第2話 ギルドへ

「どこまで行くの?」


「まずは街の中に溶け込みます」


「わかった」




まだゲームを始めて数分だというのに、よくわからないまま逃げている。


だからなのだろうか、それとも追手が魔法を使ってきたからなのかはわからないけれど、周りこまれた。


僕とメイドさんは足を止める。




「おい、メイドよ。お前はわかっているのか?そいつを野放しにするとどうなるのか…」


「それはわかっています。でもそれでもあなたたちはこの方に助けてもらったはずです」


「ああ、確かにそうだな。でももう状況が変わっているんだよ」


「だから始末すると?」


「そうだ」


「でしたら、私が全力で阻止させていただきます」


「は、やってみろよ」




そんな男の言葉によって戦闘が始まった。


男は腰の辺りから警棒のようなものを取り出してこちらに踏み込んでくる。


対してメイドさんはどこから出したかわからないが苦無のような暗記を手に持っている。


その苦無で攻撃を受ける。


鍔迫り合いのようになる前にグッと後ろに下がることで、鍔迫り合いになると思い力と体重をかけてきていた男が態勢を少し崩す。


それを逃さないように、メイドさんはバク転の要領で回し蹴りを放つが、それはさすがに読まれていたのかかわされてしまった。




「へえ、女だからって油断していたらダメってことか」


「そういうことです」


「でもな、そいつがいることで、どうなるのかわからないのか?」


「それを含めて決めるのは本人です。あなたたちではありません」


「ちっ、そういうことかよ」




男は悪態をつきながらも、またメイドさんのほうに踏み込む。


ただ、容易に間合いに入らせるのも、今回はさすがに嫌なのか、メイドさんは苦無を投げた。


でもそれは、簡単に防がれてしまう。


そのままの勢いで男が突っ込もうとしたときだった。


きゅっと足を止めた。




「おいおい、これはかなり物騒だな」


「おや、気づきました?」


「ふ、本当にもう少しでやられるところだったぞ」




男がそんなことを言うが、僕にはそれが本当にうっすらとしか見えなかった。


糸と言うべきなのだろうか?


それが苦無から、メイドさんの手というか手の服の下あたりから出ているから、仕込み武器か何かだろう。


それにしても本当に、かなり高レベルな戦いだなと思わず感心してしまうほどだ。


また仕切り直して戦うのか?


そんなことを思っていたが、そうではなかった。




「これで、私の勝利は確定しました」


「は?何を言っているんだ?こんなのは避けてしまえば…」


「風よ、螺旋となって敵を包め、ウィンドトルネード」




その言葉とともに現れたのは、竜巻…


竜巻は相手の男、そして糸を巻き込んだ。




「そういうことかよ…」




男は諦めたように言って、この戦いはその後、糸によって身動きがとれなくなった男にメイドさんが苦無の持ち手の部分で殴って気絶させることで終了した。


僕はというと、その戦いにかなり興奮していた。


ただ、その場で今のはどうするのか、などと聞いたところでまだダメなのはわかっていた。


それはメイドさんも察してくれたのだろう。




「それでは行きましょう」


「はい」




僕たちはまず人通りの多い街中に入った。


先ほどまでの位が高い人が住んでいるような豪邸で敷地が大きな場所ではなくて、本当に下町で活気があってという、普通であればこんな場所を最初に案内されて旅が始まるのではないかと思わせてくれるくらいの場所だった。




「すごい、活気ですね」


「そうですね。ここがこの都市の一番栄えている場所ですから」


「そうなんですね」


「はい。まずは、ギルドに向かいましょうか」


「ギルドですか?」


「はい。この都市といいますか、各都市にはギルドというものが絶対にあります。ギルドとはその都市の情報管轄をしている施設だと覚えておいていただければいいと思います。」


「そうですか」


「はい。特にギルドでは魔法の適正や、それに伴う魔法書を数冊もらうこともできますから…」


「魔法書?」


「そうですね。それは見てからのお楽しみということにしておきましょう」


「そうですね。そのほうが僕もワクワクができますしね」


「そう言っていただけるとこちらも嬉しいです」


「でも魔法の適正か…えっとメイドさんは風魔法が使えるってことですね」


「はい。私は風魔法が使えますよ」


「そうですか、はは…」




いや、笑っている場合ではない。


今更ながらに気づいたが、メイドさんと呼んではいるし、相手もそれでいいという風な感じでいっているが、さすがにまずいのではないかと思い始めた。


さすがにコミュ障で、会話力が全くというほどゼロに近いとしても、相手の名前を全く知らないでこのまま後の案内含めてするっていうのも忍びないし、それにさっきはゲームのイベント的なことになるのかもしれないけれど、助けてもらったんだし、それにはちゃんとお礼を言っていないというのもある。


だけど、名前を聞くのも今更という感じも…


僕はうーん、と悩みながらもメイドさんについていくことしかできなかった。


そうしているうちに僕たちはギルドにつくことができた。


両開きの大きな扉を開けると、こちらに注目が集まるのがわかった。


ただ、僕もメイドさんもお互いに急いでいたことで、そんな視線を受けているということも無視して、受付についたのだが、そこでメイドさんが馴染みの受付の人に出会ったところで、その女性がぎょっとして僕とメイドさんを見た。




「どうしたのですか、レイラさん」


「どうしたのって、少しギルドに登録を…って、あ…」


「今、気づいたんですか、本当に、メイド服を着ているのですから、普通は一番気を付けないといけないと思いますけど」


「それに関しては、私の不注意でして…」


「えっと、どういうことでしょうか?」




思わず二人が何を気にしているのかがわからなくてそう口にしたが、そんな僕のことを二人がというべきか、よく考えるとこの部屋にいるほとんど全員がこちらを見ていることに気づいた。


どういうことなのだろうと、ただ疑問に思っていたが、次の受付さんの言葉でその意味に気づいた。




「明らかに貴族のご令嬢さんをギルドに、しかも護衛というか、身の回りの世話をしているであろう人が一人っていう状況はおかしいって思われてるんだよ」


「な、なるほど、そういうことですか」


「うんうん、ていうことで、レイラさん。まずはその子と一緒に後ろへね」


「はい」




メイドさんである、レイラさんに少し怒りながらも、僕たちはギルドの会議室になるのだろうか?


そこに連れてこられた僕とメイドさんは、まずはというか、その受付嬢さんにお叱りを受けた。




「まず、何があったのかはわかりませんが、そんな服装で、しかもほとんど警戒心もなく街や、ギルドの中を歩いていると危ないです。そして、それをちゃんと気づかないレイラさん、あなたが一番悪いですからね。いつも、私のご主人様はと自慢するくらいなのですから、そういうところをしっかりと教えてから、一緒にギルドにやってくるなりすればよかったのに…わかってますか」


「はい、エリカ。すみません」


「本当に、気を付けてください」


「はい。」


「それで、何の用だっけ?」


「今日は、私のお嬢様をいろいろ鑑定してほしいのです」


「えーっと、さっきからお嬢様っていうのは…」


「ボクです」


「なるほどね…」




そういうと、エリカと呼ばれた受付嬢さんは僕のことを軽くジロジロと見ると、納得したようにうなずく。




「なるほど、髪に隠れているけど、本当に綺麗な子。」


「そうなのです。私はそこも惚れていまして…」


「はいはい、そんなことを話しだすと、ご主人様に怒られちゃんじゃないの?」


「いえ、それは、そんな怒られることがあるのなら、それはご褒美といいますか…」


「うん、前から、そのご主人様にだけはドMなところはなんとかならないの?」


「それはその…」




そう言いながら、レイラさんはこちらを見るが、僕にはどうしようもなかった。


そのわかりますよね、みたいな感じでこっちを見られても、本当に会ったのは今日が初めてなのだ。


だというのに何がわかるというのだろうか、名前がわかったのだってついさっきだったのに、次は、このメイドさんがドMだって、本当に意味がわからない。


僕がなかなか同意しなかったからだろう、さすがに少し気まずかったのか、レイラさんは目線をそらした。


そんなことをしている間に、今度はエリカさんはこちらに声をかけてくれる。




「えっと、まずは名前かな。」


「マヤって言います」


「マヤね。それで魔法はどの属性を使えるの?」


「わかりません…」


「え?わからないの?あなたは魔法の加護を調べる水晶をしたことがないの?」


「えっと、水晶ですか?全くわからないのですが…」


「そ、そっか、ちょっと待ってね」




そう言うと、エリカさんはレイラさんの服を掴んで部屋の隅におしやり、何かをひそひそと話しているようだ。


断片的に聞こえる声だと、どうやらもっと早くに水晶によって魔法の適正を調べるはずくらいの年齢の人がどうして来ているのかということで、まあ、要するに最初からそうではないかと思っていたが、かなりの訳ありなんじゃないのかと言われているらしい。


ただ、そうといっても魔法の適正は絶対に調べたほうがいいと思うからということでまとまったらしい。




「えっと、それじゃマヤさん。少しやり方をみせるね。」




そういって、部屋の棚にしまってあった水晶をエリカさんは手に乗せる。


手のひらにのせ、手はパーの状態にする。


そして、エリカさんは水晶を見つめた。


何か集中しているのだろう。


するとどうだろうか、水晶が青色になったのだ。


すごいと感心していると、すぐにそれは収まった。




「これが水晶で属性を見るということです。色は水色でしたので、水属性の適正があるということになります」


「なるほど、ボクも同じようにやればいいってことだね」


「はい。こちらを使ってください」




そう言われて手渡された水晶を同じように手のひらに乗せて、集中する。


するとどうだろう、一瞬だけふわりと体がしたかなと思った後に、手のひらに乗せていた水晶に変化が起きた。




「「水色!?」」


「えっと何かまずかったかな?」


「そうですね、色の説明をしていませんでしたね。まず属性を調べるときに出る色というのは全て濃いものになります。それはレイラも同じです」


「はい、私がやるとこうなります」




そう言って、レイラさんは水晶を持つと、それは緑色になった。


これは風ということなのだろう。


ということは火が赤ということだろう。




「えっと黄色は?」


「土になりますね。」


「白とかってないのかな?」


「白ですか、聞いたことがないですね」


「そ、そっか…」




そうして謎を残しながらも、青色に近いことから水の魔法が使えることは確実だろうということで、僕は手帳のようなものをもらった。




「えっと、これは?」


「初級魔法が書かれた手帳になります」


「初級魔法…なるほど」




書かれているのは水を出すウォーター、水を泡のようにできるバブル、水の壁をだすことができるウォーターウォールの三種類だ。


これで僕も魔法が使えるということか…


そんなことをしみじみと思っていたが、ここでさらに問題な発言を聞く。




「マヤさん。まずは魔法が本当にだせるかの適正を把握しましょうか」


「えっと、どういうことですか?」


「魔法というものは体内の魔力を想像によって、操ることにより、魔法を創造できるというものになります。そのため適正というものが存在することがあるのです」


「えっと、それが属性の適正じゃないのかな?」


「いえ、初級魔法にも三種類ありますが、攻撃に仕えるウォーター。相手に嫌がらせや惑わすことができるサポートよりのバブル。防御に適したウォーターウォール。この三種類で使えない魔法がまず一つでも存在しているとその系統である魔法は今後もし、魔法の書というものを手に入れることができましても、使えないことになります。」


「えっと、エリカさんは使えない系統があるってことですか?」


「はい。サポート系の魔法が使えませんので、見ていてください。」




エリカさんはそう言うと、右手を前に突き出す。




「水よ、泡となりて相手を幻惑せよ、バブル」




そう言葉にするが特に変化は起きなかった。


これが適正にあっていても系統があっていないと使えないということなのだろうか?


そう思っていると、同じようにレイラさんが右手を前に突き出す。




「風よ、壁となりて我を守れ、ウィンドウォール」




ただ、その言葉を発しても何も起こらない。


なるほど、本当に系統があっていないと魔法が使えないというのはこういうことなのだろう。


二人は使える系統をすでに把握しているということなのだろう。




「それじゃ、ボクも…水よ、壁となりて我を守れ、ウォーターウォール」




何も起こっていなかった。


それにただの初級魔法。


だから部屋の中で発動しても大丈夫だろうと僕は思っていたし、たぶんレイラさんとエリカさんも大丈夫だと思っていたのだろう…


ただ、問題が起こった。


そう想像によって創造を行うことができるというのを先ほどちゃんとエリカさんが言ってくれていたのに、僕は失念していたのだ。


ぼーっとしていたというのもあったが、考えていたのはこの部屋の天井くらいの高さの壁。


そして、それは発動してしまった。




「ちょっと、マヤさん!」


「マヤ様?」


「あれ?」




天井ギリギリまでの大きな水の壁ができた。


かなりまずいのでは?


ただ、その考えは正解だったようで、壁を作り出した水たちは、その場でバシャっと音を立てると、空気に弾けるようにして消えたが、大きすぎたせいなのか、弾けた一部の水が僕たちの服を完全に濡らしたのだった。




「マヤさん…」




そしてかなりお怒りのエリカさんに僕はその後こってりと絞られることになり、ちゃんとギルドの裏手にある修練場で調べたところ、僕の魔法適正は水で、系統はサポートと防御ができることがわかった。


一番重要であるはずの攻撃魔法が使えないことにかなり今後が心配になったが、本当に三系統が全て使える人は稀であり、旅人とされている外の世界から定期的にやってくる人でもたまにしかいないとか…


ちなみに旅人というのは、僕たちのようにゲームにログインしてくる人たちのことで、僕も同じのはずなのに、そうはならないのはやはりどこか特殊な立ち位置だからだろうか?


といっても、確かに最初はいろいろと衝撃的なことがあったが、その後はこうしてなんとかギルドにはたどり着いて、さらにはチュートリアル的なこともしっかりと受けることができたので、これはこれでいいのじゃないのかとさえ思えてしまった。


そしてというべきか、ギルドに来た目的第二段階をこなすこととなった、それは…




「えっと、ギルドに所属してクエストを受けたいと…」


「はい、マヤ様と一緒に…」


「うーんとね…それにはギルドカードが必要ってことがわかるよね」


「はい」


「ギルドカードには本人と確認できるようにと認証システムとして本人の姿を投影できる機能がついているのはレイラも知ってるよね」


「はい」


「だったら、この服装じゃダメなことわからない?」


「は…つい、ご主人様のあられもない姿が美しすぎて、その姿をずっと見ていていたいと思う私の本能が働いてしまい…ぐへ」


「もう、変態的な言葉を言わなくていいから…それでマヤさん。まずはその服装なんとかしないとね」


「えっと、服装ですか?」




僕は気にもしていなかった服装を再度確認する。


そこには裸足の、さらに服も少し汚れ、さらには軽く切れているのか肌が露出をしている自分がいた。


といっても僕は男だし、こんな服装だろうが特にはゲームをする上では気にすることではないと思う。


まあ、確かに靴はそろそろ履きたいとは思っているが、それくらいだろうと思ってしまう。


そんなキョトンとしていたことにエリカさんは気づいたのだろう、さすがに少し引いているように思う。




「どうかしましたか?」


「どうかしましたかじゃないの…レイラ…あなたね、さすがにご主人様がどれだけ世間知らずなのかはわからないけど、こんな服装だと変な男にとっかえひっかえで声をかけられるよ」


「それはすぐに着替えましょう。いい服がありますかエリカ」


「本当にご主人様のこととなると行動がはやいね」


「いえ、確かに私のご主人様が注目されるのは自然なこととはいえども、下賤な輩にご主人様の肌を見せることなど、例えその目が見えなくても許されない罪…」


「そこまで言うの…まあ、いいけど。それで、マヤさん自分の状況が少しでも今の会話でわかった?」


「いえ、わかったことといえば、レイラさんがかなりの変態ということくらしか…」


「くう、どうしてあなたのご主人様はこんなに鈍いの?」


「そこが可愛いのです」


「あっそ…それじゃ、マヤさん。言わせてもらいますけど、その恰好は目立ちます。それに今の服装でこの先もずっとギルドカードに載せてしまうと、それがギルドに行くたびに見られることになります。」


「はあ…」


「本当に鈍いですね。あなたは自分が可愛いという自覚はないのですか?」


「か、可愛い?」


「そうです」




どういうことなのだろう。


確かに僕は外に家の外からほとんどでないこともあって、肌は白いし、体もゲームの時くらいしか運動をしていないせいか細いほうだろう。


そして髪が長い…


ここで今更ながらに自分のことを思いだした。


そう、僕は女性ものの服を着ていて、さらにはレイラさんからはお嬢様と最初に言われたのだ。


そこから導き出される答えは簡単だ。


もしかしなくても、エリカさんは僕を女性と勘違いしているのだろう。


ただ、ここで男性だということをばらしてしまうというのもいささかまずい気もする。


それはさっき魔法を使ったときに全員服が濡れ、すぐにレイラさんによる風の魔法で服を乾かしたのはいいものの、女性二人のびしょびしょに濡れて下着が透けてしまっているのを一瞬でも見てしまったのだ。


さすがにすぐに目線はそらしたけれど、それでもこういうときにお約束というのは、変態となって叩かれるというものだ。


そんなことで迷っていたときだった。




「マヤ様、ここは服装交換を…」




そんな言葉とともにいつの間にか後ろに回っていたレイラさんに背中にあるジッパーを下げられたのだった。




「「え…?」」




僕とエリカさんと戸惑う声とともに、男ものの下着だけになった僕はエリカさんに突き飛ばされたのだった。




「イタ…」




ただ、壁にぶつかることはなかった。


そう、この現況を引き起こした本人であるレイラさんが受け止めたからだ。




「ダメですよ、いくら仲のいいエリカでもご主人様を突き飛ばすのは…」


「いや、だってレイラ、あなた、男…」


「そりゃマヤ様は、男ですから!」


「いや、レイラ、そんなことを自慢げに言われても、ちょっと頭が追いつかないというか…本当に男なの?」


「そうです。見てみますか?」


「それは…」


「ちょっとエリカさん…なんでそこで迷うんですか、というかボクの意思は?」


「そりゃ、うちだって、さっき少しはその下着姿を見られたから、ちょっと見るくらい…」


「エリカさん、聞いてます?」


「マヤさん、いやマヤ君…いいかな?」


「いや、ダメですよ。というかいろいろ話が脱線しているといいますか、なんなんですかこれ…」




その後なんとか解放された僕であったが、何故かエリカさんがかなり僕のことを気に入ってしまい、うちの服何枚か余分に用意しているからということもあって、それに着替えることになった。


途中で、若い子のエキスがうちの服にしみ込んでいくという風な言葉を聞いたような気もしたが、それは聞こえなかったことにしようと思った。


というか、レイラさんもエリカさんも、ゲームの中のNPCのはずで、そうであったらこんなにもリアルで変態なのは本当にどうにかしてほしいとしみじみ思ったのだった。


そんなこともありながらも、何とか服を普通のものに着替えることができた僕は、ギルドカードを作ってもらい、これでようやくこのゲームを始めることができるというものだった。




「まずはクエストを受注するところから始めたいんですけど…」


「そうですね、まずはクエストの種類について説明しておきましょうか。クエストには納品やお遣いといった基本的に毎日あるような雑用的なクエストのものから、モンスター、害獣の討伐を依頼するクエストの二種類がおおまかにあると覚えておいてください」


「なるほど」


「ちなみに初心者として、もしクエストを受けるのであれば雑用クエストからということにはなりますが、レイラがそばにいますからね、そこはこだわりがなくて大丈夫だと思います。」


「レイラさんってすごい人だったの?」


「そうですね。これでもBランクの冒険者ですから」


「Bランク?」


「はい、ギルドカードを確認してください。ギルドカードには名前、顔写真、そしてランクがしめされています」


「Fって書いてあるよ」


「はい、初めてギルドに登録された方の大半はそのランクからスタートになります。」


「普通はっていうことは、そうじゃない例外の人もいるってことですか?」


「はい、本当に稀にあることではありますが、ギルドカードに登録する前にいくらかのモンスター、または害獣を討伐し、その証を持ち寄る人がいるのです。もし、それが一定以上の評価があるものであれば、そこで評価があがり、ランクも上がるということになるのです。」


「なるほど…」




でも、確かに稀にありそうだ。


特に僕たちのようなゲームだと思ってやっている人であれば、最初からある程度の勝手がわかるので、ささっとモンスターを討伐くらいはできるのかもしれない。


ただ、そうなると気になってくるところもあった。




「あの…そうなると武器とかって…」


「はい、武器ですね。そのあたりはレイラに聞くのがいいかと思いますけど、基本的には自分にあったものを選ぶといいと思います。」


「あ、そこはそうなんだ…」


「はい、ですが…たまに旅人の方で、冒険者に初めてなられる方の中に、自分の能力以上のものを武器としてもとうとする方がいるので、本当に注意が必要です」


「どういうことですか?」


「はい、ギルドに立ち寄った際に簡単に聞こえただけなので、わからないのですが、少し聞こえた内容ですと、どうやら、大剣を装備した男に仲間の男が、本当にそれは振れるのかと確認したところ、まあ筋力が勝手にあがるだろうと話されていたのですが、筋力は急にはあがったりしないと思うので、特にマヤさんはおやめくださいね」


「えっと、でもステータスが上がれば、持てるようになると思うんですけど?」


「ステータス?…なんというものですかそれは?」


「えっと…」




どうやら、本当にステータスという言葉を知らないらしい。


ここで悔やまれるのは、ゲームのグラフィックやこうして話しているAIが本当に同じ人間みたいだというサイトに書かれていた言葉のみでこのゲームにログインしてしまったことだろう。


ゲームのシステムがよくわかっていないから、こういうときにどうしていいのか悩むのだ。


ただ、そんなときにレイラさんが助け舟をだしてくれた。




「それに関しては、武器屋に行ってしっかり自分で選ぶことでいいんじゃないでしょうか?」


「それは確かにそうですね。レイラが一緒に選ぶのなら間違いはないでしょうから、それでいいのかもしれませんね。それじゃ、ついでにこちらをクエストとしましょう」




そう言って渡されたのは手紙だった。




「これを武器屋街にいる方に渡していただけると、クエスト完了となりますので、よろしくお願いいたします」




そうして、ようやくといえばいいのかギルドでクエストも受けられることになった僕たちは、今後使うであろう武器を求めて、武器屋街と呼ばれる場所に向かうのだった。

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