19.慕心 ゠ 恋ずるは罪か
19.慕心・前 ゠ 直観と不眠の話
「失礼しまあーっす!」
そう大音量で発せられたのは、お下げの女侍従の声である。
茶の用意一式を盆に載せ、
つまりそれは、不自然な声掛けだったという事であり、つまりこれは、彼女が登場の時機を
「ふぁっ、なっなんですかリテローン行きなり!」
少女のそれも当然の反応ではあるが、怒鳴られた女侍従のほうは
「行きなりじゃ
「……あっ。そうでした、ごめんなさい」
「いーえ」
ふたたび
執務机のほうで直接、それを
──カチャ、カチャ。
それにはすこし時間が掛かるだろうから、私は私で、
「話が途中になってしまっていたな」
「はい? ……ああ、ええと、はい」
話とはもちろん、どうして少女が力でもって配下を
少女のほうも察しのいいところは良く、すぐにその事だと気づいたようで、しかしそれは例によって、明確な回答にはならなかった。
「その話も、まだちょっと。いろいろ
「うむ、いや、どうも、そんなのばかりだな? 大まかにでも、ひと言で説明できたりはしないものなのか?」
「それはそうなんですけど、でもそれだと……私が生きるため。そんな言葉になっちゃいますし」
……。
うむ、
「なるほど。
「ですよね。ごめんなさい」
そんなふうに少女も
しかしその説明が、まだ言葉によって
そんなような状態だ、という事なのではあろう。
ならばそれは、少女のなかで整理がつくまで、待つしか無い。
ところで人は往々にして、そのように本人にも説明できないような、突飛な判断を採用する事がある。
案外これは日常的に行なわれていて、それが
未知の
ゆえに、
またそれは経験則だからこそ、本人的にも
いわゆる虫の
いわゆる女の勘というものも、普段から相手の者を真っすぐに見ているがために、その情報の
ただこれには基本、言葉での説明が
単純なものだったなら理由の見当がすぐにつくから、そうは気にも留められないだろう。
ところが頭脳の優れた者ともなると、凡人には及びもつかない水準でそれを発露するものだから、これがまた容易には理解されづらい。
よって、周囲からはそれを
そんな、秀才の苦悩とでも呼べるものが存在するのだ、という話を物の本で、見掛けたことが有った。
だとしたなら、何とも
と、そこへ参加してきた女侍従の言葉も、
「あ、あの。この人いっつも、こうですから。まともに
「ん、やはりそうか。しかし心配無用、
「えっ、と。どういう事なんですか?」
私のその
「なにしろこれは、世間話だからな」
「……ぷっ」
それはどこか
「せっ……あんな真剣にっ……
いや。
あるいはそれは、
そんな感想を、笑われた少女がそのご
「リテローン」
「っ……は、はいはいキュラト様。今、
「……あら」
女侍従の作業するほうから
私も
少女のそんな反応を受けて、女侍従もこのように説明をする。
「そうなんですよ。私も何なのかよく知らないんですけれどキュラト様、
「シュノエリが……?」
「はい。あ、お客様には
「くぬえそう?」
知らない名称である。
「と、
「気を
「そうか、それは
私とて、眠れないというほどでも
その効果を
と思いつつもふと、女侍従長の名を出され、不思議が不審に変わり果てている少女が、
またなんとなく妙な親近感を感じ、
「なんでしょう?」
「お前も、よく眠れていないのか?」
「あ、はい。そうですね。その……ほぼ、
「なに。まさかそれは、
壁越えの
これに少女は、また
「ああいえ、さすがにそれは冗談ですよ。……まあ、
そんな事を漏らした少女は、つい
その手もその目も、休まずふつうに動いており。
とりあえずは、まともそうに見える。
「君の所のご主人は、どこか加減が悪いのか?」
「いえその、あなた様が居らしてから、急に元気になったんですよ」
「ほう?」
「リテローン!」
意味ありげな説明のされ方に、少女のほうがどこか慌てたように静止を発する。
しかし言われた女侍従のほうには、あまり悪く
「すいません。でも……普段から、どことなく
すこし、と
だまって続く話を聞く。
「医務官の
敵の総大将がそんな状態だとは
長期に
まあ、それはそれで好機と
ところで不眠
「そんな、ひどく眠れなくなるほど、お前は何を抱えているんだ?」
質問に、少女は淡々と答える。
「まあ、そうですね。つまりはさっきひと言、触れたことの話です」
「さっきひと言というと、お前が生きるため、と言ったあれか?」
「はい、それです」
「死ぬのか?」
「いえ別に私が、
「けど、何だ?」
「……状況が、私を殺します。もちろん、
この態度では、もっと切迫して語られるのでなければ、
それでも
くわえて、一度泣いた後とは気疲れしてしまうもので、
その態度に関しては
だから私は気にせずに、質問を続けようとしたのだが、しかしそれは
「
白磁の
これには少女も自分の仕事を中断し、茶を受け取った。
もうひとつを受け取った私のほうの茶は、
色味としては茶には普通の薄茶色だが、試しにすこし含んでみれば、その
「
「あ、よかったです。
「私のほうは……何でしょうね、これは」
「さあ……私には。渡された時にはもう、
ふたりして、見たり
観念して口へすこし含み、飲み下し、しかしやはり判別しかねるらしい。
「これは……
そんな言葉を漏らしつつ、
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