第6話 エルフ?な不思議少女 6~山賊と魔法


6 山賊と魔法


 「そこの馬車の連中。身ぐるみ置いてってもらうぜ」

 山賊のリーダーが叫んだ。

 道中に山賊は珍らしくない。

 ただの食い詰めたチンピラ……とは限らない。

 その領域の正規の兵士が副業にやってることも多いのだ。

 通行税を取った上に治安維持のための追加の税を取った上に、パトロールと称して巡回する兵士が山賊を行う。

 何故なら程よく治安が悪くないと税を巻き上げることができなくなってしまうからだ。

 酷い場合は領主自体の命令で行われたりしているのだから救えない。

 「あー、今行くぜ」

 シュラハトがのんびりした声で山賊の前に出た。

 腰に吊った剣が護身用ではなく、戦闘用のものだと山賊が気が付いた時には遅かった。

 抜く手も見せずにシュラハトの斬撃が山賊の一人を斬り捨てた。

 一瞬のことだった。

 「て、てめぇ……」

 「さぁーて次はどいつからだ?俺たちを相手にするなら一個大隊連れてこねえと足りないぜ」

 と言ううちに2人目に襲い掛かる。

 喧嘩は試合と違って、先手必勝だ。不意打ちした方が強い。

 山賊のリーダーは焦った。

 シュラハトの剣裁きは訓練されたもの、というよりも実戦慣れしたそれだったからだ。

 「はい。2匹め」

 長剣ロングソードが山賊の胸を貫いていた。


 「さにゃー。マリねえさーん。こっち来るっスよー」

 クローリーがざぶざぶと容赦なく川に入ってきた。

 「こらーっ!すけべーっ!へんたーいっ!」

 「ちげーっ!山賊が出たっスー。今、シュラさんが片付けてるから、危なくないようにこっちで避難するっスー」

 魔術師でありながら冒険者としてシュラハトたちと何度も冒険してきたクローリーは意外と冷静だ。

 「……山賊?」

 ぽかんとしている紗那をマリエッラが庇うように立つ。

 無言で頷くと、脱いだ服を乱暴に拾って紗那の手を引いて陸に上がる。

 「何人?」

 「さー?見えたのは3~4人ってとこっスが」

 「そのくらいなら2人で倒しちゃえばいいのに」

 「いやあ。伏せているのがいたら面倒っスしー。さにゃはどうしていいかわからなそーっスしな」

 と言ううちに風を切る音が聞こえた。

 咄嗟に身構えたクローリーの足元に矢が突き立つ。

 「ほーら。油断できねー……って……さにゃ!?」

 矢は一本ではなかったのだ。

 紗那の胸に別の矢が突き刺さっていた。

 マリエッラが庇ったはずなのに僅かな隙間から貫いたのだ。

 「さにゃちゃん!?」

 目を見開いた紗那は声も出ない。

 激痛とパニックで反応がない。

 「………………ど畜生っ!?」

 クローリーが矢が飛来した方向を見ると4人ほどの山賊が立っていた。

 伏せてはいたのだろうが矢を撃つために立ち上がっている。

 「オレの客に怪我させた礼はさせてもらうっスよ!」

 クローリーは腰のポーチから構成要素マテリアルコンポーネントを掴みだした。

 いつもは薄ら笑いを浮かべて平然としてるようなクローリーが怒りで表情が変わっていた。

 立ち上がって、発動隊の杖を大きく掲げる。

 「全員死にくされっ!蝙蝠の糞化石!硫黄!火焔石!・・・食らいやがれ、火炎爆発球ファイヤーボール!!」

 貴重な構成要素マテリアルコンポーネントを惜しげもなく、今使える最強の攻撃魔法を放った。

 火球の大爆発が起きる。

 はるかな昔に異世界よりもたらされた攻撃魔法の一つで、現在では軍事用魔法として広まっているものである。

 魔術学院にいるクローリーは当然のように習得していた。

 弓の山賊たち全員と伏せていた林ごと、まとめて木っ端微塵にする。 

 ただ、戦場で最も重宝される魔法の一つではあるが使用する材料があまりに手に入れにくいのが欠点だ。

 辛うじて生き残った山賊たちは一目散に逃げた。

 コスト度外視で魔法を使い始めた魔術師ほど恐ろしものはない。

 

 「派手にやったな、クロ」

 残りを片付けたシュラハトが剣を片手にやってきた。

 軽やかな口ぶりだったシュラハトだったが、状況を見て表情を変える。

 「……って、おい。矢は早く抜かねえとヤベえぞ」

 「わかってるっス……」

 クローリーは短剣を握り、刃に手持ちの消毒用の酒をかけた。

 「ちと痛いっスが我慢するっスよ……」

 「待って!」

 マリエッラがクローリーを手で遮った。

 「あたしがやるわ」

 普段の優し気なものとは違う鋭い眼差しであった。

 「マリねえさん……」

 「おい。負担すげえんだろ?大丈夫なのか?」

 「あたしか守り切れなったんだしね」

 決意を込めた表情で男たちを見る。

 右手を空に高くつき上げ掌を開く。

 左手は紗那の傷口に重ねるように置いた。

 「大地母神マーテアに願います。このものの傷を受ける前に戻し給う」

 一拍の間をおいて、眩い白い光がマリエッラの手から放たれる。

 光は紗那の胸の傷を覆うと、ゆっくりと矢が押し出されていく。

 同時に傷が塞がっていき、完全に傷がなくなるころには矢が地面にポトリと落ちた。

 「……神の奇跡ってやつか」

 シュラハトは何度見ても感心してしまう。

 「あ……あれ?あれれ?」

 それまでぼんやりしていた紗那が我を取り戻す。

 「……なんか、矢が刺さった…気がしたけど……」

 「もう大丈夫よ」

 マリエッラはほうっと大きく溜息をついた。

 「あたし、これでも一応神官なのよ」

 紗那に微笑んで見せた。

 「……いつ見ても出鱈目な魔法っスな」

 クローリーも驚いて見せた。

 「神聖魔法ってのは理屈も何もねー摩訶不思議なシロモノっスな」

 「まあね」

 「神官でもごく一部の人間しかできないらしいしな。普通なら神殿が外には出さねえぞ」

 「……それは秘密だし」

 マリエッラがウインクして見せた。

 奇跡を起こす神官はかなり貴重だ。神官100人のうちに1人もいないといわれる。

 通常は神殿の奥に詰めて、余程の大きな寄進と引き換えにしか使われることのないものだ。

 冒険者をしている神官でその能力を持つものは世界に数えるほどもいないだろう。

 なによりもこれは使い手しか知りえないことだが、癒しの魔法は術者の寿命と引き換えに発動するものなのだ。

 マリエッラが今までにどれほど魔法を用いたかはわからないが、確実に彼女の寿命は本来よりも短くなっている。

 文字通り献身の魔法なのだった。

 「……傷がない」

 紗那は先ほどまで痛んでいたはずの胸を見る。

 そこには傷一つない、紗那の瑞々しい胸がちゃんとあった。

 「すごい!マリさんすごいよっ!」

 「半分はあたしのせいもあるしね」

 だいぶぐったりしたマリエッラが微笑み返した。

 この神の奇跡はどういう理屈かは分からないが恐ろしく体力を消耗する。

 マリエッラも日に一度、頑張っても2度行なうと動けなくなるほど衰弱してしまうのだ。

 「ボクたちすごいパーティーだねっ!」

 紗那はシュラハトを指さした。

 「戦士!」

 次にクローリーを指さす。

 「魔術師!」

 そしてマリエッラを指さす。

 「神官!……ものすごくバランスいいパーティーだよっ!」

 「パー……なんスか?」

 「んで、ボクは……ヤバっ……遊び人しか残ってない」

 紗那はがっくり項垂れる。

 「まー、そのー、なんとかは良いっスけど」

 クローリーは女性2人に向き直った。

 「2人はいつまで大サービスしてくれてるスか?」

 紗那とマリエッラは素っ裸のままだった。

 「……こらーっ!あっちいけーっ!」

 紗那は手近なものを手あたり次第投げつけた。

 クローリーの顔面に紗那のぱんつが叩きつけられていた。


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