第6話魔術と創世記
次の日へと変わり、ルアザが正しく魔術を扱うための、第一歩として魔術の起源について書かれている本を持ちエウレアは教える。
「魔術はこの世界の創世記に深い関わりがあるから、よく聞いてね」
【世界が生まれる前には混沌であり無限、そして虚無で構成されていた。
有るようで無い、無いけど有る。
そんな無数の可能性と可能性が重なり合い、混ざり合う【有無表裏(バベル)】と呼ばれる全ての可能性が許され、あり得る世界が広がっていた。
無限の時であり刹那の時がたつと【有無表裏(バベル)】は知恵と意思ある力の化身の三柱の神々である【賢者】の神龍ウロボロス、巨神パンゲア、神霊オゾンへと。
最後に元で力の【源(オリジン)】に分かれてしまう。
【源(オリジン)】はさらに分かれる。
まずは活性と暴走の【陽】。
そしてその反対の沈静と衰退の【陰】。
三柱の神々はこれを見て、分かれるのではなく、逆に合体してみるとどうなるのだろうと、考え、己を【陽】と【陰】に組み込んだ。
神龍ウロボロスは流れと永遠を司る【大海(ウロボロス)】へと。
巨神パンゲアは世界を支える基盤である【大地(パンゲア)】を。
神霊オゾンは全てを覆い、保護する【大空(オゾン)】に。
この三つが混じり、調和する事で、【大地(パンゲア)】を元に【大海(ウロボロス)】と【大空(オゾン)】が組み合いこの世の全てに流れが発生し 【時間】が新たに生まれる。
そうすると次に【時間】、【陽】、【陰】が合わさり始原の【誕生】と終末の【終焉】が生まれる。
神々は新たな物が生まれることに喜んだ。
それと、同時に知恵だけではなく知識をつける。
神々は己の成長は世界の発展だと言う事に気付く。
神々は決断する、世界を守ろう、富ませようと。
そして幾年物の年月が流れながら、様々な属性が合わさり、離れたりと新たな属性へと姿、形を変え、時には相反し合い虚無へと帰るが、世界は壮大に複雑に発展していった。
しかしある時、世界は傾いた。
ある一つの属性が非常に力を持ってしまったからだ。
その事により、世界からは多様性は失われてしまい、世界は衰退への道を歩んでしまった。
神々は悩んだ、世界の衰退は自分達の衰退、だが、自分達が関わり、結果が分かっている世界に価値はあるのかと。
幾億という長い時間を費やし悩んだ結果、最悪世界の滅亡へと繋がると判断した神々はその属性を細かく割り、均等にあらゆる属性へと混ぜることにした。
この瞬間世界には一つの属性が誕生し、次々と変化していった。
まず最初に出現したのが構築の【創造】と崩壊の【破壊】が生まれる。
そしてその間に盛る【火】が誕生する。
次に集まる【土】が、弛む【水】が、散る【風】が誕生した。
世界は前のような、混沌さはなくしたが、安定をした。
神々は属性を割るために力を使ってしまったため、神々はこの安定期を利用し少しばかりの休みをとることにした】
「というわけ」
「……世界はそんな風に生まれたのか……」
ルアザは一種の世界の真理を知ったためか、悟ったような顔をし、考えに耽る。
魔術とは思った以上に偉大で深遠な物なのではないかと。
だが、そのぶん興奮度が大きく増える。
魔術に摩訶不思議な神秘性が付与されるこにより、好奇心がそそられさらに強くなる。
「創世記の中にあったように、属性と属性が離れたり、結びついたりとあったじゃない」
「その結果複雑に壮大に世界はなったらしいね」
「そうそう。魔術の仕組みといのは属性がくっつくことと離れることなの」
魔術の原理は属性の結合、融合、分離である。
仮に【陽】の属性を扱えるとしよう。
【陽】は活性と暴走を司る属性だ。
その【陽】を自分の体に結合させたり、自分の
中に存在する【陽】を使えば体は強化される。
いわゆる身体能力強化だ。
但し、【陽】は世界の限りなく最初に出現した属性のためあらゆる物に混ざっている。
だから、何か強化するならかなり効率の良い属性だ。
だが、その弊害として本当にあらゆる物を強化してしまうため、元々持っていた持病はさらに酷くなり、古傷は開き始める、さらには若さは使えば使う程減り老化が速まり死に近づく。
だから、ハイリスクハイリターンな身体能力強化の魔術だ。
安心できることは【陽】の属性は使えないというところだろう。
そもそも操る属性をはっきりと具体的に認識しなければならない。
【陽】はどこにあるのですか?と聞かれて具体的に答えられるはずがない。
「で、創世記の中に世界を傾けた属性あるじゃない。その属性は【魂】の属性で、自分も含めてこの世の全てにあると言っても過言じゃないの」
「それが何の関係を表しているの?」
「【魂】の属性は手足と同じように自分の意志で操作する事ができるの。それに元は一つの属性だったから、他の属性へと共鳴ができるんだよ。だから他の属性と連動的に操作できるの。例えばこんな風に」
エウレアは周りにある【風】の属性と共鳴し操作をする。
すると、周りの空気から一つの風が生まれ、切り裂くような音がルアザの髪を軽く舞わせる。
「【風】基本的にどこでもあるから、わかりやすいし初心者向きね」
「もう一度やってくれない?」
「え? もう一度? ……いいけど」
ルアザは魂感という属性感知器官の感覚を集中させ、エウレアの魔術を一挙手一投足を見て、観察する。
どんな風に共鳴させているのかを見たルアザは少しイメージしたあと、理解したとおりに風と自分の魂を共鳴させ、魔術を行使する。
すると、周囲にそよ風が流れ、魔術の行使にルアザは成功する。
「え、えぇぇ! すごいじゃないルー! あなたはピカ一の才能があるのね! お母さんもう、感激しちゃった」
「ぐぅぇ」
エウレア感激のあまり、ルアザの頭を掴み勢いよく、自分のそれなりに膨らみがある胸へと押し込み、抱きつく。
自分がお腹を膨らませて産んだ息子が、大魔術師並みの才能があることに喜び、自身自身が起こした事のように喜ぶ。
「でも、なんで、母さん程の風が生まれないの?」
エウレアの風の魔術とルアザの風の魔術は明らかに出力が違った。
エウレアは草原を靡かせる強風に対し、ルアザは本のページを何枚か、上下させる程度の微風だった。
共鳴のしかたはだいたい一緒だったはずだったのになぜこの差が出てくるのか疑問をもつルアザは母親に聞く。
「あぁ、それはね。ルーが【風】をしっかりと理解できていないからだよ。魔術は万物を操るすべだから、具体的に思い浮かべないと、思った通りにいかないの。だからたくさんの知識と経験をした魔術師はとっても強くてすごいのよ」
「つまり魔術を追及していくと世界を知るということなのか……」
ルアザは知識への貪欲さを覚える。
世界をなるべく詳しく知りたいルアザは魔術という格好の興味対象を利用し一石二鳥を得ることにした。
(賢い。すぐさまに魔術の本質を掴んだわ。本当に聡明ね。あの人も子供の頃から聡明とは聞いているけど、それがこの子も受け継いだのかな?)
「あと、もう一つの理由としては正しい【術式】を使えてないの」
「術式って何?」
ルアザはまた知らない言葉が出たから質問をする。
「うーん、そうだね。術式というのは効率良く魔術を使うために属性操作の方法ね」
「何それ、操作する順番とかそういうの?」
「簡単に言えばそうだけど、順番とかもあるけど、それに加えて同時にたくさんの属性を操作して混ぜるたりするの」
つまり術式とは、一種の方程式である。
例えば、百の水を出す魔術を使う時、1+1+1+1+1………=100、というチビチビと長々しく時間をかかる非効率な術式がある。
正確性、信頼性という面では最強だが、非効率すぎてデメリットの方が大きい。
これを50×2=100など、もっと速く、同じくらい正確性がある誰もが理解すれば簡単な術式がある。
どっちを使いたいと普通に聞かれれば、大半の人は後者を選ぶ。
つまり百という水を出すために魔術行使者が効率的な出し方(・・・・・・・)を術式という。
術式は使う魔術により網目のように複雑化し長い術式となる。
魔術師は自分が望む魔術の術式を使いやすいように常に消したり増やしたりと編集し、新しく創造をしている。
「難しそうだね」
ルアザは術式というものをかなり難解な物と認識し、眉間を狭め、頭に手を当てる。
熱も冷めてくるのを感じる。
だが、魔術を使いたいという熱は冷めずにいる。
「お母さんも正直苦手。だから、得意な魔術ばかり練習してたな。懐かしい」
エウレアは遠くを見るような目をしながら懐古の感情に浸る。
「なんか楽する方法ないの?」
難解が故に何かしらの手段、方法でその難解な部分を省けるような極めて都合の良い技術がないのか聞く。
しかしルアザも内心、現実的に見ればそんな都合の良い技術があるわけがないと悟っている。
「精霊魔術というのがあるよ。契約した精霊、妖精に自分の代わりに魔術をやってもらうの。でもこれ強力な物程、長ったらしい詠唱とか儀式とかあるからどっちもどっちね」
自分で魔術を行使するのを自力魔術、精霊などに他の魔術行使者に頼って行使する魔術を他力魔術という。
精霊魔術は他力魔術だ。
精霊魔術は詠唱と呼ばれる精霊に力を貸してくれるための契約文とも言うべき物を口に出したり何か地面にその精霊、妖精のエンブレムのような模様を書いたりと非常に手間がある魔術である。
他人に手伝ってもらっているのだから、手間は増えるが精霊、妖精は非常に気分屋で彼らの行動を予想するのはかなり大変だ。
だから、詠唱も時代や時、地域によって変わってたりとしているため、前と同じ詠唱していても全く違う効果が現れる可能性があるということである。
でも、使えれば代わりにだいたいはやってくれる。
それに加えて、まだ人類はまだ技術力や未発達な事が多いから出来ない魔術の行使が可能。
だから、あって損はないため重宝される。
「母さんはその魔術できるの?」
「今はできるかな? ちょっと試しにやってみるわ。小さい水の玉くらいの物出すから」
そう言ってエウレアは目を静かに瞑り、集中する。
そしてゆっくりと目を開き、口を開く。
「水を司る理の主よ、矮小たる我の願いを聞き届け、今この場に離散し、ご覧になりお聞きしている汝の姿を現せ」
整った顔立ちのせいか真剣な表情にさらに真剣さが増した表情で力を持つ荘厳な物言いで詠唱をしたエウレアはフゥと一息つく。
そして目の前をじっと見つめ、ルアザも母親の見つめている部分に目をやり母親と同じよう見つめる。
すると、その見つめている部分に輝く小さな水滴が現れ、それはどんどんと成長していき机サイズの水球になっても、まだまだ膨張し続けていた。
それを見ていた二人は冷や汗を出しながら嫌な予感がしてくるのを感じていた。
それは、これって無限に大きくなるかも、と。
ルアザは何となく指でその巨大な水球を湯気がたち熱いスープを触れる時のように、ほんの僅かだが、つついてみた。
すると、その水球は今まで順調に膨張していた水球が破裂するかのように整っていた球形が、その形を崩れるように無くしてしまう。
その結果、机の上は悲惨な事となり、床も机と同じように悲惨で、頭を抑える光景が完成した。
「…………ごめん」
ルアザは申し訳なかった。
言い訳の言葉もでない。
あきらかに自分のせいだとわかる。
不用意に得体の知れない水を触ったからだ。
でも、ほんの少し触っただけで、あのような事になるとは驚いた。
もしかして精霊魔術とは意外と繊細なのかもしれない、と思った。
「まぁ大丈夫。魔術で乾かせばいいもの」
エウレアは落ち込む息子を励ますように、笑顔で解決策を提示しフォローをする。
そして魔術を使うことにより無事に綺麗に乾き、元の状態へと戻る。
「ありがと。見たところ精霊魔術ってかなり使いにくいんだね」
小さい水の玉を出す予定だったが、現実は永遠に膨張しそうな巨大な水球が生み出された。
それを鑑みると使用者の思い描く通りにはいかないというのは実感し理解した。
想像通りにいかないということは使用者にもその間違いによる被害が被る可能性が存在する。
誰が、そんな常に危険性が孕む魔術を使いたいとは思わない。
使うたびに首もとに、ナイフを当てられるようなものである。
「それなりに精霊と仲良くなって使う魔術だからね。熟練者は詠唱なんて『お願い』の一言で正確無比な魔術使ってくるからね」
精霊魔術を熟練してくると詠唱を略すことが可能。
これには精霊魔術の長い時間というデメリットを減らすことが可能なためとにかく精霊魔術師は精霊、妖精と仲良くなり魔術行使時は熟年夫婦のように一言で済むようにすることが目標であり理想である。
「成る程ね。何事も頑張るしかないか」
ルアザはどこか決意したかのような表情で思い拭ける。
その赤い目は明確な目標を持ち、明確な方向を見つけたかのように真っ直ぐとした澄んだはっきりとしていた目をしていた。
「ルーならすごい魔術師になれるよ」
その澄んだ目を見たエウレアは息子が成長した証のような気がした。
息子の成長を感じる時は何事にも代えがたい幸せが胸の中に満ちる。
息子がさらなる高みへと成長するように応援する。
「本当?」
「もちろん、油断さえしなければね」
そこに油断せずにいるように忠告する。
魔術は知識の世界、知識を得るためには勉強をするしかない。
地に足がついた勉強の効果は一週間、一ヶ月ででるような物ではない。
故にただ地道で王道とか覇道という格好いいわかりやすい道ではなく、コツコツと少しずつな道である。
ただ地道というのは自分だけの道。
自分が作り上げた唯一の道。
大きな壁は一気に乗り越えたり、壊したりせずに少しずつ削っていく。
その削られた欠片は石畳へと変わり、己の道を確かに、強く、歩きやすくする。
さらに、その道は新たなジャンルへの挑戦で広くすることは可能なため、様々な人、車が通るれるようにもなる。
その道がガタガタな転びやすそうな道になるか、しっかりと平らな通りやすい道になるかは自分次第である。
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