1.無念・後 ゠ 刺客と無常の話
いや、これは……。
「はっ! そあっ!」
「っ! だっ!」
──ギインッ! ガシンッ!
左、右。
振るわれる
こう
つまりは初級者向けのそれであり、
あるいはこの男、飽くまでも
それは知れないが、なんにしても基礎の成っていない、お粗末な剣としか評せなかった。
そう。
これを言うと本当に
頼むから、
そうお願いしたくなるほどだ。
それでいて、戦況としてはこちらのほうが逆に押されているのだから、例の策士とやらの手腕には
──ギリッ! ザッ!
相手の男は、私よりも少しだけ小柄。
合わせていた剣をこちらへ目いっぱい
自分よりも力で優越する相手の、すぐ
つまりこの男は、一定の正しい状況判断を下した、という事になる。
剣の未熟を考慮した上ででも、より気をひき締めて掛からねばならない相手、と言えた。
だから私は、油断をしない。
「やあっ! はあっ!」
「ぐっ! だあっ!」
──ギンッ! ガキンッ!
もっとも双方の得物が剣である以上、互いに離れたままでは
ならばと追い掛けるように私が踏み込めば、相手は私のくりだす剣を受けつ受けつ、
その表情としては、目も血走り、冷や汗も
「……っくっ!」
そのように
だから私は、油断をしない。
考えてみればいい。
この腕前である。
にもかかわらずなぜ、剣でもって
そもそも馬を得ている。
にもかかわらずなぜ、駆け去らずに私の相手などするのか。
何のためにという目的としては、察しようが無い。
ただ、どうするかという目標としては、私の足止めを確実なものとするか、亡き者とするか、もしくは捕らえるか。
この三つくらいしか無いだろう。
だとすれば、はて……。
──グッ。
「っう」
単純な
そこに
掛かってしまった。
片足取られ、私は前へと
──ギイイィィインッ!
……何か
相手の不意を
そんな表情が、男からは
これは完全に、予想外の事であったようだ。
──ブンッ!
ふたたび剣を出し、私が
私のほうでもすこし転がり、距離をとっては立ち上がる。
「うあっ、うああぁぁあっ!」
策尽きたらしい。
よほどに慌てているのか、重そうな鉄の剣を、その手に握り締めたままだ。
逃走するならそんな物は、投げ捨てたほうが速く走れるだろうに。
そうは思うがしかし、
沢のほうがまだ走りやすいと、そちらへ向かうも道理ではあったが、慌てているにしては変なところで冷静さが残ったものだな。
そう妙に感心もしつつ、
ふたり沢に入り、その沢水はまた盛大に飛ばっ散る。
男は一目散に、逃げる。
少しずつ高くなっている
私は追う。
男は必死になって、逃げる。
私は迫る。
すこし風が吹き、木々の葉が
男は振り返りつつ、逃げる。
大きな水音が近づいてくる。
私はこの先に何が
「どあっ!」
そして男はここに何が
ちょうど間が悪く、というか
──ギィイン……ガラァン……!
下方からはその手に持たれていた、金属のうち鳴る音が響く。
いや。
ここへきて
そこは高さとしては、あるいは
手を放して落ちていればよかったものを、男は必死になって、
「……」
似たような光景だった。
違いを言うならば、あれは場が滝でなく岩山の
よほどに慌てていたのか詳細は
そのせいで、間に合わなかった。
危機に
そんな
あの瞬間の光景は、目に焼きついたかのように、いつでも
……世は無念、
こんな
それでも、
だからこういった場合には、まず逃げられないよう岩に
──ザーザー。ザーザザー。
すぐ
水は冷たい。
高くなった
風が吹き、木々の葉が
風は
人が
……。
こんな事を
こんな事を
そんな疑問の答えなど、見つかりっ
にもかかわらず、くり返しその疑問を念じてしまうのは、それは私の甘さゆえかもしれない。
しかしそれならば、私がこの
であるならば、私がこの手に掛けた彼らはやはり、無意味に命を奪われたに過ぎないとでも言うのか。
結局答えは、見つからないのか。
……。
よそう。
考えすぎとは、私のよく言われる所だ。
考えても
結局私は、
少なくともこんな場で、こんな事を
「
さあ、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます