立ち入ってはいけない場所②
光一の家から帰宅すると祖父が家に来ていた。
そういえば祖父は小さい頃からこの町に住んでいる。あの竹林のことを何か知っているかもしれない。
俺は竹林に入ったことは黙った上で祖父にそれとなく聞いてみた。
「ああ、あそこはな。入っちゃいけないっていうのは、昔から誘拐事件が多かったからなんだよ。あの辺は人通りも少ないし、暗くなると街灯もほとんど無くて真っ暗になるだろ?おまけに竹が密集してて中が見えづらい。だから子供に、あそこに近づいちゃいけませんよって言ってきたんだ」
なんだ、そういうことだったのか。
祟りなんか想像してビビってたけど、要は不審者の的にされて危ないから近づいちゃダメだっていう、単純な注意喚起だったのだ。
「それじゃ別にあそこで幽霊が出るとかではないんだね」
俺が笑ってそう言うと、祖父が急に真剣な眼差しを向けてきた。
「……誘拐が多いっていうのはな、あくまで建前だったんだよ。あそこに立ち入ってはいけない本当の理由は他にある」
以下が祖父から聞いた話である。
昔、あの竹林の中央に一軒家があり、そこにとある夫婦が住んでいた。
とても仲睦まじい夫婦は周囲の住人とも仲が良かったが、ある日奥さんが流産してしまう。
奥さんは子供を亡くしたショックで頭がおかしくなってしまい、周囲の住人に「お前が私の子を殺したんだ!」と襲い掛かるようになってしまったらしい。
そのことがきっかけで夫は自殺、奥さんはしばらく一人で竹林を徘徊していたが、そのうち近くの川で溺死しているのが見つかった。
それから、竹林付近で遊んでいた子供が行方不明になる事件が相次いだ。
ほとんどの子供はついに見つからなかったが、ある時、行方不明になっていた子供のひとりが空き家となった夫婦の家の中で発見された。
その子供は余程恐ろしい目にあったのか髪が老人のように真っ白になり、言葉を話せなくなっていた。
しかし時間が経つと少しずつ、自分の身に何が起きたか話すようになった。
「死んだはずのあの家の奥さんが、子供を攫って食べている」
当然、誰も信じなかった。
しかしその子供の身体には確かに何者かに噛み付かれたような歯形があった。
「それからだったかな。竹林を柵で囲ってね、中に入れないようにしたんだ。今も定期的に偉い神主さん呼んでお祓いしてるみたいだが……多分、あそこはもう駄目だろなあ」
「そんなことがあったんだ……」
俺は安易な気持ちであの竹林に立ち入ったことを後悔していた。
慶太と晃が体調を崩したとはいえ、4人とも無事に戻ってこれたのは奇跡だったのだ。
しかし、続く祖父の話を聞いて俺は絶望した。
「夫婦の住んでた家も子供が見つかってすぐに壊された。あの竹林には今はもう家はないが、夫婦の怨念は残っているのかもしれんな」
……家が壊された?今はもう家はない?
「……その夫婦が住んでた家以外の建物は無かったの?」
「無かったな。一度入ったことがあるが、建物は夫婦の家だけだったなあ」
じゃああの時、俺達が見たのは……
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