立ち入ってはいけない場所③
それから数日後、光一からまた電話があった。
「今からうちに来れない?ちょっと見てもらいたいものがあるんだ」
家に行くと、光一が写真の束をテーブルに置いた。
「これ何の写真?」
「この間竹林で撮ったやつだよ」
そういえば、すっかり忘れていたが光一はカメラを持っていた。
「現像していいものか悩んだけど……」
光一が撮った写真を一枚ずつ見る。
竹林の写真は光の差し込み具合といいとても綺麗に撮れていたが、何枚か見ていくとおかしなことに気がついた。
「これ……こんなのいたっけ」
竹林の竹の間から、小さな子供のような顔がいくつも覗いている。
光の加減でそのように見えているのかと思ったが、光一曰く「現像してしばらく経ってからこの顔が浮き上がってきた」らしい。
俺は祖父から聞いた話を光一にも教えた。
光一は俺達が見たあの家がとっくになくなっていたものだと知ると絶句した。
「でも言われてみれば確かに、あの竹林の中に建物があるなんて今まで誰にも言われたことなかったよな」
光一は何か考え込んでいるようだった。
「光一お前、ひとりでまたあそこに行こうとか考えてないよな?」
俺の問いに、光一は図星を突かれたようにハハッと笑った。
長いようで短い夏休みが終わった。
慶太と晃のことが心配だったが、2人ともすっかり元気になって登校してきた。
ただ、不思議なことに2人とも竹林に入った時の記憶を失っているようだった。
(まあ無理に思い出させてもあれだしな……)
ふと、あることに気づく。光一が来ていない。
俺「あれ?光一は休み?」
慶太「さあ……聞いてないな」
晃「夏休み終わったの忘れてるとか?」
なんだか嫌な予感がした。
実はあれから毎日、光一とは電話をしていた。
昨日も電話で「学校で会うの楽しみだな」と話したばかりだった。
体調が悪いなら連絡があるはずだが、どうやら学校のほうにも連絡は来ていないらしい。
俺達は放課後に光一の家に行ってみることにした。
光一の家は何度チャイムを鳴らしても誰も出なかった。
「あのー!誰かー!」
晃がドアをドンドンと叩き始めた。
すると、隣の家のドアがガチャリと開いた。
「そこの人、引っ越しちゃったからもういないよ」
40代くらいの女性が迷惑そうな顔で言った。
「え?引っ越した?え?……」
「そうだよ。何日か前かな。急に引っ越しのトラックみたいなのが来て、みんな逃げるようにどこか行っちゃったよ。噂だと、息子さんが病気になったとかなんとか」
女性の話によると、ぐったりした光一をお母さんが抱き抱えてタクシーに乗り込むのを見た人がいるらしい。
「そんなことって……」
俺達は顔を見合わせた。
おかしい、昨日も電話したのに。
学校で会おうと言っていたのに。
当然、光一一家が急に居なくなったことについては学校でも問題になった。
しかし、どういうわけか校長の一存で光一が他校に転校したということで話が片付いたらしい。
しばらくはクラス内でも光一のことで根も葉もない噂話が流れていたが、冬休みを迎える頃にはそんな話も聞かなくなった。
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