呪われる

高校生の頃、私は漫研部に所属していました。

部員は皆基本的にのんびりしており、各々好きな漫画を読んだり絵を描きあったりして好きなように過ごしていましたが、年に一度だけ部員全員が気合を入れるシーズンがありました。

それが、文化祭前です。


我が校の文化祭ではクラスごとの出し物の他に部活動でも出し物が義務付けられており、漫研部は毎年オリジナルの漫画やイラストを収録した本を出すのが習わしになっていました。

その部誌には『漫画部門』『イラスト部門』それぞれの投票用紙がついており、収録されている作品の中で最も良いと思ったものに投票してもらうのです。

そして見事、1位に選ばれた生徒には顧問から図書カードが贈られるという、ちょっとしたコンテストになっていました。


私は当時、ギャグ漫画が好きだったのでクラスの友達をモデルにした学園もののギャグ漫画を描きました。

仲の良い友人のMは、当時ハマっていたゲームから構想を得て異世界ファンタジーものを描いていました。

私たち2人はコンテストには興味が無かったので、ただただ描いてて楽しいものを描こうという気持ちで原稿を進めていました。


途中で物語を変更したり、気に入らないページを丸ごと削ったりしながら、私もMもなんとか作品を作り終えました。

出来上がった部誌は無料配布するのは勿体ないほどの出来栄えで、部員全員で互いの作品を褒め合いました。


文化祭当日、部誌を配り投票用紙を回収するという作業を延々と繰り返し、気がつくと楽しかった二日間はあっという間に終わってしまいました。

文化祭後の部活では、投票の集計を行います。

しかしここで、妙なことが起こりました。


「あのさ『呪われる』ってタイトルの漫画描いたの、誰?」

集計を終えた部長が不思議そうな顔で部員達に尋ねます。

そんな漫画あったっけ?と不思議に思い、手元にあった部誌をパラパラと見てみましたが、そんなタイトルの漫画もイラストもありません。

「おかしいな、じゃあこれ悪戯なのかな?いや、それにしても……」

部長は困ったような表情で投票用紙を見せてくれました。

見ると、漫画部門のほとんどの投票用紙に「『呪われる』という漫画が面白かった」と書かれていたのです。


結局その時は、誰かが集団でタチの悪い悪戯をしたんだろう、という事で片付けました。

しかし後日、たまたまMと廊下で会った時にMが神妙な面持ちで話しかけてきたのです。

「あのさ、今日放課後時間ある?部誌のことで話したいことがあって……」

Mの顔は真っ青でした。


Mの家に行くと、Mは何も言わずに一冊の部誌を出してきました。

「これ、部長が言ってたやつだよね」

渡された部誌を捲ると、一ページ目にいきなり『呪われる』というタイトルの扉絵が現れました。

「えっ何これ……こんなの誰も描いてないよね?」

私が尋ねると、Mは真っ青な顔で頷きました。


『呪われる』という漫画の内容については、詳細を伏せさせていただきます。

この漫画の内容を知ることが何らかの呪いに繋がってしまう場合、この話の読者にも影響が及びかねないからです。

ただ、結論から言うと話の内容も絵もそこまで怖くはありませんでした。

ただ、複数の読者が「いちばん面白かった」と評価するような作品ではなく、ただただ「これは何だったんだ?」とクエスチョンマークが浮かぶような漫画でした。


翌日、その部誌を持って部活に行きました。

部長も他の部員も『呪われる』を読んで首を傾げていましたが、全ての部誌にこの話が載っている訳ではないことから「第三者が勝手に自分の作品を印刷したバージョンを作ったのではないか」という推測となりました。


その後、霊的な怖いことは何ひとつ起こっていません。

が、あれから数年経ち当時の部員が事故に遭ったりビル火災に巻き込まれたり、通り魔に刺されたりと妙なことが相次ぎました。

私も電車のホームで何者かに背中を押され、危うく轢かれそうになったことがあります。

これがあの漫画の呪いだとは思いませんが、不思議なことにそういった不幸が起こっているのは、あの日『呪われる』という漫画を読んだ部員だけなのです。


一度だけ、いつの間にか連絡が取れなくなっていたMから

「あの漫画についてわかったことがある。会って話したいから〇〇駅に来てほしい」

と電話が来たことがありますが、Mは〇〇駅に行く途中で交通事故に巻き込まれ、数日間生死の境を彷徨った後に亡くなりました。


私もそのうち死ぬんだと思います。



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