第10話 コスプレクエスト?

「痛かったのじゃ…」




頬をさするイカルガに、僕はさすがに怒りを隠せないでいた。




「それは、悪いことをしましたからね」


「仕方なかったのじゃ、初めてやることじゃったから、加減がうまくできなかったのじゃ」


「でも、それなら服を少しずつ調整するとかやり方があったでしょ?」


「あ!…えっと、そんなことできるのかわからないのじゃ」


「いや、今あきらかにあって声がしたよね。できるのに忘れていただけなんだよね?」


「そんなことないのじゃ、わらわはイカルガ、この国の神鳥なのじゃから!」


「わかったよ。それで、イカルガ。もう少し微調整はできるの?」


「声色が急に冷たくなったのじゃ、こう見えてもわらわの方がかなり年上だというのに、それに敬語…」


「イカルガ?」


「怖…わらわが恐怖を感じるなんて、いったい…」


「怒らせると怖い人っていますよね?」


「わかったのじゃ」




そうしてイカルガはかなり怯えながらも服を直してくれた。


といっても着ているのでもう少し体系をあわせて調整をしてもらっただけといったほうが的確なのかもしれないけれど、なんとか完成した。




「おお…」


「マヤ君。わたしの女性としての自信がなくなるよ」


「も、もう大丈夫かの?」




変態な目つきで見るゲイル。


自分と見比べて、身長のことで気にしているのか、その可愛い系の洋服を着こなしている僕を羨まし気に見てくるノエさん。


そして、さすがにちょっと言い過ぎたかなと後悔するくらいには怯えてしまったイカルガ。


なんだろうな。


この世界にきてから少し性格が変わったような…


そんなことを思いながらも、ここで作戦会議を行うことになった。


というのも、この服を着る。


それですぐに幼鳥がどこからともなく飛んできて、見つかりました。


みたいな簡単なことになればいいのだけれど、そうはならないことがなんとなくわかっているからだ。


だって、今ここにあなたの理想の人がいますと言われたところで、いや、そこにわたしはいませんと言われてしまえばそこで終わりだからだ。


それに恥ずかしい思いをして着ている意味が僕になくなってしまうからというのもある。


ということでまずはどこにいるのかをなんとなく探すところからスタートとなるのだが、これはイカルガがなんとかできるということだ。




「まあ、一応わらわはあいつの主というべきか親というべきか、そういう存在じゃらからな。簡単にじゃが、場所がある程度ここら辺ということくらいは気配で察知できるというものじゃ」


「それを早速してもらうということですか?」


「そうじゃな。」




そう言葉にすると、イカルガは視界を空に向ける。


そして両手を上にあげた。


魔力の高ぶりを感じた、そう思ったときには風が上に舞い上がっていた。


そのまま風は気流を生む。


ただ、それはある方向に少し流れていた。




「ふむ、あっちじゃ」


「えっと、どういうこと?」


「そうじゃな。簡単にいうと、近くまでいくと気配でわかるが、近くでないとなると気配でわからない。それにあやつは今のマヤの姿をしている人間を探しているということを考えると常に移動している状態じゃとわらわは考える。だからまずは方向を探すために、気流を起こしたということじゃな」


「なるほど、でもどうして気流でわかるの?」


「それは、わらわたちが風に精通しているからじゃの」


「風…というと属性の?」


「そうじゃな。この話はあのバカを追いながらしようと思うのじゃ、だから少し待つのじゃ」




そういって、また神鳥の姿になると、羽根で背中をポンポンと叩くと「乗るのじゃ」と言ってくる。


僕とノエさんはその言葉通りにすぐに乗るが、ゲイルは一向に乗ろうとしていない。


まあ仕方ない。


先ほどの馬車のような乗り物でかなり吐いていたということを考えて、今回もその可能性がゼロではないということを考慮すると、さすがに乗れないのだろう。


ただ、そんなじれったいゲイルを許すはずがない神鳥は少し翼をはためかせて宙に浮くと、足であるかぎ爪でゲイルを掴んだ。




「それじゃ、行くのじゃ」




そしてその言葉とともに、僕たちは飛び立った。


まあゲイルがすでに失神していたのは言うまでもない。


ちなみに、イカルガの背中の上はかなり快適だった。


どういう仕様なのかはわかりはしなかったが、それなりに加速して空を飛んでいるというのに風を感じさせないというのはかなりすごいことだ。




「どうじゃ、わらわの背中の上は」


「かなりいい感じですね」


「楽しんでもらっているのなら、それはよかったのじゃ。さっきは不注意とはいえどもわらわが迷惑をかけてしまったのじゃからの…」


「もういいですよ。こうしていつもとは違う体験ができていますからね」


「それはよかったのじゃ、ノエはどうじゃ?」


「わ、わたしはその、実は高所恐怖症でして…」




そういうノエさんは確かに足ががくがくと震えていて、必死に背中にしがみついている。


確かにさっきからゲーマー的にかなり美味しい体験である、空を飛ぶということになっているというのに、ノエさんの反応が薄いなと思ってはいたが、そんな理由があったとは驚きだった。


ゲームをやっている人間であれば、高台から飛び降りるなんて体験をよくするものだ。


だから、それで高所が少しずつでも得意になっていくというものがあるだろう。


でも、それでも確かにこれだけ高いのは怖いだろうし、その気持ちはわからないではない。


それにこのゲームは感覚がリアルすぎて、下を見ると確かに僕も同じように感じてしまうだろう。


だから下を見ないで、そろそろあのことを教えてもらうことにした。




「それで、どうして気流を起こして、幼鳥の居場所がわかるんですか?」


「それはじゃな。わらわたちが風を操るこの場所の守護獣だからじゃな。」


「というと…」


「風を操るということは、常に風を纏っているということになるのじゃ。だから気流を起こすことで、常に風を纏っている幼鳥がいる方向に向けて風が乱れるという事象が起こるということなのじゃ」


「なるほど、ということは、ボクたちも同じように風魔法が使うことができれば、ある程度イカルガたちの場所を割り出せるということになるのかな?」


「そうなるのじゃな」


「でも、そんなことになれば他の国というか、場所からきた冒険者に討伐される危険性とかって…」


「あるかもしれないのじゃな。だからわらわはもし何かがあっても、次を担うことができる幼鳥をわらわの後継者として育成していたはずじゃったのじゃが…まあ、うまくはいかないものじゃの」


「まあ、こんな変な趣味ができてしまうくらいには変わった鳥なんだということくらいはわかったけどね」


「そういうことを言われると、わらわも傷つくのじゃ」


「どうしてだ?」


「それはじゃな、わらわの見る目がなかったことが完全にわかってしまったのじゃからな」


「今更としか思えないけどね」


「そう思われるのがつらいのじゃ…む…」




そんな会話をしながらも、空を飛んでいたとき何かを気づいたようにイカルガが反応した。




「何かあった?」


「ふむ、幼鳥のやつの気配を感じたものじゃからな」


「それなら一度下りないと」


「そうじゃな。」




そして、地面に降りる寸前でゲイルは地面に置かれ、僕たちも少ししかたっていないが地面に降り立つことができた。


周りを見るが、ここがどこかはわからない。


ただ、ノエさんは見覚えがあるのか、少し周りを見ると、ちょっと考えてから言葉を発した。




「ここは、ノエリア平原ですね」


「ノエリア平原?」


「はい。ノエリア平原は、このマーテル地域では二番目に強いモンスターが出るという場所ですね」


「二番目?」


「そうね、サイクロプスが出るって話だったかな?」


「ふむ、サイクロプスくらいであればわらわが倒せるから心配はいらないのじゃ」


「あはは、なんかゲーム初めてすぐにチートキャラに出会った気分だけどね」


「チートキャラ?なんじゃそれは?」


「イカルガにはわからないことだよ」


「そうですね。イカルガさんにはわからないことかな」


「そうなのじゃな。わらわは仲間はずれなのじゃな」


「ちょっと、マヤ君、イカルガさんがすねちゃったでしょ」


「えー、だって…」


「もしかして、まだ怒っておるのかの…」


「ほら…」


「イカルガ、ごめん。もう怒っていないって、その時はお願いしようってことを言いたかっただけだから」


「そうなのじゃな。それなら任せておくのじゃ」


「うん、任せたよ」


「それにしてもどこにいると思う、マヤ君」


「ボクに聞きますか、イカルガはどう思うかな?」


「わらわか…さすがにある程度の気配を感じて近くまではいけるのじゃが、それ以上の詳細はわからないのじゃ」


「そうですか…」




ちなみに、イカルガは降り立ってすぐに人の姿になっている。


それはそうだ。


さすがに神鳥の姿でいると大きすぎて遠くからでもわかるし、最悪モンスターに間違えられる可能性もあるからだ。


そうなったら、冒険者の戦闘となる。


まあ、あの朱莉さんたちとやる前に一度対人戦闘も行って感覚をつかんでおくのも、いい手だとは思うけれど、それはノエさんが許さなそうなので、さすがにやめておく。


というか、今更だけれど朱莉さんたちとシズエさんと二人で戦うのも話してしまうとさすがに止められそうだ。


一応学校の先生だしね、現実だと…


そんなことを今更ながらに思いながらも、探索をするが特にその幼鳥と出会う気配がない。


なぜだ…


近くにいるというに出会う感じじゃない。


でも、どうしてだろう。


さすがに近くに来ているのであれば、そろそろ探し始めて二十分くらいになるので、出会えないことに疑問をもっていた。


それにこんな格好をしているのに会えないとなると、ただの痛い奴になってしまうので、そうはならないようにしたいというのもあった。


そこで視界に同じように幼鳥を探しているイカルガの姿が映る。




「もしかして…」




そのイカルガを見て、僕はある考えになった。


というか、ここまで会えない理由がなんとなくわかったような気がした。


そう、イカルガが言っていたことを思いだしていたのだ。


イカルガは幼鳥がいることが気配である程度わかるし、風の属性を守護獣としてもっているので、風には敏感なのだと…


そして、それが幼鳥にも同じように適用されているのだとすれば、幼鳥の方もある程度イカルガの位置がわかっていて、さらには風である程度動きがわかるから、勝手にいなくなったことを怒られると思っているのだろうか?


それで隠れて出会うことがないということなのかもしれない。


ただ、もしそれであるのであれば、会う方法は簡単だった。


気配である程度の場所がわかり、それを察知して隠れたりしているのであれば、さすがに声が聞こえる場所にはいないだろう。




「あの、イカルガ。ボク、一人で探してもいいですかね」


「どうしたのじゃ、やっぱりわらわのことを嫌いに…」


「もう、さすがに考えすぎだって…ただ、これだけ探しても見つからないってことは幼鳥もボクたちというか、イカルガがいる場所がわかっているんじゃないのかなって思ってね」


「な、なるほどなのじゃ…それはかなり盲点だったのじゃ」


「いや、イカルガ…こういうのは同じ守護獣が考えることだと思うんだけど」


「そ、そういわれてもじゃな、こういうことは初めてでどうしていいかわからないのじゃ」


「確かに、脱走するなんてね…」


「そうじゃろ。ただ、マヤのいう通りかもしれないの…任せてもよいのじゃな?」


「まあ、そう簡単かはわからないけど、やってみるよ」


「マヤ君頑張って」


「ありがとう、ノエさんはイカルガと待っててよ」




そうして、僕は一人でその草原にいることにした。


ゲイルはまだ失神しているので戦力にならないとして、ノエさんとイカルガの視界から少し離れたときだった。




「そこのお嬢さん、ご飯でも行きませんか?」


「!」




そういいながら、こちらに歩いてきたのはあきらかに場違いな恰好をしたイケメンな男だった。


その場違いな恰好というのが、白のタキシードみたいなものだ。


さすがに引くというか、現実でも結婚式以外で着ている人を初めてみた。


あ、あとはテレビの成人式とか…


まあそれでも、こんな目立つ格好。


そしてかなりの美形と、隠しきれない異人感。


これはイカルガの男版を見ているようだ。


ということはこの場違いな男が、イカルガが探している幼鳥ということになる。


それでも、すぐに確保に動くというのはリスクが高かった。


腐ってもこの目の前にいるアホそうな男はなんといってもイカルガのようにこの地域を守るための守護獣になる存在なのだ。


そして、この地域ということは使える魔法は風属性ということだ。


それに幼鳥というからにはイカルガと同じように鳥の姿にもなれるということだ。


その姿になればさらに逃げられる可能性も高くなるというものだ。


ただ、よかったことは、この姿の僕にデレデレになっている男は、自分のことをアピールしたいのか上機嫌に話を始めた。




「俺様はね。すごい魔法使いなんだぞ。こう見えても風魔法が得意で、かなり強い魔法も使えるんだ。そしてイケメン。どうだ?惚れてしまうだろう」


「はあ…」


「ふ…まあ言葉だけでそういわれてもわからないよな。仕方ない。俺様がいかにすごい魔法を使うのか見せよう。」




そういうと、パチンと指を鳴らす。


それだけで目の前に竜巻が起きた。




「ふふ、これは俺様のような天才ができる芸当。俺様天才!」


「そ、そうですねー」


「ふふ!」




いや、うぜえええええ…


なんでこう、僕の周りには変な人しかいないのか…


あれか、あれなのか、これまで引きこもってまともな人間関係を築いてこなかったから、こういういろいろ人格に問題がある人ばかりが周りにいるという状況になっているのではないのかと考えてしまうほどだ。


というか魔法については天才だからというよりも、守護獣だから使えるということなので、天才というか生まれながらの才能というものだと思うのだが…


それを考えても一発頭をぶん殴りたい。


こんな格好もして、さらには幼鳥がこんな面倒くさい男だということも含めてストレスで怒りが沸々と湧き上がっていた。


ただ、そんな我慢をしている僕に、さらなる追撃がくることになる。




「ちょいちょい、そこのお嬢さん。可愛いね…よかったら俺たちと遊ばない?」


「ほんと、ほんと」




そんなことを言いながら、まあ演技でやっているのだろう。


かなり棒読みの言葉で近づいてくる男が二人。


そして、それを確認すると、僕の前に幼鳥の男が守るように立つと、口にする。




「な、何をこの人は俺様の彼女だから…」


「はあああああああああああ…」




ただ、最後まで言葉を言い終わる前に盛大なため息をついてしまった。


だって仕方ないのだ。


このナンパから守るというシチュエーションをしたいのだろう。


気持ちはわかるのかもしれない同じ男として、でも言いたい。


ここはどこだ?


まだ街の中でやるのであれば、多少棒読みであったりしても気にならないのかもしれないけれど。


ここはただの平原なのだ。


だからこんな場所で棒読みのナンパをしてくる奴らなど、ただのヤバいやつとしか思えない。


もう我慢の限界なのだ。


大きなため息、それもこれまで女性だと思っていた人が、低い声でのため息だ。


少し無理をして低い声でため息をしたが、それがきいたのか、三人は固まっていた。


その三人を見まわして、僕は口を開いた。




「さっきからさ、やっていることが、かなり恥ずかしいことだってわからないのかな?まあ、アホそうだからわからないのかな?でもね。迷惑しているってことくらいわかるよね。こんな外の誰も人がいないような場所で、そんな見え見えのナンパと、そのナンパから助けて格好よく見せるなんて恥ずかしいようなシチュエーションはさすがに寒いから。わからない?」


「いや、その…」


「おい、それと、この恰好を教えたのはどっちだ?」




何かを言いかけたが、すぐに僕の迫力に押し負けて黙ると、気になっていたことを質問したが、その瞬間にナンパ野郎二人はお互いを指さした。




「大丈夫。そうなるだろうと思って二人とも今からボコボコだから…おい、それと幼鳥!羽根もぐから逃げようとするなよ」


『ひ、ひいいいい』




手をぽきぽきと鳴らしながら近づく僕に、ビビる三人は腰を抜かしたようにその場に倒れこんだ。


そして、そのまま三人を僕はボコボコにした…


ということはなかった。


すぐにノエさんに取り押さえられたからだ。




「ノエさん、ボクを止めないでください。このバカどもを成敗してやるんだから」


「マヤ君落ち着いてね」


「でも、こんなバカなやつらは一度やっておかないとボクの気が済まないの…」


「まあまあ…」




止まった僕を見て、三人は安心したのか、少し後ずさりをし始めたが、そこでイカルガが前に出たときに、ナルシスト幼鳥の動きが止まる。


そして、顔もかなり青くなっているように見える。




「久しぶりじゃの」




にこやかに話しかけてくる存在に、幼鳥以外の二人は少し嬉しそうにしながら、後ずさりするのをやめたが、幼鳥は歯がガタガタと音がなるくらいには怯えていた。


その姿を見た僕は、さすがに冷静になってきた。


さっきまであれほどうざい相手だと思っていたが、かわいそうというか大丈夫なのかと思うくらいには歯をガタガタとさせている。


その異常さに、ようやく横の二人も気づいたのか、口を開く。




「おい、ナルス。この女性は知り合いなのか?」


「お、俺様の…」


「俺様のなんじゃ?申してみよ」


「じょ、上司様です」


「まじか、ナルスの上司ってことはこの国の守護獣ってことか」


「おぬし、もしかしてじゃが、わらわたちのことを話したのか?」


「いえ、話したといいますか、タイミングが悪かったといいますか…」


「やっておることは同じじゃろう?話すのは、人間たちの協力が必要なときだけで、むやみに口外するものじゃないとあれほど言っておったじゃろうに」


「それは、だって俺様だって理想の美少女に出会いたかったんだもん」


「だったら、もう見れたじゃろ?もう帰るのじゃ」


「嫌だもん。俺様はその子を手に入れるまで、戻らないもん」




そんな駄々っ子のようなことを言うと、言葉を口にして白い鳥になった。


あれが、幼鳥の姿か…


そして嫌な予感がして、僕はノエさんの腕から脱出した。


その瞬間には、僕がいた位置に、幼鳥の手が飛んできて空振る。




「イカルガ!」




さすがに幼鳥といっても、この国の守護獣になる存在なのだ。


だから同じ守護獣であり、先輩のイカルガであれば簡単に相手ができると思い、その名前を呼んだが、イカルガは顔を伏せる。


そして、申し訳なさそうにしながらいう。




「わらわは実は魔力切れなのじゃ…だからさすがに戦闘となると分が悪いのじゃ」


「そ、そんな…」


「ふ、ふはははは…俺様の時代だ。そうなってしまえば、またどこかに逃げて…」


「だったら、ボクが一発殴ってもいいよね。水よ、壁となりて我を守れ、ウォーターウォール」


『へ?』




イカルガとナルスが間抜けな声を出したのと同じタイミングで、僕は魔法を使った。


普通であればこの魔法は目の前に壁を作るもの。


それがウォーターウォールという魔法なのだと、僕も最初はなんとなくそう思っていたし、魔法の使い方が書かれている魔法書にも書かれていた。


でもこのとき、一発殴ってしまわないと気が済まないと感じたからか、いけると思ったのだ。


この世界の魔法は考えれば自分が思っているものになる、そんな風に思うから…


思い描いたのは、地面から水の壁を作り出すもの。


でも壁を作る場所は目の前ではない。


自分の足元だ。


そして、壁の向きも決める。


斜め前に…


そう、壁に押し出されるようにして、前に出た僕はその勢いのままその白い鳥の顔を殴り飛ばした。




「いてええええ…」


「お、おぬし…」




さすがに殴られるなどとは想像もしていなかったのだろう、ナルスは身構えることもなく拳を受けたのでいたそうだ。


そして、さすがに本当に殴ると思っていなかったイカルガも驚きで目を丸くしている。


一撃で、ある程度はすっきりはしたのだけれど、それでもまだこの気持ちをそれなりに抑えられなかった僕はもう一発いこうとして、ただそれはナルスが飛ぶことでよけられる。


でもある程度は予想していたことだ。


外れた手をそのまま地面につけると、また魔法を発動した。




「イカルガ。あのアホ部下の責任をとってくださいね。ウォーターウォール」


「ど、どうゆうことなのじゃああああ」




そして、今度は水の壁でイカルガをナルスに向かって飛ばす。


驚いて一瞬の戸惑いと絶叫の言葉が響きながらも、お互いはぶつかりあい、二人は地面に落ちてきたのだった。

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