リアルオンライン
美しい海は秋
第一章 ゲーム世界へ編
第1話 ゲーム世界へ
ゲームとは…と言われれば、どんなものを想像するだろうか?
例えば、画面に映し出されたものをいうのだろうか?
それともゴーグル型の中に専用に映されたものだろうか?
もしくは…
「カチカチ…カタカタ…」
そんな音が部屋の中に響く。
今時珍しいと世間一般では言われている、画面がしっかりとあるディスプレイを前にしてパソコンをいじっている僕は、かなり珍しい存在だ。
今時の流行りは、全部ホログラム式といえばいいのだろうか、画面も打ち込むためのキーボードもホログラムにて机などに映したもので入力なんかを行っているのが今時であり、それが普通なのだが、僕はその感じになれることはなく、今でも、しっかりとした形あるもののほうがやりやすかったのだ。
キーボードなんかは特に違和感が強かった。
机に映して文字を打つときは、机をキーボードに見立てて文字なんかを打ってみたが、ただ指が痛いだけで特に使い勝手がいいとも思わなかった。
普通はどこかの見やすい位置にキーボードを浮かべて打つのかもしれないけれど、そのことがあったせいでそれをするまでに心が折れてしまってそんな他の人ができている当たり前のこともできていないのだけれど、今は外にそもそも出るということもしていないので、ネットで当たり前のことができないやつっているって、バカにされたような内容を書かれていても気にしないでいる。
まあ、学校に行っていないのでバカにされることがないから気にしないというか、面と向かって言われるということがないだけのように感じるが、今のところはそんな感じだ。
「今更、いけないよな…」
誰に言ったわけではないけれど、自分に言い聞かせるようにして口にする。
もう中学の最初辺りから引きこもりになって、高校生になったら、少しでも変われるかもって受験して受かったはいいものの、初日から行けなくて、気づけば、世間でいうところのゴールデンウイークというものに突入した。
それじゃあ、ゴールデンウイークが終われば学校に行けばいいだけの話じゃないのかと言われるかもしれないが、そんな簡単なことであれば僕はすでに学校に行っているし、それができないから引きこもっているのだ。
どうしても今更学校に行ってもと考えてしまって、結局行くというところまで全くたどり着けていないのだ。
それに、ゴールデンウイークが明けてから行ったところで、すでに顔見知り集団といえばいいだろうか?
もうグループができてしまっているから、それに入っていけるようなコミュ力がないので、それも厳しいのだ。
「簡単に言ってしまえば逃げているだけか…」
そんなことを一人ごちる。
ただといえばいいだろうか、今は本当はやりたいことがある。
ゲームだ。
ダイブゲームという言葉とともに世の中に浸透しつつあるそれは新しいゲームだ。
ディスプレイ型と呼ばれるようになった、目の前に映る画面でゲームするものをそう呼んでいて、次に流行ったのがヴァーチャルリアリティ。
そうⅤRだ。
これはゴーグル型の画面を装着することによって視界が映っている世界が現実に起こっているものと勘違いさせるものだ。
ただ、これは装着しているという感じがちゃんとあるし、より現実で体を動かしているのと同じものをという名目で登場した、装着型のセンサーは、違和感と重みによって、いやこれじゃあ、動き鈍るでしょと言われ続けるものだったが、一部のマニア…
その中の一人に自分がいるからあまり言いたくはないけれど、それにより、ゲームはそれなりにでてはいただ、如何せん、世間的に流行ったと言われれば、そんなこともなく、結局現在主流となるべくして生まれた新しいゲーム。
ダイブゲームという名前の仕様がでてしまうと本当に、消えたのかと心配になるくらいに、話題にすらならなくなってしまったのだ。
そんなダイブゲームとは?
その名の通り、ゲームの世界にダイブする。
潜るといえば、言い方はいいのかもしれないけれど、意識を一時的にゲーム世界に落ちるというところから、最初はかなり物議をかもしたものであったが、拡張現実と呼ばれるARのゲームにより、怪我などといった問題があったせいで、それならダイブゲームで、ゲームの中で治る怪我をするほうがいいのではということから、広がりを見せてはいたが、問題もあった。
それはというか、最初は仕方ないことではあったが、ゲームのハードがこれまでと全く別物であったことから、いいゲームが出てこなかったのだ。
最初にでた、剣と魔法と…
なんていうタイトルで出たSFも…
まあ、察してというレベルだったから、それ以降もみんながやりたいであろう物語に出てくるような、現実と見違えるようなゲーム世界を体験するというものではなかった。
一週間前に急に出たゲームまでは…
リアルオンライン。
そんなふざけたタイトルで出たゲームは、タイトルだけでいえば最初に出た、剣と魔法と…と同レベルのものではあったが、内容は全く違っていた。
現実と見違えるほどきれいな、街並みや、森、山というところも匂いすらも現実に似ているというよりも一緒にしか思えないと結構な人が言っているのだ。
現実に近い世界で、あなたに冒険を…
そんなサブタイトルが書いてあったときは、みんな最初は鼻で笑ったらしいが、それもゲームをすることで、印象がガラリと変わってしまったらしいのだ。
だから、やりたい。
ゲームで使うダイブギアと呼ばれる顔を覆うヘルメット状の被り物と、その横にあるソフトは、どことなく埃をかぶっているようになっている。
僕はそれを手に取った。
「…いやいやいやいや…無理だよな…でも…」
そうネットに転がっている情報からも、僕は本当はゲームがやりたい。
でも、誰かに自慢できることではないが、僕は引きこもりなのだ。
だから現実に近いとわかっているゲームをやって、こんなコミュ障がやっていけるのだろうか、いや無理だろう。
でも少しだけでも…
秒だけでも…
「これ以上悩んでも仕方ないか…こうなったら、本当に少しだけ…それに、もう発売されてから、一週間は立ってる、ということはみんなある程度進めてるはず。そうと決まればやるしか…でも…いや、もし変な人と出会ってもすぐに逃げてログアウトしてしまえばいいだけなんだ」
そう、自分に言い聞かせる。
傍から見ていたらただの恥ずかしい人間になっている自覚はあるが、引きこもりで一人で部屋にいるとどうしても、なんだろうかふと何かを行動するときなんかは誰にとは言わないけれど、口にだして言ってしまうのだ。
もし誰かに聞かれていれば恥ずかしいだけだが…
そんなことがありながらも、僕はゲーム起動する。
ベッドに寝転がったところで、口を開く。
「ダイブゲーム、起動」
[はい、…様。ログインを確認しました。以降は音声アナウンスによってログインを開始します。よろしいでしょうか]
「はい」
[それではログインIDを…]
「…」
[確認項目はこれで全てです。それでは…様。リアルオンラインをお楽しみください、背中に感触があるまでは目を閉じていてください]
「ありがとう」
音声アナウンスが終わり、周りが真っ暗になったと思うと、目を開けていると、光量でおかしくなるくらいの光だったため、すぐに目を閉じる。
どんな感じでゲーム世界に降り立つというべきか、入るのか気になったが、さすがにそこは神経的に見ることができないのだろう。
そんなことを考えていたが、すぐにそんな考えも背中に感触が起こることで、飛んでいった。
さすがに目はすぐには怖くて開けられはしなかったが、すぐに先ほどまで自分がいた世界ではないことはわかった。
それはいつも生活しているので慣れてしまった自分の部屋の匂いとは別の香りが鼻をついたからだ。
どことなく花の香りがして、僕は目を開けた。
「えっと…」
そこはすでに言葉を失うほどであった。
寝ているのは、想像していた倍はあるようなベッドで、物語に出てくるような天蓋付きと表現すればいいだろうか?
ベッドに屋根がついているのを初めて見た。
ただ、驚くべきはそこではなかった。
部屋にある物が全て見た目だけで高そうなことがわかるほどには光沢があった。
「えっと、どういうことだ…」
さすがの急展開すぎて思考がついてこない。
想像を超えるこの部屋の造り…
そうまるで、どこかの貴族なんかの部屋のようだ…
「いや、そんなことはない。そもそもこのゲームは現実的に起こることを採用しているから、まずはどこかの宿屋から始まって、そこから親切な宿屋の主から冒険者ギルドなるものを教えてもらって…冒険をするんだけど…いや、本当にどういういこと?僕だけ完全にゲームを間違えた?そういうこと?ソフトを間違えたから、他の人と違う場所にログインしてしまったっていうことなのかな?」
この頭を抱えてしまいそうな内容に、僕はその場でログアウトして確認をすればいいものを、室内を観察するようにして、ベッドを下りてしまった。
ぐるっと見回してみると、本当になんていえばいいのだろうか?
本で読む、ファンタジー世界に出てくる部屋みたいだ。
どことなく、どう使っていいのかわからないライトなんかがあると余計にそう思う。
そんなとき、不意にあるものに目がいく。
「姿鏡か…今の僕ってどんな格好なんだろう…」
そう、気になっていたことだ。
部屋を見る際にも、どことなく嫌な予感はしているが、あまり着慣れていない服装に身を包んでいることが、自分でもわかっているので、全体像を確認してみたかったのだ。
「うんうん、なるほど…髪は現実世界と一緒で切るのが面倒くさくて結構長髪で、服装は、これはドレスかな?こんな上等そうなものを着て眠っていたことを考えると服にシワができていないか不安だけど…っていやいやいや…おかしくない?おかしいよね。僕は男だよ。正真正銘の男。このゲームに入ってきたっていっても、胸はないし、正真正銘の男なのに、この服装はなに?確かに、確かにだよ…部屋を見ていたときにどことなく視線の隅に僕が着ているであろう服が女性ものであるような気はしていたけれど、それでも…現実は非情だ…」
そんなことを誰もいない部屋で一人頭を抱えながらも叫ぶようにしていると、不意に部屋の扉が開いたのだ。
そして目があう、その人と…
メイド服といえばいいのだろうか、服装をした女性だった。
長髪に伸びた髪をなびかせて、眉は切れ長で、目も少し切れ長で吊り気味で、綺麗という言葉が似あう女性だった。
勝気な見た目はどことなく、昔あった人物を大人にしたような気さえした。
その女性と数秒見つめあったのち、女性は崩れ落ちるようにして膝をついた。
「尊い…」
何か聞こえて大丈夫かわからないような言葉が聞こえた気がするが、さすがに急に崩れ落ちたことに対して、女性に近づく。
「大丈夫ですか?」
「はい、申し訳ございません。嬉しすぎて崩れ落ちてしまいました」
「そ、そうですか…」
かなりヤバい人なのかと心配になる言葉だけど、この状況がまずいろいろと意味がわからないことが起こりすぎて、言動が明らかにおかしいはずの女性のことを受け入れてしまう。
「えっと、ここって」
「は…そ、そうですよね。久しぶりに起きてこられたので、驚いてしまって、さすがにわかりませんよね」
「そうですね…えっと寝ていたって…」
「そこから説明が必要ですよね。お嬢様は魔力供給過多症に陥っていたのです」
「どういうことですか?」
「はい、簡単に説明しますと、魔法を必要以上に使おうとした結果。魔法を使うことはできたのですが、余ってしまった余分な魔力が体の中に留まってしまい、魔力酔いと呼ばれる一時的なものではなく、魔力が溢れすぎることによって体が拒否を起こし、最悪の結果では魔力によって体を滅ぼされるか、もしくは全く起きれなくなるかのどちらかになると言われている、かなり珍しい病気に掛かっていたのですが、回復されたということです」
「そ、そうなんだ」
かなり壮大な設定だな…
そんなことを考えつつも、女性が言った言葉にいくつか気になる点があった。
まずは、魔力だ。
ネットで見ていたので知ってはいたが、この世界は剣と魔法のファンタジー世界だ。
だから魔法が使えるのは知っていたが、その中でも気になったのは、どうやら魔法を使った反動で昏睡状態になってしまったということなのだろう。
そして、ネットではそんな情報は一切なかったことがある。
それは、僕という存在がこのゲームに存在していたことだ。
そう、ゲームを始めて最初に行うことで説明として挙げられていたのは、宿屋から出て主人の話を聞くというものだ。
そこでは簡単にだが、説明を受けたらしい。
どうやら自分たちは、どこから来た旅人らしい。
だから宿屋から始まるのだろうけど、僕は何故か、こんな立派なベッドから始まり、すでにこの世界で何かしらをした人間となっている。
なんだろうか、この女性の話している感じでは、本当に何かを行ったことは確かだが、それが何かなのかは、調べていかないとわからないことになるだろう。
それよりも今は、いろいろ自分の立ち位置を知らないといけないかな。
「えっと、それじゃあボクって」
「はい、マヤ様ですよ」
「そ、そうですか」
「はい」
マヤ様だと…
確かに僕の名前を違う読み方をすればそうなるのかもしれない。
でもどうしてそうなった。
もしかして、だから僕は今、女性ものの服を着ているのか?
いや、ここは質問したら返ってくるであろうと信じるしかない。
「あの、ボクはどうして女性ものの服を着ているんですか?」
「え…わかりませんか?」
「すみません…」
「そ、そうですか…それでは不詳、このマヤ様のメイドが言わせていただきます。」
そうメイドさんは言うと、こちらをかなりのキメ顔と言えばいいのだろうか?
まあ、綺麗だと万人が言いそうな顔でこちらを見るという。
「それは可愛いからです!」
「さ、さいですか…」
僕は本当に言葉が見つからないというのはこういうことなのではと感じるくらいには言葉を失いそうになった。
それくらいにはどうしたらいのかわからない状況だ。
なんといえばいいのだろうか、このまま普通に自分が疑問に思っていることを質問しても、変な答えが返ってきそうでどことなく嫌なので、ここは一度好きにさせてみることが正解なのではないかと思い、僕はとりあえず質問を変えてみた。
「あの、結局、これからどうしたらいんでしょうか?」
「マ、マヤ様。そうですよね。私としたことが、マヤ様が目覚められたということで、テンションが上がってしまい、話しをしないといけないことを話していませんでしたね」
「いえ、ボクもまだよくわかっていなくて、いろいろと的外れな質問をしてしまったと思いますから…」
「そ、そんな、マヤ様は謝る必要はないのです。そこは罵ってもらわないと…」
うん、嫌なセリフが聞こえてきたような気がしたが、気のせいだと思うことにする。
まずは話に集中しないといけないしね。
「では、お話をさせていただきます。マヤ様は簡単にいえば次期王女様になられるお方なのです。なので、この部屋でメイドたちによりお世話をさせていただいておりました。」
「なるほど、でもボクは男だよ」
「それはですね。マヤ様は先ほども言った通りですが、すごいことをなされた方なんです。そのため、普通に男ということで生活をしてしまうと、そのことがバレてしまい、すぐに命を狙われる存在になってしまうのです。」
「そ、そうなの?」
「はい…それにもうすでに感づかれてしまっています。」
「え…?」
僕はただ、疑問に感じるだけで、すぐにメイドさんが僕の手を取った。
「でます!」
「ええーー…」
その言葉と、僕の絶叫が軽く響く中で、窓をメイドさんは部屋にあった椅子を蹴とばすことによって割ると、そのままの勢いで外に出た。
高い高い、まずい…
外の景色を確認していなかったのが、救いだったのか、それとも最悪な出来事になってしまったのかはわからないけれど、この部屋はどうやら三階の高さにある建物だったようで、かなりの高さがあったのだ。
このままではゲームにログインして、ほんの数分で何もわけがわからないままゲームオーバーの表示がでるのだろうか?
そんなことを考えていたが、そうはならなかった。
何故なら、この世界には魔法があるからだ。
「風よ、衝撃を和らげる衣となせ、ウィンドヴェール」
その魔法は、名前の通り風だ。
そして風は僕とメイドさんを包みこむように吹くと、球体のような形になり、ふんわりと地面に着地をさせてくれた。
「これが魔法…」
僕が驚いたように言うと、メイドさんはこちらを見て、少し微笑んだ後に、握っていた手をぐっと引き寄せてくる。
それですぐに僕も思いだした。
そうなのだ。
今はまだ、どういうわけなのか今一つわかってはいないが、追われている身だった。
「走ります」
その言葉とともに、僕とメイドさんはたぶんお屋敷なのかわからない場所を抜け出すのだった。
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