【 距離3m 】


「ナンデく~ん、早くぅ~! 売店こっちだから~!」


 彼女は3階の窓から身を乗り出し、なぜだか指を斜め下の方へ向けている。

 あれっ? 待てよ。


 さっき、彼女は、友達とお弁当を食べていたはず。

 不思議に思ったが、僕は校舎へと戻り、上履きに履き替える。


 廊下へと出ると、彼女がもの凄い勢いで階段から降りてきて、15mほど先から僕を見つけると、また笑顔で手招きする。


「ナンデく~ん、こっちだよ~!」


 彼女の声が廊下に響き渡る。

 周りにいる他の生徒たちが僕たちを見ている。


 明らかに皆と違う学ランを着たクルクル天然パーマの僕は、今、間違いなくこの学校に現れた『宇宙人』だ。


 しかし、なぜだか彼女は、全く動じない。

 尚も、僕に笑顔を向け、「早く、早く」と手招きをしている。


 僕は、少し首を傾げながら、頭の後ろを右手でく。

 仕方なく、彼女の後についてゆく。


 彼女との距離3m。

 今までで、一番近づいた。


「ナンデくん、早くしないとパンなくなっちゃうよ」


 彼女はそう言って、売店まで一緒に走ってくれる。

 僕はマラソンランナーのように、彼女に付かず離れずの3mの距離を保つ。


「ナンデくん、足遅いね。早くしないとお昼も終わっちゃうよ」

「あっ、僕、南出みなみでです」


「もうそんなことより、急がないとパンなくなっちゃうから」

(いや、そんなことではない。名前はちゃんと呼んでくれ。『ウインク★TOKYO』よ)


 彼女の足が止まる。

 僕の足も3mの距離を離して止まる。

 それはまるで、周りから見れば、ちょっと距離のあるソーシャルディスタンスだ。


「売店あそこだから」


 彼女はそう言って、僕の肩にポンと手をやって彗星すいせいのごとく去っていった。

 お弁当が早く食べたかったのだろう。


 彼女との距離は、その時、MAX近づいた。



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