【 距離50cm 】


「あっ、り、凛ちゃん……」


「うわぁ~、私の名前、初めて呼んでくれたね♪」


 彼女が炭酸ソーダのような弾ける笑顔を、僕の心にシュワシュワさせてくる。

 やばい……。彼女の目を見れない。


 僕は、また不自然に斜め上の空を見上げながら、クルクル頭を掻く。


「私も一緒に帰ってもいい?」


 そんなのいいに決まってる。

 でも、明白あからさまにウェルカムみたいにガッツキたくはない。


「あっ、べ、別に、いいけど……」


 これくらいなら、いいだろう。

 すると、彼女は、僕の押す左側の自転車の方ではなく、なぜか僕と距離が近くなる右側に隣同士で歩き始める。

 距離にして、およそ50cm。


 ちょっと前に障がい物でもあった日にゃ、この狭い歩道の幅では、肩でも触れ合っちゃったりするかもしれない。


「ねぇ、ナンデくん。もう、学校にも慣れた?」

「あっ、僕、南出みなみでね。うん、まだちょっと皆と馴染めてないけど、少しずつ慣れてはきた……」


「そうか、良かった♪」


 そう彼女は言うと、僕の方にそのかわいらしいキュートな顔を向けて、にっこりと笑窪えくぼを作る。

 顔を向けたいが、向けられない……。


 向けたら、僕は死んでしまう……。

 恋のキューピッドに胸を打ち抜かれてしまい、恋の病にこの場で倒れるのだ。


 顔は前を向いているが、少しだけ目線を彼女の笑顔に向ける。

 やばい……。やはり彼女は、この世の者ではない。


 さらりと風に揺れる栗色のショートヘアー。

 白く透き通る、まるで赤ちゃんのような綺麗な素肌。

 口元からたまに見えるかわいい子猫ちゃんのような八重歯。

 そして、近くでみると、体の細い線に比べ、意外にも制服の上からでも分かるふくよかな、おっぱ……、いや、お胸……。


 彼女は絶対に、宇宙凛うちゅうりんだ……。



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