第三章 砦の異変を探ろう編
第14話 獣人との出会い
あの姉妹喧嘩といえばいいのだろうか、戦闘をしてから、ようやくの週末を迎えようとしていた。
「真ちゃん、また明日ね」
「はい、朱莉さんも」
「えーどうしよっかなー」
「ええ、朱莉は一緒にしないの?」
「冗談、冗談だよ、お姉ちゃん。」
騒がしく二人が去っていくのを見ながら、僕も家に向かう帰路につく。
学校に来て、そうそうに静江さんに抱きしめられたということにより、すぐに注目の的になり、さらにはそれまでオシャレな髪型や服装をしていなかった、静江さんが朱莉さんと同じようにオシャレをしていることでこれは好きになった相手だから本当の姿を見せたくて…
という風に女性たちは、やいのやいのと噂をし、男たちは無警戒だったと騒ぐ。
そんな状況により、一週間は騒がしく、そしてすぐに過ぎ去った。
週末になり、ようやく少し四人。
僕と先生、静江さんと朱莉さんの四人で話すことができ、明日から何かしらの依頼をこなそうということになった。
さすがに休みの日くらいでないと、ちゃんとした依頼。
俗に言うと、前に僕やゲイルなどが受けた依頼のようなものをしようとするのであれば、時間が必要ということだった。
なので、明日になれば、朝からログインしてゲームをするというのをみんなで決めていたのだ。
だから途中まで二人と一緒に帰り、絵里先生は仕事で学校に残っている。
家に帰り、いつものように簡単に必要な家事をある程度こなして、夜、僕はゲームにログインした。
ここ何日かは、あの黒刀の使い方をみんなで考えたり、アカリさんの戦い方を考えたり、シズエさんが受けたレイラさんからのゲーム指導の話や実際にやった内容を少し体験したりとしている間に日にちが過ぎ去っていた。
だから、今日は久しぶりにのんびりと少し周りを見てみようと思い、ログインしたのだ。
「なんだか、見慣れてきたかもしれないな…」
そんなことを宿の天井を見ながらも思う。
それくらいにはこの世界にいる時間が長いということだ。
なんだかんだいろんなことが起こりすぎるよ、この世界は…
一人でそんなことを思う。
普通であれば宿屋から出ていって、外を見て回るというふうにしようかと思ったが、たまには違うこともするのがいいかと思った僕は窓の外から外を眺めていた。
それに、変に外に出てもいろんな人に出会うリスクを考えれば、これでいいのだと思ったのだ。
「異国だな…」
再度、今更ながらに少ないながらも往来する人々の姿を見て、そう思う。
僕たちと同じように人でありながらも、でも姿はどちらかといえば異国の風貌であり、日本人のような髪が黒くてなんてこともない。
そういえば、このゲームって日本しかサービスしていないんだよね。
今更ながらに、この一週間で少し調べたことを思いだした。
そう、このゲームはこの完成度を誇るため、日本以外でもサービスを開始しているものだと僕は勝手に思っていたのだけれど、それは違うらしい。
というのも、ゲーム内にいるNPCは基本的に喋れる言語が日本語のみだというところから、日本でのみのサービスということになっているらしい。
理由としては、AIに他の国の言語を覚えさせておきたかったが、それができなかったというものらしい。
それほどまでに、日本語でリソースを使ってしまったのだろうと思う。
プラスで魔法なんかを覚えたり、日々のことでさらにリソースを割いてしまえば、確かに他の言語を覚える余地などないのかもしれない。
そんなことを思いながら、僕は再度外を見る。
そこにはやはり日本語で会話をする人ばかりだ。
たぶん、日本国内での外国人プレイヤーというのはいるのかもしれないけれど、日本語が使える人限定になってしまいそうで、敷居が高そうだ。
でも、日本語を話せさえすれば遊べるということを考えると、僕たちが逆に外国のゲームをするときは、その現地の言葉を覚えることでなんとかなるということなのかもしれない。
そんな風に、特に意味があるのかわからないことを考えていたときだった。
その姿が目に映ったのは…
「あれ…」
思わず、声が漏れる。
違和感があったのだ。
通りを歩く人の一人に目が行く。
フードを被った人が歩いていたのだ。
時間でいえば、この世界では金曜の夜となれば、まだ朝方で光も出ていない。
そんな中でわざわざフードを被って歩く人がいれば、嫌でも目についてしまうというものだ。
ただ、ほかの人はそんな人が歩いていることなどしらない。
仕方ないことだ。
朝方であり、歩く人はまばらで、歩いている人に至っても、お酒を飲んでいるのか、フラフラと歩いている人ばかりで違和感があったところで気づかない人ばかりだ。
だからこそ、気になった僕は部屋を出ることにした。
「そうだ…」
ここで僕はあることを思いついた。
現実世界ではまずしないであろうことだ。
窓に手をかけた。
そしてそのまま外にジャンプする。
普通であれば高さもあり、さらには下がアスファルトで舗装されていることから、こんなことをすれば足を痛めるが、それはこの世界のことだ。
確かに道の真ん中は石畳といえばいいのだろうか、レンガのようなもので綺麗に舗装されてはいるが、その周りはほとんど土のため、土の上に着地をしっかりとする。
衝撃を殺したとはいえども、こんなことをやるのは初めてなので、さすがに足が軽く痺れる感覚は味わったものの、これはこれで楽しいということに気づいた。
また怪我をしない程度にやってみるかな。
とりあえずは、さっきの人を追いかけないとかな。
怪我の功名というべきか、飛び降りたことにより見失うことのなかった僕は、そのフードを被った人の後ろを歩いてついていく。
こういうときに身に着けたスニークスキルで…
こそこそと後ろをついていく。
それでもいつまでもばれないというわけではなかった。
「誰だ!」
後ろを振り向きながら、声を荒げる。
声を聴く限り男のようだ。
ただ、一瞬振り向いた姿にというべきか、フードから見えた姿に驚きを隠せないでいた。
「耳が…」
「ちっ、見えたか…」
そうなのだ。
それまでは、髪の色が違う異国の地というのがこのゲーム世界という印象であったが、目の前にいる人を見て、現実世界では絶対にありえない人がそこにいることに、かなり興奮していた。
ただ、失念していたのは、今が現実世界ではないことというのと、これまでに全くといっていいほど見なかった獣人といえばいいのだろう、人を見るということは何かが起こるということを…
気配を感じる。
すぐに頭を下げた。
そのうえをこん棒が通り過ぎる。
「後ろからの不意打ちをよけるだと…」
こん棒で攻撃をしてきた人は驚きを隠せない様子でそんなことを口にするが、こちらからすれば分かり易いので仕方ない。
だって目線で合図を送っているのだ。
それに気づいてしまうと、まるで避けてくださいと言っているようなものだ。
だから、教えてあげることにする。
「まあ、見えているからね」
「まじか…」
「こいつやりますよ」
「そんなにやらないよ?」
僕はそういいながらも、少し構えをとる。
別に剣を構えるとかではない。
これは打撃スキルといえばいいだろうか、もしくは護身術。
まあ、ゲームによっていろんな呼び方をされるそれは、しっかりと構えから入ることによってスキルが発動するものだ。
だから、構えというのは否が応でも体にしみ込んでいるものだ。
懐かしい感覚に身が包まれながらも、僕は警戒心をしっかりと持ったまま、二人と相対していたときだった。
ぶわっと、急に冷や汗が出る。
すぐに嫌な予感がした。
だからといって、構えをとくことはできない。
何かヤバいのがいる?
そう疑問に思っていたときだった、
こん棒の男が、フードの男の横に並んだときに、後ろから人影が見える。
すぐに距離をとろうと、一歩後ろに足を下げようとしてやめる。
この相手には下がるということが意味のないことだと思い、その場にとどまる。
それを見て、最後尾にいた、一番嫌な予感がするやつが笑う。
「がはははは…面白い。俺様のすごさを感じても、ビビることなくそこにいられるとはな」
「そこはまあ…」
さすがに少しというか、後ずさりをするくらいには怖い存在だ。
それでもすぐに背を向けて逃げるということをしなかったのは、たぶんこの怖いやつが、ゴブリンロードと似たように感じたからなのだろう。
ゴブリンロード。
最初に出会うにしてはありえないくらいには強かったモンスターだ。
ただ、戦闘を楽しむ。
それを目的として、獰猛な笑みとともにやってきたもの…
そんな印象だった。
視線の先にいる、そいつも同じようにしか思えなかった。
違う点は、見た目だろう。
暗い場所から、月明かりといえばいいのだろうか、この世界では月と呼ぶかはわからない、それに照らされた姿は虎の顔を持つ、いわゆる獣人だった。
気になってついていったものの姿は狼で、さらに攻撃を仕掛けてきたやつも狼だ。
そんなことを考えながら見ていると、こちらの視線に気が付いたのか、虎の顔を持つ男が、口を開く。
「ほほう、俺様たちのような獣人を見るのは初めてか?」
「初めてですね」
「そうかそうか…ただ、驚きもしないのはなぜだ?」
「それは、本で知っていたから…」
「がはははは。確かにな、俺様たちのような獣人は本などの物語に多く出てくるな、敵としてな」
「そうかもしれません。でも、ボクは別に話が通じ合う人に対して敵だとは思いません」
「ほほう、それは面白い。であれば、俺様とお前は、盟友になるということもあるということだな?」
「そうですね。」
「ふ…そうかそうか…実に面白い。」
「そうですかね?」
「そうだとも」
たぶん、喜ばれている理由は、ここでもの怖気しなかったからだろう。
普通であれば、こんな存在にそんなことを言われてしまえば、そんなことはあり得ませんよ答えるものだ。
それを素直に、あり得ると答えられたのは、この世界の住人ではなかったからか?
もしくは…
そんなことを少し考えつつも、相手の様子をうかがう。
どうやら少し警戒が解かれたようだ。
攻撃を仕掛けた狼の獣人たちも、虎の獣人の近くにいるだけで、こちらに攻撃をしようとするそぶりすら見せないからだ。
「お前、名前は?」
「マヤって呼ばれていますね」
「マヤか…なるほどな。俺様はタイガーだ。」
「タイガーさんですか」
「そうだ。どうせなら手合わせを願いたいところだが、今はやめておこう。」
「どういうことですか?」
「いずれわかるということだ。ただ、マヤ。お前はどこか俺様たちに似ている。だからこれを渡しておく。おい、いくぞ」
その言葉とともに三人はどこかに去って行ってしまった。
去って行った場所には一枚の紙を置いてくれていた。
さっき言ってた紙か…
「何が書いてあるんだろ…」
僕はその紙を手にとった。
これって、魔法が書かれてるってことなのかな…
でも誰かが使っているのを聞いたことがない。
とりあえずもっておくだけでいいかな。
普通であれば、胡散臭いものだと捨てるはずだが、それが使えるものでもそうでもなくても面白いと思った僕はその紙をポケットに入れ、その場を後にした。
その後は変わったことはなく、ただ時間が過ぎていく。
現実では夜が更け、この世界では夜が明けていく。
それを感じながら、僕はログアウトした。
現実世界に戻り、しっかりと休養をとり、僕はまたゲーム世界にログインした。
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