秋葉原で会いましょう

昔、まだSNSをやっていた頃にとんでもない体験をした。


ある日、ほとんど使っていないSNSのアカウントに、知らない人からメッセージが届いていた。

白黒のメイド服を着た"マイ"という女の子だった。

メッセージ内容は

「はじめまして、マイといいます。

あなたのプロフィールを見て趣味が合いそうだと思いメッセージしました。

よろしくお願いします」

という、とても丁寧な文章。

今の俺なら「どうせ釣りだろ」で無視できたのだろうが、当時の俺はとにかく女の子に飢えていたため、なんの疑いもなく返信をした。

そしてその子とのメッセージのやり取りが始まったのだ。


マイはメッセージの中で、東京に住んでいることと友達がいないこと、そしてメイド服は私服として着ていることを明かしてくれた。

(ロリータ服じゃなくてメイド服を私服にするとは変わった子だな)

と思いつつも、何故か俺はこの子に猛烈に惹かれていった。


そんなある時、いきなりこんなメッセージが来た。


「よければ、秋葉原で会いましょう」


えっ、もう会っちゃうの!?いいの!?

舞い上がった俺は即座に「いいよ!」と返事をした。


しかし当日になって、急激に不安が襲ってきた。

本当に会っていいのか?騙されてないか?

とりあえず俺は少しでも不安要素を無くすために、友人の中でいちばんコワモテな健二を誘った。

万が一美人局やヤバい勧誘だった場合、俺一人では逃げられないが健二がいればなんとかなりそうだったからだ。

健二はめんどくせえよと言いつつも、俺が交通費とメシ代を出すことを条件について来てくれることになった。


待ち合わせ場所に指定されたのは、駅からだいぶ離れたほとんど人目につかない細い路地だった。

「おいおい、これ本当に大丈夫かよ?」

さすがの健二も狼狽える。

「とりあえず遠くから見てヤバそうだったらすぐ逃げよう」

心臓がバクバクと音を立てる。

こんなに緊張したのは受験の時以来だ。

果たして、待ち合わせ場所にマイは……


「いた、あれだ」

細く光の当たらない路地の真ん中辺りに、メイド服を着た少女が後ろ向きで立っていた。

恐る恐る近づいていく。

健二は離れた所から見守っている。


「こんにちは、マイさんだよね?」

「はじめまして、来てくれてよかった。実は来ないんじゃないかと思ってたから」

マイがゆっくりと振り返る。

真っ白な肌にガラス玉のような翡翠色の瞳。

まるでこの世のものとは思えない美少女だ。

いや……よく見るとそれは"人形"だった。


「嬉しいなあ、来てくれて」

ノイズの入った声でマイが喋る。

俺は身体が動かなくなっていたが、異変に気づいた健二に腕を引っ張られ我に返った。

「おい、あれなんなんだよ!?」

健二が怒鳴り散らす。

「いや、俺にも……わからない」

マイはしばらくケタケタ笑っていたが、目玉がぐるんと回転するとその場に倒れてしまった。


しばらくして警察と共に路地に戻ると、そこにはメイド服を着せられた人形が倒れていた。

当然だが動かす装置やスピーカーなんかはついてない、ただのゴム人形だったのだが

「まあ、タチの悪い悪戯でしょうね」

で済まされてしまった。


俺と健二はほとんど言葉も交わさずに、ラーメンだけ食べて解散した。

その後俺はSNSを退会、健二とはたまに会うがマイの話題だけはお互いに避けている。


あれ以降秋葉原に行けなくなってしまったのは言うまでもない。



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