ジグソーパズル②

夜。滅多に夢を見ない俺が珍しく夢を見た。

チューリップ畑の真ん中に後ろ向きで立つ彼女。長い髪がさわさわと風に揺れている。

彼女に近づきたくて歩いているのに、彼女との距離は縮まるどころかどんどん遠くなっていく。

彼女の名前を呼びたいのに、俺の口からは何故か全く知らない女の名前が出てくる。

「××!××!」

手を伸ばし、必死に叫んでも彼女は遠くなっていく。

そして見えなくなる直前、彼女が振り向いた。


「あーあ、見ちゃったね」


彼女の顔の真ん中に、大きな黒い穴が開いているのが見えた。


「わあっ!!!」

汗だくで飛び起きた。

何故あんな夢を見たのか……きっと自分の精神が不安定だからだ。

そう言い聞かせたいのに、何故か俺は押し入れにしまったジグソーパズルが気になって仕方がない。

ふと、押し入れのほうに目をやると、きちんと閉めたはずの戸が薄く開いていた。

「……?」

ゆっくり押し入れに近づき、戸を閉めようとしたその時。


「見ないふり、しないよね?」


押し入れの中にいる"何か"が喋った。

それは顔の真ん中に黒い穴が開いた、髪の長い女だった。

俺はその場で気を失った。


翌日、上司からの電話の音で目が覚めた。

俺は押し入れの前で仰向けの状態で寝ていたようで、身体中が痛かった。

押し入れの戸は閉まっている。

恐る恐る開けてみると、しまったはずのジグソーパズルが消えていた。


あれが何だったのか、今考えてもよくわからない。

彼女が俺に何かを伝えたがっていたのか、ジグソーパズルに女の霊が憑いていたのか、霊なんていなくて俺が勝手に何かを怖がっていただけなのか……


とりあえず、あれから俺の身には何も起こっていない。


あの玩具屋はいつの間にかなくなっていた。




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