第16話 獣人との戦闘
ようやくというべきか、馬車に乗り込んだ僕たちは、砦に向かって進んでいた。
ここでまず気になっているのは、この後どうするのかという点と、もう一つある。
まずは、その疑問を解消するべくレイラさんに話かけた。
「レイラさん。レイラさんは、他の国に行ったことはあるの?」
「そうですね。私はもともと、ノートル王国出身ですので、他の国にいたのですが、こちらの国に移住したという形になりますね」
「そうなんですね。その時、砦は通ったりしましたか?」
「いえ、私がまだ六歳の年だったので、十二年前の戦争に便乗してこちらにやってきたので、通ったりはしていませんね」
「そうだったんですね…」
「すみません、マヤ様。」
「いえ…仕方ないですね」
ただ、僕はこのとき違和感に気づいていた。
それは、普通であればレイラさんは僕が話しかけた際には、絶対に目を見て話していた。
ふざけているときも、そうだったのだけれど。今回は違っていたのだ。
どこか違う場所を見ているような感じだった。
たぶん、まだというべきか、これ以上踏み込んでいい話題ではなかったというものなんだろう。
それにしても、かなり今更だけれど、レイラさんのことを含めて、今この場にいるパーティーメンバーのことをまだ何も知らないんだなということをしみじみと思った。
ただ、考えているという悠長な時間もあまりなかった。
「ピギイイイイイイ」
「うわああああああ」
そんな声とともに馬車が揺れ、そして倒れそうになる。
「レイラさん」
「はい、風よ、衝撃を和らげる衣となせ、ウィンドヴェール」
風の膜によって守られた馬車は、横に転倒するが、風によって守られているので、破壊は免れる。
横に座っていたシュウにもたれかかるようになってしまったが、すぐに体を起こす。
「ごめん」
「いいってことよ。それよりも、マヤ。さすがに軽すぎるから、もう少しご飯を食べたほうがいいぜ」
「それは、考えておくよ」
軽口をたたきながらも、外に出る。
そこにいたのは、翼の生えた人、あのとき見た狼ではないが、違う耳を持った人…
それも三人はいる。
まさしく獣人たちだ。
「おい、これって…もしかしなくても、獣人だよな」
「獣人って何?」
「おま、獣人を知らないのか?」
「うん、他のゲームをしたことないからね。」
「いや、そうかもだけど…それでも一応クエストとかを受けたときに、そういう話があっただろう?」
「え、あったっけノエ?」
「ありましたけど、シズはもしかして覚えてないんですか?」
「えっと、それはだってね…」
「まあ、そんなところだとは思いますけど。それでも獣人というのは、この世界でかなり重要な役割を示しているという話でしたよ」
「ああ…獣人がいるということは、魔王が復活したってな」
「ま、魔王…」
「どうしたんだ、マヤ」
「ううん、急にね…」
本当にゲームっぽい設定になってきたなと思っただけだった。
そんなことを思いながらも、先ほどから話すことなくじっと相手を警戒しているレイラさんに声をかける。
「レイラさん。どうすればいいと思います?」
「そうですね。こちらが話しているときに攻撃を仕掛けてこないというところを見ると。何か考えがあってのことでしょうか?」
「ふふふ、そうよ。頭がいい人は好きよ。」
すると、最初からいたのか、わからなかったが、上から声がした。
そのまま、空を飛んでいる鳥の獣人がこちらに話かけてくる。
「わたくしはね、インコっていうの、こう見えても鳥と人とのミックスといえばいいのかなあ?獣人なんて周りからは呼ばれる存在ではありますが、わたくしたちはそれが、ただの人であるあなたたちの嫉妬だと思っておりますゆえ、だからわたくしたちの邪魔をしてほしくないのですよ」
「それを…はいそうですかってボクたちが言って帰るとでも思っていますか?」
「思わないとは思いますが、そうなれば。わたくしたちと争うことになりますが、大丈夫ですか?」
「そっちこそ、ボクたちがただの人だと思いますか?」
「ええ、どこにでもいる冒険者なのでしょう?その点わたくしは違いますから、こう見えて魔族の八人の将一人ですからね」
「魔族の将ですか…」
「ねえ、まずいんじゃないの、マヤやん。もしかしてあのゴブリンロードと同じ強さってことじゃないのかな」
「ふふ、わたくしをあんな野蛮なゴブリンと一緒にしなくてもらいますかね。ふふ、戦えばわたくしがどれだけ強いのかわかりますからね。ほらいきなさいあなたたち」
その言葉とともに、獣耳を持つ三人の男たちがこちらに向かってくる。
三人とも同じ耳を持っているところを見るに、同じ獣人たちなのだろう。
見た感じでは犬だ。
「ガウウウウ」
「来るぞ」
そうシュウが声を出す。
シュウが盾を構える。
それに応じるようにして僕たちも武器を構えた。
敵三人は三様の武器をもっている。
一人は二つの剣を持ち、一人は剣と盾を持ち、最後の一人は槍を持っている。
あちらはまず双剣の獣人が突っ込んでくる。
「俺が止める。」
「じゃあ、あたしがそれを斬りこむ」
「それじゃあ、ボクが剣盾を」
「私が槍持ちですね」
「わ、わたしは?」
「ノエさんは、空のあいつを警戒していてください」
「オッケー!」
すぐに双剣がシュウの盾に当たる。
弾かれたところをシズエさんの剣が上から振り下ろされる。
ただ、それはバックステップによってかわされる。
それでもまだシズエさんは追撃をやめない。
「おい、シズエ、さすがに前に行くのは…」
「大丈夫、ボクも行く!」
黒い刀はまだ、抜かない。
といっても相手は剣を抜かないこっちをさすがに舐めている、油断していると思っている。
剣と盾を持った獣人がそれを見て、こちらにやってくる。
剣を振るってくる。
ただ、慌てない。
溜める。
溜める、溜める。
振る!
「ひゅっ」
キンと音がする。
そして、僕以外の全員が驚愕する。
「なんだ、その武器は!」
「うん?ただの剣だよ」
「剣で、簡単に剣が斬れるか!」
「えー…」
「いや、マヤやん。本当にそんなに簡単に斬れるものじゃないと思うんだけど」
「ふふん、頑張って練習してたからね」
「え、そんなことで簡単に剣を斬れるようにならないよね」
「ノエ…マヤ様はたまによくわからないことを普通にするから、気にしては無駄ですよ」
「確かに、前のゴブリンロードと戦ったときも途中でいろいろとしていましたしね」
「ボクの評価ってそういう感じなんだね」
「まあ、いいじゃねえか、俺たちは素直にすげえってなってるんだけだよ」
刀を鞘にしまって、再度構える。
やっぱり居合は最高の剣技だと思う。
そんなことを思いんながらも、お互いにまたにらみ合う。
「あんなチートみたいな武器があるのか?」
「ああ、普通に剣が斬られてしまったな」
「おいおい、さすがに無理じゃないのか?」
「こら、あんたたち、もっと頑張りなさいよ」
「ですが、インコ様。さすがにあの剣はこちらに傷をつけるものですので、対策をしないといけないといいますか…」
「はあ、仕方ないわねえ。わたくしの魔法でなんとかしてあげるしかないわね」
「「「ありがとうございます」」」
三人の獣人たちはその言葉を口にすると、こちらに背を向けて、空にいるインコと呼ばれた鳥の獣人に向けて膝をついた。
何かをしてくるのか?
そんなことを思っていると、インコは何かを取り出してそれを地面に落とす。
そして口を開いた。
「金属よ、その姿を魔法によって剣に変えよ、トランスフォーム、魔法よ、かの者たちに体を守る盾を与えたまえ、プロテクト。」
「あの魔法なに?剣と体に何か纏っているように見えるんだけど」
「私もまったくわかりません」
「わたしたちが知らない魔法ってことですね」
「あたしにもかけてほしいな、体のやつ…」
「おいおい、でも、あの魔法なんか嫌な予感がするんだけど」
「あははは、ビビッてしまいましたか?でも本当の恐怖を味わうのは今からです。わたくしの魔法を味わうといいです。」
動きは先ほどと同じ。
でも僕も同じように、嫌な予感がしている。
「ちょっとマヤやん!」
だからこそ、僕は先行して前に出た。
その対応にシズエさんが驚いた声を出したが、それに構っている暇はなかった。
そうその嫌な予感というものを自分で試してみるために…
剣を振るった。
「ふっ、さっきとは違うぞ」
それは作られた剣で受け止めらる。
ただ、先ほどとはやっていることは違った。
というのも、刀は抜いていないからだ。
そう、この刀は鞘についている紐を刀の柄に巻き付かせることによって鞘をつけたままでも剣を振るえるのだ。
さすがにそれを見た相手は、怒りをにじませていた。
「おま、舐めているのか?」
「いえ、ボクは…そういうわけじゃないんですけど。だってもし刀身の状態で振って折れたら嫌じゃないですか?」
「いやいやいや、鞘ごと刀身も折れるとか思わないのか?」
「でも折れなかったでしょ。」
「確かにそうだな」
「実際は、欠ける可能性があったら嫌だったけど、なんとなくそれもただ打ち合うだけなら大丈夫そうだね」
「そうかもな…それでもさっきみたいに斬れるということはないけどな」
「へえ…」
「いくぜ、我ら三犬衆がな」
お互いに鍔迫り合いから、弾きあう。
「きます」
僕は、先ほどとは違い、油断ならない戦いになることを思い、声をかける。
それに対してこちらはまずシズエさんが前に出る。
「ふっ」
気合のもと、すぐに双剣に向かってその大剣を振り下ろす。
両手をクロスすることによって双剣は攻撃を防ぐが、すこしずつ押し込まれている。
「こ、これが人間がだせるパワーだというのか」
「脳筋舐めないでよね」
「くそ」
さすがに普通の人とパワー勝負で負けるとは思っていたのだろう。
それでもパワーで負けていると感じた双剣は、横に滑らすようにして逸らすことによって振り下ろしをやり過ごそうとする。
ただ、シズエさんは前までとは違い、そこはレイラさんと特訓をした成果がしっかりとでていた。
相手の動きを見ながら、力を抜いて滑らすと感じたときには同じように力を緩める。
滑っていかない大剣に一瞬おかしいと思ったときには、その大剣の切っ先を横に強引に向けているところだった。
「そんな戦いかた」
「ふ…もう足手纏いじゃないんだから」
「くそが…」
力任せのその攻撃によって態勢を崩した。
ただ、そこは相手もうまい。
すぐに態勢を切り替えて攻撃モーションを繰り出そうとしていた。
でも、すぐにその場にシュウが盾を構えて突っ込んでいる。
「くそがああああ」
その声とともに、盾に押しつぶされるようになる。
ただ、そこはさすがというべきだろう。かわそうとはしたのだ。
といってもに体重をかけられた盾に殴られることによってかなりの衝撃だったのだろう。
態勢を崩したのだ。
そしてそれを見ていたシズエさんが大剣の横っ腹で双剣を殴ったのだった。
そして体を守っている魔法が砕け散るようにして霧散しながら、双剣は倒れたのだった。
「く…」
「それじゃ、ボクたちもいくよ」
そこから離れた位置で、僕と盾持ちは戦っていた。
盾を持った片手剣スタイルの武器の構え。
最初と違い、こちらを舐めてかかるようなことはしない。
盾を前に構え、剣を後ろにひいている。
これは普通に盾で受けて攻撃をする技…
他のゲームではプルスラッシュとか普通にホライゾンスラッシュとかの名前だったな。
それじゃ、こっちもこの刀をゲットしていたことでしようと思っていた戦い方をしてみますか。
さっきちゃんと鞘で剣を受け止められることは確認した。
だからこの戦い方がいけるはずだ。
「ふっ」
「く…だが防げる…そしていける…ってんだよそれは」
「ふふ…」
こちらの右手で振るう刀の斜め斬りは予想通りというべきか盾で防がれた。
防いだことにより、相手は勝ちを確信していただろう。
シールドバッシュという盾を前にはじき出すことによって刀を弾くのとバランスを崩すのを同時にやり、引いていた右手で水平斬りをしてくるが、左手に持っていた鞘によって態勢を崩しながらも、上に弾く。
それに対しての驚きの声だろう。
ただ、こちらはこれで終わりではない。
弾いたことによって右に体が流れるのだ。
そのまま回転をしながら鞘を刀に収める。
そして左足で着地をしたとともに地面を蹴る。
居合!
斬ると決め、一閃を振るう。
相手は盾で防ごうとするが、それを両断する。
「くそ、チートが…」
「ふふ…」
「戦闘中に笑うんじゃねえ、このチート野郎がよ」
斬られた盾を投げ捨てた盾持ちは、剣を両手に持ち直すと斬りかかってくる。
こちらはというと、さすがにというか、すぐに右手の刀で左から斜めに振り下ろす。
それにより刀身同士が振れたときには、相手の剣は僕が振った剣の上をすべるようにして少しそれる。
そして、左手の鞘でそれた剣を横からたたき、そのまま返す攻撃で鞘を相手の首元というべきか、顎を殴る。
いろいろな本でも、脳を揺らしてしまうと、一時的にでも脳震盪を起こせるらしいのだ。
特に今はプロテクトという防御魔法のようなものがかかっているのだ。
そういうときにはさっきシュウとシズエさんが二人でやっていたように打撃を与えるほうが効果的だということはわかっていたのだ。
だから今回はそれをやってみたというところだった。
なんとかうまくいってよかったというところだ。
戦闘が終わり、レイラさんたちの方を見ると、そちらも佳境を迎えているとこだった。
槍使いということで、お互いに一定の距離感で戦っている。
それはたぶん、必殺の間合いというべきだろうか、敵の攻撃が当たる位置というのが決まっているからだ。
「ふ、ナイフで攻撃を防ぎきれますか?」
「それは、私は防ぐ必要はありませんから」
「な、避けるだと」
そう槍による突きを全てかわしたのだ。
それも危なげなく、そこにくるのがわかるように…
「こちらもいきます」
そしてレイラさんは反撃に出た。
ナイフを投げたのだ。
ただの直線的なナイフの投擲。
普通であれば避けられるそれだ。
普通であればになるが…
「そんなナイフ」
相手もただの投擲だと思っているのだろう。
でもそれは違う。
そう、レイラさんも前のアースドラゴンとの戦いによって自分の欠点に気づいていたのだ。
それは力がないというところと、その力をただテクニックで対応していた。
それも避けるだけという離れ業によって…
でもそれには限界がある。
前のように咆哮や、範囲攻撃をされたときのように攻撃をしてもテクニック型のため、決定的なものをもっていないというところだ。
だからこそ、ワイヤー付きナイフでさらなるテクニックを身に着けたのだ。
手を振る。
普通であればワイヤー付きナイフは目標に当たるまで手をむやみに振ることはしない。
それは振ることで威力が弱くなったり、目標ではないところに飛んでいってしまうからだ。
でも、それをテクニックを覚えることで、手を動かすことでただ起動を操ることができるのだ。
それでもうまくいくのは三割といっていたが、今はそれが完璧だった。
「何!」
その言葉とともに左右に分かれるナイフはさらに起動をずらすことによって、槍の体に巻き付く。
それにより身動きを完全にとれなくなってしまった槍野郎であった。
全員がしっかりと役割を果たして、上を見る。
「くそ、使えないやつばっかりだねえ…でも、いいのよ。わたくしの目的は果たしたのだからね」
「逃げるの?」
「ふん、乳だけはでかいガキがうるさいねえ。わたくしはただ戦略的撤退をすると言いたいだけです」
「ふん、ただの年増にしか見えない鳥が…」
「あああん?」
「なに?」
うん、なんだろう、急に喧嘩みたいになってきたんだけど…
えっと、これってゲーム世界の中ではあるけどちゃんとした殺し合いみたいな感じだったよね、さっきまで…
ただ、それでも相手はしっかりと年齢がいっているといえば、言い方が悪いけれど、すぐに怒りを収めると肩をやれやれと竦める。
「本当は、今からでもわたくしが始末してもいいのですが、これでもわたくしには任務がありますので」
「逃げるんですか?」
「あはは、そうですね。すぐにこの世界が恐怖に震えますから」
それだけを言うと、砦の方に向かって飛んでいった。
えっとこの三人はどうするんだろう。
そうなのだ。
あのインコという女は置いて去って行ってしまったのだ。
さすがにこのままにしておくということはできない。
「マヤやん、この人たちって言っていいのかな、どうするの?」
「そうだね。まあこういうときにこのクエストでもらった笛が役に立つのかな」
「あー、あれね」
すぐに僕は首から下げていた笛を鳴らす。
鳴らしてから五分後にはイカルガがやってきた。
「どうしたのじゃと言いたいところじゃが、見るとわかるのじゃ…獣人を確保したのじゃな」
「そうですね」
「これはワイヤーで縛っておるのじゃな」
「そうですね。みんな気はしっかりしているのですが、何も話すということはしないので、ここはイカルガに頼もうと思っていまして」
「そういうことならば承ったのじゃ」
「お願いしますね」
「それで、おぬしたちはこれからどうするのじゃ?」
そういって、こちらを見渡してくる。
僕は四人の方を向いた。
「まあ、あたしはマヤやんについていくということしか考えていないよ」
「私もマヤ様にお仕えする身ですので、ずっと一緒です」
「なんかうっとりいうのやめてもらいますかね、レイラさん。ちょっとというかかなり怖いので」
「私の愛は誰にも負けないということですね」
「あ、はい」
「マヤ君についていくとわたしにもいいアイテムとかもらえるかもしれないからね」
「確かにな、俺もマヤが行くというのなら行くぞ、飽きることがないしな」
「そういうことなら行こう、砦に」
そうして僕たちは砦に向かって歩き始める。
馬車はもうだめになってしまったので、使えない。
ちなみに運転手はというと、馬車を引いていた動物に乗ってどこかに逃げてしまったので、どうなったのかはしらないが無事に逃げられたのであれば、まあ戦闘に巻き込まれなくてよかったと考えるべきだと思う。
馬車で半分以上は進んでいたので、後は歩いて三十分くらいの距離だろうか?
イカルガが飛び立つのを後ろに軽く振り返りながら見ながらも、それに向かって歩く。
少しの坂を上るとそれは見えてきた。
砦だった。
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