廃ホテル①
「僕、昔から霊感が強くて。たまに見えちゃうときがあるんだ」
林がそんなことを言い出したのは、いつものメンバーで昼食を食べていた時だった。
なんの変哲もない男子校で刺激を求めていた俺達は、林の言葉に食いついた。
「え、じゃあさじゃあさ、心霊スポットとか行ったら霊が居るかわかるってこと!?」
好奇心旺盛な田村が食い気味に尋ねると、林はいつもみたいにワンテンポ遅れてから頷いた。
「わかる……と思う。そういうところに行ったことがないからわからないけど、多分」
「えー!!じゃあみんなで行ってみようぜー!!」
田村のその一言で、本当に心霊スポットに行くことが決まってしまった。
俺達が行くことになったのは、学校からそう遠くない国道沿いにある廃ホテルだ。
ホテルといってもそこまで大きくはなく、三階建ての小ぶりなマンション程度の規模だ。
ここはどうやら心霊スポットとして一部マニアの間では有名らしく、壁にはスプレーで落書きがしてあった。
メンバーは俺と林、田村、青山、島田の五人。土曜日の夕方に決行した。
霊が見える癖に人一倍怖がりな林は、着いて早々いちばんガタイのいい青山の後ろにひっついた。
「ここ、怖いよ。帰ろうよ……」
真っ青な顔で震える林。
「大丈夫大丈夫、俺達がいるし!」
人一倍怖いもの知らずな田村が林の背中をバンバン叩く。
いつもは明るい島田がずっと黙りきりなのも気になったが、俺達はホテルに入ることにした。
ホテルの入り口は封鎖されていたが、ドアのガラスが割られていたため容易く入ることができた。
フロントは赤い絨毯が敷かれ、天井には小さいシャンデリアがぶら下がっている。
小規模な割に内観には凝っているようだった。
「見ろよこれ、こんなの残ってるんだな」
青山が受付のカウンターにあった紙を拾った。色褪せてほとんど文字は読み取れないが、どうやら勤務表らしい。
「今はボロボロの廃墟だけど、昔はここで人が働いたり泊まったりしてたと思うとなんか不思議だよな」
俺がそう言うと、林がぽつりと言った。
「確かに……昔はここは普通に使われてた場所なんだよね。そう考えたらそんなに怖くないかも」
「だろ?お前はいちいちビビり過ぎなんだよ!」
そう言って青山が笑うと林も笑った。
廊下を進む途中で、ずっと黙り込んでいた島田が口を開いた。
「林、お前霊感あるんだよな?ここに来てから霊とか見たか?」
「あ……そういえば見てないかも」
「じゃあここには霊はいないんだな。つまんねー」
田村がガッカリしたような声を出す。
島田が何か言いたげなのが気になって
「どうした?」
と尋ねてみたが、島田は「いや」と小さく笑うだけだった。
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