ビニール傘①
その傘がいつからそこにあったのか、それすら思い出せないんですけどね。
昔、関東某所の小さいマンションで一人暮らしをしていた時に、やたらと変なことが起こったんです。
電気が急に点滅したり、トイレの水が勝手に流れたり、夜、寝ている時に誰かが枕元を歩いている音がしたり、キッチンで何かやってると何も落ちてないのに何かを落としたような激しい音がしたり。
それで、なんだろう?って顔を向けるじゃないですか。そうすると、必ず、部屋の隅に置かれたボロボロのビニール傘が目に入るんですよ。
よくよく考えたら、傘なんて部屋の中に置かないじゃないですか。
玄関に傘立てがあるんですから。
なのにその傘は、気がつくと部屋の中に置いてあるんです。
そもそもビニール傘なんて、買った覚えがないのに。
それで私、なんとなくそのことを友達に話したんですよね。
そしたらその友達が、霊感のある知り合いを紹介してあげるって、わざわざ家まで来てくれたんですよ。
その霊感のある人……仮に山尾さんとしますけれど、山尾さんは部屋に入るなり
「ああ、これか」
って、いつの間にか傘立てに立ててあったビニール傘を手に取ったんですよ。
いつもは部屋の隅に置いてあるその傘が、その時だけ、まるで山尾さんが来るのがわかっていたみたいに、傘立ての中に入っていたんです。
「ちょっとこれ、開いてもいいですか?あ、ここじゃあれだから……」
山尾さんにそう言われ、私達はマンション近くの小さな広場に向かいました。
山尾さんは辺りをキョロキョロ見回し、誰もいないことを確認すると
「じゃあちょっと、開きます」
と言って傘を開きました。
長年閉じたままだったからか、少しぎこちない動きで傘が開き、中からひらりと一枚の写真が落ちてきました。
「これです。これが原因ですね」
山尾さんが写真を拾い上げました。
そういえば私、この傘を開こうとすら思ったことなかったんですよね。
だから当然、この写真の存在も知らなかったわけですが。
赤いランドセルを背負って、恥ずかしそうにピースした可愛らしい女の子。
写真の中のその女の子が今まで怪奇現象を起こしていたんだと、何故だか瞬時に理解しました。
「この子、両親が離婚して母親について行ったものの、母親の心中に巻き込まれて亡くなったみたいです。このビニール傘は、この子のお父さんが使っていたものみたいですね」
山尾さんは、女の子が命を落とすまでの経緯が映像のように脳内に流れ込んできたと言いました。
まるで霊感のない私には信じがたい話ですが、その後、私の住んでいたその部屋に女の子のお父さんが住んでいたこと、そのお父さんが娘に会わせてもらえず鬱状態になっていたこと、そして最終的に、電車に飛び込み亡くなったことを知りました。
あの女の子の霊が、私のことをお父さんだと思っていたのか、それとも、大好きなお父さんの住んでいた部屋から私を追い出したかったのか、はたまた、遊び相手が欲しかっただけなのか……
今となってはわかりませんが、山尾さんのアドバイスに従い私はそのマンションから去りました。
あれ以来、身の回りでおかしなことは何も起こっていません。
あの女の子があの世でお父さんと再会できていますようにと、願わずにはいられません。
終
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