9.目的 ゠ 知らぬは人をどれだけ惑わすか
9.目的・前 ゠ 様式と聖域の話
そして私は
「ここです」
もうしばらく少女と連れ立って歩けば、食堂らしき
しかし……やや広目のその
その上には汚れひとつ無い、白の
その両端には、一脚ずつ
その中央には火の
それだけだったのだ。
ほかに物はこれといって何も無く、そして
とりあえず食堂に見えはするものの、ちょっとこれは王たる者に
そんな
「準備はまだみたいですけど、どうぞ」
「あ、ああ」
まあ、立っていても
勧められるままに、少女の
それで少女は
なにやら腕組みしつつ、
「どうした?」
「つい普段どおり座っちゃいましたけど……話をするには遠いと思いませんか?」
「王の食卓とは、こういう物ではないのか?」
そう、これも作法同様。
この食卓の長きだって、まず食事中とは気が
万が一その運びを悪くして、襲い掛かられでもしたらふつうに危ないから、不用意に他者を近づけることが
そんな理由が、有ったりするわけだ。
これはただ危険を
身分の高い者ほど、こういった事は当然の
ところがこの少女はそのあたり、自分を下すことのできる者などそうそう
それとも、あえて距離を縮めることで相手の
なんにしても、そんな事にはお構いなしであるらしく、こう返してきたものである。
「そうなんですけど、これじゃあ
「ふむ」
まあ断わる理由は無い。
──ガシッ、ガタン。ズッ。
ふたりして
そうして顔を
「話が途切れちゃいましたけど、
「む。いやまだ、いくつか
「なんでしょう?」
私は周囲をかるく
「質素な食堂だな?」
その私の質問に少女は、その目で真っすぐこちらを見て、答える。
「食堂は食事をするだけの場所です。必要な物もそんなに無いですよ」
「しかし召使いの一人くらいは、控えていてもよさそうなものだが」
「
「ふむ」
そういえばこの少女、医務室へ来た時も、
ここへ向かう時だって、他に
すれ
なるほどそれも、合理的で良いのかもしれないが、今のように
そうでなくとも、ふと用事が出来たときなど、不便が有ったりはしないものか。
やはり、王様らしからない。
まあそこは考えても
「ここは魔王城。そうだな?」
「はい」
「つまり、魔界?」
「そうですよ」
「だが、神属の者は入れなかったはずだ」
「入れないらしいですね」
「それなら私は、どうしてここに居る?」
「
「うん?」
「天使は、理力を使える以外、人族と変わるところは無い。そうですよね?」
「ああまあ、そうだな」
「魔族もそうなんですよ。魔力を使える以外、人族と変わるところは無いんです」
「ほう」
「そして魔族もやっぱり、天界に入ることは
「そうなのか?」
「はい。だったらつまり、天使は理力を持たされた人。魔族は魔力を持たされた人。
……。
「天使が、魔族が、人族?」
「ほぼ私の直観ですけど、でも十中八九、間違いないと思いますよ。実際、それを裏づけるようにどの組み合わせでも、子供が生まれますし。だから魔族、天使って
「どういう、事だ?」
そんな言葉を、おもわず口に
確かに、いずれの間にも子は出来る、というのは本当の事なのだが。
天使が誕生するのは、天使と天使の間だけ。
魔族が誕生するのは、魔族と魔族の間だけ。
これ以外の組み合わせでは
子とは両親の特徴を引き継ぐはずのものなのに、混じってしまえば理力も魔力も継承されない。
その事実をもって、天使や魔族は特別な存在なのだ、と考えられるのが普通だった。
「さあ、どういう事でしょうね。ただ……」
「ただ?」
そう続けた少女は、しかしここで表情をすこし曇らせる。
「私自身は他のみんなと違って、人族とは別物みたいなんですよ。
「ああ。遠慮なしに言ってしまえば、怪力だったな」
「それから私以外だと、どんなに魔力を
「ふむ」
独り
「本当にお前ひとり、だけなのか?」
「そうみたいですね」
「……」
どんなものだろうか。
大勢に囲まれつつ、自分ひとりだけが異質な存在である気分は。
あるいは、
それなら
まあそこは、
そんなふうに、ほんの少しだけ親近感を感じる私へ、しかし少女はつづけて
「それに私も実は、天界への門を
「なに?」
「でも私だけ、通り抜けれなかったんですよね。魔界側も天界側も
首を
その言葉に私は、憂慮を
「天界への、門? 部下は
「はい。ずいぶん前に、エトセスタ地方を攻略したときの視察中に、
腕組みを交え、少女は残念そうに答えたものである。
いや、そんな
確かにこれまでの歴史上、天使の手のとどかぬ魔界にでも
通例そこへ入れると
少女の話が事実なら、つまり以前の天使らはとくに障害なく、ふつうに魔族らを討って果たしたのだ、との解釈は
ただその場合でも、天使らもまた魔界へ入ることが
詳しい事は、やはり
なんにしても、これは……それは
魔族らもまた天界へ侵入しうるとすると、魔王ひとりだけは通過できなくとも、そこから勢力を一気に投入されてしまえば……いや。
結局は天界も、人界と同様の世界だ。
仮に魔族に、天界すべてを
まあ聖域などとよばれる、
私も含め、
それでも初代魔王、その閉眼以前には、そんな領域など存在しなかったと聞く。
流れ的に、おそらくはその魔王か、それを討ち取った勇者、これらを記念として
要はまたもや例によって、天使の勝手に
それならやはり、きっと無くても困るまい。
かといって単純に、自陣を
そも、侵入果たされてしまうのであれば、安全地帯とばかりに気を抜くことが許されなくなる。
もちろん魔族が
しかしほかに、こちら陣営に認識されない門など
「ふふ。
「む?」
「ちょっと様子を
「そう、なのか」
もともと自然に存在しているものである以上、どうして門が消失したのかは、私にも
とりあえず内心で、胸を
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