9.目的・中 ゠ 実態と洞察の話
そんな私を
「とにかくそういうわけで、天使がここに居ても、特に不思議は無いんです。
「あの門? どこの事だ?」
魔界への門を
だからそう言ったのだが、少女のほうは少女のほうで、どうして自分の言葉が私へ通じなかったのかが、
ちょっとだけ詰まったあと、このように補足した。
「いえ、ですから。
「ん、なんだ。あれは
それでいろいろ氷解する。
魔界への門が
退路だって、無かったわけでは
門の抜けた側に兵が詰めているなら、ちょっとぐらい突破を許したところで、
つまり配置された
もちろん、攻め込まれたら困る拠点であるには違いないから、郭壁自体は強固に
そういう事だったようだ。
門の人界側に、主力の兵を待機させないのだって、門の性質を考えたらば当たり前。
跳躍の効果がおよぶ範囲には限りがあるし、かつ待ち時間も発生するから、一度に跳躍できる人数も、どうしても限られる。
だったらそんなもの、跳躍先に待機させている大勢で、跳躍してきた少数を押しつつんで迎撃したほうが、断然有利に決まっていた。
逆に、人界側で待機させてしまうと、相手に攻め込まれて形勢不利となったとき、
だいたい、要害として既によく機能しているはずの森のなか、そこに
つまりその動機が、考えてみれば
なんたる節穴、伝聞のうえで
そう言われれば
だいいち新たな門というのがまず、そうそう発見されたものでは
あのように一帯を、建物として覆ってしまうような事だって、
魔界へ入れないはずの味方が
いやもう、知らぬとは
これは
少女のほうも
「ああ……
「違和感?」
「はい。門だって
「ああ、なるほどな」
「はい。そんな感じだったんですけど、納得しました。……えっと、でもまあ
「うん?」
「
「ああ。越えたな」
「ろくに手掛かりも無いような壁ですよ? 心折れてもらうつもりで設計したのに、まさか
「ああ。
「あの裏門の手前だって、
「……」
すこし、冷やりとする。
確かに門という、立派な退路がある以上はあの
地続きのように見えたあそこに、まさかそんな
その
「まあ、意表を
「もぉー……
心底参ったとばかりに悲痛な声を
あれ、いや。
なんだこれは。
一転、見ていて非常に
まああの壁、つまり越えられないための壁なのだから、目立った手掛かりなど
どうにか
継ぎに困り、不確かな突起を足に掛けてしまったせいで、滑り落ちそうになったりもしたものである。
それでも、種を明かしてしまえば天使の場合、高所から転落しても理力によりて翼を
実際私は、郭の内側へ入り込むために、そのように
もっとも理力は、特に冷静さを欠いているような場合には、その発現を失敗しやすい傾向にもまた有る。
急場であればあるほど、それに
まあ私の場合、発現に
その点では我ながら、
妙なところで優越感に浸れたものだが、ふとここで私は、自分の落ち度に気が至る。
「ん? これは
「どうしました?」
「こちら側があれを
まあ
「あ……はい、そうですね。そういう事にはまあ、なりますけど」
「なんだ。お前も
「いえまあ、それでこちらの対応が変わる、ってわけでも
「と、お前に言われてもな」
「いえ、だいいち
「何だ?」
ここで少女が、こちらへ顔を寄せ。
その笑みもうち消しては、真剣そのものの表情を作り。
その身までをも、低く乗り出して。
まるで密談でも始めるかのように、声を潜めて言ったものである。
「……黙ってれば
「お前も
「ふふ。指摘も無いのに
「何を言う。失礼な」
「え。私だけそれを言われるんですか」
「そうだ。なにしろお前は、魔王だからな」
「まあ。失礼な」
──ふっ。
──ふふっ。
思い掛けず、益体もない冗談へと発展し、笑い合う。
そういった感じに
「しかし、な」
「はい?」
「待ち伏せ、とは? 私があそこへ来ることが、
「さすがにそんな事は。ただ、
「つまり、あのとき鳴っていた警鐘は特別な合図だった、というわけか。しかし
私のその言葉に少女は、固まるような様子を一瞬見せた。
「それは……あれですよ。他の者じゃあちょっと対処が難しそう、って思いましたし。あとはそうですね……私が、
「ふむ。顔が見たかった」
「まあ
「まあな」
今どこか、少女がなにやら言い
しかしそれでも、
まあ難敵と思うような相手ならば、その顔くらい見てやりたくなる事も、有るだろう。
という事であれば、ついこの前にアンディレアと肩を並べた、あの戦場。
その直前に
いや、それならそれで、
どうしてあそこへ、私が来ると予想できた。
可愛い顔して、
とはいえ、行く手を
むしろ、いま少女が
折角ここまで
ただ、少女のそれはこちらを恨みに思って、という系統の
だとするとこの少女、つまり
いよいよ魔王らしからない。
そんな事を考えながら、次の質問へ移った。
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