ハランドゥル王国へいらっしゃい

海原由

1-1

5時間目、国語の時間……。

あと20分ほどで終わるはずなんだけど……。

さっきからおなかの中で巨大な獣が暴れていて、そのたびにズキッとした痛みがやってくる。

大原先生の声なんてまったく耳に入らないくらい、頭の中はおなかのことでいっぱいになっていた。


「いいか?この『ゴトゴト』ってのは、擬音語って言うんだ。さあ、早速擬音語を使って文章を作ってみよう!」

あまりにおなかが痛いから、大原先生の漢字が“大腹”に脳内変換されてしまう。まあ、実際とても大きなおなかをしてるから間違いじゃないかも。

そうだ、もしかしたら今私のおなかで鳴ってる音も擬音語になるんじゃないだろうか。どんな音だったっけ。

朝はギュギュギュイーッみたいな音がしてた気がするし、4時間目の算数の授業中にはギュリギュリギュリに近い音がしてなかったっけか。

そういえばテレビでもおなかがすいたときの音とかおなかが痛くなったときの音を分かりやすく(しかもけっこうリアルに)再現していたような。

あまりにもよくできていたから笑いが止まらなかったのを思い出した。

うん、いいぞ、その調子。少しでも楽しい気持ちにもっていこう。

そうすれば、あと15分、なんとか耐えられるかもしれない。


♪ミュルルルルン

おなかが鳴った。まずい、どうしよう……。

今、クラスメートにおなかの音を聞かれたら恥ずかしすぎる。

教室は擬音語を使った文章作りのため、鉛筆を走らせる音以外何も聞こえない。

もしおなかの音を隣の席の間山さんとか谷口くんに聞かれたら……。

♪ギュギュ、ミュイイイイーッ

「うっ」

素晴らしい音とともに痛みが走った。もうだめだ……。我慢できない!


「新山、どうした?腹痛いのか?」

大原先生が大きなおなかを揺らしながら私の席へと近づいてきた。

だめだ、もうごまかせない。

「は、はい……」

「そりゃ大変だ。我慢は体に悪いからトイレに行ってきなさい。ここんとこ気温も安定しなかったし、きっとおなかが冷えたんだろう。みんなも気をつけろよ」

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