第5話 エルフ?な不思議少女 5~襲撃
5 襲撃
クローリーたち4人は草臥れたオンボロのの幌馬車を借りて王都を旅立つことにした。
彼の経営する車輪屋の駅に用意してある予備の馬車だ。
とはいってもかなり老朽化したもので、捨てるのは勿体ないから予備にと置いていたようなものであるから、状態は極めて良くなかった。
それでも使うことにしたのはないよりマシというべきか、沙那のせいだった。
彼女は馬の乗り方を知らないのだ。
クローリーの領地へ向かうのに旅慣れていない沙那を歩かせるのは少し……だいぶ不安もあった。
そのための処置なのだが、それでも人間4人が乗るにはだいぶ手狭な感じだった。
クローリーとシュラハトが並んで御者台に座り、荷台にマリエッラと沙那の女性陣が荷物と一緒に座る。
シュラハトの大剣や
しかも沙那が飲み水で不満たらたらだったのでわざわざ透明な泉の水を小樽一つ分も購入までしてある。
さらにお尻が痛くならないようにクッション材代わりにフランネルの古毛布をいくつか載せていた。
元々が野宿するときの寝具だが、藁を敷いて載せればちょっとしたベッドやソファのようにもなる。
沙那が騒がないようにノミやシラミを徹底的に追い出して……と致せり尽くせりであった。
さて、出発して2日も経つと、またぞろ沙那のわがままが炸裂した。
「クロちゃーん!休憩しよー!きゅーけー」
「んー?疲れたっスか?」
「そうじゃないけどー川が見えるからー」
「ん?水は樽にあるっスよ」
「ちーがーうー!水浴びしたいのっ!昨日もお風呂入ってないし」
王都には浴場があったから良かったが、道中どこの村もお風呂はまずない。当然だったが。
クローリーには何故に沙那が毎日のように入浴したがるのかがわからない。
前に保護したエルフは入浴の要求はあまりしなかったのだ。
雄と雌の違いなのか。それともエルフでも地域や習慣、階層の違いかもしれない。
クローリーの見立てでは沙那は王族級のお嬢様だ。
「ま、いいスけど」
クローリーは川縁に馬車を寄せて止めた。
「んじゃ、オレも……」
「男は来るなっ!」
「覗かねーっスよ……」
「こっちは女子のみ!……マリさん、一緒に行こっ」
「信用ねえっスな」
クローリーは肩を竦めた。
興味がないわけではないが痴漢扱いされる気もない。
「あ。そだ。クロちゃん」
「なんスか」
「石鹸ちょーだいっ!」
「おー……」
クローリーは先日浴場で渡した石鹸を出した。
「これ、高ぇんスから大事に使うっスよ」
タオルと一緒に沙那に放った。
「ありがと。……高いってどのくらい?」
「1欠片でドカル金貨2枚っス」
「……ふーん?」
沙那は受け取りつつ生返事を返す。
金貨の価値が判らないのだ。
ドカル金貨は金貨の中でも信用度がとても高い純金貨で、交易決済の基軸になっているものだ。
なお、一般的な庶民の1日の収入はソルリン銀貨一枚程度で、ドカル金貨はソルリン銀貨30枚程度の価値がある。
つまり香水入りの石鹸は庶民の2ヵ月分の給料と同じくらいということだ。
「……判ってるんスかねえ」
クローリーは仲良く走っていく沙那とマリエッラの後姿をぼんやりと見つめていた。
沙那とマリエッラは裸になって川に入り、汗と埃を洗い流す。
もちろん贅沢に石鹸を泡立てながら。
「マリさん。ドカドカポンなんとか金貨ってどのくらいの価値あるの?」
沙那はしゃがんで下着を石鹸で洗う。
汗を流すことよりそちらの方が優先したかった。
着替えがないのが辛い。王都で何か買うべきであったと少しばかり後悔していた。
「普通の家族の1ヵ月分の生活費……くらいかな」
顔についた水を払いながらマリエッラが答える。
豊かな胸が沙那の目の前でぷるんと揺れた。
沙那は背はちょっと低いが同世代の女子の中では発育が良く胸も大きい方だが、マリエッラに比べればまだまだ子供に見える。
色気というよりも成熟した美しさがそこにはある。
「クロでも気軽に使うには躊躇するくらいには高いわねぇ」
「え……?クロちゃんってお金持ちなの?」
「お金持ち……っていうほどでもないかな。でも貧乏でもないわ。クロの家に着けばわかるわよ」
「え?」
「あと1週間くらいあれば着くかな?」
「遠………っ」
沙那はぎゅぅっと絞って木の枝にぶら下げた。
クローリーから乾燥の魔法のことは聞いたが、必要な材料が砂金と知ってはさすがに気が引けたのだ。
「なんか、思ったより不便な夢ー……」
「夢?」
マリエッラは不思議そうに沙那を見た。
エルフが浮世離れしてても仕方ないとは思ってはいるが、沙那はちょいちょい不思議なことを言う。
「んー。髪の毛がきゅーきゅーするー……痛みそー」
脂気のなくなったピンクブロンドの髪を指で摘まんでみた。
「クロ。お前何を考えてる?」
馬に水を飲ませながら、シュラハトが訊いた。
ところが視線は川のほうに向いている。
覗かないといいつつちゃっかり覗いている2人であった。
「何って、何スか」
「エルフ娘を拾った理由だよ」
「あ、あ~~」
クローリーはポンと手をたたく。
しゃべりながらも目線は川の方から動かさない」。
「エルフ同士を会わせてみたいんス」
「どうしてだ?」
「んー。答え合わせっていうか、前のあいつとどう話の辻褄合うか見てみたいのと……」
クローリーはシュラハトに向き直る。
「同じ世界のエルフなのかも確かめたかったっス」
「そいつはどういうことだ?」
「いやね。召喚先の世界がいつも同じところからなのか、それとも数限りなく存在している全く違う世界から来たのか」
「それが?」
「それによっては異世界召喚の儀式自体が効率の悪いものなのかわかる気がするっス」
「お前が
クローリーの垂れ気味の目がいたずらっぽく笑ってるように見えた。
「オレは色んな異世界の色んな便利な生活を聞いて、再現してみたいだけっスな」
「それに意味があるかな……前に来たあいつの意見は役に立ったとも思えないんだが……」
「さー…どんなもんスかね。……っと、もちょっともーちょっとで下まで見えそうっス!」
クローリーが身を乗り出しかけた。
「結果が出るには何年かかかるっていってたっス。それに……さにゃが見れば色々見えて…っっお、おっ!」
「………どうかな?」
シュラハトはいまいち納得しかねるという顔をした。
「シュラさんね。オレはみんながもっと豊かな暮らしができるようになったら、揉め事がだいぶ減るんじゃないかって思ってるんス」
「奪い合うことなく……ってか?」
「そうっス。自分たちだけじゃなくてみんながっていうところが大事っス。…まー、そういう世の中にでもなってくれないとうちみたいな弱小領主は生きていけないっスな」
「……いつも思うがお前はお人好しだな」
「んなこともねぇっスよ。あ、一瞬見えたっス!」
手に取った少し皺々になったオレンジを齧る。
「こっちの世界に無理矢理連れてこられた連中を利用しようっていうんだから、十分インケンっス」
「俺には捨てられた猫を拾う理由を強引に作ってるようにも見えるが」
「否定はしないっス」
「全くお前は……と、来たか?」
シュラハトが何かに気付いた。
手で軽く合図する。
「っ……クロ」
同時に右手は予備にぶら下げていた
「襲撃だ」
「わかったっス。オレは女たちを非難させるっスな」
クローリーの表情も珍しく張り詰めたものになっていた。
軽口を言いあう二人だが荒事には慣れているのだ。
彼らが警戒の視線を向けた先には、数名の山賊が立っていたのだった。
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