18.資格・後 ゠ 羨望と慰謝の話
その衝撃を
実を言うなら天使らは、人族たちに対して何らかの配慮をせねばならないような義務を、持たない。
理由は単純で、飽くまで統治者では
神とは創造主であり、人族とはその創造物。
そして天使とは神の召使いなのだから、なんとなく危機が有れば救ってあげようという空気が
一方で当然ながら、人族と人族の間にだって、抗争は発生する。
しかし、彼らのその自主性を尊重しよう。
そんな名目もまた
いやまあ、静観どころか責務どころか、いま起きている争いでは何が勝って、何が負けるか。
そんな、
責務と言うなら、魔族たちにはもっともっと、そんな配慮をする義理など、有ろうはずが無いのだ。
にもかかわらずそれを、実行している。
それもだ、負けるにしても、などという言葉が出てきてしまっている以上、何らかの見返りを期待するような了見では、
つまり純粋に、そこに暮らす人びとを
そしてこの少女にはそれを、
そんな事は、たとえ人族の王などであろうとも、それがよほどに立派な人物でもないかぎりは、
それの、意味するところとは、それは……。
ああ、そうだ。
理がここに
理性がここに
理想がここに
いったい、どこまで
なんということか、ここには。
「……あ、あの……?」
なにか失態でも
そのように認識しないなど、もはや不可能だった。
今、この目の前には、王が
しかもこれは、
かたや、我れわれ天使側のどこかに、こんな人物に及ぶ者がどこかに、
存在したことが、有っただろうか。
どうして天使側の
もしそうであれば、
いや、何だこの思考は。
こんな事を考えるこの私は、つまりそれだけ天使というものに
ただ、それを打倒すること、それこそが当面の乱を
そう信じ、剣を
この
そんな事にまで思い至り、ただ
頭痛が
「そうだな、当たり前のことだ。至って、普通のことだ」
「はい。それが、何か……」
「天使側は、そんな事は、ちっとも考慮していないんだ」
「……え」
私のその
信じがたい、そんな
「好意的に言っても、単なる火消しを
「……」
一端の思考も及ばなかった、そんな様子の少女。
完全に、絶句させてしまった。
そうだろう。
そうだろう……な。
「
「……いいえ。そんな事だとは、思いもしませんでした。何でも自分の尺度や感覚で判断するのは危ない、って事は
「まあこれは、な。
本当に心底、気の毒そうな表情を浮かべる少女。
それをまともに目に入れることも
「さっき
「何だ?」
「天使側のほうもいろいろ、難しくて面倒なんですね」
「……」
そうだな。
この世は、難しくて、面倒だ……。
神よ。
どうして、こうなのだ。
と、そんな
少女は眼前の書類を机に置き、床に
「うん?」
「乗りますよ。さっきの
「何の話だ?」
その質問に応えないまま、少女が私の髪の毛をもふもふし始めたから、どう反応すべきか私は非常に困ったのだが。
手を下ろすと、
「はい、これで
……。
いや、いや、いや、いや、いや。
いやこの目の前の少女、いったい何だこれは。
何なんだろうな本当に。
もう
「ふうむ。そうかそうか」
「……え……どうも、期待してた反応と違いますね……もっとその、こう……」
「いや私も、つい
「はい?」
「お前自身も、いろいろ難しくて面倒なんだな」
「
すぐ火が
「ああ、すまないすまない。すこし言葉を間違えてしまったようだ」
「……もう」
「難しくは
「っー! もういいですっ!」
行けない。
いやこれは、本気で行けないぞ。
この少女を
しかし……と、いま
そう。
つい最近、他の者にも同じことを
その彼女は、アンディレアは、どう思うだろうか。
私がここでこうしている事を、果たして
「どうしたんですか?」
「うん? ああいや」
言われたとたん、おもわず私が手を
少女がなにやら、よく解らない追及をしてきたのである。
「頭を
まあそんな感じの言葉を、意地悪げな感じで言ってきているわけだが……。
うむ。
いや、なあ。
もうそろそろ警戒してくれていいあたりだが、それこそ学習してくれていい
どうしてこの少女はここまでも、
「ふうむ。そうかそうか」
「えっ……?」
「
「……っあ」
少女の口から、悲鳴が漏れる。
「ふえっ、あっ! えっ、それはそのっ、そういう事にゃ……いえ、そうひゃふこっ……いぇっ! しょっそのっ……そのっ」
「大丈夫だ。何を言っているのかぜんぜん
「なにゃ、何よ
「まあ
今度は逆に、私が手を伸ばしてその頭のほうを
「っー! っ! っーっ!」
はて、やはりこれは魔王なんかでは
どうしようかな。
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