1-2

先生にペコペコ頭を下げながらトイレに向かった。

大原先生が優しくて泣きそうになった。

もし、これが2組の担任・中尾先生だったら、きっと許してもらえなかったかもしれない。

「体調管理も学校生活において大切なことです。あと15分なんだから我慢しなさい」

きっとそんな言葉を放っていただろう。


ガラガラと引き戸を開けると、トイレ独特のムワッとした空気が鼻についた。

おなかの痛みだけじゃなくて、気持ち悪さも追加された。

一番奥の扉を開け、きっちりと鍵が閉まったのを確認すると、勢いよくズボンをおろした。


教室では今頃、私のおなかのことで話が盛り上がってるだろう。

女子たちは心配してくれてるかもしれないけど、男子たちはいいネタができたと喜んでるに違いない。

「新山も腹壊すことあるんだなあ」

「そういえば、さっきの給食で揚げパン二つも食ってたぜ」

「今日通院で休んでる沢田の分だったよな。あいつ、揚げパン大好物だよな。

沢田のやつ、それ知ったらがっかりして余計体調崩しちまうかもしんねえな」


男子ってそういうもんだ。もっと物知りな男子だと踏み越えてはいけないラインにまで足をつっこんでくる。

「もしかしてさあ……。新山、“あれ”なんじゃねえの?

ほら、このあいだも2組の女子が腹押さえて気持ち悪そうにしてたじゃん。

母ちゃんもときどき機嫌悪くなるんだけど、1週間つらいらしいぜ」

デリカシーのないことを知りながら、平気でそんなことを言うのだ。

特にお姉ちゃんや妹がいる男子に多い気がする。

男子にとってはおなかが痛いのもネタにして笑い飛ばせるんだろうけど、女子にとってはすごくすごく恥ずかしい。

そういう気持ちは1ミリもわからないんだろうな。


そんなことを考えていたら、フッと意識が途切れた。

遠くで5時間目の終わりを告げるチャイムが聞こえた気がするんだけど、それもあいまいに感じるくらい、目の前が真っ暗になりだした。

すると、突然、体がフワッと宙に浮いて、トイレの壁のほうへズリズリと引きずられていった。

「え?いったい何?」

私は今、どこにいるんだろう。

つい2、3分前までは、確かに便座に座っていた。

我が家のとは違う、薄くてヒヤッとする安っぽい便座に……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る