2-2
「新山豊子さん。なかなか渋い名前だねえ」
書いたばかりの私のメモを見ながらヨボヨボが深い声で言った。
「祖母がつけました。祖母から聞いたんですけど、私が生まれた年は豊作の年だったんだとかで……」
そんな情報いらないだろうに、私の口は勝手に動いた。
そこまでしゃべったところでハッとした。そうだ、豊作だ!
我が家は祖母が孫大好き、孫命だから、いろいろと食べさせてくれる。その生活が、おなかに負担をかけてしまったのかもしれない。
「ほほ、何か気づいたようだね?」
「……食べすぎました」
ここまできたら認めるしかない。
認めなかったらさっき受付で会った人のように、なかなか我が家へ帰してもらえないだろう。
もしも私が長い間家に帰らなかったら、祖母は間違いなく死んでしまう。
だって、豊作のようにすてきなことにたくさん出会えるように、経験できるようにってことから「豊子」とつけたんだから。
両親だって友達だって先生だって心配するだろう。
私がトイレに行ったあと、おなかのことでヤイヤイ言ったことを申し訳なかったって思う人がいたら、私はその人にどんな顔をして会えばいいんだろう。
「私が言いたいことが分かったようだね。
さあ、これまでにどれだけ食べたかを、正直に書きだしてみよう。ごまかしたらだめだよ。
これまでに食べたもの、飲んだものすべて。おかわりしたならそのこともちゃあんとね、ほっほっほ」
1週間分の記入欄が設けられている。
ここまできたら、もう逃げられないようだ。
やるしかない。従うしかない。
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