【 距離30m 】


 転校1日目、この日はもの凄く時間の経過が遅く感じた。

 早くこの1日が終わって欲しい。

 朝からずっと緊張しっ放しだ。

 1分が1時間くらいに感じるほど、時間が前に進まない。


 体感的に1日だが、ようやく、午前中の授業が終わった。

 皆は、お弁当を広げて机を思い思いにくっつけて楽しそうにしている。


 今日、僕はお弁当はない。

 だから、この学校の売店で昼食を買う必要がある。


 場所はどこだろう?

 でも、恥ずかしくて聞けない。

 しかも、その標準語をまだ学んでいない。

 土佐弁が思わず出たら大変だ。


 とりあえず、教室を出てみる。

 何か、皆、同じ方向へ向かっている。

 これはラッキーだ。

 間違いなく皆は、売店へと急いでいるはず。


 僕もその後を何でもないような顔をして、着いて行く。

 あれ? 皆、下駄箱の靴に履き替えている。


 売店は、外にあるのか?


 とりあえず、僕も靴に履き替え、その後を追う。

 運動場は、高知の高校とは違い、地面が見えない。

 地面が固められ、その上に白いラインやら黄色いラインが引かれている。


 彼らの後を追い、そこを突っ切る。


 皆は、何やら倉庫のような建物の鍵を空け、人数をかけて道具を運び出し始めた。


 しまった。どうやら、ここは、売店ではないらしい……。


 僕はさりげなく、「ああ~、そうだ」と独り言をつぶやき、回れ右をして、校舎へと戻る。


 その時だった。


「ナンデく~ん」


 頭の上の方から、天使のような声が降ってきた。


 ふと、校舎の窓の方を見上げると、彼女がなぜだか手を振っていた。



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