精霊の力

「さすが私が古の魔儀によって召喚した勇者たちです。とても察しがいい」

 クレア似の顔には微笑。

「もっとも召喚とはいいましたが厳密には喚起、異世界からこちらの世界に現出させたのが実際としての技法で――」

「なんかこうるさいこといいはじめたな」とジローちゃん。「あれはウン、よく見るあれだ。一種二種だから確変はないとか、普図抽選だからどうとかウンチクたれる奴の顔だ」

 ジローちゃんの声を聞いて、初めて輪駆は異様なのはリップなんとかだけではないのに気づいた。

 クレアの声がはっきり聞こえすぎるのだ。

 壇上の高さはせいぜい二メートルほどだろうが、距離はおそらく七~八メートルはある。特に声を張りあげているわけでもないだろうに、すぐそばにいるジローちゃんと同じぐらいはっきりとクレアの声が聴こえるのだ。

「そうですね、それは精霊の力です」

 クレアはまるで輪駆の心を読んだかのように間髪入れずにいった。

「精霊があなた方の言葉を翻訳し、伝え、そして私の言葉を同じようにあなた方へ伝えているのです」

「……その精霊が俺の心を読んであんたに伝えたのか?」

「厳密にはそうではありませんが、そのように認識してくれて構いません。この世の中には多くの精霊が存在し、私たちの助けとなってくれます。勇者たちからしたら、ちょっと理解しがたいものかもしれませんね。けれど、あなたたちの科学――」

 突然、よく聴きなれたメロディが流れた。

 輪駆とモグラが同時に動いた。ポケットに手を突っ込み、スマホを取り出したのである。

「あ、おいらか。ごめんごめん、ただのアラーム」

 モグラがいうまでもなく自分のスマホからではないことに気づいていたが、輪駆は画面をまじまじと見つめざるをえなかった。

 予想はついていたが圏外。

 ここがもし異世界でないとしても、こんな石材で覆われた地上だか地下だかも認識できない場所では圏外でも不思議ではない。それよりも輪駆の心を占めたのは、スマホのバッテリーがもう20パーセントしかないということだった。

(うおお、寝る前に充電しておくの忘れた……!)

 しかも起床したのが九時近かったので、ウシ娘のログインボーナスももらっていなかった。不覚である。

「あら、不思議な道具ね。ああ、それがスマホとかいう?」

 輪駆が驚いて顔をあげると、クレアが興味津々といった体でスマホの画面をのぞきこんでいた。

「うわっ、いつのまに!」

「いま! いま! ふわって! ふわって浮いてた!」

 鳥肌ちゃんが悲鳴混じりに言って、声につられて見まわすと男どもも口をぽかんと開けてこちらを見ていた。

「充電、ですか?」とクレア。「それならピカ吾郎の精の力を借りればできますよ」

「ピカゴロウ」

 鳥肌ちゃんが「じゃ、じゃあ、あなたがさっきふわりと浮いたのはなんなの! 魔法なの、精霊の力なの」

「あれはレビテトの精です」

「レビテトの精」

 なんだそれは。眩暈を感じながらふっとよぎる先ほどのクレアの言葉。

『あなたたちの語彙』

 ピカゴロウというのが何かはわからないが、ゴロピカリとかいう商品名のお米もあるぐらいだ、雷とか電気とかの精なんだろう、きっと。レビテトはわかる。FFだ。

「ちょっと訊いてもいいか?」

 虚空牙が話に割って入る。

「そんなに精霊がいるというなら、もしかして四大精霊とかも存在するのか?」

 ほんのわずかの間があってから、クレアは、ええ、とうなずいた。

「大地の精霊ガイア」

「ガイア」

 ま、まあこの流れならありそうなネーミングだ、と輪駆は思った。

「大気の精霊コンコルド」

 ちょ。

「コンコルド――って、ええっ⁉」

「海の精霊マリン」

「そっちいくんかいッ!」

「火の精霊バーニングチーム」

「精霊の名前でチームってなんだよおい!!」

 ツッコミが追いつかない。

「それらの精霊の恩恵によって世界は存在し、そうして彼のものに使える大小様々な精霊によって世界は回っているのです」

「大地の精霊はなんか回している方というか頑張って回しているというか自転車操業って感じだけどな」

 虚空牙が輪駆の肩に手をおいた。見ると、こくっとうなずいた。

 あんまり危ないことはいうな、と訴えているようにみえた。

 ジローちゃんがぼそっと呟いた。

「メガガイアとかもいるのかな」

「やめとけ」

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