第19話 青い炎と新しい敵

「金属よ、空中を飛び全てを切り裂く剣となせ、フロートソード」




まずその言葉によって剣が中に浮く。


間違いなく一番こちらにとっては対処が難しい魔法だろう。


それを唱えてくる、そしてインコ本人はなぜかドラゴンゾンビの卵の上に降り立った。


もしかしなくてもと思い、すぐにその人の名前を呼ぶ。




「レイラさん!」


「マヤ様…わかりました!」




言葉と視線である程度のことを理解してくれたのだろう、レイラさんは腰からナイフを取り出して投げる。


それは一直線に飛んでいき、そして今まさにシュウに殺到しようとしていた剣たちは舞い戻り、円を描くようにして空中を回り、ナイフを弾く。


予想はしていたけれど、どうやら予想通りのようだ。




「さっきからのことでもしかしてと思っていましたけど、魔法は一つしか使えないようですね」


「ふふふふ…ひゃひゃひゃひゃ…もうなんなのよ、なんなのよ。どうして一度戦って、しかも今みただけのあんたみたいなやつにそんなことが簡単にわかるのよ」


「いえ、だってさっき作った人形たちもまったく動く気配がなくなりましたからね」




そうなのだ。


地面に足を取られたとしても、最初はじたばたとその地面から抜け出そうと、人形たちは動いていた。


ただ、今はその気配がなく。


代わりに新しい魔法を使って攻撃をしてきている。


そこで一番考えられるのは、効果を持続させる魔法を使う場合には、その魔法しか使えないというものだ。


というのも、最初の魔法やこれまでの魔法であっても基本的に使えるものは一つだったからだ。


確かに魔法が完成してしまい、それが自然的に消滅するのを放置するのであれば、新しい魔法を作れるのだろうが、一度魔法が完成するまでは一つの魔法しか使えないというものだ。


二つを組み合わせる合体魔法はそれとは違うものにはなってしまうが、基本はそうなのだろう。


だから、あの宙に浮いた剣は動かしている間は他の魔法を使うことができないというものなのだろう。


それを見抜いたというよりも気づいてしまったのだ。


だがというべきか、それを面白くなさそうにというか、憎たらしそうにこちらを睨みながらインコは悪態をついているのだろう。


でも、これで面白いことができることがわかった。


それを試すには僕には魔力が足りない気がする。


だからこそ、そのやり方を簡単にノエさんに説明すると、ノエさんから意外な言葉が返ってきた。




「もしかしたら、そのやり方ができるのなら、さっきの…」


「それは楽しみですね」




最後には自信なさげに音量が小さくなってしまったけれど、言いたいことはわかった。


そう、あのときに暴走はしてしまったけどだせた、青い炎のことだろう。


そうなってくると、僕自身も新しいことというべきか、先ほどのことで新しくできたことを思いだしていた。


といっても、無我夢中で感覚も残っていない。


結果として、ただ残っているのは、魔法を斬ったという事実だけだ。


なんであんなことができたのかはわからない。


なぜこんなにも余裕になっているのかというと、インコがすでに暴走しているからだ。


それまでの冷静な感じはなく、魔法によって作り出した剣によって斬りつけるだけ…


それも自発的に動いているものではなく、インコ自身が動かしているのだろう、剣で戦った経験がないからか、攻撃が単調すぎて、シュウとシズエさんで完璧に攻撃を防ぎきっている。


そんな余裕なこちらの態度にイライラがたまっているのか、髪を振り乱し、攻撃を行ってくる。




「ノエさん!」


「任せて、マヤ君。風よ、火よ…く…」




ただ安定しない。


何かをしようとしているのを感じたのだろう、そしてそれがあることだとわかったのだろう、インコはさらに笑う。




「きゃはははは、無理無理無理無理…あんたなんか何もできないのよ。できたところでわたくしに攻撃なんて当てることができるはずなんてないのよ」




その言葉で、先ほどまで少し自信をもって魔法を唱えようとしていた顔がゆがむ。


このままではまずい。


そう結局のところ上空でバカにされるくらいにはこちらには決定打というものがない。


そして、相手の笑い声はさらに壊れていく。




「ひゃひゃひゃひゃ…わたくしの魔法はまだまだいけるのよ!」


「マヤ様、まずいです!」




レイラさんのその言葉で、僕はわかった。


そう、少し余裕をもっていたのが悪かったのだ。


防いでいるから大丈夫だと思っていた攻撃ではあったが、その剣たちはただこちらを攻撃しているものではなかった。


インコ自身が作り出したドールを破壊するためでもあったのだ。


強制的に解除された魔法だからこそ、ドールはそこに残っていたが、すでに二体は壊され、その中から一体化していた金属が剣となって増えているのだ。


一体につき二本か…


さすがにあの量は防ぐことができないだろう。


といっても、魔法を使い続けられているインコと違い、僕たちはこの後、どれくらい魔法を使えるかわからない。


だから撃ちあいをするというのも難しいということを考えると、やはりここで頼れるのはノエさんだけだった。




「レイラさん、前をお願いします」


「任せてください」




防ぐという意味では、相手の手数が増えている以上、僕のように剣一本で防ぐというのも難しい。


一応鞘があるといっても、それですべてを防ぐというのは難しいと考えたのだ。


だから、ここはナイフを多くもっており、多様性に優れたレイラさんに防いでもらって、僕はこちらに集中しようというものだった。


僕はすぐにレイラさん、そしてインコからも視線をそらし、ノエさんに向き直る。




「マヤ君⁉」




驚きを隠せないでいるノエさんの顔を真剣に見る。


すぐに視線は下を向いた。




「そんな、相手に背を向けたら、避けられる攻撃も避けられないんじゃ…」


「そう思うのなら、魔法で守ってくださいよ」


「でも、わたしが使えるのは攻撃できるものだけだから」


「だったら、さっさと倒してください」


「火よ、風よ、二つが混ざりて一つの魔法となせ、風よ火を燃やし強い火の玉になって敵を撃ちぬけ、ヒートボール」




その言葉とともに放たれたのは、強い火の玉だ。


でもそれはインコによる魔法の剣で斬られてしまう。




「それでは足りませんよ」


「でも、だって…わたしができる一番強い魔法だから…」


「そうなんですか?」




僕は再度強く手を握りしめた。


でも力は思ったより入らない。


お互いの手が震えているのだ。




「マヤ君なんで…」


「だって…」




人を信じるのが怖いから…


そう言葉にはできなかった。


でも、ノエさんにはなんとなく伝わったのだろう、下を向いていた顔が上がり、覚悟をきめたように、僕を押しのけるようにして一歩前に出た。







わたしはバカだった。


教師というには未熟なままで、子供たちに教わることばかりなのだということを今更ながらに実感した。


それでも真剣に向き合ってくれるマヤ君のことが、まあ好きなんだろう。


覚悟をきめた途端に、触れられている手が温かく思える。


そうだ。


ここはわたしのことバカにしたり、けなしたりする人はいないのだから…


集中する。


そう、できていたのだ。


それは確かに少しだけのことだったのかもしれない。


それでもわたしはあのとき成功していた。




「ノエ!」




その言葉とともに、シズがわたしの手を握ってくれる。


同じように苦しんでいたけれど、そんなところを全く見せようとしなかった、わたしの友達。


友達になったのは、このゲームが発売してからだけど…


左にはシズが、右にはマヤ君が手を握ってくれる。


左手と、右手…


それぞれの温かさを感じてわかった。


わたしは口を開いた。







魔力の高まりを感じた。


それはノエさんのほうだ。


まさしく、あのタイガーと同じように高まりを感じたのだ。


これはと思ったときにはノエさんはさらに前に出る。


そして、手は離され、前に突き出す。




「風よ、火を燃やせ、火力を上げろ、威力を上げろ、青い炎となれ、ブルーフレイム」




まさしく青い炎。


それは見るからに高温だった。




「防いでみせりゃひゃひゃひゃ」




それでも相手のインコはそれを防げると思っているのか、剣を回転させて防ごうとする。


だが、この魔法はそんな甘いものではなかった。


何もそこになかったかのように魔法の剣ごとインコを炎に包んだ。




「熱い、熱い…」




炎に包まれるインコを見ながらも、苦しみかたが現実というべきだろうか、どこか遠い画面の出来事を見ているようだった。


それでも目の前で熱いともだえるインコは現実にそこにいる。


僕は、それを見ていられなくて、右手を前に突き出した。




「マヤ様!」




ただそれは、レイラさんによって止められる。


焼かれていく姿を見ておけというのか?


戦った相手だというけど、それでも…


このまま焼かれていくのをただ見ているだけというのは忍びなかった。


そんなふうにして、どうしようとかと悩んでいたときだ。




「わたくしは、まだ、まだ、まだ…魔法よ、我の体を一体化させ、一つの体にせよ、チェンジアライブ」




何も口にしなかったため、もう話せないものだと思っていたが、違ったようだ。


その魔法により、インコは光を放つ。


背中に悪寒が漂うとともに、僕はみんなに声をかける。




「逃げよう!」




訳も分からないみんなと違い、僕はなんとなくわかったのだ。


最後にしようとしたことが…


だからこそ、ここから離れないといけないというのがわかった。


動こうとしないレイラさんの手を取るが、逆に引っ張られる。




「マヤ様。ここでこいつをやらないと、いけませんから」


「違う、このままじゃ、ここにいるみんながやられてしまう!」


「どういう意味ですか?」


「卵を見て!」


「!」




そうなのだ。


光っているのは、インコだけではない。


それまでは、まだ中でドラゴンゾンビが成長を続けているように見えたが、その卵も同じように光っていたのだ。


そして、レイラさんも、そのおかしさに、同じように駆けだす。


後ろでチラリと見えたときには、すでにお互いが重なりあうようにして同化し始めているときだった。


まずい。


後ろからの冷や汗を感じながら、僕たちは砦の先に向かってかけた。


ここから早くでないとまずい。


そう感じるとさらに通りすぎるまでに時間がかかりすぎる。


このままではまずい、そう思っていたときだった。


すぐ後ろから声がする。




「よう、マヤよ」


「タ、タイガー⁉」




その人物に驚く。


突然の獣人の登場に、全員が警戒を示す中で、僕だけはここに来た理由がなんとなくだけどわかった。




「あれは、どうすればいい?」


「そうだな。俺様のほうで回収しておく。だが、もって二週間だ。その後にあいつは解放される。それまでに強くなれ…あいつは絶対にお前たちの方へ来る」


「わかった」




その言葉だけを残し、雷を従わせて、その場を去って行く。


後ろから感じていた強烈なプレッシャーがなくなったのを感じながらも、僕たちは砦の端まで走りぬいたのだった。

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