第6話 強敵ゴブリンロード

目的はわかっていた。


くそ、やっぱりさっきの魔法を使ったノエさんに向かって走っているのだ。


それを気づいたのは僕たちだけではない。




「シズエ、行きなさい」


「わかってる」


「風よ、目の前のものに風による追い風を与えよ、テイルウィンド」




走り出したシズエさんの後ろから、レイラさんが魔法を唱えて、風に押し出されるようにしてシズエさんの走るスピードが速くなる。


ただ、それでも僕のほうがノエさんに近い分、たどり着くのが早かった。




「ノエさん、さっきの魔法はすごかったね」


「ありがとう。でも本丸がくるよ」


「わかってます。かなりヤバいやつなのはわかってますしね」


「でも、わたしたちで倒すよ」


「はい、それじゃあ少し前に行きます」




ノエさんには魔法で少しでも援護をしてもらわないといけないと思った僕は、少し離れていた。


この距離からでも感じるプレッシャーにもうゴブリンロードとあのモンスターを呼んでいいだろうと思った。


そして、狙われいる方向をわかって反応をしている僕たちを見て、楽しそうに口角を上げると、腰にさげていた大鉈を取り出すと、まだ距離はあったがさらに地面を強くけった。


まずい、そう思ったときには、僕は横に転がっていた。




「ドコッ」




そんな音がして、今まで立っていたはずの場所が地面ごとえぐれていた。


なんて力だ。


あんなものが直撃することを考えると、僕たちは一撃でやられてしまうだろう。


それにあんな大鉈を軽々振り回すなんて…


そう、腰にさしているときはそんなに大きいのかと思ったが、僕が今持っている長剣よりも少し長いそれを片手で振り回しているのを見ると、どれだけ強い相手なのかわかる。




「ほう、初見でよけられるか?先ほどの男とは違うようだな」


「ふう…ふう…それはどうも…でも強さの次元が違いすぎない?」


「ははは…まあ、これでも何かの幹部というものらしいからな」


「そんな強いやつがどうしてこんなところに…」


「ふむ、それはわかるだろう。楽しいからだ。この血が沸き立つような感覚。そう戦闘が楽しいからだ。」


「くそ…戦闘狂が…」


「そういわれると照れるな」


「いや、別にほめているわけではないけどな。」


「ははは、そうかそうか…でもな戦闘というのは愉快でないといけない。楽しめないといけない。それが戦闘における己たちの掟だからな」


「じゃあ、ゴブリンたちが全部そうだというのか?」


「違う、違う。ほら、さっき話した幹部とやらだよ。」


「そうかい…」




そのときだった。


後ろから、大剣を振り上げたシズエさんが迫った。


ただ、それは振り下ろす途中で止められる。




「く…素手でなんて…」




後ろからの不意打ち。


先ほどの言動から通用するとは思っていなかったけれど、あの大剣を振り回す力があるシズエさんの一撃を簡単に受け止められるとは思わなかった。


ただ、ゴブリンロードはそのシズエさんではなく、こちらを見ていた。




「なあ…」


「はい?」


「どうしてお前は隠している力を出さない?」


「どういうことですか?」


「わからないのか?」


「わかりません」




本当にわからないことだった。


そもそもの話、こうやって体をしっかりと動かすゲームをするのも久しぶりなのに、隠していることなんてない。


それに、もし隠していたとしても、あんなに格好悪く、ゴブリンライダーと戦うことはしなかっただろう。


それなのに隠された力があるって?


そんなのはないはずだ。


ただ、ゴブリンロードは続ける。




「この一撃も、お前の瞳を見ていたからわかっていたのだ」


「なんだって…」


「お前もわかっていたんだろう、こいつの攻撃がきかないということくらい…」


「そ、それは…」


「でも、少しでも可能性があるならと…いや、違うか、何かあったときもし少しでもこいつを助けられると思ったのか?」


「そんなこと…僕はまだまだ弱いし、できるはずが…」


「本当にそうなのか?それならば勘違いか?仕方ない、そっちと己は遊びたい」




そういって、ゴブリンロードはシズエさんの剣を離すと、ノエさんに目を向けた。


まずい、これは…


僕は慌てて叫ぶ。




「ノエさん、逃げて!」


「くっ」




このままではどうしても、全員を巻き込んでしまうことを恐れて、ノエさんが後ろに逃げようとしたが、それをわかっていたようにゴブリンロードは手をつく。




「土よ、我らを包む牢獄とかせ、アースプリズン」




その言葉とともに、土の壁が周りを作っていく。




「待ちなさい!」




それを防ぐことはできない。


そう思っていたが、それに挑む人が、一人だけいた。


レイラさんだ。


追いつけないシュウをほったらかしにして、先についたのだろう。


大型ナイフで地面についた手を斬りつけようとする。


それでも、それはすでに読まれていた。


すっと手を上にあげることで、回転して斬りつけようしたレイラさんの攻撃は空を切りそのまま通過する。


ただ、これで魔法の発動はなくなったはず、そう思っていたが、そうではなかった。


壁が完成していく。


中にいるのは、僕を含めて、レイラさん、シズエさん、ノエさんの四人だ。


そして今興味があるのはノエさんのみ…


ということは狙われるのは必然的にノエさんになる。


ただ、どうして魔法がまだ発動しているのかが謎だった。


そんな相手であるゴブリンロードを観察する目を向けていたことを、ゴブリンロードは気づく。




「相手のことがそんなに気になるのか?」


「それは、だって…」


「ははは、それはいい…やっぱりお前は他とは違う。」


「どういう意味だ?」


「わからないか?今の魔法を見て、それを不思議に思い、観察しているのは先ほど魔法を放った後ろの女とお前くらいだ。先ほどからそうだったが、お前はしっかりと観察しているな?」


「それが相手と戦うときの普通だから…」


「ふははは…それは普通ではない。戦いというのは普通強者であることを示すためのものだ。これはとある幹部のやつが言っていたことだがな…ただ、己はそれがつまらないことだと思っている。相手を知らないということは、もし相手がこちらを封じる手立てを持っている場合では、一方的になぶり殺しにあうということだからだな。ほら、この女がそうだろう」




そういって、見た先にはシズエさんがいた。




「筋力が自慢なのかはわからないが、先ほどから狙う場所はわかりやすく頭か足だ。確かに致命傷を与えるという点や、機動力を奪えるということに対してはそれでいいのかもしれないが、それが本当に重要か?己の攻撃はすべて手で行っていたことを忘れたか?」




確かにそうだ。


こいつはこれまでの攻撃を全て手で行っているし、先ほどの大剣ですら手で受け止めてしまっていた。


でも、魔法は手で発動していないとさっきからの言動でなんとなくわかる。


ということは…




「足で魔法を使っていたということか…」


「ははは、そうだ。やるじゃねえか。まあ、別にどこに触れていなくても魔法くらいは使えるが、しっかりと制御をしたうえで魔法を使うとなると、特に土魔法は地面にどこかをつけていないといけない。だから吾らは足をつけているというわけだ」


「そうなんですね。でもどうして、そんな簡単に魔法の仕組みを教えてくれるんですか?」


「それは、己が楽しみたいからだ。ただ圧倒的にこちらが勝つというのは己自身が考える、血が沸き立つ戦闘にはならないからな…」


「そうですかい…」




本当に、この戦闘狂がーと叫びたくなる。


この男には相手に対する油断がない。


不遜な態度ではあるが、それでも相手と対等にやりあいたいと思っているのが言葉だけでわかるし、それにこうやって話しているときは手を出してくることもない。


本当に、この戦闘で成長させ、さらには戦闘を楽しみたいのだろう。


ただ、そんなゴブリンロードにも横やりが入る。




「はああああ!」


「ほう…」


「ご主人様、ノエと引いてください」


「ふむ、己とやりあうか?」


「ええ…二人をあなたの遊び道具にはさせません」


「そうか…よいぞ、こい」




そういうと、レイラさんとゴブリンロードの戦いが始まる。


素早いレイラさんの攻撃をゴブリンロードは、受けるのではなくかわしていた。


ただ、レイラさんはナイフを振るだけではない。


足につけていた苦無を投げる。


ワイヤー付きの苦無がクロスするように飛んでいく。


でも、そんなものは見えているのだろう。


ゴブリンロードはワイヤーをつかんだ。


そして引き寄せる。




「は!小細工など己には通用せんぞ」


「そんなことわかっています」




ただ、それはレイラさんも予想済みであったらしく、引き寄せられる勢いのままワイヤーをナイフできるとゴブリンロードにぶつかりそうな軌道をそらし、なおかつ、その勢いをいかしたまま上を飛び越えるようにして盾の回転斬りを行う。


でも、それもゴブリンロードはかわす。




「ほお、面白い。今のは己でもすぐにはできない発想…実に面白いな!」


「私は別にご主人様以外に褒められても何も嬉しくありません!」


「はああああ!」


「だから、見え見えだ!」


「シズエさん!」




僕はその攻撃を見たときから、走っていた。


シズエさんが隙を見て攻撃をするというのはわかっていた。


だから僕は、シズエさんの前に割り込んでいた。


確かに態勢は悪かった。


だからこそ、威力は落ちてはいることはわかっていた。


体に当たったところで大丈夫だと思っていたのだ。


でも、攻撃を当たった瞬間にわかる。


これはまずいやつだと…


くらった瞬間に後ろに飛ぶことはわかっていた。


そのままであれば、シズエさんに当たっていただろう。


だからこそ、吹っ飛ばされながらも地面を蹴る。


シズエさんはよけられたが、ゴブリンロードによって作られた壁に当たる。




「ゴフッ…」




胃液が戻って吐くのがわかった。


でも意識はある。


体は痛いけど…


そんなことを思っていたときだった。


庇ってもらった僕をみることで、シズエさんが突進した。




「あああああ!」




あきらかに何も考えていない大振りの攻撃だ。


それに先ほどまでできていた、しっかりとした剣速も感じない攻撃だ。


それをゴブリンロードはよけようともしなかった。


そして、シズエさんのお腹を一発殴るとシズエさんはだらりと力が抜ける。




「くっ…」


「ふむ、こんな仲間を心配か?」


「そうですね。私としても気に入らないので、このままやられてもらうとご主人様の周りにいる羽虫が一人いなくなっていいのですが、それじゃあ、ご主人様が悲しんでしまうのでね」


「ふははは、そうか、ならばこい」




シズエさんはポイっと投げ飛ばされる。


それを見ていたノエさんが受け止めた。




「シズ、シズ…」




どうやら意識を失っているだけらしく、ダメージはかなり負っているわけではないようだ。


レイラさんとゴブリンロードの戦いは、ただお互いがお互いの攻撃をよけるだけになっている。


決定打がないというべきか、お互いが動きを見てから動くカウンタータイプが得意な戦闘スタイルをしているのと、お互いがお互いの動きを取り入れて、攻撃を繰り返しいるので、かわしあいになっているのだろう。




「くう…」




ただ、負けるのはレイラさんだということを僕はわかっていたので、痛みがある体を起こした。


そう、最初にわかっていたことだったが、ダメージを与えないことには、ゴブリンロードのほうが能力的に上なので、そもそも同じ動きをしていたところ、体力が先に尽きるのがこちらだからだ。


そうなると集中力が低下して、攻撃も当たってしまうかもしれない。


だからこそ、ここからは僕もやる。


飛ばされて、ほんの一瞬の出来事だったかもしれないけれど、昔のことを思い出していた。




「この剣も折れちゃったかあ…」




先ほどのシズエさんの攻撃をかばったときに、前で構えて受けていたから、刀身は受けたところで折れていた。


でも、本当に昔もこんなことがあったなと思い出す。


とあるゲームにて、耐久値を見るのを忘れてしまった僕は、武器が途中で壊れてしまうということがあった。


それも、それなりに強いモンスターを相手にしているときだ。


それも場所が闘技場だったため、途中で武器の変更は不可というものだった。


ただ、その戦いは勝った。


そう壊れた武器は攻撃力が十分の一になる代わりに、重さが半分になるからだ。


この世界ではどうかはわからないけど先ほどまでと違って軽いのは確かだ。




「やれるかはわからないけど、でもぶっつけ本番。やるしかないか」




いつの間にか体の痛みはひいていた。


いや、ただ忘れるくらいにアドレナリンが出ていたのかもしれない。


先ほどの見よう見真似でできるかはわからない。


でもできるのであれば、あれができるはず。


意識を集中させゴブリンロードに向かって歩き始める。


足先から魔力が本当に流れるのか?


それはわからないけれど、でも流れるのであれば、僕が思ったように魔法よ発動しろ…




「水よ、泡となりて相手を幻惑せよ、バブル」




魔法を唱えたことにより、レイラさんとゴブリンロードがチラリとこちらを見る。


ただ、失敗した。


水の玉は出来上がる瞬間にはじける。




「邪魔だな」




歩きながら靴を脱ぎ捨てる。




「水よ、泡となりて相手を幻惑せよ、バブル」




二回目の魔法。


靴を脱いだことでさらに魔力が流れるという感覚がなんとなくつかめるようになった僕は、それを成功させていた。




「はははは」




それを見て、高らかに笑うゴブリンロード。


本当に、この戦闘狂が…


僕は水の玉をゴブリンロードに向かって剣で打った。


ただ、勢いは弱い。


仕方ないことだった。


両手で打っていないからだ。


でも、それでいい。


よける意味もないと考えたゴブリンロードはその水の玉を受ける。


まあ何にも効果はない。


ちょっとした嫌がらせと、この後やりたいことのために、足で本当に魔法が発動できるのかどうかを確認したかっただけだ。


でもうまくいった。


だったらやれる。


歩いていた足を速める。


走る。




「おいおい、いい面構えになったじゃねえかよー」


「うるせえ!」




そういいながら僕は駆け抜けたエネルギーとともに、地面に思い切り踏み込み、腰に構えた剣を水平に振った。


過去一番使い込んだスキルだ。


ホライゾンスラッシュ。


いや、そんな言い方をするよりも、自分の中ではこっちのほうがわかりやすい。


居合!


ひゅっと音がなる。


先ほどまでの剣速と全く違う速度だったためか、よけることができなかったゴブリンロードの足にかすめる。


そして傷跡が残る。




「はははは、おいおいおい…ようやく己に攻撃を当て、さらには傷をつけるとはな。ただ、振り切ったその態勢ではよけれるのか!」




そういうと、ゴブリンロードは右手の大鉈をふるう。




「マヤ様!」




さすがにヤバいと思ったのか、レイラさんが割り込もうとするが、その反応速度では間に合わないことをわかっている僕は、斬り終わりの姿勢をとき左手でゴブリンロードの肘つかんだ。


ただ、力の差はわかっているので、すぐに力負けはしてダメにはなるが、その少しの時間をかけることで、攻撃をかわす。


それを見て、ゴブリンロードは嬉しそうに口角を吊り上げる。




「おいおいおい…武器が加速する前に肘をつかんでとめるとはな。なるほど、確かに理にはかなっているが、それでもそれをこの状況でできるとは、やるな」


「はあはあ、ふう…」


「ただ、さっきかばったダメージは大きいようだな?」


「そうだね。大きいね。でも僕はこのまま引き下がることはできない」


「ほう…さっきよりもいい目じゃねえか…」


「マヤ様」


「レイラさん、いきますのであわせてください」


「任せてください。ですが、その折れた剣一本では心もとないので、これを…」


「ありがとう」




横に並んでくれていたレイラさんから、渡されたのは大型ナイフだ。


どうやら折れても大丈夫なようにナイフは何本か準備をしていたのだ。


その一本を渡してくれる。


確かに折れた剣は軽くて、片手で振れるくらいにはなっていたのでちょうどよかった。


二刀流かー…


これはとあるゲームの中にある動きを真似してみることが最初だった。


構えをとる。


レイラさんとうなずくと、左右にわかれる。


さっきみたいに魔法が足でうまく操作することができればいいけれど、そんなにうまくいかないということはさっきの魔法でわかっていた。


だから、できることをする。


レイラさんとタイミングをあわせると同時にゴブリンロードの懐に入る。


そして二刀をお互いに振る。


こっち側が狙う場所は決まっている。


僕が傷をつけた場所だ。


そう、右足のすねのあたりを狙う。


クロス斬り。


一番よく使う二刀流技、クロススラッシュ。


ただ、うまくはいかなかった。


自分の想像ではうまくできていたはずのその攻撃は、左腕を後ろに振り絞った時点で、ズキッと左腕が痛んだ。


く、やっぱりさっき壁にぶつけたときにどっちの腕かは痛めたような気がしていたけど、居合をしたときには右手でしたから感じなかったけど、左腕は上にあげるだけで痛みがでたか…


でも、ここでとまるわけにはいかない。


一撃でいい、まずはもってくれ!




「はああああ!」




気合のもと、痛みを伴いながらもなんとか同等の速度で剣を振るうことができた。


でも、それは後ろに飛ばれることでよけられる。


それはわかっている。


振り終わった後の右手をアンダースローの要領で振ると、折れた剣を投げる。


それでも折れた剣なので、ただ投げただければ、投げる場所を考えない限りは全くダメージにはならないだろう。


だから投げる場所はしっかり選んでいる。


傷をつけている場所だ。




「ほう」




横によければいいはずのその剣を、ゴブリンロードは弾いた。


相手は、たぶん待っているのだ。


僕が次どんな攻撃をしてくるのかを…


だったらやるしかない。


今できる攻撃の手段を全て試すしかない。


ナイフを右手に持ち直す。




「ははは、見せてみろ!」


「はああああ!」




ナイフのスキルではない。


でもナイフみたいな見た目の武器はいろんなことができる。


といってもナイフの長さで武器カテゴリが槍というものがあったのはさすがにやりすぎではないのかなと思ってしまったが…


それでも、その経験はこの戦闘で少しでもいかせてみせる。


まずは連続突きのレイピアスキル、トラストラッシュ。


突く場所は同じでありながらも、真っ直ぐ、横から手首を少しひねり、そして真っ直ぐ。


これを六連撃繰り返すのがこのスキルだが、一撃、二撃、三撃目で突きをやめて後ろに下がる。


予想はしていたけど、あの大鉈もしっかり硬い。


大鉈の刀身の部分で受けられることはわかっていたけど、モンスターが持っているものだから、それに長であるとしても、ゴブリンが持っているものだからもしかすれば壊れやすいものだと思っていたが、どうやら違うみたいだ。


次はどうする?


そう思って少し逡巡するのがゴブリンロードにはわかっていたのか、大鉈を構える。




「次はこちらからいくぞ!」




そういうと、大鉈を水平に振ってくる。


上段からの振り下ろしや斬り上げではないのは、水平斬りのほうがよけにくいことがわかっているからだろう。


相手のほうが力量もパワーも上。


そうなったとき、どうやって攻撃を防いでいたっけな?


確か…


こうか?


また居合の構えをとる。


これは僕が一番他のゲームで使っていたスキルなので、体がスキルに引っ張られるということもあるが、同じように、スキルがかっこよすぎるので、スキルがなくても真似ができるようにと練習したものだ。


そして、確か居合には二種類のスキルのやり方があったはずだ。


一つは先ほどの攻撃用に用意された居合斬りというもの…


後一つは確か…


居合で行う、パリィだ。


横に水平に振るのではなく、斜め上に振る。


持っているのがこちらはナイフだということもあり、タイミングを間違えてしまえばただの空振りで、斬られてしまうが、さっきの折れた剣と同じ長さだったことも幸いした。


感覚が同じだ。


違う点は、少しだけ重くて、絶対に弾いてみせるという気持ちがあるだけだ。




「カキィン」




金属同士が弾きあう音がして、僕は少し後ろにのけぞりながらも完璧に大鉈の攻撃を防いだ。


できた!


体が興奮で熱を帯びるのがわかる。


ゴブリンロードも口角を上げ、弾かれた大鉈を今度は上段に構えてふるう。


これにはダガースキルのパリィが使える。


ダガーのパリィは弾くというよりも逸らす目的があるスキルだ。


マニアックな人は、剣筋をずらす。


大鉈の刀身の横にダガーの剣先を突きによってずらすことによって、体の横を通過して、そのままの返しで水平斬りをしてくる。


先ほどと違って、右から迫ってくる大鉈を、今度は顔の前に両手もちで、腕がS字になるようにして構える。


体の火照りから、腕の痛みは消えていた。


いける!


確信を持っていた僕は、首の高さに振られた水平斬りを、大剣唯一のパリィスキル。


ツヴァイフリップを行う。


簡単にいってしまえば、体の上を、円を書くようにして剣を振るい、その刀身の上に攻撃を滑らせるというものだ。




「シャアアア」




お互いの剣が擦れあうようにして出た金属音が響く。


ふう、これもうまくいった。


少し息をついた。


これは三回防がれたことにより、一度ゴブリンロードは数歩下がったからだ。


そして、ゴブリンロードは口w大きくあけた。




「いや、楽しい。楽しすぎるぞ」


「そうですか…」


「ああ…例え同じ力量だといわれているやつらでさえ、己と打ち合うのは嫌がるというのに、それをかわすのではなく、受ける…いや、弾くという方法で防ぐことができる人間がいようとはな…お前、名前は?」


「マヤだ!」


「そうか、マヤか!覚えておこう。そして、魔法使い、それはまだお前には早いやめておけ…だが、その可能性に気づいたというのなら、次会うのが楽しみだ。」




魔法使いと呼ばれたのは、ノエさんのことだろう。


確かに、後ろでは少しずつではあったが、どこか揺らぎというものを感じていたし、そしてチラリとそちらに目をやると、探検の刀身がいつもより輝きが増しているのがわかった。


何をしようとしているのか…


それは僕にはわからなかったが、ゴブリンロードは理解しているのだろう。


早いと言っていた。


でも、ここでやらないと僕たちは全滅する。


それだけは阻止しないといけない…


そう思ってゴブリンロードを見ていたが、やつは剣をしまい始めた。


どういうことだ?


疑問に思っていると、ゴブリンロードは口を開く。




「許せ…お前たちと戦うには少し早かったのだ。だからわかるだろう?」


「まさか、見逃してくれるのか?」


「見逃す?違う。己は、己と対等に殺し合いができるそんな相手がほしいのだ。だから、それができるであろうお前たちに期待している。だから成長するまでは、こんな殺し合いは無意味だろ?」


「そんなことはありません、頑張れば倒せるかも…」


「そうか、そうか…だがな、己が楽しめないと判断すれば、全て本気で蹂躙させてもらうが?マヤ、お前には自分がやられた後に他のものがやられるのを見たいと思うのか?」


「…」




そういわれて向けられたのは、あきらかな殺気。


今、ゲーム世界にいるということすら忘れてしまいそうなその気迫に、何も言えなくなる。


ただ、その殺気もすぐにとかれる。




「ふははは、冗談だ!次会うときには殺し合えることを期待しているぞ!」




そういうと、ゴブリンロードは自分で作った土の闘技場を壁を走るようにして上ると、去っていった。


姿が見えなくなった瞬間に緊張の糸がプツンと切れる。


興奮が冷め、一気に体がふわっとする。


体から力が抜けるのを感じた僕はそのままばたりと倒れたのだった。

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