スポーツカーの主②
その日の深夜、ブォンブォンという車の音で目が覚めた。
身体を起こし、窓から外を見る。
まただ。スポーツカーの運転席に、人がいる。
(やっぱ見間違いじゃねーじゃん!)
俺は兄の部屋へ行くと、気持ち良さそうに寝ている兄の頬を引っ叩いて起こした。
「あ?なんだよテメー」
「いいから俺の部屋に来い!」
兄と一緒に窓から外を見る。
スポーツカーの運転席に人がいるのを確認すると、兄は顔色を変えた。
「あれ……泥棒じゃないか?」
「え?」
兄は俺の部屋の隅に立て掛けてあった木刀を掴むと「お前も来い!」と言って部屋を飛び出した。
兄と一緒に庭に出る。
車の運転席にはまだ人がいた。
……が、様子がおかしい。
おそらく着ているのは白いシャツなのだろうが、そのシャツが真っ赤に染まっている。
顔もどこか虚で、あちこちから血が滴っている。明らかに生きている人間ではない。
その時、兄の手から木刀が落ちる音がした。
「ゆ、雄太……」
「え?」
兄はふらふらの足取りで車に近づいた。
「雄太、お前……成仏できてないのか……」
兄が近づくと、車に乗っている血塗れの青年が顔を上げた。
「雄太、気づいてるか?お前もう死んでるんだよ。死んでるんだよ……」
兄の目からボロボロと涙が溢れる。
そんな兄の姿を見たのは初めてだった。
雄太さんは泣いている兄を見て自分が死んだことに気づいたのか、血塗れの手をじっと見つめて悲しそうな顔をした。
そして兄のほうに目を向けると、少しだけ寂しそうに微笑んだ。
「ごめん、ありがとう」
そう囁く声が聞こえた気がした。
その後どうやって部屋に戻ったのか全く記憶に無いが、気づくと俺は自分のベッドで爆睡していた。
不思議なことに兄の記憶からは昨晩の出来事がすっかり抜け落ちており、自分が泣いていたことすら覚えていないらしい。
しかし、兄の夢に雄太さんが出てきたらしく
「車大事にしてくれよ。あとお前は事故るなよ!」
と言われたらしい。
雄太さんの車を貰った他の人達が同じ体験をしたかはわからないが、彼が無事成仏できたことを願う。
終
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