第17話 魔法がわかり始めた
砦の近くまで行くと、窓口のようなものが設置されている。
うん、これを見るとなんていえばいいのだろう。
会社なんかの受付に思えてくる。
違う点といえば、砦というものというのはただ建物があるだけだと思っていたが、さすがに砦があるだけでは生活できないということなのだろ。
円形状の十メートルくらいある本当に小さな町というものになっていた。
というのも、すぐに中に入れたからだ。
最初はなんだお前たちはと警戒をされたのだけれど、すぐにエリカさんに渡された、イカルガの名前が書かれた書類を渡すことによって中に入ることができたというわけだ。
「思ったより簡単だったな」
「イカルガのおかげだけどね」
「マヤ様、一応イカルガ様ですよと言いたいところですが、マヤ様なのでいいのかもしれませんね」
「いや、よくわからないことになってるからね」
「なんですかシズエ…私のマヤ様に意見ですか?」
「マヤやんには意見はしていないよ。レイラに言ってるんだよ」
「そうでしたか、それでしたらまあ、仕方ないですね」
「仕方ないんだ」
「ええ、ですが、マヤ様がイカルガ様と仲良くなるのは、それは運命というもので、その運命で私たちがここにいると考えるのが妥当でしょう」
「うん、結局はマヤやんがすごいということをいいたいだけってことだよね」
「当たり前です。私の中の神様ですからね」
そんな会話を聞かないようにしながらも、中を歩いていく。
これといってよるところはないのだけれど、それでもこのまま先に進んでいいのかも気になるところだった。
「この後、どうすればいいと思いますか、ノエさん」
「そうですね。攻め方についてということですよね」
「はい。さすがに正面から突っ込んでいくというのは難しいといいますか…でもある程度早めに攻めないといけないような気がして…」
「なるほど、マヤ君がそう思うのであれば、早めに何かアクションを起こすのが正解と思いますね」
でも、どうする。
チラリと、向かいにある砦から見ると、本当にあちらに向かうためには橋を渡るしかいけない。
あのインコという獣人であれば空を飛ぶということでいけるかもしれないけれど、そうじゃない限りは難しいだろう。
風で飛ぶことができれば…
うん?
今、なかなか面白いことを思いついた。
というか、このためにもしかすればイカルガにクエストの前に加護をもらったのではないのかと思うくらいには、成功さえしてしまえば面白いことになりそうだ。
「レイラさん、ノエさん」
「はい?」
「どうかしましたか、マヤ様?」
「空を飛ぼうとと思うんだけど、いいかな?」
「「マヤ君?何を言っているの?(マヤ様?何を言っているんですか?)」」
さすがに二人の驚きの言葉が聞こえてきたが、それだけで僕がひるむことではない。
そう思いついたことをここで説明する。
「えっと、クエストに行く前に風の魔法が強化されたような気がするってことを言っていたよね」
「それは、確かに言っていましたが…」
「マヤ様…もしかしなくても、風魔法も強化されたから前みたいに私とノエの二人で魔法を使い、それを組み合わせることで空を飛んでみようということですか?」
「ふふふ、そういうことになりますね」
「マヤ様、さすがに考えていることがわかってしまいましたが、危なくないのですか?」
「いけると思うんだけどなあ」
「そ、そんなキラキラとした目で見られると、断ることができないじゃないですか」
「いや、断ってよ。あたしたちも一緒に飛ばないといけない可能性が高いわけでしょ?」
さすがにというべきか、シズエさんからのツッコミが入るが、それをできるかもと思っているのはどうやら僕だけではなかったらしい。
「でも、できたらかなりカッコいいよね」
「ちょっと、ノエ…どうしてあんたまで目を輝かせているの?」
どうやらノエさんも考えは同じだったようで同調してくれる。
そしてシズエさんの隣ではシュウが肩をすくませながら口にする。
「ふ、俺たちが何を言っても止まらない。それがマヤのやり方ってものだろ?」
「シュウ、諦めて変なところを見ないでよ」
「でも、諦めるしかないだろう」
「そうかもね」
こうしてみんなの意見もまとまったところで、僕たちは砦の中央に集まっていた。
橋を渡れば流通都市カイの砦があり、さらにはそちらでは何かが行われようとしているというところから、基本的には、あちらの砦を警戒することで砦の中にいる人たちはほぼ全員が建物の中にいるか、外を見張っているという状況だった。
だからこそ、やるのであれば今だと思っている。
「準備はいいかな?」
「本当に行けると思う?」
「まあまあ、こういうときのためにいいものを用意したから…」
そして、手には石をもっておいた。
「こ、これは?」
「これで練習一回試してみて」
「そうですね。一度してみますね。ノエいいですか?」
「マヤ君の突拍子もないような発想は、なんでか成功する可能性が高いから、試すのは仕方ないね」
「風よ、衝撃を和らげる衣となせ、ウィンドヴェール」
「風よ、螺旋となって敵を包め、ウィンドトルネード」
石に発動した魔法により、風の膜に守られ、さらには竜巻によって飛んでいく。
成功か…
そう思っていたけれど、そうではなかった。
着地というべきか、落ちてきた石は、そのまま地面にあたり砕け散った。
「あ…」
それを見て思わず声がでる。
まあ少しは予想していたが、ものの見事に石は粉々だった。
「ちょっとマヤやん…今、あって声を出してたよね」
「ソンナコトナイヨ」
「どうしてカタコトなのさ」
「えっとね、実は少し予想していたことが起きたなって思ってね」
「でも、そうなるとどうするのですか、マヤ様。さすがにこのままではうまくいくとは考えにくいのですが…」
「うーん、何が悪かったのかな?」
「悪かったなって、マヤやんがさっき言ってたじゃん。それに見てたらわかるよ。完全に着地を失敗したんじゃないの?」
「まあ、そうなんだけどね」
「え、急に開き直るなんて…」
考えていなかったのだ。
空を飛ぶというか、吹っ飛んでいくことができるが着地を何も考えていなかったので、今のままでは全身で地面にダイブすることになるだろう。
これはまずい。
といっても魔法を使うときは、地上にいることが多く。
もし使えても僕たちやシズエさんたちは地面でないと魔法が使えるものがないだろう。
シュウも確か、火の魔法ということは空中でも使うことはできるだろうけれど、着地を和らげる効果があるとは考えられない。
となれば、何かできないのか?
そんなときだった。
視界にあるものが映る。
何かのイベントに使われていたのか、慌てて避難などの隠れた生活になってしまったせいかはわからないけれど、あったものは風船だった。
この世界は現実と似ているようで、違う。
それはこれなのかもしれない。
僕は思いついたそれを、早速試してみることにした。
…
現在、僕たちは砦の近くにいた。
なぜか?
それは少し前の僕の考えがあってはいたが間違っていたというのもあったからという点にあったのだ。
ただ、そこにいた人は顔見知りであったことに驚きながらもどこか納得してしまった。
「ふ、やはりお前か…あのとき会った時から、どこか只者ではないオーラがあったが、それでもここにやってくるとはな。さすがの俺様も驚いたぞ」
「ええ、ボクもかなり驚きましたよ」
「マヤ君。知り合い?」
「そうですね…」
「ふははは…面白い知り合いなのだ。なあ?」
「まあ、そうですね」
お互いに会話する相手は、虎。
そうタイガーだ。
僕とノエさんはタイガーと相対していた。
二人で戦ったところですぐに負けるだろう。
そんな気しかしないが、どうだろうか?
それでも、本当にまずいことになったと今更ながらに思う。
そう、空を飛ぶ。
そんなバカげたことが成功したのだ。
というのも、考えはこうだった。
「風船をもって飛ぶ?」
「そうですね」
「えっと、マヤやん。そんなことできるのは漫画の世界だけだよ」
「わかってるけど、ほらね?」
「えっと、マヤ?そのいけるだろ?みたいな顔はなんだよ」
「だって仕方ないかなって」
「そ、そんなバカな」
「マヤやん、考えなおしてよ」
「シズエ…一度、マヤ様の説明を聞いてからでもいいとは思いませんか?」
「いや、レイラ…そうだけど、なんであたしが間違っているみたいな感じの言い方なの?」
「仕方ありませんよ。マヤ様は私たちでは止まりませんから」
「いや、そうかもだけどさ」
納得できないという風に、シズエさんは言葉を口にするが、やってみないことにはと思ったのだろう。
渋々ながらも納得してもらった。
まずは先ほどのように石に風船を巻き付ける。
まあ見ていたからわかっていたことだけれど、この風船は現実ではヘリウムなどの空気よりも軽いガスが入っているので浮いている。
この世界にそれがあるのかはまだ知らないけれど、それでも浮いているという点を見て、もしかしてと思ったのだ。
というのも、この世界ではこういう風船を見たことがなかったからだった。
そして、それを行ってもらう。
魔法により竜巻を風船に当て、空に飛ばし、着地のタイミングで衝撃を和らげる魔法を使う。
するとどうだろう。
完璧に着地したのだ。
「「ええええええ」」
「ほ、ほら、やっぱり」
「いや、かなり動揺しているよね」
「本当にな、さすがにこんなに簡単にうまくいくとは思ってなかったんだろうな」
「そんなことないって」
いや、確かにシュウのいう通りだった。
こんなに簡単にいくとは思っていなかったのだ。
それでもこれでやりたいことができた。
そうして全員が、腰に風船を巻き付けて空を飛ぶという、まあどこの世界のアニメだよとツッコミたくなるような工程を得て、空を飛んだはいいものの、空の途中でどこからか飛んできた風魔法により、分断されてしまったのだ。
「先ほどの着地は見事だったぞ」
「それはどうも…」
「それにしても、空を飛んでくるとは、かなり面白い発想をもっているな。さすがは俺様が一目見ただけで認めるだけはあるやつだ」
「お褒めに預かり恐縮ですね」
「それでも本当に見事だったんだぞ?」
「そうですか、必死のことだったので、わかりませんでしたよ」
「それはもったいないな。」
そうなのだ。
わかっていた。
必死になっていたといえど、先ほど行ったことに自分自身が一番びっくりしたのだから…
というのも、レイラさんシズエさん、シュウの三人と僕とノエさんという二人に分かれてしまい、着地の時にどうしようかと思っていたのだ。
これはノエさんに前もって確認していたことだったけれど、ノエさんはどうやら攻撃系の魔法しか使うことができないらしい。
そのおかげか、せいかはわからないけれど、属性は二つ最初から使えるので、良くも悪くもとは思う。
そして先ほど僕自身が行ったのが、空中で魔法を使うというものだった。
これまで魔法というのは、確かに手から以外で足を起点にして魔法を行うことはできた。
それはあのときゴブリンロードとの戦闘によって気づいたものだった。
でもさっきは違ったのだ。
そもそも空を飛んでいたし、だからこそ、地面についていなかった。
それでもしっかりと魔法が発動したのだ。
とっさのことではあったが、それでも自分に驚いていた。
現在水浸しの僕はそう思う。
普通に着地をしていれば、普通にゲームオーバーな高さだったが、水の壁により僕とノエさんは助かったのだ。
水に入ることによって抵抗が生まれ、ゆっくりと着地に成功する。
唱えた魔法はウォーターウォールだった。
何も触れてはいない。
しいて言えば、ノエさんと手を握っていたというところだろう。
そして地面に向かって手を伸ばし、反射的に魔法を使っていた。
でも、確かにそうなのだ。
そもそもの話、攻撃魔法であれば、手を前に突き出して使う。
普通であれば、地面から風を起こすトルネードであっても、手を前に出していたのだ。
だが、壁を作るウォールなどの魔法は、なぜか最初から手をついて魔法を使うというふうになっていたし、書かれていたのだ。
でもそれが覆るということは…
「ふははは、気づけたか?」
「はい。気づけました。」
「そちらのお嬢さんは?」
「はい…」
「そうかそうか…そしたら次のレッスンだ」
そういうと、タイガーは構えをとる。
手に持っているのは、ナックルだろうか。
近接戦闘向けの装備をもってどうしたのだろうか?
そんなことを思っていると、タイガーは口角を上げてこちらを見る。
「さあ、まずは俺様のレッスンを受けられるのか、しっかりと見させろ」
「ノエさん、来るよ」
「ええ、この虎も、あのゴブリンロードと同じような感じなんだね」
「ふ、そうだ。しっかり構えておくんだぞ」
いつものように僕が前にたち、剣を構える。
ただ、構えの仕方をいつもと違い変えている。
半分だけ刀身をだし、居合の途中のような構えだ。
「マヤ君。それって」
「変ですかね?」
「かなり…」
「ははは、なんだ、その構えは…まあいい、すぐにふざけているのかなどわかるからな」
その言葉とともに、タイガーはこちらに駆ける。
この時点でわかっていた。
これまで戦った誰とも違うということを…
まあ、拳に武器を装着している時点で、そうだという確信をなんとなくわかっていたのだ。
速いのだ。
だからこそ、すでに半身でさらには刀身を途中まで出していないのは、体の前で攻撃を防ぐためだった。
「ふ…」
気合の言葉とともに、全ての攻撃をなんとか刀身と柄を使い、防ぐ。
ただ、防戦一方になっており、反撃ができるというものではない。
確かに、攻撃の重さはゴブリンロードには劣っている。
それでも、シズエさんのバカ力より少し弱いくらいなので、かなりの強さだ。
でも、僕が防ぐことができたということは…
「いくよ。火よ、風よ、二つが混ざりて一つの魔法となせ、風よ火を燃やし強い火の玉になって敵を撃ちぬけ、ヒートボール」
その言葉とともにノエさんから高温に焼かれた、火の玉が発射される。
かなりの威力が込められた魔法だ。
ただ、威力はあるが、さすがに避けられると思っていた。
というのも、タイガーのスピードはそれほどのものだったからだ。
でも、タイガーは避けることはなかった。
「ふむ、ぬるいな」
そう言葉にすると、右の拳を振りぬく。
普通であれば焼かれる拳ではあるが、その振りぬいた拳は高温になっているはずの火の玉を消した。
「「!」」
僕とノエさんがそれを驚いた表情で見ている。
それでも。タイガーは少しつまらなそうだ。
「ふむ…先ほど魔法の使い方を工夫していたからこそ、魔法というものの真実に気が付いたものかと思っていたが、そうでもないのか?」
「どういうことだ?」
「ふむ…ここですぐにレクチャーしてもよいが、それではつまらん。だから、戦闘の間につかんでみせろ」
「く!」
その言葉とともにタイガーはさらに速くなる。
それは先ほどよりも…
速い。
さすがに防ぎきれない。
攻撃がかすめ、服や体、顔に傷や、破れができる。
少しでも反撃のきっかけがなければ、ただこのままじわじわと削られてしまうだけだった。
このままではまずい。
そう思った僕は少し大きめのバックステップをして声をかける。
「ノエさん!」
「でも、マヤ君、わたしの魔法じゃ!」
「それでもです」
タイミングで、魔法の援護がほしくなった僕はノエさんに声をかけるが、それでもノエさんから魔法が飛んでくることはない。
ノエさんはこちらに手を向けてはいるが、どこか顔が青白くなっているし、手というべきか、体全体が少し震えているように見える。
ただ、それを見て、余計にタイガーはどこかつまらなそうだった。
だったら、僕がやるしかない。
逃げる。
そんな選択肢は、自分よりスピードが速い敵に対して無意味なのだからだ。
だからこそ、抜けるはずものない刀を僕は先ほどとは違い、構える。
ここから少しでも反撃するために…
そして、ノエさんの魔法を当てやすくするためにも…
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