第11話 決闘前のいろいろ
「痛いのじゃ…」
お尻をさすりながらも、しっかりとナルスの羽根を掴むことに成功したイカルガは少し涙目だ。
ちなみにナルスは何が起こったのかがわからないことばかりだったのか、受け身もとることができずに失神している。
そして、このナルスにいらないことを吹き込んだ冒険者たちはいつの間にか逃げていた。
終わったな…
失神して最初から最後まで使い物にならなかったゲイルといい。
僕の周りにいる人には変わった人しかいないのかと、今更ながらに頭が痛くなる。
でも確かに、ゲームを長くやろうとする人間に変わっていない人間などいないのかもしれないけれど…
そんなことを思いながらも、ノエさんに近づく。
ノエさんも僕があそこまで容赦なく、この世界での重要な役割を担っているであろう幼鳥や神鳥を殴ったり、投げたりしたのを見て、動きが止まっているように見えたが、僕が近づくと、そんな緊張も少し和らいだのか、ホッと肩をなでおろしたように見えた。
「マヤ君。さすがにやりすぎだと思うけど」
「ごめんなさい」
「でも、まあ仕方ないのかな」
「あははは…」
そして、生徒に叱るようにノエさんは言うが、最後にはお互いに笑いあう。
ノエさんも同じ立場だとすれば、そうしてしまうことあるということなのだろう。
そんなことを思っていると、イカルガがナルスを引きずりながら、こちらにやってきた。
「マヤ。おかげで助かったのじゃ」
「うーん、いいって。」
「そういってもらえるとありがたいのじゃ。まあ、さすがに飛ばすときは言ってほしかったのじゃがの」
「その…ごめん。頭に血が登っててつい…」
「まあ、ナルスのやつをこうやって確保できたのじゃから、よいのじゃな」
「それはよかったよ」
「うむ。それで、報酬をやろうと思ってな」
「本当ですか?」
「さすがにのう、そんな恰好もしてもらった手前、飛ばされた程度であげないというのはダメじゃからの…それに、ほれ…このおバカのせいで迷惑をこうむったのじゃから、こいつの羽根と合わせてもっていくがいいのじゃ。それとノエにはこっちじゃの」
「ありがとう」
「わたしまで、ありがとうございます。」
「よいのじゃ」
そういって、渡されたのは。僕には黒と白の羽根とペンダント。
ノエさんには石がついたブレスレットだ。
「羽根は武器とかの素材ってことでいいんだよね」
「そうじゃ!」
「それで、このペンダントは?」
「それは、マヤ…ぬしが覚醒するとわかるじゃろ」
「えっと、覚醒って…なんかボクが今覚醒していないみたいになってるんですけど…」
「ふむ…だがときがくればわかる。そういうものじゃ」
「そうですか…」
「えっと、わたしのは…」
「うむ、ノエに渡したものは記憶のブレスレットじゃ」
「記憶のブレスレット?」
「そうじゃ。そのブレスレットには魔法を一つストックしておける。といっても、ストックしておける魔法は単一のものでないといけないのじゃ。ノエができるという合体魔法はストックできないのじゃな」
「そうですか…それでも魔法をストックできるのなら、不意打ちとかにも対処できそう」
「そうじゃろ。」
「いや、ボクもそれがほしいんだけど」
「何をいうのじゃ、マヤには三つもあげたのじゃ。」
「そうだけどさ」
「あははは…まあ、ゲーマーの性ってやつだよね。レアアイテムは自分も欲しいっていうね」
「そうなんだよ」
そう、お互いにもらったものは違う。
僕がたくさんもらえたのは、たぶん囮役もやったからだろう。
そこで、今更ながらにまだ僕はあの服を着ていることに気づいた。
あれだ、イカルガにしっかりとサイズを調整してもらったものを作ってもらったせいか、違和感なく着てしまっているのがいけないのだ。
ただ、当たり前のようにスカートをはいていて違和感を感じないのは、このゲームにもう順応しきってしまったのだからかもしれない。
そんなことを思いながら、僕たちは少し休んで街の近くまでイカルガに運んでもらうと、解散となった。
それにしても驚いたのは、その間もあのうるさいゲイルが起きなかったことだ。
イカルガと別れるときに、さすがに見捨てることもできなくなったので、どこか宿屋の一室に放り込んでおこうかと思ったが、イカルガがこやつには話があると連れて行ってしまったので、ノエさんと二人で宿屋に入ることになった。
時間は調べていないが、たぶん朝方か深夜くらいだろう。
それくらいには長い時間クエストをやっていた気がするからだ。
というか内容が濃すぎるということもあったが…
ただ、そこは学校の先生というところだろう。
ログアウトするためにお互いの部屋に入る前に、ノエさんが「学校を休まないように…」と言われて、さすがに休むわけにはいかないよなとなった。
ログアウトして、そのままダイブギアを外すと、僕は寝てしまった。
起きて学校に向かう。
学校ではノエさんも昨日が夜遅かったからか、少し眠たそうにしながらも授業をしていた。
連続で休んでいるシズエさんをさすがに心配をしていると、ノエさんも同じだったようで、お昼休みに一緒にご飯を食べることになった。
ちなみにノエさんはまだ、僕たちと朱莉さんがゲーム内とはいえども、戦闘を行うことは知らなかった。
そう、シズエさんが送ったと思っていたメールは実は、エラーで送れていなかったのだ。
そんなことをみんな知らないのだから、僕もすこし緊張しながらもことの経緯を話し終えた。
「ということがありまして…」
「事情はわかったけど、さすがに喧嘩っていうのは、さすがにゲーム世界の中っていっても、あの世界は現実に近いものがあるからね」
「そうですよね…」
「それでも、シズが少しでも前向きになってくれるのなら、それをしてもいいのかなって賛成はしちゃうかな…」
「というと?」
「それは生徒の個人情報なのでわたしからは何も言えませんが、シズは悩みに悩んでいるっていうところかな」
「そうですか…」
さすがに教師として言うことはできないけれど、それでもノエさんがシズエさんを前向きにさせたいと思っているのだろう。
まあその理由や、どうしてそうなったのかは、本人から聞かないといけないということなのだろうと、今の言葉でわかった。
「でも戦いをするなんて若いね」
「何を言ってるんですか、ノエさんも十分若いと思いますよ」
「学生と比べたら全然じゃない?」
「そうですけど」
「でも、本当に戦うのなら、先生として、シズの初めてのゲーム仲間として、見守るくらいはしないとね」
そう優しく言った。
僕もそれに頷いたときには予鈴のチャイムが鳴る。
経緯などを説明していたら、気づけば時間がそれなりにたっていたのだろう。
その後も普通に授業を受けた僕ははやめに帰路についた。
いつものように家のことを済ませ、ゲームにログインする。
今日はやりたいことがあったのだ。
それは昨日ゲットしたアイテムでの武器制作だった。
といっても作ってもらう人は決まっている。
そう、お世話になったまだ唯一まともな周りの人であるシュウだ。
そのためにも僕は、迷うことなく武器屋街に来ていた。
今回は道順を覚えているのかもかねて、一人で来ていたが、なんとか迷うことなくこれたようだ。
隠し扉を起動して、地下に行くと、お目当てのシュウがいた。
「お!マヤじゃないか、どうかしたか?」
「ちょっと、武器を作りたくて」
「そうなのか?素材はあるか?」
「うん」
すぐに気さくに挨拶をしてくれたシュウに、僕はもってきたアイテムを見せる。
するとシュウは手にとって、それをまじまじと見て、驚いた。
「これは…まじか…」
「どうかしたの?」
「いや、この国の守護獣の羽根だと思ってな。こんなのどこで手に入れたんだ?」
「ちょっと、クエストでね」
「そうか…俺も誘ってくれよと言いたいところだが、ああいうのはタイミングだからな…」
「そうだね」
そう、このゲーム世界ではクエストは何度も発行されるということがほとんどないからだった。
まあ、同じクエストばかりやるのもつまらないし、そうやって、その場所にときたまに現れる何か変わったクエストを見つけることもこの世界での楽しみだと思うからだ。
ただ、今のところ、最初から最後まで自分でクエスト受けて、一人でクリアするということをしていないので、クエストに対する、一期一会というものにまだ会ったことがないが…
それでも珍しいクエストであるということは間違いではなかったのだろう。
「それで?どんな武器にしようっていうのはあるのか?」
「それは、ちょっと考えてて…」
「どういうやつだ?」
「えっと…」
そして僕は、自分が思い描いていた武器を言葉にした。
それを聞いて、シュウは驚いたように体を少しのけぞらせたが、一言「おもしれえ」と口にした。
その後いくつかの武器ギミックの相談をして、僕はその場から立ち去った。
現実では夜になり、真っ暗であろう時間でも、この世界ではまだ日が出ているということを考えれば、やっぱり現実世界とは違うものなんだということが、否が応でもわかった。
ここから何かをするというのは、実はもう決めてあった。
「マヤ君こっち!」
「はい」
事前にノエさんと待ち合わせをしていた。
そして、その横にはもう一人。
「マヤさん、どうも!」
「エリカさん、よろしくお願いいたします」
「いいよ、気にしないで」
そう、ギルド受付であるエリカさんも一緒である。
というのも、今度朱莉さんと行う戦いに向けて、どういったルールで行うのかというのを、まだ明確には決めていなかったのだが、それではダメだろうと、ノエさんに言われ、どうしたらいいかとノエさんに聞けば、確かこういうときにはギルドの人に聞けばなんとかしてくれるということを聞いたとノエさんがギルドに相談に行ってくれたのだ。
そしてやってきたのは、僕も知っているエリカさんだ。
ということは、すでにしっかりと話も通っているのだろう。
「マヤさんとシズエさんがチームで、どなたかと対戦をされるということですよね」
「そうですね」
「それでは、ルールといいますか、ギルドで行うそういったいざこざで対戦を行う際に実際にあるルールを説明しますね」
「はい」
「まず、対人戦闘である人対人で行う場合ですが、これは武器を木剣に変更して行われます。そして、決着の仕方もこちらが判断をしますが、基本的には初撃決着になります」
「なるほど、木剣で戦って、一撃もらってしまえば負けと…」
「そうなりますね。それであればお互いの怪我が最小限になりますから…」
「そうですか」
「はい。もう一つの対決は対獣戦闘です。モンスターと言い換えてもいいですが、指定のモンスターを早く倒した方が勝ちというわかりやすいものですね。ちなみに発見する時間というのも入ったりしますか?」
「それはルールを決める際に行われることにはなりますが、話を聞いているところでは、モンスター探知を得意としている人がお互いにいない限りは、そのようなルールはとられません。シズエさんとマヤさんのチームがモンスター探知をできるとは思いませんので、こちらは適用されないルールとなる可能性が高いですね」
「そうですか…」
「はい。ですので、簡単にどちらがいいのかを決めておいていただくという形になりますね」
「わかりました。相手と相談してみます」
「いえ、ギルドとして、判定するのにうちが行きますので、それで大丈夫ですか?」
「えっと、ボクとシズエさんの仲間だと思われる可能性って…」
「それはないとは確かに言い切れないのかもしれませんね。それでしたら、もっといい人を連れていきますよ」
「そうですか」
もっといい人というのが気になるところだけれど、誰と聞いてもたぶん今は答えてくれることはないだろう。
なんとなくそんな気がする。
そんなことを思いながら、僕たちは、話を終えて今日はようやくというべきか、初めてこの街を回ることになった。
といっても、時間はそれなりに遅くなってしまっているので、一時間くらいしかないのだけれど、それでも初めての場所に行くというので、楽しめそうだ。
そう思っていると、ノエさんが隣で歩きながら、思い出したかのように口にする。
「そういえば、マヤ君は修行とか、特訓とかしなくていいの?」
「どういうこと?」
「ほら、こういう戦いのときってお互いに修行とかして強くなってから戦うものだと思ってるからさ」
「あはは…そんなのは、漫画とかの読みすぎです、先生」
「ちょっと、先生はこの世界では禁句だと思いますよ」
「そうですね。確かにこの世界観を壊してしまいますからね」
「そうそう…って、さっきの質問誤魔化そうとしてる?」
「さすがにあからさますぎましたね。」
「もちろん。先生の目はごまかせませんから」
「えー、今先生っていいましたね」
「そういうこという?」
「だって、先生がさっき言いましたから」
「わたしが悪かったよ。それで、どうなの?」
「うーん、あんまりそういうのが得意じゃないっていうか、実践で成長するタイプっていえばいいのかな?」
「やりたくないだけでしょ?」
「あはは…でも意味がないかなとは思ってるかな」
「どうして?」
「ノエさんだって、このゲームは他のゲームとかなり設定が違っていることがあるでしょ」
「確かにね」
「そのもっともが、プレイヤーのレベル、スキルがないことだと思いますからね」
「そうだね。」
「ボクたちが、普通のゲームでするようなレベリング的なものをしなくていいといいますか、いらないといえばいいのかはわかりませんが、それでも、必要なものがいらないというのが現状ですよね」
「確かに、この世界でもし鍛えるものがあるとすれば、モンスターたちと戦って実戦経験を積むか、魔法が記された手帳を集めることだけになるよね」
「はい。なので基本的にはやることはないですね」
「そっか。あ、ここが言っていた場所だよ」
「へえ」
話しをしていると、どうやら目的の場所についたようだ。
そこは僕が来たいと言っていた場所である居酒屋だった。
「異世界の居酒屋…」
「ええ、すごいですね」
本当にすごかった。
まあ、異世界というか、ゲーム世界なのだけれど、それでもそれは現実とは全く異なったものだった。
どこか違うのかと聞かれれば、一番目につくのは武器だろう。
人がそれぞれ武器を持った人が一定数いるのは現実ではありえないことだ。
こんなことが現実で起こっていれば、すぐに通報、または捕まってしまうだろう。
それでも武器を帯刀した人が普通にお酒を飲んでいる姿には、見慣れないからか驚きが強かった。
ただ、ここに来た理由は本当のところはそれが理由ではない。
そう、決まっている理由は、この世界の食べ物を知ろうというものだ。
というのも、現実世界と同じように、この世界でも回復するためには自然治癒が一番で、さらに回復を早くするために必要なのは食事なのでこの世界での食事を知っておけばいいことがあると思ったのだ。
「こちらへどうぞ」
「ありがとう」
案内されるままに席につく。
メニュー表を見て驚いた。
書かれているものが、現実と似通ったものばかりだからだ。
違う点といえば、肉や野菜の名前がそれとなく変わっているだけだ。
その中でも違うものがあればと探すが、あったのはこのマーテル地域限定と書かれた、黒の羽根をはやしたパフェだ。
それを注文する。
そこで、ノエさんに気になっていたことを聞いた。
「そういえば、ノエさんは家では自炊とかはしますか?」
「う…かなり痛いところをついてきますね。わたしはその一応できますよ」
「卵かけご飯とか?」
「そうですね。得意…」
「どうしました?」
「は、はめましたか?」
「いえ、はめてはいませんよ。自爆っていうんですよ、そういうときは」
「確かにわたしが言っちゃったのかもしれないけど、でも誘導尋問だよ」
「引っかかるほうが悪いとは思うけどね」
「むう、それを言われたら、わたしは何も言えないでしょ」
「そうなのかもしれませんけど、ノエさんは何を頼んだんですか?」
「わたしは、シャッキリ茸とプチランの焼麺だね」
「見た目は明太子パスタみたいですね」
「そうだね。きのこが入った明太パスタだね。マヤ君のは?」
「ボクは、パフェですね」
「真っ黒だね。」
「ですね」
そう、黒い羽根というか、イカルガをモチーフにしたのだろう。
黒い鳥に形どられたそのパフェは、なんというか黒い。
さすがにパフェといわれるので、食べると甘いのだろうと思うが、現実世界で知っているチョコよりも黒いのを見ると、さすがに心配になる。
まあ、これも経験だと思って食べてみると、意外にもおいしかった。
「いけますよ、これ」
「わたしのほうも」
そんなことを話しながらも、僕とノエさんはゲーム世界で食事を済ませ、宿屋に戻りログアウトした。
このときよかったのは、変な輩に出会うことがなかったというところだろう。
次の日になった。
今日やることは決まっている。
ルールを決めることだ。
今更といえばその通りかもしれないけれど、あと二日後に迫る戦いのやり方を確認しないといけないのだ。
そして昼休み、とうとうというべきか対峙をした。
あれから一日も学校に登校していないシズエさんのことがかなり気になりはするが、朱莉さんと話をするのもこのタイミングしかないので、仕方ないと自分に言い聞かせて、朱莉さんのもとに向かう。
珍しいといえば怒られるかもしれないけれど、一人でお昼ご飯を食べていた朱莉さんは、僕が近づいてくるのに驚いていた。
「な、なによ」
「いえ、ちょっと聞いておきたいことがありまして」
「なに?あたいの彼氏なら空いてるよ」
「いえ、そういうことじゃないんですけど」
「じゃあ、何?」
「それは、次の土曜に行う戦いについてです」
「何?逃げるの?」
「いえ、違いますよ。ルールを決めておきたいということです」
「ルール?例えばどういうものがあるの?」
「そうですね、対人戦闘となると…」
そうして、朱莉さんに対人戦とモンスター戦との違いを説明する。
それを聞いて、朱莉さんは少し考えるそぶりを見せてから、どこかに連絡をした。
それを確認すると、少し考えたのちに口を開く。
「あたいたちは、対人戦闘でやりたいんだけどいいよね」
「ええ、それはもちろん」
お互いに意思が決まったところで、すぐにお互いの席に戻る。
そうして、僕たちの戦い方が決まり、そして戦いの日になったのだった。
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