど無くして、慣れさせたら
息子の前では言いたくないが、耳が壊れるかもしれない。
そうやって暫く
「さっき、すごい音が聞こえましが………………」
クラウは驚いたような顔をしながらルアザとエウレアの元にやって来た。
そしてルアザが手に持つ
「あぁ、それですか」
「うるさかったかな?ごめんねクラウ」
「いや、別にうるさかったわけではないですけど、聞いたこともない変な音が聞こえたので、心配になって来ました」
クラウの立場からでは、作業をやり終わり休んでいたら突如、家の近くから殴りつけるのような強烈で奇想天外な音が発せられた驚く。
何事かと、思い様子を見に行ったら今に至るである。
「あれは失敗した。次は良い音を聞かせてあげるよ」
ルアザもあの音は酷いと感じたため、あれほどの酷い音を出さぬように修正したいと思う。
「期待しましょう」
そう言い、クラウはいつか聞けるであろう音楽を期待する。
クラウはルアザの持つ竪琴を見て、ある一つの事を思い付く。
「……………そうだルー、弓を使ってみませんか」
白い弦を見て思い付いたのが弓だった。
弦という点で共通点がありそこから連想された。
「弓か。あの曲がった木の端に弦がついているやつの?」
「そう。どうです? 最近、剣の練習してますけど退屈したきたでしょう?」
「せっかくだし、やってみるよ」
「じゃあ、それに満足したら呼んでください」
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