第3話 初めての武器探し
「ふう…」
「どうかしましたか?」
「いや、なんでも…」
さすがに、疲れたとは言いづらい。
まだクエストを一つもこなしていないというのに、変態な人たちとただ絡んでいくだけというこの状況に疲れてきているし、少しログアウトしたいくらいには体力が削られている気がする。
体力ゲージなんていうものはないけれど…
そんなことを考えつつも、それでも次は武器を何か見に行けるということが正直嬉しくてまだログアウトしなくていいかと考えてしまう。
まあ、ログアウトする方法が、宿屋や購入したゲーム内の部屋のベッドで寝転ぶことが条件なので、そこまで行くまでいろいろとやりたいことをやってからログアウトするのが回りの普通なのだから、武器くらいはゲットしてからログアウトしたいものだ。
そうして、武器屋街に向かって歩く。
先ほど、歩きながらも武器屋街についてはレイラさんに聞いていた。
「武器屋街というのは、名前の通りにはなりますが、武器屋が集まっている場所になりますね。」
「武器屋って普通は一つあればいいものじゃないんですか?」
「そうですね。普通に小さい街であればそれでいいと思います。武器の消耗を直したり、ちょっとした武器を作ったりする程度なら大丈夫なのですが、この場所では全てオーダーメイドで武器を作れるということも大きな街ならではのことですよ」
「オーダーメイドですか?」
「はい、自分好みの武器を作ることができるというものですね。それは防具にも共通していますが」
「防具にもか…」
「はい、例えば私であれば、このメイド服はかなりいろいろな機能がついているのですが、こういうものが特注で作れるというものです」
「そうなんですね…それじゃあ、こういう中心地にある街以外の街ではあんまりいいものが買えないということになるんですね…」
「はい、基本的にはそうですね。腕のいい武器屋はやっぱり中心街に多くいますから」
「そうですか、ということはここではいろいろなものが作れる可能性があるってことですか?」
「はい。ですが、まだ未確認の情報にはなるんですが、本当の専用武器というものが作れる可能性もあるという話があるみたいです。」
「へえ、特別なアイテムが必要とかそういう感じかな?」
「条件はまだわからないのですが、もしかしたらマヤ様が今言われた通りのことなのかもしれませんね」
そうして武器屋街の入口であろう場所についたときだった。
まさかの出来事が起きたのは…
「そこのお嬢さん、メイドさんも二人かな?」
「えっと…」
なんといっていいのかわからないが、男二人組に絡まれたのだ。
何故絡まれたのかがわからないので、オロオロとし始める僕と違い、すぐにどういう意味で絡まれたのかがわかったレイラさんは、厳しい目を向けている。
「なあ、どう?一緒にクエストとかさ」
「ほらほら、メイドさんも二人でさ」
ただ、そのちょっと、いやかなり下心が見えた言い方に、僕も声をかけてきた理由がわかった。
もしかして、これはナンパ?
確かに傍からみれば、女二人に見えるのかもしれない。
でも男にナンパされるとか…
ゾワリと、背中に冷や汗と鳥肌を感じながらも、こういう経験が全くなかった僕は、本当に反応に困っていた。
だが、そんな長い時間それが続くことがなかった。
「ちょっと、あなたたち、またやってるの?」
そんな言葉とともに。二人の女性がやってきた。
一人は身長が高く、百七十以上あるだろうか、当然僕よりも高く。
さらにスラっと腰も高い、足が長いので綺麗だと誰もが思う美貌だろう。
もう一人の女性は、簡単にいえばロリ巨乳だ。
身長は百五十もないだろうと思うし、さらにはどことなく童顔な顔といい、かなり男性が好きな女性像という感じではあるが、背中には不釣り合いなものがあった。
それは大剣だ。
かなり大きく、さすがに身長と同じではないけれど、百二十くらいはあるのではないのかと思ってしまうほどだ。
そんな大剣を背中に担いでいる姿で只者ではないことがわかる。
それは、レイラさんも同じだったのだろう。
先程までに背中に感じた、男たちに向ける、本当に蔑んだ視線がなくなり、少し様子をみる感じになっている。
「おいおい、シズエじゃねえかよ。別にお前らにちょっかいをかけてるわけじゃねえんだからいいだろう?」
「あたしを誘っても腕力で返り討ちにあうからだろう?」
「ちっ、バカ力なんだから無理に決まってるだろ…」
「そうなの?でもこの世界でも元の世界と同じ体系って聞いていたから、どうなんだろうね」
「ということは、お前は現実でも怪力なのか?」
「どう思う?」
「知らねえよ…」
「おい、どうする?」
「さすがに、あの二人を相手にするのは無理があるからダメだろう…」
「そうだな…」
こうして初めてのナンパをやり過ごした僕たちは、その女性二人に声をかけられた。
「えっと、大丈夫でしたか?」
「はい、えっと…」
「そ、そうですよね。急に横やりをいれてきた人がしかも名前も名乗っていない相手だと緊張しますよね。あたしはシズエって言います」
「わたしはノエ」
「シズエさんに、ノエさんですね。先ほどはありがとうございました。正直、ボクもあんなことになったのが初めてで、かなり戸惑っていたので助かりました。」
「いえ…」
僕がはにかんで、感謝の言葉を言うと、シズエとノエと名乗った女性は、二人で、少し顔を見合わせて小さな声で会話をしている。
「(ちょっと、聞いた。ボクっ子よ)」
「(ええ、わたしも初めて遭遇しました。それに可愛いですし、最初の頃のシズエを思いだしたます)」
「(く、あたしの黒歴史を…でも、本当にかわいいなー)」
「あのー?」
「はいはい、どうしました?」
「ボクたちは、このまま武器屋にクエストをしにいかないとダメなのですが、行っても大丈夫ですか?」
「ああ、そうですよね。ちなみに今日が初めてですか?」
「はい、そうですね。でもボクがダイブ者だってよくわかりましたね」
「それは、ほら左手に腕輪がついてるでしょ」
「え?」
そこで僕は初めてその存在に気が付いた。
ここまでいろいろなことが起こりすぎて、気づくのが遅れてしまったというべきかもしれないけれど、確かに、僕と、目の前にいるシズエさんとノエさんの左手には腕輪がついていた。
これが、ダイブ者と現地人と言えばいいだろうか、AIとの違いなのだろう。
レイラさんにはついていないのでそれは確かなことだった。
さすがにその事実に気づいていなかった僕に、二人の女性は少し苦笑して、言う。
「どうですか?いろいろと教えることもできるので、よかったら、あたしたちと一緒に武器を探すっていうのは?」
「えっと…」
「そこまでです!」
どう答えようと迷っていたときだった。
突然というべきか、レイラさんが僕の目の前に割り込んできたのだ。
驚いていると、さらにレイラさんは言う。
「ご主人様をナンパしようとしていますね、先ほどの男たちを追い払ったと思ったら、次はあなたたちがナンパをしてくると…まさか、先ほどの男どもは、これのための伏線だということですか?」
「ち、違う違う。断じて、あのアホ二人とあたしたちは違うから…確かにナンパみたいな誘い方になったのは謝ります。でもね、あたしだって可愛い子とは友達になりたいです」
「いいえ、あなたみたいなメスの豚のような存在に、ご主人様を近づけさせることはもうしません」
「メス豚って、さすがに口が悪くないこのメイドさん…」
「そう思うのなら、その不釣り合いな巨大な胸を取って差し上げましょうか?それなら近づいてもいいですよ」
「いや、確かにあたしだって好きでこんなに大きくなったわけじゃないんだし、いいじゃない。っていうか、ノエ、あなた、胸のくだりのところで頷かないの…そんなことならあたしだって、その無駄に大きな身長を少しでもあたしにわけなさいよ。こんな身長で、こんな大きさだから胸を見られて嫌なのよ。だからナンパするのが女の子でもいいでしょ」
「はあ、何を言っているんですか?ご主人様は男ですよ!見た目が可愛い、華奢で女性に見えるかもしれませんが、そうじゃないのがご主人様ですかへぶ…」
「はいはい、レイラさん…喋りすぎですよ。それに華奢って、男で見た目に気にしてるんだから、そういうことを言う、レイラさんは嫌いです」
「そ、そんなー…ご主人様。マヤ様…ブツのはやめなくていいので、嫌いにだけはならないでください」
「嫌です」
そんなやり取りをしていると、シズエさんとノエさんが僕をみて固まっていた。
たぶん、先ほどの僕が男だということが信じられなくなったのだろうか…
だからといって、こんなところで裸になんてことになってしまえば、それは社会的にいろいろアウトな出来事になってしまうだろうし、そもそもゲームの世界だとしても脱ぎたいなどとは一度も思わない。
ゲームの世界なので性別などどうでもよいと思われるかもしれないが、レイラさんが変に言ってしまったことで、意識が向いてしまって、空気も変になっていた。
ただ、そんな空気を壊す人もいた。
「えっと、結婚してください」
「シズ?」
「だって、ノエ…考えてみて、あたしの理想の相手だよ…そんなの告白するしかないでしょ」
「わかるよ、わかるけど、一度冷静になってみて、まず最初に結婚の申し込みをしても、断れるだけだよ」
「そ、そんなのわからないじゃない」
「いや、わたしでもそれくらいはわかるよ」
「本当に?」
そう言いながら、こちらを見られるが、僕もさすがに今日というか今さっき出会ったばかりの女性に好意をむけられて悪い気はしないけれど、さすがに付き合う…
結婚するとなれば話は別だ。
というか、そもそもの話で、出会ったばかりの人でシズエさんはいいのかというものだ。
だから、少しでも期待したいというまなざしで見られても、こちらが困るというものだ。
ただ、そんな僕がどう返事していいのか迷っていると、レイラさんがまた横やりに入ってくる。
「そ、そんな私ですら恐れおおくて、ご主人様のペットにしてくださいなんてことを言ったことなんて、ないというのに、あなたはなんですか?」
「ペ、ペット」
「そうです。マヤ様。ご主人様に調教されたこのわげふん…」
「レイラさん?」
「ち、違うんです。これはちょっと私の欲望が素直になってしまっただけといいますか…」
「だからってわかるよね?」
「はい、すみません。でもそのごみを見るような瞳、す、素敵です」
はあはあと荒い息をつくレイラさんに、さすがに呆れながらも、シズエさんに向き直ると、ゴクリと生唾を飲み込まれるのがわかった。
もしかして、これって本当に僕がそういう調教をしたって思われている?
だから、次は自分かと思って身構えてしまったのだろうか?
そんな、ここからどうしていいかわからないでいると、シズエさんも頭をはたかれた。
「あイタ、何するのノエ」
「それはこっちのセリフだから…そろそろいい加減にしないとダメだよ。」
「でも…」
「へえ、いいのいろいろと…」
「す、すいませんでしたー!」
「うん、謝るのはわたしにじゃないよね?」
「ごめんなさい」
「わたしからも本当にすみません」
「いえ…そのお互いに苦労しますね」
「そうですね…それではわたしたちはこの辺で…シズ行きますよ」
さすがに気まずくなったからだろう、ノエさんがそうシズエさんに声をかけるが、シズエさんは首をぶんぶんと振る。
「やだー、せっかく知り合えたんだよ。少し仲良くなりたいと思ってもいいじゃない」
「あのね、だったらその第一印象を最悪にするようなことをしないように、まず気を付けないといけないでしょ」
「それは確かにそうだったんだけど…」
どことなく不器用な感じ、そういうところを見ると、歩みよりたくなる。
だからだろう、僕は口にした。
「あの…よかったら一緒に武器を見てくれませんか?」
「ほ、本当にいいの?」
「ご迷惑じゃないですか?」
「大丈夫ですよ」
僕がそう返すと、シズエさんが満面の笑みをして、ノエさんがその頭をぺしりと叩く。
なんだろう、そういうコントを見ているみたいだ。
ただ、こちらも一人の変態がいるせいでいろいろ話がちゃんと進んでいなかったということもあるのでお互い様だった。
それに、初めての武器屋になるし、このゲームのことを少しでも教えてもらうには、一緒に行動するのはありだと思ったからだ。
特にノエさんとになるが…
こうしてようやくといえばいいのか、僕たちは武器屋街に足を踏み入れる。
ナンパをされる前から気が付いてはいたが、活気があるその場所は、先ほどのようにナンパするやつがいても、さらには変態的発言をする人がいても、活気があって人が多く闊歩しているせいか、多少違うことが起ころうとも、特に気が付く人がいないという状況をつくりだしていた。
ただ、そんな中でも歩けば、僕たちは目立つことになっていた。
仕方ないことだ。
それは、レイラさん、ノエさん、シズエさんはそれぞれが違いはあるけれど、綺麗だしで注目を集めるのは仕方ないことだった。
注目されていることになれているのか、シズエさんはそんな視線など意に介さず、こちらに話かけてくれる。
「そういえば、マヤ君は、どういう武器がいいとかあるのかい?」
「そうですね、特にこだわりというものはないのですが…」
「そっか…ちなみに他のゲームとかってやったことがあるんだっけ?」
「そうですね、僕は一応いくつかのゲームはありますけど」
「そうなんだ。そこはノエと一緒だね」
「そうなんですか?」
「そうだよね、ノエ」
「はい。わたしもいくつかゲームをしていましたけど、このゲームでは特に装備選びが重要だと思いますね」
「そうなんですか?」
「はい。例えばですけど、わたしはこれなんですけど」
そう言ってノエさんが腰から取り出したのは…
「短剣?」
「はい、ですが…こうなります」
「これは…」
それはかなりの驚きだった。
見た目は短剣ではあったが、ノエさんが少し集中すると短剣の先端が赤くなったのだ。
どういう仕組みなのだろうかと考えていたのが、たぶんわかりやすかったのだろう。
ノエさんが説明してくれる。
「これは、魔法の短剣という名前のものです。わたしのメインは魔法で戦うことにしているので、魔法を使いやすくなる短剣ですね。たぶん他のゲームでは杖を使っていろいろな制御をしやすくするものなんですけど、このゲームでは聞いたことがあるかはわかりませんが、オーダーメイドの作品になります。」
「えっと、その短剣では、魔法の何を助けてくれるんですか?」
「そうですね。照準と発動速度ですね」
「照準ですか?」
「はい。魔法のことになってしまうので、後で実践を見せるのがいいとは思うのですが、簡単に言ってしまえば、この短剣が向いている方向に魔法が飛びます」
「ということは剣先から魔法が出るってこと?」
「そうですね。剣先からはさすがに出ませんが、でも魔法の発動を簡易化できることには違いありませんから」
「なるほど」
「次は、あたしね。あたしはこの背中の大剣だね。」
「それって、すごいですよね」
「もってみる?」
「では少しだけ…」
この時は油断していた。
シズエさんのような可愛い系の女性が持つ大剣なので、実は軽いのではないのかと…
ただ、それは間違っていた。
「おも…」
持った瞬間にわかる。
これは僕には使うというか、まともにふるうことすら怪しいものじゃないのかというものだ。
ただ、シズエさんはそれを何事もないようにすっと両手で持ち上げて言う。
「そうかなー?」
「えっと、これは…」
「ごめんね。シズは筋肉バカだから…」
「バカとは失礼な…ちょっと筋トレを人よりしているだけだよ」
「まあ、そういうことにしておきましょうか…」
「ははは…」
「それで、なんとなく二人の武器を見て、違いはわかってもらったと思うんだけど、魔法か近接的に武器を使っていくのか、そこをまず第一に考えた方がいいかもしれないかな」
「魔法か、近接ですか…」
「はい。魔法を使いながら、近接戦闘をするのはとてもじゃないですが、難しいですよ」
「そうなんですか?」
そこは想像していたのと違うと思ってしまった。
この世界はファンタジーをモチーフにしているから剣も魔法もある。
だからこそ、こう格好良く、魔法を撃ちながら剣を振るうみたいなことに憧れがあったのだ。
でも、落胆することはなかった。
それは、レイラさんがすぐにこういったからだ。
「確かに難しいことではありますが、できないことはないと思いますよ」
「本当に?」
「はい。魔法を使うには、魔力を練り上げるイメージから、魔法の詠唱…そして、魔法をどう使うのかのイメージによって魔法は発現します。例えば、マヤ様が、最初に水の壁であるウォーターウォールを使った際に考えたことはどうでしょうか?」
「そうだね、部屋の天井の高さまで壁になればいいなって思ったかな」
「そうですよね。そして、それを考えつつ、さらには剣を振るうということができればいいということです。」
「なるほど、そう言われると、確かに難しそう…」
「よく聞かない、魔法はイメージだって…」
「聞きますけど、ノエさん。僕は魔法を撃ちながら剣を振ってみたかったんですよ。」
「わかるけど、今できるのは剣で戦いながら、合間を見て、距離を取りつつ魔法を放ったりすることくらいかな」
「そうですか」
「そうだよ。でも大丈夫。普通でも魔法を使うのが難しい脳筋さんもいるから」
「誰が脳筋なの?」
「あはは、ごめんってシズ…」
「まあ、いいけど、それよりついたよ」
そこは武器屋街の中にはあったが、どことなく雰囲気もお店があると思えないような場所だ。
なんというのだろうか、普通の民家にしか見えない。
それは、武器屋街に並ぶ、他の武器屋は看板などがありわかりやすいのに対して、この武器屋と思われる家にはそういう看板がなかった。
さすがに戸惑う僕とレイラさんがどうしていいものかと立ち止まるよりはやくに、シズエさんが扉に手をかけて開ける。
すると、そこに広がっていたのは…
普通に民家だった。
「えっと、どういう…」
さすがに戸惑いを隠せなくなり、そう口にすると、シズエさんが中に入るとおもむろに部屋の横にあった棚を触りだす。
するとガコリと音がすると思ったら、床が開いたのだ。
「おおー」
思わず目を輝かせないいけないような状況に心が躍る。
これは、隠し部屋というやつではないのか?
こういうのを見ると、さすがゲームの世界だと思ってしまう。
というか、格好いいしかけ…
家にも実装を…
そんな風にして目を輝かせていると、僕の後ろにいたノエさんもぼそりと「やっぱり、この仕掛けはいつ見ても素晴らしい」と口にしていたが、気持ちはよくわかった。
ただ、この良さをわかってくれているのは、ノエさんと僕くらいで、レイラさんといえば「ここは調教部屋…」と小さく言っている。
もうさすがにツッコみたいが、それもまたレイラさんを興奮させる要素になりそうだし、シズエさんはシズエさんで「こんな秘密基地で愛し合えたら…」なんてことを口走っている。
うん、まともな人が僕とノエさんくらいしかいないんだけど…
そんな心の叫びが聞こえているのかはわからないけれど、シズエさんがすぐに正気に戻ると、先に進む。
「それじゃあ、あたしたちが愛用している武器屋を紹介するね。」
そうして地下部屋に続く階段を下りた先には、一人の男がいた。
その男は、最初に入ってきたシズエさんを見るなりに、嫌そうな顔をする。
「く、いつもなんでお前が先に入ってくるんだよ。ノエさんを先にいれろよ」
「なにー…あたしにはノエにないものがあるんだぞ」
そして、第一声にそう言うと、シズエさんにそう返されて、さらには自分の胸を持ち上げた。
男の人がいるという状況を理解してほしいものだと思う。
それほどに持ち上げた胸が強力だったのだ。
「お、おま、何してる?」
「あっれー…あたしじゃ、女としての魅力が少なかったんじゃなかったの?」
「そりゃ、そうだけど、その恰好はさすがに…」
「ふふん、どう…これでへぶっ」
「やめなさい」
「ノエ、今いいところなのにー」
「あのね、マヤ君が引いてるからね」
「ほ、ほんとに…」
「あははは…」
「本当じゃん。どうしてもっと早くあたしのことを止めてくれないの?」
「そりゃ、あなたがいつも暴走するからでしょ、シズ」
「暴走って、あたしは別にそんな感じじゃ」
「いや、してるから…」
そんな風にして、ノエさんとシズエさんが話しを始めてしまったので、ようやくというべきか、この部屋の主をちゃんと見ることができた。
シズエさんがからかってはいたが、そこにいたのは普通にイケメンな男性だった。
見た目からはわからないけれど、身長もそれなりに高く、大学生くらいの年齢に見えた。
そして、その男性は困ったようにこちらを見ると、声をかけてくれる。
「えっと、すまんな。急にこんなところに連れてこられてビックリしただろう?」
「いえ、ボクが武器を欲しいって言ったので、ここに連れてきてもらった感じですね」
「おお、そうなのか?」
「はい。」
「そうか、ちなみに俺の名前はシュウだ」
「シュウさんですか、ボクはマヤって言います」
「マヤね。それでどんな武器が欲しいんだ?ここは一応言っておくが、プレイヤーメイド専門店だからな、まああの二人の知り合いということなら料金は割安にはしておくが、どうだ?」
「そうですね…特に今は使いたい武器というものがないので…」
「そうなのか?他のゲームは経験とかはあるのか?」
「少しは…」
「うーん、それならあっちにある箱の武器を使って、一度どれがしっくりくるのか教えてくれないか?それと、そちらのメイドさんも武器を探しに?」
「いえ、えっと…」
「メイドさんではありません、私はマヤ様の忠実な下僕のような存在です」
「もう、いろいろあらぬ誤解しかうまなそうなことを言わないでくださいよ」
「何を言っているのですか?変な男に言い寄られても私が困るだけなので、先に私の所有者が誰なのかはっきりと伝えておこうと思っただけなのですが」
「それが、あらぬ誤解をうむっていうことがわからないのかな…」
「仕方ありません。私のご主人様はマヤ様だけですから」
「そうですかい…」
「か、変わったメイドさんですね」
「あ、はい」
完全にちょっとヤバいやつだと思われてしまったが、ここは気にしてはいけないと思い、武器を箱から選んだ。
まずは最初に手にとるとしたらこれか…
ショートソード。
それは刀身が腕とほぼ同じか、短いくらいの武器だ。
少し重みがあるが、振れないというほどではない。
まあ、一番最初に誰もがゲームをすれば手にする武器といえばいいだろう。
僕でも持てることから必要な筋力もそこまで高くないということだろう。
ただ、久しぶりに振ってみたくなった。
とあるゲームで散々世話になったスキル。
チャージソード。
初期スキルで、武器ごとにチャージ○○という名前であったそれは突進技だ。
「ねえ、ちょっと試し斬りとかできたりするかな?」
「おお?それならさらに下に地下演習場があるからよ、そこでやろうぜ」
「いいですね」
僕は思わずくいついた。
そう、男子ならば食いつく話題なのだ。
特に地下演習場なんかはやっぱり、強くなるためにいろいろな人たちが特訓をしているイメージが強いからだ。
その食いつきに、意外だったのだろう、シュウさんが言う。
「なんだ、お前、その食いつき方、男みたいだな」
「いや、男ですけど」
「はは、何言ってるんだよ、そんな見た目、俺の妹より可愛いぞ」
「いや、実際男なんですが…なんなら見せましょうか?」
そうして、思わず服を上にあげようとしたときだった。
勢いよく、シュウさんに止められる。
「待て、わかった。男だということは俺も認めよう。だがな、俺の命が亡くなるような真似だけはやめてくれ」
そう言いながら恐怖におびえるような表情をしているシュウさんを見る。
同じ男だから、わかってくれていると思って、見せようと思っただけなのだが、そういうのはダメらしい。
というのも、僕もその視線を感じていたからだ。
レイラさん、シズエさんからの殺気と、ノエさんからはけだものを見る目だ。
シュウさんは何も悪いことはしていないのに、なんというかかわいそうだ。
「えっと、ごめんなさい」
「本当だぜ、俺もさすがにこれには耐えれねえ…」
「えっと、とりあえず、下に行きますか」
「ああ、案内するぜ」
そうして僕たちはシュウさんに案内してもらい、下に降りた。
そこには地下演習場という場所なのだろう、ただ広い部屋があった。
「すごい」
「だろう、俺の自慢だ」
「でも、これで振れそうだ」
右手で持った剣を左の腰辺りまで引き絞る。
そして腰を低くする。
さすがに駆ける距離は短くなったが、駆けた後に、急制動を右足でして左腰に構えていた剣を少し前に突き出しさらに右肩に引き絞る。
これはゲームの世界で使っていた技だから、うまくできるかはわからない。
でも懐かしい、剣を振るという感覚だった。
「チャージソード」
小さく口にすると、顔辺りの高さをつく。
ひゅっと音がして、それなりに強く振れたのではないのかというのかがわかった。
ただ、ショートソードはありきたりすぎて面白味がないので却下だ。
それに使っていると昔の癖がでる。
だから、使うのなら違う武器がいい。
そんなことを思いながら、違う武器を選ぼうとしたときだった、ノエさんがこちらに飛びついてきたように、こちらの手を握った。
「も、もしかして、マヤ君はヴァーチャルランドをやったことがあるの?」
「ありますけど」
「本当に?あのゲームは鬼畜ゲームだっただけに知っていてもやっている人が少なくてどうかと思ってたけど、あの動き、チャージソードだよね。すごい、わたしの他にいるなんて…」
「ちょ、ちょっと、ノエ…ゲーマー魂に火がついたのはわかったけど、さすがに近いから…」
「あ、ごめんね」
「いえ」
どうやら、僕の他に、同じゲームをやっていた人がいたようだ。
確かに、かなりの鬼畜ゲームではあったそのゲームはやる人を選ぶものではあったが、はまれば楽しめる。
簡単にいえば中毒性があるものだったが、今はあまり思い出さないでいいだろう。
もうかなり昔のゲームだし…
そんなことを思って、さらに武器を物色していると、面白いものを見つけた。
ショートソードより少し長いだろう、それは…
見たことないものだった。
「なんですかこれ?」
「おお、それに目をつけるとはな…蛇腹剣ってやつだよ」
「蛇腹剣…」
「俺には使いこなすことはさっぱりだったがな」
「じゃあ、どうしてあるんですか?」
「いや、いろんな剣を作ってみたくて、ちょっとな」
「なるほど…」
確かにロマンとして、鍛冶屋になるといろんな武器を作り、それを使って強敵を倒すというのは憧れだ。
ただ、疑問なところはまだあった。
「あの、今更ですけど、ダイブ者ですよね」
「そうだぞ」
「どうして鍛冶屋をやっているんですか?」
「ああ、そのことか…話せばちょっと長くなるかもだが、簡単にいえばできるからだ」
「いや、どういうこと?」
「あー、ごめんね。シュウはアホだから、ちょっと説明がうまくなくて…」
「ノエさん、酷いっすよ」
「まあ、大学の後輩的なね…その話はおいておいて、さっきの説明をすると、水晶を触って魔法の適正は受けたんだよね、マヤ君って」
「はい」
「その後に、ギルドカードが発行されるんだけど、そこに違う記載がされている人がたまにいるらしいのよ」
「えっと、例えば?」
「そうだね、シュウ…」
「はいはい」
そう言って、シュウさんのギルドカードを見せてもらうと、そこにはⅮランクと書かれているのとともに、下のほうに鍛冶適正アリと書かれていた。
「これは…」
「そう、こうやってたまに職業として適正を持つ人がたまにいるみたいなの、そこで偶然出会ったのがこのシュウだったってわけだね」
「なるほど…」
「まあ、俺も助けてもらったからこうやって隠れて武器屋をやってるってわけだな」
「へえ…」
ということは隠れるくらいの何かがあったのだろう。
確かにゲームの世界ではいろいろ他の人と違うものがあればそれに嫉妬するのがゲーマーたちの悲しいサガなのだ。
仕方ないと思いながらも、それに巻き込まれたシュウは本当に面倒くさい思いをしたのだろうと考えると、同じゲーマーとして謝りたくなってくる、すまないと…
ただ、それが表情に出ていたのだろう、シュウは笑っていう。
「どうした、ノエさんと同じように、ちょっと申し訳なさそうな顔をして…」
「そりゃ、僕たちのようなゲーマーが迷惑をかけたんだからさ…」
「くくく…本当にノエさんということ一緒だな。別に俺に迷惑をかけたのはマヤじゃないんだがな」
「それはそうだけど、やっぱり気になるとさ…」
「確かにな。それはあるけど…まあ、そんな優しいマヤにはそれをやるよ」
「いいの?」
「ああ」
そうして、僕は蛇腹剣をゲットした。
こういうとき、ゲームではチャラチャチャチャーみたいな、効果音が流れることが多いけれど、さすがにそんな効果音が流れるゲームではないので、自分の脳内でだけ再生しておいた。
「それで、これで何をしに行くのかは決めたのか?」
「そりゃ、何か討伐クエストでも受けようかと思ってて…」
「なるほどな、それなら、俺も一緒に行っていいか?」
「武器を作ったりはいいのか?」
「まあ、俺もこの世界にいる間にずっと武器を作っているわけにもいかないからな」
「それは確かに、それだけだとつまらないね」
「だろう…それに、ノエさんと同じ反応をするマヤなら、俺も仲良くできそうだからな」
「はは、そうなると、ボクも嬉しいよ」
こうして新たに、シュウも一緒になって、合計五人になった僕たちは武器屋街を後にした。
ちなみに忘れそうになっていた手紙については、レイラさんに言われて思い出し、なんとか武器屋街の一番入口にある、武器屋街案内所なる建物に出してきた。
その案内所ではどんな武器がどこで買えるのかが書いてあったり、また、防具なんかの場所も書いてあったので、初心者は普通であればこれを参考にするのかな、なんてことを少し思ったのだった。
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