第4話 初めてのクエスト

「それで、まずはどんなクエストがあるのか見てみないとな」


「そうだね」


「どうしたんだ、照れて…」


「いや、ここまで女の人しかいなかったから、こうやって男性と話せてうれしくて」


「そ、そうか…っていて、何すんだよ」


「そりゃあんたが、あんだけ年上好きだとか言いながらも、可愛い年下の男の子にはデレデレするんだなって思って」


「お前、それは…」


「ええ?あんたの気持ち、ある人に言っちゃおうかなー」


「やめろよ、絶対に」




シュウと仲良さげに話始めたシズエさんを見て、思う。


これはもしかして、二人は幼馴染とか知り合いとかなのだろうか?


それにしても仲がいい…




「仲がいいですね、二人とも」


「「そ、そんなわけない(だろ)よ」」


「二人とも息ぴったりじゃない」


「ちょっとノエさんまで、やめてくださいよ」


「そうよ、ノエ…そもそもシュウが好きなのは…」


「おい、やめろって」




そんな会話をしているときだった。


一人その会話に入っていないレイラさんを見る。


少し悲しそうなのか、その表情からは読み取れなかったけれど、どことなく悪い気がして、横に並ぶ。


すると、レイラさんはそれに気づいたのか話かけてきてくれた。




「本当に、新しく三人が仲間になってくれてよかったですね」


「そうだね、レイラさんは会話に入ったりしないの?」


「いえ、私は旅人ではありませんから」


「そっか」




そう、このゲームには設定として、僕たちのような存在を旅人とし、どこからともなく現れる存在だとされているのだ。


だから、もともと住んでいた人とは違う人なのだ。


でも、ここで何かに引っかかった。


あれ、旅人ってことは…


ただ、深く考えるよりも先に、レイラさんが、再度口を開く。




「それでも、マヤ様と一緒にいられるのでいいですけどね」


「それならよかった。」


「はい。でも、それならその新しい剣で私をビシバシぶってもいいのですよ」


「えーっと…」


「その蛇腹剣っていうのは鞭のようにもなるんですよね。それで私をぶつ…それがマヤ様の使命ですから」


「いや、そんなことを使命にされても困るんだけど…」


「そんなことを言わないでください。私はマヤ様がその武器を選んだときから、それを期待していたのですから…」


「そ、そうですか…」




でも、確かにと思う。


何も考えないで選んだにしては、そういう武器ではないのかと思ってしまう。


もしかして、潜在的には、そういうことをしたいのではないのかという、考えになるが…


いや、あり得ないと自分に言い聞かせる。


だけど、その可能性も捨てきれないので、なんとなく嫌な気分だ。


こうして、いろいろなことがありながらも、僕たちはギルドへと返ってきた。


ギルドに入ると、いきなりイケメンと美女が入ってきたからだろう、ギルド内がざわついた。




「おい、あれって…」


「ああ、絶対にあの二人は誰ともつるむことがないって言われていたのに、人を増やしているだと…」


「ああ、あの中で男はあのイケメンだけ…イケメンだとしてもいけ好かないぜ…」


「本当にな」




そんな会話が聞こえ、シュウが少し緊張するのがわかり、僕は男と認識してもらうのを少し諦めていた。


ただ、受付であるエリカさんが話しかけてくれた。




「クエストお疲れ様です。武器も無事ゲットできたんですね」


「はい、なんとかいいものを見つけることができました。」


「それはよかったですね。」


「はい、それで、次はまたクエストを受けようと思ってまして…」


「なるほど…少し待ってくださいね」




そう言って、エリカさんは少し事務所のようなところに入ると、すぐにクエストが書いてある、依頼書を数枚渡してくれた。


どうやら、お遣いクエストが終わったら、またクエストを受けにくるだろうと思って用意してくれていたみたいだ。


その優しさに感謝しつつ、クエスト見る。


そこには、ゴブリン退治、オオカミ退治、ネズミ退治、オオガエル退治などがあった。


なるほど、どれがいいのかさっぱりわからない…




「えっと、オススメとかはありますか?」


「オススメですか…そうですね、女性の皆さんがいらっしゃいますし、ネズミとカエルはやめてゴブリンとオオカミのどちらかがよろしいかと思いますね」


「ゴブリンか、オオカミですか…」


「はい」




こういうときはどちらを選ぶのが正解なのだろうかと迷う。


どちらも確かにゲームをやるうえではかなりの確率で初期モンスターであり、どちらも上位種と呼ばれる存在が他のゲームではいることもあり、一度戦えば、二度と戦うことはないということはこのゲームでもないだろう。


ということを考えると、どちらを選んでもいいような気もする。




「ちなみになんですが、どちらの方が強いとかありますか?」


「そうですね…ゴブリンのほうが強いですかね」


「そうなんですか…」


「はい。説明していませんでしたね。クエストの難易度というのがありまして、それに対応して、クエストを受けられるという仕組みにはなっているのですが、その中でも一番低いのがネズミのGランク、その上がオオガエル、オオカミのFランク、そしてゴブリンのEランクになりますね」


「なるほど、ゴブリンが一番高いのか…」


「はい、これはゴブリンが群れで行動することが多いことから、一匹と戦えばさらに多くのゴブリンと出会うことになってしまうからというものだからです」


「強さでいうと…」


「そうですね、単体の強さでいえば、一番高いのはオオカミです。」


「そうなんですね。」


「本当のところを言うと、レイラ、そしてえっと、お二人はシズエさんとノエさんで大丈夫でしたか?」


「そうですけど」


「えっと、あたしたちのこと知っていたの?」


「はい、身長が高くて綺麗なかたと、小さくて胸が大きい二人組の女性冒険者がCランクに上がったということは聞いていましたから…」


「そうなんですか」


「あたしたち、意外と有名人だね」


「そうかもね」


「ですので、Cランクのクエストも受けようと思えば受けられるのですが、今この都市にあるクエストはEランクまでのものしかありませんので、ここまでで我慢してもらうしかありません」


「そうなんですか…でもゴブリン退治か…」




正直、このゲームではどういう扱いになっているのかがわからないので、何とも言えないが…


ゴブリンといえば、人間を襲うことで結構いろいろな物語やゲームでは有名だ。


だから、少し躊躇はするが、Cランク以上の三人を見る。


その三人は、ゴブリンか懐かしいという声から聞こえることから慣れているのだろう、特にレイラさんは戦闘にもかなり慣れていることを考えてもこのクエストを受けてもよさそうだと思えた。


よし、これに決めた。


僕は、ゴブリン退治のクエストが書かれた紙を手に取ると、エリカさんに渡した。




「えっと、それじゃあ、これでよろしくお願いいたします」


「はい、承りました」




こうして、初めての戦闘系のクエストはゴブリン退治に決定した。


そうしてギルドから出た後に、気になっていたことを聞いてみた。




「あの、こういうクエストを受けた後ってアイテムとかって揃えなくていいのですか?」




そう、もっともな疑問だった。


ゲームの世界で最初に必要になってくるのは、主に回復アイテムだ。


確かに回復といえば魔法もあるけれど、すぐに回復できるのは主にアイテムで、そのアイテムを多く持つものが最初は勝てると一時は思っていたし、アイテムを買うためにモンスターを討伐して、そのお金でさらにアイエムを買うなんてことを繰り返すのがゲームでよくやっていたことだ。


ただ、ここで返ってきた返答は僕が思っていたものとは違ったものだった。




「そんなものないよ」


「ないの?」


「はい…それについてはわたしから説明しますね。」


「はい」


「ものすごく単純な理由にはなるんですけど、現実でも魔法の力を使う場合を除いて、基本的に、怪我なんかはアイテムなんかを使うこともなく、ただ自然に治したり、専用の機械…この世界ではカプセルと呼ばれるみたいなんでが、それを使うくらいでしか治らないのです」


「えっと、ちなみに病気とかって…」


「はい、かかりますよ。それについては薬が現実世界と同じようにありますので、それで治すということができるみたいですね」


「そうなんだね…」




いや、そこまで現実の世界とかぶせるようにしなくていいからと思ったけれど、このことを知ったことによって、さらに絶対に買うことはないと決めたのが、防具だ。


軽装だから危ない、確かにそう思うだろう。


でも、当たらなければいいと、ある人が言ったように、本当に当たらなければ防具はいらないのだ。


それに、普通に戦うのではなく、この世界では現実と同じような体の感覚なので、普段防具を付けている人などはたぶんいないと思うので、なんともいえないが、ほとんどの人が軽装になるだろう。


もし、必要になるとすれば薄い防弾チョッキみたいなものだろう。


まあ、そんなもので魔法を防げるのかがわからないし、そもそも防弾チョッキのような服が売っているのかすらも怪しいが…


まあ、初期につけないといけない、なんだこのダサい防具は…


となるよりはましなのかもしれないけれど。




「ということは、えーっとすぐにゴブリン退治に出かけることでいいのかな?」


「うーん、それはダメかなー」


「えっと、どういうこと?」


「さっきも言ったように現実とこの世界は一緒に近いことはわかったよね」


「はい」


「ということは、あたしたちは現実と同じようにお腹がすくということなのですね」


「まじですか…」


「マジだよ。そうなると、ご飯を食べるんだけど、それを買いに行くっていうわけだね」


「なるほど」




今更ながらに思うが、シズエさんの口調がどこか無理してお姉さん感を出していたのが、気さくな感じになっているし、ノエさんはどことなく学校の先生?


まあ、引きこもりになっていて、長い間学校に通っていないので、学校の先生なのかどうなのかはわからないけれど、それでも、なんとなくそんな感じがする雰囲気だ。


そんな二人に安心しつつ、頼りになるのかどうかはわからない、この変態メイドさんにも聞いてみることにする。




「えっと、レイラさんは、クエストに行くときに用意するものってありますか?」


「は…ご主人様からの質問、これには…」


「ボケなくていいからね」


「な、なんと冷たい目。その目だけで今の返しをしたかいがありま、すいません。そんな無視して行こうとしないでください、真面目に答えますから…」




こっちは真面目に聞いているというのに、本当にこのメイドは…


とも思うが、まあ冒険者ランクが一番高いのがレイラさんなので、さすがにバカにできない答えが返ってくるかもしれない。


そう思っていると、本当にレイラさんは真剣な表情を作ると、話しを始める。




「まずは、替えの武器ということですが、これはゴブリン退治であれば、最悪大丈夫でしょう」


「えっと、なんで替えの武器が?」


「それは最悪壊れる、または無くしてしまうということがあったり、投擲などは今のところ私の武器を除いては使っているかたがいないので大丈夫だと思いますが、武器を無くしてしまうと戦えないことがありますからね。ですが、基本的にゴブリンは群れの中にリーダーとその他数匹が武器を使用して襲ってくる場合が多々ありますので、そちらの武器を使って戦うことができる以上は、もしものときは大丈夫だと思います」


「そうなんだね」




そこで今更ながらに、現実に近いこのゲームだからこそ、そんなことがあるのかと思う。


確かに他のゲームであれば、剣なんかは自分でコマンドなどでドロップする以外には、捨てる方法がなく、いつもレアドロップなどが出ると、どこに収納しようかと迷ったものだ。


でも、このゲームでは現実に近すぎるせいか、確かに、今の今までアイテムを収納する、アイテムボックスなどがないということすらも失念していた。


しかもコマンドなんかもないので、ログアウトの方法もベッドに入ってログアウトと言葉にしないといけないという徹底ぶりなのだ。


ということは何かの拍子に武器を落としても返ってくることがないというのも当たり前だったのに、その可能性を忘れていた。


やりにくいといえば、やりにくいのだろうけれど、現実により近いゲームとしてはそれくらいのこだわりがあったほうがいいのかもしれない。


ということは、これからいるものは…




「えっと食料と、水でいいのかな?」


「そうですね。基本的にはそうなりますが、他にも着替えなどももっていかれると良いと思います」


「なんで着替え?」


「はい、今回はゴブリン退治になるということなので、ゴブリンは基本的には森の中にいるので、森には川や池なんかもあります。そのため、何かの拍子に濡れてしまった際に、乾かす方法がない場合は、そこの男性が原型をとどめないくらいにボコボコにされることになります」


「なるほど…」


「なるほどじゃないですけど、というかマヤも男なんだろ、どうして俺だけがボコボコになることになってるんだ?」


「それは、ご主人様にはむしろ見せたいと思う私ですが、それ以外の男など、害悪ですから…」


「いや、酷くない、なあ、シズエ、ノエさん…」


「シュウ…えっと…」


「シュウ君、ごめんなさい」


「えっと、俺に味方は?マヤ、お前はどうなんだ?」


「えっと、ボクはそもそも男なので、見られてどうこうは…」


「ダメですよ、ご主人様のスケスケ姿を見て、そっちに目覚めるかもしれませんから!」


「いや、ひでえ…」


「心配しないで、わたしが火の魔法を使えるから、服を乾かすくらいなら、簡単にできるから」


「うん、ノエがいれば安心だね」


「そうなのですか、それでは、基本的には食料とかで十分ですね」


「いや、ここまで俺が罵られた意味よ…」


「あははは…」


「いや、笑うなよマヤ」


「ごめん」




そんなことを話しながらも、僕たちは食料を買い込むと、森に向かうために、この都市の入口にやってきた。


どうやら、衛兵の方に、僕たちのような冒険者はギルドカードを見せ、さらにはクエスト内容が書かれた紙を見せることによって、外に出られるようだ。




「どうぞ」


「えっと、これを…」


「はい、承りました」




そう言いながらも、衛兵の方たちは僕の後ろに向かって軽く会釈する。


そして、それに応えるようにして、シズエさんとノエさんも会釈したところを見るに、結構なクエストを受けていると言っていたから、顔なじみか何かなのだろうと理解した。




「すごいですね、有名人」


「あはは、あたしもこんなにこの世界にのめりこむつもりはなかったんだけど、ノエが誘ってくるから…」


「そりゃ、ゲーム仲間の、しかも女性ってかなり貴重ですからね」


「それは確かにわかります。ボクも他のゲームでは男ばっかりでしたし…」


「俺もだよ。だから、こんなに女子に囲まれてゲームをするっていうのはなんか落ち着かねえんだよ」


「いいじゃん、全方位に花だよ」


「いや、俺はそれが嫌だって言ってるだろ、マヤよ。この状況なら俺をからかい放題だと考えているな?」


「それはどうかな…」


「でも、仕方ありませんよ、ご主人様も女性に見えるということは、あなたが頑張らないといけないのですから」


「急にプレッシャーをかけるなよ、メイドさんよ。それに、俺よりあきらからにこの二人のほうが強いんだが…」


「そうですか、それではいずれは…」


「うん?レイラさん何かいいましたか?」


「いえ…」




そんな会話をしていると、どうやら確認が済んだようだ。


ギルドカードをなんかを返された僕たちは、その後門をくぐった。


そしたら急にモンスターがいて…


みたいなことはなかった。


それはそうだ。


ここはこの辺りで一番大きな都市であり、外に出ても街道が整備されているので、何かがでるということはないらしい。


もし、出るとするのならば、夜か、森などのモンスターが隠れられる場所の近くにいると出てくる場合があるらしい。


まずはゴブリン探しからということで、地図を頼りにゴブリンが目撃された森に向かう。


というのも、クエスト自体は、冒険者や街道を通る一般の人、主に商人などがモンスターなどを目撃したというところから、ギルドにその話が入り、ギルド職員が痕跡などにより、いるのかどうかを判断して、クエストを依頼、そして僕たちが受注するという流れになっているので、いる前提でのクエストの受注となるのだ。




「ここですか…」


「そうみたいだね、クエストの紙によると」




シズエさんが紙を見ながらいう。


ここまでの距離、歩いて十分ほどだ。


門をくぐったときからあきらかに大きな森があるなとは思っていたが、すぐ近くだったらしい。


あまりに近すぎて、何を話していたのか忘れてしまうほどだ。


ちなみに街道はというと、この森をかわすようにして、作られているので、基本的には被害がないのだろう。


ここまで来て躊躇するのもあれかなと思った僕は早速とばかりに、森に足を踏み入れる。




「暗いねー…」


「そうですね」




森に足を踏み入れてすぐに、先ほどまでいた街道と違い、木々によって一気に周りが薄暗くなった。




「これは、気を付けて歩かないとですね」


「こけたら汚れそうだしね」


「わたしもこういうじめじめしたところは苦手」


「も、もしよかったら、ご主人様。私の背中に乗っていいですよ」


「いや、入ったばかりだから、疲れてすらいないよ」


「それでも、私はおんぶしたいのです」


「え、下心が見え見えで嫌だ」


「くうう…その蔑んだ目…最高です」


「本当にもう少し自重して…」




その言葉にシズエさんとノエさんが苦笑いを浮かべる。


そんなときに、後ろからシュウが追いつてきた。




「おい、お前ら、俺のことも考えてくれよ」


「えー」


「少し持とうか?」


「ダメだよ、マヤやん。そんなに甘やかしたら」


「え、でも…」


「いや、マヤよ。お前はその気持ちだけでいいから…なんか荷物持ったら折れそうだしな」


「そ、そんなに貧弱じゃないんだけど」


「いや、マヤやんは貧弱だよ」


「えーっと、その、ごめんね」


「気にするな。それよりも、そこの脳筋ゴリラ女」


「うーん、あたしのことを言っているのかな?」


「ああ、そうだよ」


「よし、喧嘩を売っているんだね、買うよ」


「くそ、俺に勝ち目なんてないのに…」


「ふふん、そうでしょ」




仲のいい二人を見ながら、少しいいなーと思いながらも、僕にもそんなときがあったなと少し考えてやめた。


それは、レイラさんが武器を取り出したからだ。




「あ、敵だね」




それに気づいたのか、シズエさんも肩の大剣に手をかける。


そして、足音が近づいてくるのがわかる。


これは獣?


そう思ったときには左にいたレイラさんの手から苦無が投擲されていた。


ひゅっと音がして飛んだそれは、正確に草から出てきた黒い物体の額にあたる。


相手の勢いもあったのだろうが、それでも正確に当てたレイラさんに驚きながら、倒したモンスター見る。




「オオカミ…」




それは黒いオオカミだ。


普通であれば茶色であったりするものだが、全身が黒く、唯一黒くないのは目だけというところから、このオオカミは僕が知っているものとは別な生き物だということを理解する。


ただ、足音は一つだけではない。




「ふっ」




大剣を抜き去ったシズエさんは、次にきたオオカミにその大剣を突き刺す。


ぶおっという重い音がなったと思うと、黒いオオカミが真っ二つになっていたので、かなりの速度で大剣を振ったのがわかる。


本当にバカ力ということなのだろう。


その後もやってきたモンスターたちだったが、僕が何かをするということはなく、ほぼ全て、レイラさんとシズエさんが倒してくれた。


出てきたのはオオカミのモンスター五体で、そのうち三体は消えてしまっていた。


どういうことなんだろうかと思っていたが、シズエさんがノエさんに怒られていた。




「シズ、だから魔石はあれだけ壊さないように戦ってって言ってるよね」


「そうなんだけど、ほら、魔石を壊したほうが手っ取り早くモンスターを倒せるから」


「それはそうなんだけど。魔石は後で買い取ってもらえるし、そこからアイテムだって作りだすことができるんだよ」


「でも…」


「あなたが突っかかっていたレイラさんを見てみなさい。しっかりと魔石から外して攻撃できているでしょ、これくらいをできるようにならないと、わたしたち、Cランクどまりになっちゃうじゃない」


「え、それじゃ、レイラに負けたままになるってこと?」


「うん…」


「それは嫌だ。」


「それじゃ、魔石を壊さないように倒すように」


「はーい」




会話がが完全に生徒と先生だな。


そんなことを思いながらも、魔石がどれなのか、地面に倒れているオオカミに近づいた。


それに気づいたのか、レイラさんもこちらに近づいてくる。




「マヤ様、何か気になりましたか?」


「はい、魔石っていうものがどういうものか気になって」


「そうですか、それではその魔石を回収しながら、それがどういうものなのかを、見ていきましょうか」




そういって、オオカミの前にレイラさんはしゃがむ。


そして、額をこちらにむける。


そこには、確かに目の他に光り輝くものがあった。


黒いような、藍色のような水晶みたいなものが、そこにはあった。




「これが、魔石?」


「そうです。魔石というのは、こうして基本的にはモンスターの額についているもので、こうしてしまうと取れます。」




そう言って、魔石を撫でる。


すると、簡単にそれはとれた。


そしてとれると、黒いオオカミは、役目を果たしたとばかりに消えた。




「すごい…」


「そうですね。魔石はモンスターを形作る核のようなものなので、シズエのように、それを壊すか、もしくは私のように、一定のダメージを与えて、モンスターの動きを止めたうえで、魔石を人の手で触るかになります」


「へー」




なんというか、呪いの魔石みたいなものもありそうだ。


そんなことをつい言いそうになって、飲み込んだ。


あったらあったで面白いのかもしれないけれど、このリアルオンライン。


現実に近いゲームということもあって、操作性が変わるのであれば最悪に近くなってしまいそうだからだ。


そんなことを思いながらも、落ちた魔石をレイラさんは回収した。


それを見ていた僕は、さらに疑問をぶつけてみることにした。




「これは何かに使用できるんですか?」


「そうですね。魔石自体は、ギルドなどで買い取ってもらえる他に、特殊な武器なんかを作るために必要になってきます。先ほどのノエさんのナイフ見られましたよね」


「はい…あれも魔石が使われているから、できたってことなんだね」


「そうなりますね。基本的な武器に、あんな効果はありませんから…武器であれば、そこにいる男に聞けば、もっといいことを話してくれるかもしれませんよ」


「わかった。また、武器を作る機会には覚えておくよ」




こうして話も終わり、さらに、シズエさんが叱られているのも終わったので再度また、森の中を進み始めた。


部分的に木があまり密集していなくて開けている場所や、先ほどのオオカミが踏みつけたのだろうかと思われるような、草木などを倒した後があった。


だが、問題のゴブリンがどこにも見当たらない。


そう思っていたとき、ゲームの世界だというのになぜか全身に嫌な感覚が襲う。


何か見落としているのか…


僕はすぐに周りを見た。


そして、それに気づいてすぐに口にする。




「止まれ!」




急な大声にビックリしたのだろう、みんなの動きが止まった。


ただ、レイラさんは何かに感づいたのだろうか、武器を抜いてくれている。


戸惑いを隠せなかったのは、シズエさんだった。




「マヤやん、急に大声だしたら、他のモンスターにも気づかれるよ」


「わかっています、わかっていますけど、止めたくて…」


「どういうこと?」


「これです」




僕は、嫌な予感の正体を冷静になって探したのだ。


すると、それはあった。


地面、それも人の足首ほどの高さにある糸だ。


誰が仕掛けた罠なのかはわからないけれど、それは確かにそこを通る何かに対しての罠だ。




「それって…」


「罠ね」


「おい、でも罠なんて、普通はあり得ないだろ…」


「でも、あり得た。わたしたちはまだ少ししか確かにこの世界のモンスターのことを知らない、だからといってこんなことをしてくるモンスターがいるのかが、わからない」


「ああ…でも、そんなことができるのは、俺たちみたいな人間か、思い当たるのはゴブリンくらいか…」


「そうなりますね」


「でも、本当によく気づいたね、マヤやん。さすが」


「最初少し怒っていたシズが何で文句を言いますか…」


「そうなんだけど…」


「でも、これはどうする?」


「それは、ボクに少し考えがあるんだけど…」




そう、僕はみんなの話を横目で聞きながらも、考えていた。


どういう手をうてば、この場合はいいのか…


もし、ゴブリンが本当に、これを罠として設置しているのであれば、何か策を考えないといけない。


さっきそれなりの大声を出したわりにはゴブリンたちが来ないということは、近くにいないということが考えられる。


レイラさんも、警戒をしているが、別に武器である苦無を投げたりの攻撃モーションを取っていないので、まだ敵はいないと考える。


こういうところは、さすがはBランク冒険者というところだろう。


そして、たぶんゴブリンたちがこの罠を仕掛けているというのであれば、罠はいくつかあり、それを順番に確認していると考えるのが妥当だ。


これはかなり頭がいいゴブリンがいる可能性がある。


なので、ここでやる自分なりのやり方は…




「まず、糸のついた木を切り倒しますか!」


「「「「ええ…」」」」




ただ、その言葉に四人は驚きの声を上げた。




「えっと、罠を解除するだけじゃダメなのマヤやん」


「うーんと、それじゃあ、結局のところ、他の罠に引っかかってしまったら意味ないと思うんだよね」


「それはそうかもしれないけど…」


「でもよ、マヤ。そんなことをすれば気づかれるんじゃないのか?」


「気づかれると思うよ。でも、罠があるってことは、この罠を見にゴブリンたちが巡回してくるということを考えれば、ボクたちがいるってことがバレるよ」


「確かに、それはそうだな」


「それでも、わたしには木を切り倒す理由にはならないと思うけど…」


「それは、ボクたちがゴブリンじゃない敵と戦っていると錯覚させるためだよ」


「なるほど、そう考えると確かにご主人様の手はかなりの有効ですね」


「確かに、それなら猪とかの大型のモンスターがいますから…」


「えっと、つまりどういうことなの?」


「つまり、猪のような獣が誤ってこの罠を壊したことにして、ボクたちは待ち伏せするってことだね。最悪、他の罠も倒した木によって壊されてくれると一石二鳥って感じかな」


「なるほど…」


「頭いいなお前…」




感心しているシズエさんとシュウを見ているとわかる。


この二人はなかなかのアホなんだということを…


まあ、といってもこの作戦が成功するかどうかは、シズエさんのような怪力キャラがいるかどうかにかかっていたので、よかったといえばよかったのだけれど…


もしいなかったら、いなかったで、違う案を考えたのは確かにあるかもだけれど、それでも、この案を決行できるのは、シズエさんがいるからで、正直助かる。


そう、脳筋キャラはアクションRPGにて最強と、誰かが言っていたのだからだ。


そうして、脳筋シズエさんによる切子が始まった。


カーン、カーンと音がなる。


いい音だ。


それもかなりの勢いで、削れているのがわかる。




「ってみんな、なんで休憩モードなの?」


「そりゃ、お前が筋肉バカだからだ」


「おおう?変われや」


「マジか、いらないことをいうべきじゃなかったのか…」


「それなら、ボクがやるよ」


「え、それならあたしがやるから、いいよ」


「そうだぞ、マヤ。筋肉仕事は筋肉に任せとけばいいんだよ」


「また、喧嘩を売っているのかな?」


「いえ、そんなことは…」


「まあまあ二人とも、ボクも少しやってみたかったからさ」




そう、これは本心だ。


シズエさんが、力を込めてシュウが何故かはしらないが持っていた斧で木を殴っていたのだけれど、それを見て、無償にやりたくなったのだ。


こう、ドカンと…


後は体の使い方をしっかりと把握するためにも。


僕は戸惑うシズエさんから斧をもらうと、僕はその斧を木に振りかぶった。


最初からわかっている、力任せでは振れることはないとわかっている、重い斧を振る。




「ふっ」




気合を入れて、しっかりと腰を使って振りぬいたそれは、木をドンと揺らした。


普通であれば乾いた木にぶつかれば、高い音がなるはずであったが、思いっきり勢いが込めたのと、少し斬っていた場所からずれていたので、その音がなったのだろう。


あまりの振動に、手が痺れて思わず斧から手を離したときだった。




「バサバサ…」




音が上の方からする。


どうやらほとんど倒せるくらい切っていたのにも関わらず、切り株以外の場所を殴りつけたものだから、木が倒れ始めたらしい。




「えーっと、これやばい?」


「やばいですよ、マヤ様」




それなりの大きな木が、他の木に引っかかりながら倒れる。


途中で倒れるのが止まりはしたが、その場にいたら巻き込まれたかもしれないのでレイラさんに手を引かれてよかった。


ちなみに落としてきた斧はシュウが拾ってくれたので近くにあった。


作戦はうまくいったのか?


それは、ここからの確認でどうなるかだった。


そう、基本的に見張りがいる場合などは、まず見張りをおびき寄せるところからスタートするのが一番いいのだ。


だが、それは案の定いい方向に進んだ。


たぶんだが、この罠というのもゴブリンの上位種の存在があるからなのだろうと思う。


よくあるホブゴブリンや、ゴブリンロードといった強いゴブリンたちがいることは他のゲームでもよくあるし、物語であっても頻繁にあることだ。


だから、今何も警戒することなく、ゴブリンがやってきたのも仕方ないことだと思った。




「ぎゃぎゃ(罠が壊されている)」


「ぎゃぎゃ(これは何かがぶつかったから木が倒れたんだ)」


「ぎゃぎゃ(なるほど、それは確かにそうみたいだ)」




三匹のゴブリンたちは、ぎゃぎゃと何か言い合って会話をしている。


ここでさらに確認をして、人の手で起こされたものだとバレることは避けておきたかったので、そろそろ頃合いだろう。


腰の剣に手をかけて、ゴブリンのもとに近づく。


ある程度まできたところで走って加速する。


その僕の存在に気づいたゴブリンたちは、さらに騒ぎ立てる。


この蛇腹剣は使うのは初めて、でもこういうのは試して初めて使い方を学ぶものだ。


だから斬る。


剣の間合いより少し遠い距離。


相手のゴブリンたちが何をしているのかという風な顔でこちらを見てくる。


たぶん誰も使っているのをまだ見たころがないのだろう。


それはそうだ。


そもそも、蛇腹剣は伸びることに関しては便利ではあるが、使える場所が限定されるのだ。


それは、ボタンを押すことで、中にあるギミックが発動し、剣を鞭のように扱えるからだ。


使い方は聞いていたし、ほんの少し練習した。


だからいける。


そう勝手に確信していた。


剣が鞘から出きった瞬間、ボタンを押す。


感覚的に、剣が伸びていっているのがわかる。


この武器を使うのには、今のように木が倒れている状況でしか無理だっただろう。


だから、ある意味では好都合だった。


そして、その剣と言うべきか、鞭と言うべきか…


ただ、その斬撃は一番手前にいたゴブリンの首を斬り落とした。




「!!!」




三匹とも巻き込めるようにと距離を測って攻撃をしたつもりだったが、全然距離を見間違えていたようだ。


このままでは逃がしてしまう。


そう思う前に、後ろから発音のいい声が聞こえる。




「風よ、相手を切り裂く刃となれ、ウィンドカッター」




その声とともにノエさんのあたりから、風の刃が飛んでいく。


風の攻撃魔法…


それは正確に僕が取り逃がしてしまったゴブリン二対を真っ二つにした。




「すごい!」




思わず声に出してしまうほどの完璧と思える魔法だ。


だが、そう思ったのは僕だけではなかった。




「本当に、ノエさん。私と同じ風魔法を使ってますけど、私と全く違いますね」


「そうですか?」


「はい、さすがに私もあそこまで正確に真ん中を狙うことはできませんから」


「レイラさんに言われるのでしたら、自信をもっていいのかな?でもレイラさんの魔法をわたしは見ていないので、本当に凄いか、わかりませんけど」


「そうですね。では次の機会には見せることができるようにしましょう」


「それは嬉しいです」


「それで…マヤ様、次はどうするのか考えていますか?」


「次は、進軍ですね」


「「「「え?」」」」




シンプルな言葉に驚いたのだろう。


といっても、非常にシンプルでいいのだ。


頭が回る相手と戦うときに、相手の一番何が嫌なのか?


それはシンプルに来られることだ。


別に何も考えていないというわけではない。


でも最初はシンプルに攻める。


それに、時間も考えて早めに行きたいのだ。


ゲームの設定によって時間は同じではないので、この世界では日が長く、一日短い。


だから二十四時間ではなく、二十八時間が一日ではあるとしても、あまりにも遅くなると、日が暮れてしまう。


そうなると、勝手の予想だが、ゲームのモンスターたちは夜目が効くことが多いので、そうなるとゴブリンと相手したくないのだ。


だからシンプルに言う。




「夜までこの森にいたくないからね」


「そうですね、私もご主人様をこんな森にいさせたくありません。二人っきりならまだしも」


「うん、一言多いよ」


「でも、確かに俺たちのパーティーって女しかいないから、さすがにな」


「お、頑張ってあたしたちを早く帰してよ、シュウ」


「嫌、お前が頑張れよ」


「なによ」


「なんだよ」


「ほら、二人とも喧嘩しない。またマヤ君が尊敬のまなざしで二人のことを見ているよ」




喧嘩するほど仲がいい。


こういうことなんだろうな。


ただ、こういうことをずっと言っている暇もない。




「それじゃあ、行こう」




僕のその言葉によって、さらに前に進み始めた。


進み方としては、ゴブリンが歩いてきた方向に向かって歩くという単純なものだ。


でも、それはうまくいった。




「やっぱり足跡だ」


「そうだな。いるならもう少し先か?」


「そう思うけど…」


「私が先行してみましょうか?」


「いえ、そうなった場合何か、こちらの考えよりもまずいことになっていたときに対応できなくなるので、ダメですかね」


「えーっと、マヤやんは何を警戒しているのかな?」


「それは、上位種の存在が、ボクたちの手に負えないようになるかもしれないから、いざとなったときにみんなで逃げれるようにするためかな…」


「上位種がいることは確定ですか?」


「ボクは確定だと思っています。さっきから、ゴブリンがそんなことをするんだって疑問にみんなが思っていたっていうことは、普通であればそんなことをしない。でもしている。それにこれです」




そう言って、取り出したのはロープだ。


しかもかなり細く、ワイヤーといえばいいのだろうか?


あきらかに罠を作るためにもっていたものだろうと確信できるものだ。


それに、これを見せて、レイラさんがかなり驚いているところを見ると、上位種がいることは確定と思っていいだろう。


そんなときだった。


足音が聞こえる。


それもゴブリンのものではない。


それよりも大きなものだった。


そして、その姿が見える。




「あれはなんていうゴブリンかな?」


「あれは、私も相手をしたことがあります。ホブゴブリンです」


「ホブが出るってことは、やっぱりマヤやんの危惧していた通り、上位種はいることは確定みたいだね」


「そんな悠長なことを言ってていいのか?」


「大丈夫、あたしが前衛でなんとかするからさ」




そう言って、シズエさんは大剣を引き抜いた。


でもゴブリンの上位種である、ホブゴブリンの体長はあきらかに二メートルは超えているので、大剣を抜いて相対していると、本当にホブゴブリンの攻撃を受けられるのか心配にはなったが、それはすぐに杞憂に終わる。




「ギャギャアアアアア」


「はああああ」




ホブゴブリンがもっていた、こん棒が振り下ろされているのを、逆に大剣を切り上げることにて、受ける。


すごいと、ただ感嘆した。


あの大きな巨体をもつ、モンスターに一歩も怯まないときはどうかと思ったが、それでもこうやって戦っているところを見るとかっこいいと思ってしまう。


ただ、弐撃、参撃と打ち合ううちに、それは少しの恐怖に変わった。




「ふふふふ…もっと、もっとあたしを楽しませろ!」


「ギャアアアアア」




笑いながら、ホブゴブリンと打ち合っているシズエさんにさすがにビックリとする。




「えっと、なんかキャラ変わってない?」


「ご、ごめんなさい。でもああなったシズは強いから大丈夫…周りがあんまり見えていないのが玉に瑕なんだけれどね」


「あははは…」




どうやら戦闘狂と言われる部類の人らしい。


完全に打ち合って見せているシズエさんにさすがのホブゴブリンも、さすがに油断というものがなくなったのだろう。


片手にもっていた、こん棒を両手に持ち替えた。


こちらのシズエさんは最初から両手で大剣を振るっていたのでこの後の打ち合いではさすがに力負けするだろう。


ただ、両手で持つということはそれだけで、すでに大振りをしてくることが確定している。


それを待っていたのはむしろこっちだ。


レイラさんが苦無をなげる。


しっかりとワイヤー付きのもので、足に絡みつくようにして、さらに木を巻き込むように投げたそれは、うまく決まった。


といっても、普通の人であればワイヤーによって足などを斬られることになるはずだが、それはさすがにホブゴブリンという名前がついているだけある。


止まったのは一瞬だったが、すぐにぶちぶちと音がして引きちぎられるのがわかる。


それに振り下ろされているこん棒は止まらない。


でも態勢を崩したということを考えれば防ぐことはできる。




「シズエさん!」


「任せて」




呼吸をあわせる。


二人であわせた切り上げによって、なんとか弾く。


ただ、手がこれでもかと痺れる。


現実に近いといっても、ここまでのものはいらないよ。


心の中で正直に感じる。


でも、防ぎさえすれば、魔法がある。




「風よ、相手を切り裂く刃となれ、ウィンドカッター」




ノエさんからその言葉が出て、風の刃が飛んでいく。


でもそれは、僕が思っていることにはならなかった。


体の肉が分厚いからだろう、体の表面をかすめるようにして傷をつけていくだけで致命傷にはならない。




「くそ、ダメか」


「ここまで、ダメージが入らないホブゴブリンは私も初めてですね」


「ねえ、ノエ…あれやって」


「え、でも…」


「レイラを使えばいいでしょ」


「そ、そうだね。ごめんレイラさん、こっちにいいですか?」


「ノエさん?わかりました。シズエ、くれぐれもご主人様に傷をつけないでくださいね」


「わかってるって…それでシュウ、まだ?」


「うっせえな、こっちだって荷物大量すぎて大変だってことをもう少しわかってほしいな」


「愚痴はいいから」「


「へいへい」




そういって取り出したのはそれなりに大きな剣だ。


さすがにシズエさんと比べると、大きさは小さくなるが、それでもそれなりに大きさをほこるそれを、しっかりと両手で持ったシュウは、シズエさんの隣に並ぶ。




「手、痺れてんだろ、ちょっと後ろに下がってな」


「そうそう、マヤやんに怪我されると、あたしが怒られるからさ」


「う、うん」




確かに、手が痺れて、戦えそうになかった。


今でも剣が落ちないように持っているだけで精一杯という感じなのだ。


完全に戦力になれていない自分にいら立ちと、モンスターと戦うということに対しての少し恐怖が心の中に芽生えるのがわかる。


といっても、ここで何かをしたところで、足手まといにしかならないことはわかっていた。




「あわせなさいよ」


「うるせえ、わかってるよ」




前では二人が攻撃を受け止め、後ろでは、簡単な説明を受けたレイラさんが驚いた声を上げていた。




「そんなことが可能なのですか?」


「はい、わたしがやってみせます」


「そうですか、長年冒険者をしていた私でも、それはしたことがありませんでしたが、もしそれができるのであれば、先ほどの魔法が私と違ったものだと感じた理由になるのかもしれませんね」


「はい、それでは、わたしが合図を出しますので、やりましょう」


「わかりました」




左右にレイラさんとノエさんがわかれる。


お互いに場所をしっかりと決めるためだろう、右手を前に出している。


違うところはノエさんの左手には短剣が光っているところだろう。


集中しているのか、魔法の発動するのに時間がかかっている。


自分がどうすればいいかわからないでいると、前線がまずいことになっていた。




「きゃ…」


「くそ…」




さすがに耐えきれなかったのだろう。


二人が弾き飛ばされていた。


それにたいして、まだ魔法は完成しそうにない。


でもここでむやみに飛び込んでいっても、さっきの二の舞になるのはわかっていた。


だったら、このままでいいのか?


でもどうやったらいい?


どうしていた?


これまでのゲームではどうやって攻撃をさばいていた?


思い出せ、思い出せ…


そして信じろ、今までのゲームの感覚を…




「はあああ…」


「マヤやん?」




対応できてないシズエさんとシュウの間を抜けた僕は剣を突き立てていた。


力任せの攻撃に対応するには…


力任せに対応できるであればそうする。


でも、僕にはそんな力はない。


だったら止めれるようにするだけだ。


そう、シズエさんの手から大剣を奪い取り、地面に突き立てると、さらに剣を抜いて、切り上げをする。


本気で剣を振ったところでよくてうまく弾けるかなというくらいのものなので、大剣とこん棒が当たるくらいのタイミングでこちらの剣を充てる。


ズンと音がなりそうなほど勢いがあったその攻撃は、突き刺さった大剣に当たったと同時に僕が振った剣にも衝突する。


地面に大剣がさらにめり込みながらも、なんとか弾いた。


だが、すぐに二撃目がくることがわかっていたので、ここでどうするのかはなんとなくわかっていた。


いや、思い出したというべきだろうか?


鞭だと思って使うしかないな。


こん棒が振り上げられたタイミングで剣を投げる。


それを見て諦めたと思ったのだろう、でも違う。


すでにあの蛇腹剣は伸びるようにして投げていた。


昔のゲームでよくやったものだ。


トリックウィップという名前のスキルがあった。


それは上にある木の枝に巻き付けるようにして下にいるモンスターなどに攻撃をし、主にそのまま持ち上げて窒息を狙ったり、または武器を奪い取ったりできるものだった。


ただ、外してしまえば木に巻き付いた鞭が戻ってくるまでこちらは攻撃手段をなくすという、一か八かのスキルのようなものだった。


特に、前やっていたときなんかは、そのスキルを使用していると鞭が戻ってくるまで武器も新しいものに変えられないというものだったのだ。


だから編み出したのが、簡易トリックウィップだ。


これは、スキルはスキルでもプレイヤースキルでのみ可能なものだ。


それはトリックウィップを投げた鞭で再現するというものだ。


これをすることで、相手のスキを作れるし、なおかつ、違う武器で攻撃もできるという一石二鳥のものだ。


ただ、これの欠点は…


投げた鞭はそのあと木に絡まって落ちてくることがない場合は使えなくなることだった。


だけど、今回はそれが役に立った。


油断した表情でこん棒を振り下ろそうとしたとき、すでにこん棒は投げていた蛇腹剣によって木に引っかかっていた。


一応こん棒とも打ち合えたそれは、強度もあるので、なんとかもってくれるだろう。


ただ、この時にすぐにホブゴブリンが武器を捨て、こちらに向かってきていれば、僕たちはやられていただろう。


でもそうはしなかった。


それはたぶん、シズエさんの存在が大きかったのだろう。


こん棒がなくてはいざというときに太刀打ちができないのではと思わせるくらいには…


そして魔法が完成する。




「いきます。皆さん退避を!」




その言葉がノエさんの口から出たとき、僕以外はしっかりと武器を回収したうえで退避する。


そして魔法が発動した。




「「風よ、螺旋となって敵を包め、ウィンドトルネード」」




二つの竜巻がホブゴブリンの左右に展開する。


ただ、この程度の竜巻ではホブゴブリンも特に鬱陶しいと思う程度で決めてになるというものではなかった。


でもこれでこの魔法は終わりではなかった。




「風の竜巻よ、混ざりて一つの天災となせ、サイクロン」




その言葉で竜巻が変わった。


いや、混じりあったというべきだろうか?


二つの竜巻は一つの大きな竜巻になったのだ。


それも先ほどまでと違い、地面の土をえぐるかのような…


その勢いに、さすがのホブゴブリンも絶叫をする。


だけれど、それも長くは続かなかった。


本当に風の牢獄となった竜巻によって体に傷を負い、そのまま巨躯を倒したのだった。




「すごい…」




感嘆する僕に対して、隣で見ていたシズエさんは嬉しそうだ。


レイラさんとノエさんも互いにグーサインをして、喜びを分かち合っていた。


本当にすごい魔法だった。


この魔法があれば、たいていのモンスターなど倒してしまえるのではないのか?


そう感じるくらいには、すごいものが見られたと思った。


倒したホブゴブリンから魔石を回収すると、次のことについて話を始める。




「なんとかなりましたね」


「はい、本当に、レイラさんがいてくれましたので、なんとかなりました」


「それはお互い様でしょう?」


「確かにそうですね」


「それで、マヤ様、この後はどうされますか?」


「進軍って言いたいところだけど、たぶん難しいだろうな…」


「どうしてなの、マヤやん?」


「それは、今の魔法でかなりの敵が気づいたことを考えるとということかな」


「つまりは?」


「ここからは無策に真っ直ぐ進むことができないってことだね」


「えっと、前に行くのは変わらないんじゃないの?」


「えっと…」


「脳筋さんよ。マヤが言いたいことにいい加減気づいてやれよ」


「うるさい、それならあんたはわかるの?」


「ふ、一応な。さっきの魔法で敵に気づかれたということは、このまま真っ直ぐに進むと、大多数の敵に出くわすことになり、敵の数もわかっていないこちらが圧倒的に不利になるから進むとしても相手の出方を見れるように迂回しながら進む方がいいってことだろう?」


「うん、その通りだね」


「く、このいい気になって…」


「ははん」




そんなくだらないようなやり取りがあって、迂回するためにルートを探さないとなと思ったときだった。


背後に、嫌な感じがして、全身に悪寒が走った。


そして、背後を見る。


といっても近くにその気配を感じとった何かがいるというわけではなかった。


それでも嫌な予感は途切れることがなく、僕はその方向の奥を見る。


そして、そいつに目があってしまった。


ドクンと心が鷲掴みされてしまったかのような感覚。


あきらかに異質だとわかる見た目。


だけれど、先ほどのホブゴブリンよりも小さく、でも僕たちと同じくらいの大きさながらもしっかりとした筋肉がついているのが見て取れた。


それでも異質だと感じたのはたぶん、違うのかもしれない。


ただ、それを見つけたのは僕だけではなかった。




「なんですか、あれは…」


「何よ…」


「おいおい、嫌な予感しかしねえぞ…」


「マヤ君。逃げよう」


「はい…」




しっかりと冷静だったノエさんの言葉で、すぐに正気を取り戻した僕ではあったが、それでも時間が少し遅かった。




「ギャアアアアア!」




その異質なゴブリンが大きな声で叫んだのだ。


思わず竦む体。


まずい…


そう感じたときには全員がその場から動けなくなっていた。


それに言葉を発することも難しく感じる。


これは、潜在的恐怖、そして怯え…


こういうときの対処法なんかこれくらいしか、本で読んだことないぞ…


震える唇をグッと噛む。


口の中に血の味が広がるとともに体が動くのがわかる。


速攻で僕は地面に手をつけた。




「水よ、壁となりて我を守れ、ウォーターウォール」




想像する魔法は、水の壁。


それもありったけの高いものを…


一瞬のことなので、わからなかったが、少しの頭痛と引き換えに、魔法は成立した。


高さは木より少し低いくらいだろうか、それは全員をカバーするには少し大きすぎる横幅ではあったけれど、それでよかった。


みんなを守るためにこの魔法をしたわけではなかったからだ。


確かに、このタイミングで攻撃がくることがあれば水の壁で守るということはできるだろう。


でも真意はそこではなかった。


先ほどの声で硬直して動けない味方に対して行ったものだ。


これを思いついたのもギルド内でこの魔法を暴発してしまったせいだからだけど…


その水の壁は長く保つことはできない。


そして崩れた水は全員に降り注いだ。


さすがに僕とシュウ以外は女性メンバーなので、一瞬これをするのに躊躇はしたが、それでも必要だと思ったのだ。


そして、水に打たれるパーティーメンバーたち…


さすがにこんなことになるとは思っていなかったみんなは戸惑いながらも、後ろに向かって走り始めた。


そんな中でシズエさんが口を開く。




「マヤやん、こんな豪快なやり方、さすがにビックリだよ」


「まあまあ、わたしたちが動けなかったのをなんとかしてくれたんですから…」


「さすがはマヤ様です。私をびしゃびしゃにしながらも、助けてもらえるなんて、ここに男がいなかったらすぐにでも脱げます、私は…」


「いや、俺の方を見られても困るんですが…なんだこれ、本当に俺の扱いだけ酷くねえか…」


「あははは…まあみんなが動けるようになってよかったです」


「それにしても、あれはやばそうだな」


「男に同意するのは嫌な気分になるので、本当に遺憾なんですけど、私もそう思いますね。私もさすがにあのクラスと出会うのはドラゴンくらいですね」


「ド、ドラゴンと出会ったことがあるの?」


「はい、といっても飛んでいるところを見て、そのすごさに圧倒されたという感じなんですけどね」


「えっと、みんなは?」


「俺はあるわけないだろ…」


「あたしたちもないかな」


「わたしも、このゲームであそこまでのことになるのは初めてですね」


「そうなんだ…」




そう言葉にしながらも、噛んだ唇が痛む。


現実のような痛み。


でも現実じゃない状況…


これがリアルオンラインなのか…


そんなことを考えていながらも、走っていると外が見えてくる。


そういえばまだ森をあまり奥まで進んでいなかったなと思ったところで、もしかしてと考える。


そして、念には念を入れて、僕は魔法を発動する。




「水よ、泡となりて相手を幻惑せよ、バブル」




泡が辺りに生まれる。


僕がまた、突然魔法を意味があるのか、ないのかわからないタイミングで使ったことに驚きを隠せないメンバーたちだったが、森の外ではそれの意図を理解した声がする。




「この魔法は、冒険者だ。攻撃するな!」




そんな野太い声が聞こえる。


そして、僕たちは森から出たのだった。

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