【 何で? ナンデ? 】


「ナンデく~ん、こっち、こっち」


 栗色のショートヘアーをしたまだ名前も知らない彼女が、誰かに手招きをしている。


 周りを見渡してみる。

 しかし、グラウンドの真ん中には、僕だけだ。誰もいない。


 思わず、人差し指を自分の顔の方へ向ける。


「そうそう。君だよ」と彼女は言う。


 僕は驚いた。

 でも、何で「ナンデくん」なんだ?


「ナンデく~ん、早くしないとお昼時間なくなっちゃうよ~!」


 彼女はそのまばゆいほどの笑顔を僕に向けている。

 その距離、約30m。


「あっ、ぼ、僕、南出みなみでです!」


 それが、僕たちふたりの初めての会話だった。


 まだ名前すら知らない彼女との。


 でも、あの時、彼女は確かに『ウインク』をした。

 この田舎者の僕に。


 僕は、名前を読み間違えられた仕返しに、心の中で彼女のことをこう呼んでやった。



『ウインク★TOKYO』と……。



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