第18話 説教を受けて
いつからだっただろう。
ゲームにはまったのは?
わたしはそんなことを学生の時に考えていた。
勉強の息抜きにと始めたそれは、わたしの性に合っていたのか、息抜きとしてちょうどよく。
そして、いくつものゲームをこなしていくうちに、わたしはそれなりにゲームをうまくなっていた。
だからゲームでも頼られることが多くなっていた。
元々勉強も教えるのが好きという点から、学校の先生になろうと思い、わたしはゲームでも勉強のように教えたりしていたのだ。
それが楽しいと思っていたし、そうして成長していく仲間たちを見て、楽しくなっていた。
そんなことがずっと続くと思っていた…
でも、それは起こったのだ。
あれはまだ、ヴァーチャルリアリティのゲームでこのダイブゲームの前にはまっていた時のことだった。
大学のみんなと仲良くゲームをしていた。
「ねえ、どうせだから、クエスト行くんだけど、手伝ってよね」
「いいけど」
「本当、ありがとう、またみんなに声かけとくね」
仲良くしていた、その子に声をかけられ、いつものゲームを一緒にやっている大学の仲間たちとするために、わたしはゲーム内にログインした。
このころからというべきか、どんなクエストを行くのかを前もってきいて、ある程度レクチャーできるようにしていた。
そして、今回も途中まではうまくいっていたのだ。
それは、いつもとは違うことが起きたのだ。
「ねえ、あれ何かな?」
「うん?」
「ええ、なんかな?」
クエストも終盤というときに現れたのは、このクエストに関係あるのかはわからないが、何かのアイテムだった。
表示されているアイテム名に聞き覚えはないし、見覚えもない。
クエストに必要のないもの?
さすがにわからなくなっていた、わたしはうーんと悩んでいた。
みんなはわたしの言葉を待っているようだった。
「もっていてもいいものなんじゃない?」
「確かにね、一応レア度はそれなりにあるアイテムだもんね」
そんなことを話しながら、わたしたちは目的であるボスに向かって進んだ。
危なげなくといえばいいのか、それなりに少し苦戦はしながらも誰もやられることもなくボスを倒し終えたわたしたちはアイテムを受け取り、そしてその場を後にしようとしていた。
そんなときだ。
「転送!」
誰かが言った。
ただ、次の瞬間には、全員が違う場所に転移させられていた。
そして目の前に現れたのは先ほどよりの数段は格上のボス。
驚きながらも、なんとかやられずに善戦しているようだったが、それでも慣れない連戦であり、さらには先ほどのボスとの動きが全く違う。
そんなときだった。
わたしが放った魔法が、味方に当たってしまったのだ。
このゲームでは基本的に、味方に当てたところで味方にダメージが入るということはないが、それでも当たることによるノックバック…
簡単にいえば、反動が起こり、少しプレイが遅くなるということがあるのだ。
そこからは早かった。
すぐにリズムが狂い、前線が崩壊。
そして全滅した。
ゲームの中のこととはいえ、やってしまったことで、わたし自身教えていたときには何度も味方の攻撃をくらったりしていた。
だから、そのときは許されるだろう。
そう思っていた。
でも、そうではなかった。
味方全員から糾弾を受けた。
「それにさ、あのアイテムも違うボスに転移するためのアイテムみたいだったし、何が大丈夫なんだか」
「それは…」
「なに?もう楽しくないし、あんたなんかとやんないから」
そんなことをみんなに言われ、わたしは一人になった。
何がいけなかったのだろう。
最初はそう考えていたが、それも考えるのをやめた。
たぶん、自分が好きだからと、みんなに押し付けていた。
そう思うと、一人でいいとなってしまった。
ゲームでの一人は楽だ。
自分の中でそれなりにやっていればよかったから…
それからはそうやって、やってきた。
ただ、そんなときにシズと出会い、ゲームを全く知らない人を教える楽しさや、また一緒にパーティーとしてゲームをやるというのが、楽しくなり、気づけばマヤ君やほかの人ともゲームをやるくらいの仲になっていたのだ。
でも忘れていた。
わたしは魔法を撃てない。
もしマヤ君に当たってしまうということを考えると、それだけで体から嫌な汗が出て、さらには動機も早くなる。
自分でもわかっている。
このままじゃいけないということが…
これまではよかった。
相手が自分の想像するほどのスピードだったのだ。
だから、目で追ってある程度魔法を当てられた。
でも今は違う。
目で追えないスピード。
これまでとは違う緊張感。
何もかもが、余裕をなくす材料になっていた。
ただ、その時間も長くは続かない。
目の前にマヤ君がもっていた刀の鞘が飛んでくる。
助けなきゃ、助けなきゃ…
わたしが!
「風よ、火よ、はあああああああ」
それは魔法と呼んでいいものかはわからないものだった。
ただの火の魔力と、風の魔力をそれまでのように混ぜるという意識ではなく左手と右手からお互いに出すというイメージで放ったのだ。
混ざるというよりも衝突しあい、そして普通ではない魔法となった。
青い炎。
普通の色ではなく、より燃焼力が上がったそれはマヤ君と、そしてタイガーと呼ばれた獣人に向かって飛んでいった。
「マヤ君、よけて」
わたしの言葉は届いただろうか?
わからない。
もう…
ただ、魔法は消えた。
それはマヤ君がもっていた刀によって斬られたということがその後すぐにわかった。
それを見ていたタイガーは、笑う。
それはわたしを見て、ただ、ただ楽しそうに…
「なんだ、なんだ!できるではないか…そしてやっぱり面白い。なんだそれは!」
「ボクにもよくわかりませんよ」
「ははは、それでも俺様を楽しませるというのには十分すぎる出来事よな。」
「それはどうも!」
「そして今さっきの魔法、ようやく気づいたんだな…まあよい、そこのお前名前は?」
「わ、わたしですか…ノエと言います」
「そうか、ノエか!いいだろう。俺様に面白い魔法を見せてくれた褒美だ。いいものを見せてやろう。先ほどお前がやっていた魔法の応用というべきか、完成がこれになるということを見せてやろう。」
そういうと、これまでマヤ君の近くにいたが、距離をとる。
そして両手を、少し広げた。
空気が震えるようだった。
「土よ、風よ…雷となせ。」
それはどの属性にも属さない、雷というものだ。
わたしは先ほど、失敗した魔法があれに似ていたことに気づいた。
ただ、それで終わりではないということがわかった。
「いくぞ!雷よ、我に雷の力を与える足をよこせ、サンダーブーツ」
雷の魔法。
バチバチという音をたて、雷で作られたブーツが足に現れる。
そして次の瞬間にはブーツを履いたタイガーはひゅっと音を立てて、消える。
「大丈夫だ、寸止めだ」
「くっ…」
マヤ君の顔の目の前で止められたタイガーの拳は、すぐにおろされた。
「まあ、今回は楽しませてくれたサービスっていうところだ。今回の俺様の仕事は終わったしな、ここいらで退散するからよ」
「そんな、目的はなんだったんだ?」
「それは、考えて見せろ。そして俺様をまた、楽しませろ。なあ、マヤ、ノエ。次に会えるのを楽しみにしている。」
そう言葉にすると、タイガーはすぐにどこかに走り去っていった。
よかった、なんとかなった。
すぐに腰が抜けたようにわたしは座りこんだ。
そしてすぐに、またあのことを思いだす。
そうだったのだ。
わたしは間違えて、マヤ君に向かって攻撃をしてしまったということを…
だからだろう、自然とわたしの足はその場から逃げるように走り始めていた。
「ノエさん!」
その姿を見て、驚きながらもマヤ君は追いかけてくるのがわかった。
でもわたしは走るのをやめない。
いや、やめられない。
ここでもし、マヤ君に何かを言われたら、悪態を一つでもつかれてしまったら、もうゲームをやめてしまうかもしれない。
身勝手なこと、それは自分自身もわかっている。
でもだからこそ、自分から離れていく。
それができれば…
そう思っていた。
ただ、そうはならない。
ここがどこであったのかというのをすっかりと失念していたが、ここは先ほどまで敵と呼んでいいのかはわからないけれど、戦った相手がいた場所なのだ。
一人の獣人がいる。
「なんだ?殺しそこねたのか?まあ、いい…やってやるよ」
槍のようなものを持った、まるでネズミのような顔をした男がこちらに向かってくる。
そっか、ここでこの槍に貫かれたら、わたしはもうゲームをやらなくて済むのかな?
そうすれば、わたしは…
そのまま槍に貫かれようとしたときだった。
穂が手前の柄ごときれいに斬られていた。
そして峰内にてそのネズミの獣人を昏倒させる。
無駄のない動きと、そして武器の使い方を完全に熟知されているような武器裁き。
それをあわせる動きというのは、どこか覚えがあるような…
でも思い出せることはなかった。
ただ、逃げることができなくなったわたしは、そのままマヤ君に両肩を掴まれてしまう。
「どうして逃げるんですか!」
「それは、だって…」
「何かありましったっけ?」
本当に逃げている意味がわからないといったふうな顔で、マヤ君はこちらの顔を除きこんでくる。
さすがに近いと思いながらも、わたし自身も疑問だった。
あれを怒っていないのかと、でも聞かないことには始まらない。
わたしは恐る恐る口を開いた。
「だって、その…魔法を誤爆しちゃったから…」
「なんだ、そんなことですか…」
「そんなことって…わたしにとってはかなり重要なことなの…」
「だってそんなことですよ」
「でも、だって、わたしが魔法を当てて、それで…」
何もかもが崩壊して…
そう口にする前に、マヤ君に頭をたたかれる。
驚く…
そらしていた顔を見た。
「何を言ってるんですか?ここは現実とは違う魔法の世界。それに現実世界だって、ボクたちは間違いや失敗なんて何度でも行うものです。特に、ノエさん…絵里先生はそのことをよくわかっているはずでしょう?」
「た、確かに…」
「だから、気にしないでください。それに、あの魔法もすごかったですし…そのときにできたあれもボクが少しでも成長できたということを考えれば、いいことなんですよ」
「そっか…」
「そうです。だから、そんな心配そうな顔をしないでくださいよ」
「そうだね…マヤ君に言われるとそうかもね」
わたしは、マヤ君に言われて笑みを向けた。
どこか心が軽くなる。
そして、わたしとマヤ君は合流するべく、その場を後にするのだった。
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