ジグソーパズル①
数年前、当時付き合っていた彼女を事故で亡くし落ち込んでいた俺は、都内某所の繁華街の外れで古い玩具屋を見つけた。
今にして思えばなんでそんな店に入ろうと思ったのか不思議だが、多分その時点で何かに魅入られてしまっていたんだと思う。
玩具屋の中には古いプラモデルやレトロな着せ替え人形、色褪せた塗り絵や折り紙、遊び方がよくわからないボードゲームみたいなものが所狭しと並んでいた。
店主はハリー○ッターのダン○ルドアを和風にしたような白髭のおじいさんで、小さい丸眼鏡をかけてレジで読書をしていた。
「いらっしゃい、ゆっくり見ていってよ」
俺みたいな若い客も珍しくないのか、店主はさほど驚く様子もなくそう言った。
一通り見ていて、ひとつ気になった商品があった。
それは何の変哲もないジグソーパズル。
パッケージはすっかり色褪せていたが、色とりどりのチューリップの束を持った外国人の女の子がこちらを見て微笑んでいる写真のパズルで、なぜか無性に惹かれてしまった。
「すみません、これください」
俺はなんの迷いもなくパズルを購入した。
帰宅してすぐにジグソーパズルを開封する。
ここであることに気がついた。
(この女の子、彼女に似てるんだ)
彼女は花が好きだった。
チューリップだって有名な公園までわざわざ見に行ったことがある。
(あの時は確か途中であいつが靴擦れ起こして、でも近くにコンビニがなくて……)
なんで絆創膏のひとつも持ってきてないのよ!と頭を叩かれたことを思い出した。
(で、俺は「公園にそんな靴で来るのが悪い!」ってあいつに言ったんだよなぁ)
そんなくだらない喧嘩のひとつひとつが今にして思えばとても楽しかった。
ふと気がつくと部屋の中が暗くなっていた。
どうやら疲れて眠ってしまっていたらしく、窓の外を見るとすっかり日が落ちていた。
「やばい、夕飯の支度しないと」
いやでも、何か食べようにも食欲がない。
適当にコンビニ飯で済ませるか、なんて思いながら立ち上がり、部屋の電気をつける。
床に完成したジグソーパズルがあった。
「あれ?俺、これ箱から出しただけで手つけてないよな……寝ぼけながら作ったのか?いやまさかそんな……」
ふと、誰かに見られているような気がして振り返る。もちろん誰もいなかったが、急に寒気がした。
買った時は彼女に似てると思った写真の女の子も、なんだか不気味に見えた。
俺はジグソーパズルを崩すと箱に戻し、押し入れにしまった。
きっと、彼女を亡くしたショックでおかしくなってるんだ。そう思うことにした。
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