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先生にペコペコ頭を下げながらトイレに向かった。
大原先生が優しくて泣きそうになった。
もし、これが2組の担任・中尾先生だったら、きっと許してもらえなかったかもしれない。
「体調管理も学校生活において大切なことです。あと15分なんだから我慢しなさい」
きっとそんな言葉を放っていただろう。
ガラガラと引き戸を開けると、トイレ独特のムワッとした空気が鼻についた。
おなかの痛みだけじゃなくて、気持ち悪さも追加された。
一番奥の扉を開け、きっちりと鍵が閉まったのを確認すると、勢いよくズボンをおろした。
教室では今頃、私のおなかのことで話が盛り上がってるだろう。
女子たちは心配してくれてるかもしれないけど、男子たちはいいネタができたと喜んでるに違いない。
「新山も腹壊すことあるんだなあ」
「そういえば、さっきの給食で揚げパン二つも食ってたぜ」
「今日通院で休んでる沢田の分だったよな。あいつ、揚げパン大好物だよな。
沢田のやつ、それ知ったらがっかりして余計体調崩しちまうかもしんねえな」
男子ってそういうもんだ。もっと物知りな男子だと踏み越えてはいけないラインにまで足をつっこんでくる。
「もしかしてさあ……。新山、“あれ”なんじゃねえの?
ほら、このあいだも2組の女子が腹押さえて気持ち悪そうにしてたじゃん。
母ちゃんもときどき機嫌悪くなるんだけど、1週間つらいらしいぜ」
デリカシーのないことを知りながら、平気でそんなことを言うのだ。
特にお姉ちゃんや妹がいる男子に多い気がする。
男子にとってはおなかが痛いのもネタにして笑い飛ばせるんだろうけど、女子にとってはすごくすごく恥ずかしい。
そういう気持ちは1ミリもわからないんだろうな。
そんなことを考えていたら、フッと意識が途切れた。
遠くで5時間目の終わりを告げるチャイムが聞こえた気がするんだけど、それもあいまいに感じるくらい、目の前が真っ暗になりだした。
すると、突然、体がフワッと宙に浮いて、トイレの壁のほうへズリズリと引きずられていった。
「え?いったい何?」
私は今、どこにいるんだろう。
つい2、3分前までは、確かに便座に座っていた。
我が家のとは違う、薄くてヒヤッとする安っぽい便座に……。
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