21.存在 ゠ 目の前にあるものは現実か
21.存在・前 ゠ 実感と自我の話
「それはまた、話が
存在するとは、何か。
そんな話題を唐突に提起されて、私はまた首を
いやまあ、飽きないと言えば飽きないのだが、もはやここまでくると突飛の
そんなふうに
私の様子を見て、少女もそうさせた自覚がおおいに
「そうですね、ごめんなさい。でも、どうでしょう」
「どうとは、どういう事なんだ? そこにそうやって
例としてすぐ
──かたり。
その水差しを
「そうですね。これはこうして、触わることも
「それが、どうしたんだ?」
「本当にそうでしょうか」
「うん?」
「勘違いという事は、気のせいという事は。夢か幻ってことは
はて。
これは一体、何の
「ふむ。何を言いたいのかは
「そうですね」
そう言うと、少女は水差しを台車に置き、私の隣へと
──すっ。
そして、今度は遠慮がちに
「これならどうでしょう。いま私の触わってる物は、存在するんでしょうか。それとも、幻でしょうか」
「いや、いや。それはさすがに、間違いなく存在するだろう」
これにはやや
「本当にそうでしょうか」
「なに?」
「私の手に幻触が有るのかもしれません、私の目に幻視が有るのかもしれません、私の耳に幻聴が有るのかもしれません。
「しかしそれは、お前から見ての話だろう。私は今、間違いなくここに居るぞ」
「勘違いという事は、気のせいという事は。夢か幻ってことは
歌うように同じ言葉を、くり返す少女。
私はこれに、どこか迷宮にでも誘い込まれたような感覚を感じさせられる。
「いやしかしそれは、さっき言ったとおりだ。そういう可能性も
「そうなんですよね」
──ぱっ。
私の腕から手を放し、しかし少女の話はまだ続く。
「ところで
「それは、ふむ。どうだろうな。自分の事だから、だろうか」
言われてすこし思い悩みかけたが、ふと
「ああ、あれではないか? 自分は存在するかと考える行為自体が、自身の存在証明。そんな
「ええ。自身が存在しなかったら、そんな事は考えもしないでしょうしね。そこだけは、疑いようが無いです」
「その私がここに居ると認識しているなら、ここに存在するという事には、ならないだろうか。夢から
「夢を見てる状態じゃあ、自分の
「そうだな」
「って事は、そこに自我が確認できれば存在も
「ああまあ
「それなら……」
──かちゃ。
少女はふたたび立ち、また水差しを手に取る。
「これには自我が有りません。だったらこれって、私は多分ここに
そんな
「だんだん、訳が
「ふふ、そうですね」
──ふさり。
少女はひと息ついてから、また私の隣へと
「実際のところを言えばですね、この水差しが自我を持ってないかどうか、だなんて事は
「本当に
「はい。そしてそれって私から見るとですね、
「ふむ。確かにな」
「私が自分を私だって思うのが私の自我、
「そうなるだろうなあ」
「だから認識できる自我は、つねに一つだけ。だったら、自我の切り替えが自在に
「そしてそれは、ほかの何もかもでも同じ。つまりは、
「はい。私たちが暮らしてる世界とは、そういうもの。って言うよりまず、この世界という基本が本当に存在してるのかどうなのかが、
ふむ。
世界とは、ここに
少女から見れば、この私すらその水差しと等しき。
私から見れば、その少女だってまた
まあ、こうして互いを認識できていると感じるのに、その認識を確かめる方法が皆無である、とはな。
記憶はとりあえず連続しているし、そこに
そんなふうには思えるが、しかしそれを裏づける肝心の証拠がどこにも無い、ときたものだ。
不思議な感じがする。
「まあ
「そうですね、またすこし話が変わるんですけど。この世界って、どうして存在するんだと思いますか?」
「うん? まあそれは神、いや。ふむ」
どうなのか。
一応、神が全てを創造した、という事には
ただ、何だかんだで肝心の神がまったく姿を見せないし、神がそれを
真実は一体、いずれに有るものか。
と、そう回答に
「神がこの世を、この世界を、創った。それはほぼ、間違いないと思います」
「そうなのか?」
天使である私のほうが疑問形なのは、かなり
そこには
「過去の事は、直接には
「ふむ」
「その記録なんですけど、やっぱり年代によって言葉遣いに違いが有るんです。昔へ
「そうか。文明の進化は、逆を
「はい。ところがその、記録……んん、記録……」
ここで突然、声から元気が抜ける少女。
またもや
──モソ、モソ。
まあこれはどうでもいい事だが、少女の身を
さすがは王の
「うん? どうした?」
「は……その、
「お、そうか」
「それなら話の続きは、また今度にしようか」
「もう少し、大丈夫です。ここで
「平気か?」
「なんとか……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます